51.「体が軽いぞっ!」
ギルドを出た俺はサーベラを狩るためにヴァイスの街の門までやって来た。
ただしフォートの街からやって来た時に潜った、あの門とは反対側にそびえる門の方だ。
こちらの方にも森が続いている。
こっちの門を選んだ理由は特にないが、言うなれば好奇心だろうか。
初めて向かう森に適度な緊張と、それを上回る好奇心で俺の心が躍る。
「あーちくしょー。何なんだよあいつー」
「ドンマイドンマイ。次は他のフレンドも誘って行こう」
「ああ、あれは仕方なかったって。事前情報なしじゃぁ倒せねぇよ」
「でもよー」
「あれって初見殺しなんじゃない? ゲーム序盤の強敵っていうか」
「俺今日ログアウトしたらちょっと攻略掲示板見てくるわ」
俺がいざ門を潜ろうとしたら、前方から男性三人組みが横一列になって歩いてきた。
地声が大きいためか会話の内容が丸聞こえで、その内容から考えておそらく三人ともプレイヤーだろう。
真ん中を歩く小柄な男性が愚痴を言い、その隣を歩く体の線が細い長身の男性とちょっとぽちゃり目の男性が、それを慰めたりしていた。
全員俺より少しだけ歳が低いように見える。
俺は特に顔見知りというわけでもなかったので、その横を素通りして行こうとしたのだが、
「おい、そこのあんた。灰色の髪で槍背負ってるあんただよ」
―――と小柄な男性に呼び止められた。
「はい? なんですか」
俺は足を止めて男性達の方を振り返る。
なんだろう?
別に俺何もしてないと思うんだけどな?
「あんたこれから森に入るのか?」
「そのつもりですけど」
「やめとけやめとけ。あんたその装備、【槍】の初期装備じゃんか。そんなんじゃすぐにモンスターに殺られちまうぞ」
「は、はあ?」
突然何を言い出すんだろうと小首を傾げると、小柄な男性は両脇から振り下ろされた拳骨によって地面に倒れ込んだ。
勿論俺が殴り倒したわけじゃない。
拳骨を繰り出したのは長身の男性と、ぽっちゃり目の男性だ。
「いってぇな! なにすんだよ!?」
「『なにすんだよ!?』じゃねぇだろが。初対面の人にお前なに失礼なこと言ってんだよ。ちょっとこっちゃこい」
「おいこら! 後ろ襟掴むんじゃねぇ! ぐっ、首が、締まる、だろっ」
俺がどう反応したらいいのか迷っているうちに、小柄な男性はぽっちゃり目な男性の手によって、少し離れた建物の影へと文字通り引き摺られていった。
その場には俺と長身の男性だけが取り残される。
「いきなり連れがすみませんでした」
「あーいえいえ」
「……全くあいつは、いつも問題ばっかり起こしやがって(ボソボソボソ)」
長身の男性は溜息混じりに謝ってくる。
最後にボソボソ小声で呟いていた部分については、俺は聞かなかったことにしておこう。
「あいつも悪気があったわけじゃないんです。たださっきまで僕等もこの先の森にいたんですけど、手痛い洗礼を受けまして、その、少し気がたってたみたいで」
「何があったんですか?」
「実は森の中で『サーベラ』ってモンスターと遭遇して、物の見事に返り討ちにあったんですよ」
なんという偶然だろう。
俺がこれから狩ろうとしていたモンスターと、ついさっきまで戦っていたらしい。
「サーベラ以外のモンスターとも何回かエンカウントしたんですけど、あれは特別強かったですね」
「あの、その話詳しく聞いても良いですか」
「え?」
「実は俺ギルドでクエストを受けて、サーベラを狩る必要があるんです」
「そうだったんですか」
俺は男性から何か有益な情報が手に入らないかと思い、自分がこれからサーベラを狩りに行くことを説明する。
「全然いいですよ。じゃあ何から話しましょうかね」
男性は快く俺の要求に応えてくれた。
そこで俺はまず、サーベラの戦闘スタイルについて聞いてみることにする。
「サーベラってどんな風に戦うんですか? さっき返り討ちにあったとか言ってましたけど」
「えーっと、始めは普通に戦ってましたよ。向かい合って牙を剥き出しにして跳びかかってきたりして」
「それってヴォルフみたいな?」
「あー、そんな感じですね、だけど途中からいきなり行動パターンが変って、あいつ立体機動なんかしてきたんですよ。こう、木を蹴って違う木に飛び移ってさらに飛び移ってって感じで」
そう言いながらチョップするように立てた右手に、左手で作った犬(小指と人差し指を立て残った三本の指先をくっつけて作るアレ)をぶつける。
“木を蹴って飛び跳ねるサーベラ”を表現したんだと思う………たぶん。
「立体機動中にこっちから攻撃は?」
「それが僕等のPTはあっちの二人のメインが【剣】と【ハンマー】で、頭の上を飛び跳ねてるサーベラに攻撃が届かなかったんです。僕は魔法使えるんですけど、二人に回復魔法使って魔力ガンガン減っていっちゃったんで攻撃には参加出来なかったんですよね。もう回復魔法燃費悪すぎですよ。調整は入らないかなー」
男性が口を尖らせて最後に愚痴る。
そんな様子を見て俺はそうですねと話を合わせた。
本当のところは回復魔法の燃費――つまりは魔力の消費が激しいということ――が悪いことなんて初めて知ったし。
「おう、おまたせ」
「………」
そうこうしているうちに小柄な男性とぽっちゃり目な男性が戻ってきた。
俺の気のせいでなければ、小柄な男性は何故か萎縮した様子だ。
「あーその、さっきは悪かった。いきなり変なことを言って」
「いや、気にしてないですから大丈夫です」
ぽっちゃり目な男性に肘で脇を突かれ、小柄な男性は頭を下げてきた。
俺は元々怒っていたりしないので気にしてないと言っておく。
「だけど流石に初期装備では辛いと思うんだよな。とくに俺達、森の中でサーベラってモンスターと戦ったんだけど」
「その辺りは僕が説明しておいたよ。でもこの人クエスト中でサーベラ討伐が達成条件なんだってさ」
「マジかよ。ソロで出来るのか」
「でもこの人は槍を使うから攻撃は届くんじゃない? 僕等はまず攻撃が届かなくて一方的にやられてたからね」
「うーん」
「そもそも他の人のプレイに外野が“待った”を入れるのはマナー違反じゃない?」
「……それもそうか」
何回か言葉を交わしていた二人だったが、小柄な男性が一歩前に出て残りの二人はその後ろに付いた。
「悪い待たせて。もうあんたを引き留めたりやめろなんて言わない。ただサーベラを相手にするなら頑張ってくれ。じゃあな」
「すみません。では」
そう言い残して街の中心部へ向かって歩き去っていく三人。
俺はそこでまだ聞きたいことがあったのを思いだして、急いで去っていく背中に向けて告げた。
「あのっ、サーベラって森の中のどの辺にいるんですかっ」
俺のその声はちゃんと相手の耳に届いたようで、少し離れた場所で三人は足を止めこちらに振り返って答えてくれた。
「森を真っ直ぐ進んで大体一時間くらいだっ」
そう告げて今度こそ去っていく三人。
俺はよしと気を入れ直して三人とは反対方向に足を進め、門を潜り少し先に見える森と原っぱとの境界線を目指す。
周りを見てみると進行方向先の方に小さく人の姿が見えるが、顔が識別出来るような範囲には俺しかいない。
こっちの門から伸びる街道は森の中を通らず、直前でカーブを描いて森を避けて通っていた。
なので途中まではある程度整備されている街道を歩いて、途中から森に入るために街道を外れることになる。
「ちょっと急ごうかな。ダラダラ歩いていても仕方ないし。それに【早駆け】を一度全力で使ってみたいし」
俺は『早駆け』と呟き、体にスキルが発動した感覚を確認してから一気に地面を蹴りつけ走り出す。
「おおおっ!? なんだこれ、体が軽いぞっ!」
今までの人生で一番からだが軽く感じる。
それに足も残像が出るとまでは行かないが、物凄い回転率を叩きだしていた。
主観的なイメージとしては、オリンピックに出場する短距離走の選手が出すあのスピードをずっと維持出来ているような感じだ。
フォートの街からヴァイスの街に向かう途中、盗賊から逃げる時に【早駆け】スキルは使ったが、あの時は木は生えてるし地面はデコボコだしと悪条件ばかりで全力では走れなかった。
なので正真正銘の全力前回の【早駆け】は今回が初めてだ。
「すげーすげーっ、このままならもうあっという間に森に辿り着くぞっ」
もしかしたら今、俺は初めて【火魔法】を使った時よりも興奮してるかも。
でも魔法と違って【早駆け】は自分の体で実感出来るから、それも仕方がないと思うんだ。
「――あ、あれ? 何だ?」
だが俺は突如としてスピードダウンした。
そしてそんな俺を押そう強烈な疲労感。
なんとか森の入口近くまでやって来た時には、もう一歩も歩けないほど疲れ切ってしまい、俺は堪らず半ば尻餅をつくように勢いよく座り込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……そう、だった。はぁ……はぁ、んくっ。思い、出した」
俺は【早駆け】スキルには、スタミナを消費するという説明書きがあったことを思い出した。
つまり今の俺はスタミナを使い切ってしまった状態というわけだ。
「ちょっと、休憩」
スタミナを回復するには体を休ませるしか方法はない。
なので俺はスタミナが回復するまで、森の一歩手前で大人しく待つことになってしまったのだった。
ご覧頂きありがとうございました。
物語の進行速度がゆっくりですみません。
でもタグにもそう書いてあるし、大丈夫かな?
次話は戦闘シーンに突入します。
決着まで行くかは未定です。




