52.「《大車輪》!」
※修正しました5/28
ただ時間が過ぎるのを待っているのも勿体ないので、所持アイテムの確認やロックベアーを倒した際に覚えたスキルの新技確認、今後の予定を大雑把にだが立てる。
新技の【槍】スキル《大車輪》と、【火魔法】スキル《ファイアーアロー》だが、これはなかなか強力な技だと思う。
サーベラ討伐で役に立てばいいのだけど。
しばらくすると体から疲労感が休息に抜けていくのが感じ取れた。
スタミナが前回したということだろう。
「よっこいしょっと。さて、気を取り直して行きますか」
俺は無意識にちょっと年寄り臭い台詞を口にしながら立ち上がり、腰を下ろしていたためお尻に付いた土や草をパッパと払いのける。
そして恐らくこの森に入る人が利用しているだろう入口(そこだけ踏まれているためか草が短かったり、地面が剥き出しになっている)へと足を向け、偃月槍を取り出し柄を杖のように使いながら森へと入った。
「どうしようかな……とりあえずこのまま進んでみるか」
スタミナが回復するまでの時間で考えた予定では、この獣道とも言える他よりは多少歩きやすい道の終点まで行ってみるつもりだった。
だが俺の予定は森に入って僅か数分で瓦解する。
――道がすぐに途切れてしまったのだ。
仕方がないので道が延びていた方向へと進むことにした。
「しっかし、森の中だっていうのに随分と明るいな? 上は葉っぱで殆ど遮られてるのに何でだ?」
森の中は大体数メートル感覚で木が生えていて、明らかに人の手が加えられている。
その証拠に一本の木を見てみると、そのすぐ側に古い朽ち果てた切り株が地面から顔を覗かせていた。
だが手が加えられているのは気の間引きくらいのもので、頭上を見上げると羽が生い茂っていて隙間から時折光がチラ着く程度の物だ。
殆ど光が届いていないにもかかわらず、やや遠くまで見通せる視界の良さの説明にはならないと思う。
「まあ“この世界はゲームだから”って言っちゃったらそれまでなんだけどね」
俺はさっき調べた木の幹をパシパシ叩きながら独り言を呟く。
そしてふとあることを思いついた。
「こんな時【鑑定】スキルを持ってたらなにかわかるのかな。例えばこの木とか、地面に落ちてるこの石とか」
偶々足下に落ちていた石を手に取ってみる。
大きさはニワトリの卵くらい。
色は灰色っぽくてゴツゴツした表面。
誰かが加工した形跡なんてこれっぽちもない、正真正銘のただの石だった。
「うーん……。やっぱり何もわらないな」
俺はジーッと石を見てみたがシステムウィンドウが出て、この石の説明が出ることもなかった。
やはり【鑑定】スキルがないとだめなのだろうか。
「正直何かわかるとは思ってなかったし、まあこんなもんだよね」
そんな俺の独り言は森へと消えていった。
あらためて先へ進むために歩き出し、石も適当に投げ捨てる。
俺が投げた石は放物線を描いて前方の地面へと落ちた。
パリィーン。
「――へ?」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
だが予想外の事態が起きてしまった時の反応なんて、他の人も大して変らないはず。
俺がたった今直面した予想外の事態。
投げ捨てた石が地面にぶつかるとガラスのように割れ、そのまま目の前で光の粒となって消えていったのだ。
「なんだ、今の? 音はともかく光の粒になるのって、倒したモンスターが消えるのと同じ感じだったような……」
もう一度その辺の地面に落ちていた石を手に取ってみた。
いろんな角度から見てみたり、手で触ってみて確認してみたがこれもやっぱりただの石のように見える。
「それっ」
その石をもう一度投げてみた。
するとやはり石は地面にぶつかると甲高い音を立て、そのまま光となって消えていってしまう。
「もしかしてこの石ってアイテムなのか?」
俺は『この石は実は歴としたアイテムだった』という仮説を立て、もう一度石を探して手に持つ。
だが今度は投げることはせず、所持品の欄に仕舞うつもりで念じてみる。
すると石は手からその姿を消した。
「やっぱり、アイテムだったのか」
俺はステータスを開いて所持品を確認してみる。
そして多数あるアイテムの中、一番上に目当ての物はちゃんと入っていた。
ちなみに説明欄にはこんな事が書いてある。
【石ころ】
その辺りに落ちているただの石。
見方によってはやる気のない説明文だった。
だが同時にこれ以上ないほど的を射た説明だとも思う。
「だけどこれは発見だな。他にも何かアイテムないかな?」
俺は子供が宝探しをするように目を皿にして地面を見渡す。
時折見つかるこれはアイテムじゃないかな?と怪しい物は、一度手に取ってみて所持品に仕舞うことが出来るか確認してみる。
石に始まり草、花、茸などを見つけては手に取ってみた。
だが今のところはまだ一つも当たりに出会っていない。
「この辺りにはないのかもしれないな。もう少し森の奥に行ってみるか」
地面に視線を向け何かめぼしい物がないかどうか調べながら、俺は森の奥へ奥へと足を進める。
道中太い木の根が地面を隆起していればそれを乗り越え、草藪があったら槍を使って草を刈って進んでいく。
―――この時俺は、大事なことを忘れていた。
それは、何故俺がこの森に来たのかということ。
ガザガザガザ―――。
「ん? 今なにか音がしたような」
すっかり採取に夢中になっていた俺は油断しきっており、格好の獲物となっていた。
ガサガサッ!
「えっ!? うわあああぁ!」
屈んで草を調べていた俺に、緑色の物体がぶつかってきた。
そしてそれと同時に俺の右手に痛みが走る。
「いっ、一体何がっ」
痛みが走った右手を見てみると、装備していた腕の防具には赤く丸い二つの跡が付いていた。
その赤い跡は一向に消えない。
次いで俺にぶつかってきた緑色の物体を探してみると、五メートルほど離れた場所にソレはいた。
「サ、サーベラかっ」
慌てて槍の矛先をサーベラに向ける。
サーベラは図鑑で見た絵と同じ特徴を持っていて、今は威嚇するようにグルルと喉からうなり声を上げていた。
白い牙が頭上に生い茂った葉の隙間からこぼれた日の光を反射し、剥き出しになった赤い歯茎と口からは涎が地面へと垂れていく。
「この赤い跡ってもしかして噛まれた跡か」
いつの間にか入っていた戦闘。
サーベラの体の上には《サーベラ》という表示と、体力を示す赤いゲージが出ていた。
そして俺の体力ゲージはやはり少し減っている。
やっぱり先程の痛みはサーベラの攻撃だったようだ。
「くそっ、油断した。なにやってるんだ俺は」
採取に夢中になって本来の目的を忘れいていた自分に腹が立つ。
森にはモンスターがいるなんてわかりきっていたことだったのに、偶々さっきまで襲われなかったからつい警戒することを頭の隅へと追いやってしまった。
「いや、反省するのは後だ。今は目の前の敵と戦わないと」
わざと口に出して落ち着こうとする俺に、サーベラは問答無用と襲いかかってくる。
だがヴァイスの街を出る時に出会ったプレイヤーから聞いた、立体機動はまだ取っていない。
木々を避けるためにジグザグに走り抜けるサーベラに、俺は槍を繰り出した。
「せりゃっ!」
だが槍は当たらなかった。
もう少しで届くというところで、柄が木の幹に当たって軌道がずれてしまったからだ。
「ぐっ! くそっ、痛いなこの野郎っ」
そんな俺にサーベラは容赦なく攻撃を加えてくる。
いわゆるヒットアンドアウェイ戦法で一撃加えるとすぐに離れて行ってしまう。
しかも無闇に攻撃してくることはなく、俺が槍を突き出して引き戻す合間を狙って攻撃してくる。
見ようによっては強者が、弱者(俺)をなぶり殺しにしているように見えるかもしれない。
「ふっ!」
また槍が空を切る。
そしてその隙を狙ってサーベラが低く吠えながら攻撃してきて、俺の体力ゲージが少し減る。
もうこのパターンは何度目になるだろうか。
「このっ!」
正面から向かってきたサーベラに突き出した槍は、体を捻ることで避けられてしまった。
最後には右手一本で伸ばしきった槍を傍目に、サーベラは牙を俺に向ける。
またこのパターン。
少なくとも俺がこれを利用して、反撃の狼煙を上げる方法を思いつくくらい繰り返されたことだ。
「《大車輪》!」
そう声を荒げると俺の体はコマのように回転し、伸ばした右手と突き出した槍は柄にサーベラを巻き込んで一回転する。
回転が止まりサーベラを急いで確認してみると、地面からちょうど起き上がるところだった。
名前の横の体力ゲージも減っている。
【槍】スキルの《大車輪》という技は、体を回転させてその遠心力も使って相手を薙ぎ払う技だ。
これで通常突きという点攻撃しか出来ない槍でも、横一線の面攻撃が出来る様になる。
今回は柄の部分で殴り飛ばした形だったが、矛先の方でなら切り裂くことも出来るだろう。
もしガルムさんのところの偃月刀のような矛先をしている槍だったら、当たればその効果も十二分に発揮出来るはずだ。
「ここからだ。悪いけど、ただでやられるつもりはないんだよ」
サーベラは先程までのように木々をすり抜け、トリッキーな動きを取ることをやめ俺の事を恨めしそうに睨んでいる。
俺はライフポーションを取り出し、もう半分を切っていた体力を回復させ、次の攻防への準備を整えた。
ご覧頂きありがとうございました。
やっと戦闘に入ります!
前半はちょこっと採取の話でしたが、今後がっつり採取の話も書く予定です。




