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53.「《ファイアアロー》!」

6月最初の投稿です。

これからどんどん暑くなっていきますが、みなさん暑さに負けず頑張りましょう><;

 

 

 

 サーベラはグルルと喉を鳴らしながら、俺を中心にゆっくりと反時計回りに歩く。

 もちろん視線はこっちに向けられたままでだ。

 俺もサーベラの動きに合わせて体を動かし、常に槍の矛先を向けて臨戦態勢を取る。



「――っ」



 いつまでこの膠着状態が続くのかと考えていた時、サーベラが行動を起こした。



 歩きながら木の横を通り過ぎようとした一瞬で、スルスルと木の幹に爪を立てて登っていく。

 地上から五メートル程まで登り今度は体を丸めたかと思うと、体を目一杯伸ばして隣の木へと飛び移る。



「これが立体機動か」



 サーベラは体のバネを最大限に利用して、まるで忍者のように木から木へと飛び移る。

 しかも一定以上の高さから下りてくる様子はない。

 これでは近接武器しか使えないプレイヤーの攻撃は当たらないだろう。



「でも、俺の槍を使ってもギリギリ届くかどうかだな……。なんにしても、やってみないことには何も始まらないか」



 俺の持ってる【初心者の長槍】は、目測で大体二メートルあるかないかだ。

 自身の身長に加え腕を限界まで伸ばしても、サーベラに届くかどうかは正直なところ微妙だった。



 さらに状況は俺にとって不利な方向へと進んで行ってしまう。

 


「おいおい、一体どれだけ速いんだよっ」



 サーベラは相変わらず木と木の間を飛び交っているのだが、そのスピードが最初とは比べものにならないほど速くなっていた。

 まるでピンボールゲームみたいだ。 

 


「何でこんなに……ん? あれ、ここってこんなに木が生えてたっけか?」



 俺はいつの間にかサーベラと遭遇した場所とは、違う場所に移動していたことに気が付いた。

 おそらく頭上を跳び回っているサーベラばかりに注目していたため、自分でも無意識のうちに足を動かしていたのだろう。

 


 その場所は木と木の間隔が短くなっていて、全く人の手が加えられた形跡が見受けられない。



「そうか、木と木の間隔が狭くなったからその分速く跳び回れるようになったのか。これはもしかすると、誘い込まれたのか?」



 俺がそんなことを口にして考えていたら、ついにサーベラが攻勢に出た。

 目が回りそうな立体機動中に腹に響く低い咆哮をあげ、突然俺目掛けて口を大きく開き、牙を見せつけるようにしながら突っ込んでくる。



「うぉわっ!?」



 俺はその攻撃を前方の地面に体を投げ出すようにして、間一髪のところで躱すことに成功した。

 がむしゃらにただただ攻撃を避けることしか考えていなかったため、受け身も取れず体のあちこちに軽い痛みが走る。

 ゲームの世界だからこの程度の痛みですんだが、現実世界で同じ事をやったら酷いことになっていただろう。



「っ! ぐはぁっ」



 攻撃を避けられたと思ったらすかさずサーベラが二撃目を繰り出し、俺は背中に攻撃を受けてしまう。

 自分の体力ゲージを見てみると、今の攻撃で全体の五分の一ほどゲージが削られ赤から黒色へと変ってしまっていた。

 


「何でこんなに減ってるんだよ。サーベラって立体機動に移ると攻撃力が上がるのか?」



 俺は予想以上のダメージを受けたことに驚きつつも、このままでは不味いと思いすかさず立ち上がった。

 そして立ち上がった俺を見て、サーベラはまた木の高い部分で立体機動をし始める。



 実はこの時のダメージが大きかった理由は、サーベラの攻撃が防具で守られていない背中に当たったためだった。

 俺の防具【足軽】は、見た目が剣道の防具に似ている。

 そして【胴】の防具はまさに剣道と同じような造りで、脇腹と体の前面しか守れていない。

 背中は装備の固定具があるだけなので、無防備と言っていい。

 



「ダメージは受けたけど、サーベラの攻撃は大体わかったぞ」



 サーベラは魔法のような遠距離攻撃方法はない。

 やはり敵に攻撃をする時は肉弾戦しかないため、その時だけ木から下りてくるようだ。

 


「ただあの速さが厄介だな……。プロ野球選手の速球くらい出てるんじゃないか、あれ」



 自慢じゃないが俺はバッティングセンターで一二〇キロまでしか打ったことがない。

 それ以上の球速だと目が追いつけなかった。



 サーベラは野球のボールよりもずっと大きいが、いつどのタイミングで、どの方向から来るのがわからないため、例え接近しても俺の【蹴撃】スキルは使っても空振りするだろう。



「ぐっ! くそぉっ」



 俺が考えている間もサーベラの攻撃は続く。

 今度は無防備に体を投げ出すような回避は避け、例え地面を転がることになってもすかさず立ち上がるようにした。

 そのかいもあってか、先程のような大ダメージはあれ以降一度も受けていない。



「ゴクッ、ゴクッ、ぷは。どうするか」



 俺はライフポーションのストックから一本取り出して飲み干し、ジリジリと減っていた体力を回復させる。



アレ(・・)を使ってみるか。本当は森の中だから使いたくなかったんだけど。山火事とか怖いし」



 跳び回るサーベラを見据えて右手で槍を持ち、俺は覚悟を決めて空いた左手の掌を開いて伸ばす。



 そんな俺の様子をみて何か感じ取ったのか、サーベラは先程まで頻繁に攻撃していたが止めてしまう。

 俺にとっては好都合だった。

 サーベラの攻撃を気にしなくていいのなら、多少狙いやすくなる(・・・・・・・)



「《ファイアアロー》!」



 俺の声に続いて伸ばした掌から炎が飛び出す。

 その炎はただの炎ではなく、《ファイアアロー》という技名の文字通り、矢の形をした炎だ。



 突然出現した炎にもサーベラは動じた様子はなく、相変わらず立体機動を続けていた。



 ギュイン―――。



 立体機動で炎を避けたつもりであろうサーベラだったが、今しがた起こったことを目の当たりにして流石に驚いたようで、鳴き声を一つあげる。

 サーベラが驚いたこととは、ファイアアローが(・・・・・・・・)その軌道を変えた(・・・・・・・・)ということだ。

 しかも軌道はサーベラがいる方へと変った。



《ファイアアロー》という技は【火魔法】スキルの技の一つで、炎を矢の形にして放つものだ。

 俺は他にも《ファイア》という技も使えるが、威力だけなら《ファイア》の方が威力がある。

 


 だが《ファイアアロー》には《ファイア》にはない、ある特殊効果が付いていた。

 それは追尾機能(・・・・)だ。

 ただし精度は低い。

 技の説明欄にも『目標追尾 【精度】:低』と書いてあった。

 森に入る前スタミナ回復中に実験してみたが、動かない魔とならまだしも、動き回る相手にはどこまで通用するかわからない。



 カツーン――。



「ああ、やっぱり当たらなかったか」



 俺の視線の先には木の幹に刺さった炎の矢があった。

 意外といいところまでサーベラを追尾していたのだが、如何(いかん)せんここは森の中、サーベラに向かって行く途中で木に突き刺さってしまった。



「でもよかった。これなら山火事にはなりそうにないな」



 木に刺さった炎の矢は、火が木に燃え移る前にジュゥという音と共に跡形もなく消滅する。

 実験した時は地面から顔を覗かせていた岩目掛けてはなったのだが、その時は命中するとずっとそこに残っていて、近くの草を軽く焼いてしまった。



「あの時とは何が違うんだろう。……っと、考えるのは後だ後。今は目の前の敵に集中しないと」



 顔を軽く振って雑念を振り払い、槍の柄を何度か握り直して構える。

 サーベラは今の《ファイアアロー》を警戒しているのか、立体機動を止めて木の幹に四本の足の爪を引っかけてぶら下がっていた。

 


 今なら槍の攻撃も当てられるかもしれない。

 そう思い俺は槍を突き出した。



「せりゃあっ!」



 だが槍は軽い動作で躱され、逆にカウンターのように牙で反撃されてしまう。



「このっ、《大車輪》」



 俺は体ごと槍を力一杯振り払う。

 すると俺の槍は柄部分でだがサーベラの体に当たり、カウンターのカウンターを決めたようになった。

 サーベラは地面へと着地する。



「《二段突き》!」



 回転した体の流れを利用して、今度は二連撃を叩き込む。

 一撃目は外れてしまったが、本命の二撃目はサーベラの右前足を掠めた。

 


「あと半分くらいか」



 サーベラは俺の攻撃を受けて、いったん避難するように木に登っていく。

 その体の上に注目すると体力ゲージが現れ、サーベラの体力はあと半分と少しだということを赤いゲージが示していた。



「このままガンガン行かせてもらうぞ! 《ファイアアロー》、《ファイアアロー》!」



 今度は二発続けて炎の矢が放たれ、立体機動を開始したサーベラを追尾しはじめる。

 この時のサーベラは俺から炎の矢に意識が離れるのか、動きが単調になるため俺でもサーベラの動きが予測出来た。



「これでどうだ!」



 サーベラが飛び跳ねるであろう木に狙いを定め、槍を突き出す。

 炎の矢はまたもや木の幹や枝に阻まれてしまい、命中することはなかったが十分囮として役に立った。



 ズシュッ!



 俺の手の中の槍に、今回の戦闘で初めて強い手応えがあった。

 高さを稼ぐため右手一本で伸ばした槍は、矛先をサーベラの左後ろ足の根元に突き刺さり、獲物を木の上から引きずり下ろすことに成功した。



 ドサッっと重い物が落ちる音がする。

 一本の木の根元には痛みから来る咆哮をあげ、藻掻き突き刺さった槍を何とかしようとしているサーベラの姿があった。



「っ、《二段突き》!」



 そして体を捻り無理矢理槍が体内から抜かれると、サーベラは自身を攻撃してきた俺に跳びかかってきた。

 予想外の行動に於呂どいた俺は、咄嗟に《二段突き》を繰り出す。

 今度は一撃目は当たったが二撃目が外れてしまい、その隙を縫ってサーベラは木に駆け上る。



 だがサーベラは今までよりもずっと低い位置までしか登っていかず、また始めた立体機動も以前の速さは面影がない。

 ダメージが残っているということだろうか。



「《ファイアアロー》!」



 俺はもう一度サーベラを地面に下ろすために攻撃する。

 魔法を放ち、槍を繰り出し、ひたすら相手の体力を削っていく。







 ――そして、ついに決着の時が来た。



 再び地面に引き摺り下ろすことに成功し、サーベラは地面に横たわっている。

 体力ゲージももうほんの僅かしか残っていない。



 俺はトドメの一撃を放った。



「《大車輪》」



 今までは地面と水平に横回転で槍を振り回していたが、今度は角度を付けて斜めに振り回す。

 狙いはサーベラの首。



 最後に遠心力を利用した一撃は、吸い込まれるように倒れたサーベラの首へと伸びていき、半分以上を切り裂いた。

 首がガクッとあり得ない角度で下を向くと、鮮血の代わりに光が溢れていく。

 そして、もう見慣れた光の粒となってサーベラの体は消えていった。







最後までご覧頂きありがとうございます。


戦闘が三話、四話と続くのはどうかと思い、二話(正確には一.五話くらい)で締めてみました。


街で遭遇した3人PTが苦戦した相手に、主人公は一人で勝ってしまいましたが、理由はちゃんとあります。

簡単に言うと、PTは連携が上手くいかなくて敗北。

主人公はソロで思うがままに動けて勝利。

という事です。

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