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49.「どうせだから今もらおうかな」

ご覧頂きありがとうございます。


※誤字修正5/18

 

 

 

 日が暮れてきたところでトーラスくんの目がショボショボし始めた。

 まだ体力が衰えているにもかかわらず、興奮した様子で話しを聞いて時折質問をしていたから、きっと本人も予想外に体力を消費したのだろう。

 


 そんなトーラスくんはついに船をこぎ始めたので、今日のところはこの辺でという流れになり、俺はお(いとま)することにした。

 今は見送りのためと二階から一緒に下りてきたドランと、作業場の前の通りに出てきている。



「今日はすまなかった。礼を言う。トーラスも喜んでいた」


「お礼なんか言わなくていいよ。俺もトーラスくんと話すのは楽しかったから。また会う約束もしたし、今度も何かお土産を持ってくるよ」



 俺がトーラスくんの部屋を出る時に、ある約束をトーラスくんとした。

 それはまた今度話し相手になることだ。

 眠そうにしている中、何とか目を空けようと頑張っているその姿は微笑ましく、俺が『もちろんいいよ』と答えてあげるとにへらと笑って、ついにトーラスくんは力尽きたようにベッドに倒れた。



「気を遣わせてしまったようですまん」


「だから気にしなくていいって。じゃあ俺は行くから。ドランのお母さんにもよろしく言っておいてくれ」



 ドランのお母さん――メイアさんは俺達が二階から下りてきた時、ちょうど接客の最中だったので直接声をかけて挨拶は出来なくて、視線を合わせて会釈をするにとどまった。 

 メイサさんも俺の会釈に笑顔を浮かべて返してくれて、お客さんとも楽しそうに会話をしながら商品の説明をしていたようだ。 



 前にドランが『お袋は寝起きが悪くて攻撃的になる』って言ってたけど、こうしてちゃんと起きている時のメイアさんは、頼りになるお母さんというか女性だと思う。



「ああ、また来てくれ。歓迎する」


「ありがとう。じゃあまた」



 俺は軽く手を上げその場を後にした。

 そのまま通りを人の流れに沿って歩き続ける。



「さてと、これからどうしようかな? というか今現実の方何時だろう」



 ステータスからログイン情報の確認をしてみる。

 すると現実世界の方ではまだ一時間も経っていないことがわかった。



「そうか、そういえばこのゲームの一日って現実世界の一時間半なんだっけ。あらためて考えてみるとなんだか不思議な感じだよな」



 体感としてはもう半日以上時間が経過したように感じるが、それはゲームの中に限ったことで現実の方ではほとんど時間は過ぎていない。

 このままログアウトするのも勿体ない。

 せっかくなのでゲームの中で夜を越してみようと思う。



「何だかんだでゲームの中で丸一日過ごすのって初めてだな。いつもは何かしら一段落したらログアウトしてたし」



 そうと決まればと、俺は暗くなってきて建物の窓から室内の灯りが漏れ出す、幻想的とも言えるファンタジーな街並みを鑑賞しつつ宿の建つ方向へと足を向けた。



 道中いろんな物を見た。

 現実の方であるビアガーデンのように屋外に席を設けた飲食店、そしてそこで楽しそうにドンチャン騒ぎをしている人々。

 先程まで街の外にいたのか、完全武装でその装備の所々が汚れている、おそらくプレイヤーPTの四人組み。

 フワフワと宙を漂いながら通りを街灯の代わりに照らしている、光を放つシャボン玉のような丸い物体。

 その光を受け通りから中が窺えるショーケースの中では、色とりどりにキラキラ輝く何かの原石が綺麗だった。



 俺はこの時これまでで一番と言えるくらい心の底から、『ああ、ここはゲームの中でファンタジーな世界なんだ』と実感した。



 興味が尽きない街並みを見ながら歩くと、いつの間にか見知った建物の近くまでやってきた。

 楽しい時間は早く過ぎると言うことか。



「いらっしゃいま――あら、イオさんだったの。お帰りなさい」



 俺が建物の中に入るとウエイトレスをしていたシンディが気付いた。

 そしてお帰りなさいと言って俺を迎えてくれる。



「ただいまです」


「はい。イオさんお食事はどうします? 外で食べてきましたか?」


「いや、食べてきてないよ」


「じゃあお父さんに言って用意させましょうか? 別に今じゃなくて後ででも大丈夫ですけど」



 俺は自分のお腹の空き具合を確認してみた。

 確かにドランのところで焼き菓子と飲み物を飲み食いしたけど、満腹というまでには程遠い。

 だからといってお腹が空いているというわけでもなかった。



 端的に言うと間食したせいで微妙なお腹具合だ。



「うーん、じゃあどうせだから今もらおうかな。あ、出掛け先で少し食べたから軽めにしてもらってもいいかな?」


「わかりました、軽めの物ってお父さんに頼んでおきますね」



 俺の我が儘にもシンディは笑顔で了承してくれた。



「お食事はどこで食べます? ここか、泊まってる部屋でも食べられますけど」


「ここで食べていくよ」


「はいわかりました。ではこちらにどうぞー」



 シンディが席まで案内する。

 俺は後に続きカウンター席の真ん中辺りに座った。



「先に飲み物をお持ちしますけど、何にしますか?」


「何があるの?」


「何でもありますよ。ただの水からお茶、ジュースからお酒まで。あ、でも偉い方々が好むようなお高い物はありませんからね。ウチは庶民向けですから」



 何故か胸を張って堂々とするシンディに俺は小さく笑ってしまった。

 幸いにもシンディは気付かなかったようで、俺が注文するのを待っている。



「じゃあお茶でももらおうかな」


「わかりました。それでは少々お待ち下さい」



 そう言ってシンディはカウンター奥へと姿を消した。

 


「はーい、じゃあまずお茶です。料理の方はもう少し待ってて下さーい」



 すぐに戻ってきたシンディの手には、水差しとガラスのコップが握られていた。

 水差しの中身は薄茶色の液体が入っていて、とりあえずコップに注いで一杯飲んでみた。



「これは、麦茶? 烏龍茶? 似たような味がするけど」



 味は飲んだことのある飲み物に非常に似ていて飲みやすい。

 それに氷が浮かんでいる様子もないのにもかかわらず、お茶は冷蔵庫から出した直後のようにキンキンに冷えていた。



 そして俺は料理が来るまでお茶をちびちび飲みつつ、酒場に集まっている人々のことを見たり、シンディやその他のウエイトレスの人が席とカウンターを行き来するのを眺めたりして時間を潰した。



「お待たせしました。お料理になります」



 料理を持ってきたのはシンディ以外のウエイトレスだった。

 俺がどうもと一言お礼を言うと一礼して去っていく。

 どうやらお客が増えてきていて忙しくなってきたみたいだ。



「早いとこ食べちゃおう。長居してると邪魔になりそうだし」



 俺はナイフとフォークを手にとって、目の前の料理を片付けることにした。

 出された料理は魚料理だ。

 鮭みたいに赤い身でトロットロなホワイトソースが掛かっている。

 ホワイトソースには茸や野菜も入っていて、彩り豊かな演出をしていた。

 何て言うんだったか、ムニエル?



 それとムニエルとは別に蒸したジャガイモ?と、汁物にはコンソメスープのような物が付いていた。

 前のドンチャン騒ぎの時には料理をちゃんと味わえなくて、サンドウィッチの時にあらためてその美味しさに驚いたが、今回の料理も目を見張る美味しさだ。

 もし現実の世界でこの味を出せる料理屋があれば、きっと連日長蛇の列が出来てテレビやら雑誌の取材がわんさか来ることだろう。



「――ごちそうさま。ふぅー、美味しかった……」



 最初こそその味を一口一口じっくり味わうように食べていたが、次第にペースが上がって最後には一心不乱に食べていた。

 まあ元々早く食べてしまおうと考えていたから、結果オーライと言えるだろう。

 


 最後にもう一杯お茶を飲んで、カウンターの中にちょうどいたシンディに声をかける。

 そして代金を払おうとしたのだが、それをシンディが遮ってきた。



「お代はいらないんですよ。ウチの宿を利用しているお客さんは、朝と夜のご飯はこちらが提供しているんです」


「そうだったんだ。あれ? でも俺、今日の昼にサンドウィッチ作ってもらったんだけど。その時のお金払ってないや」


「あー、そういえばそんなことお父さん言ってましたね。でもそれはお父さんのサービスですよ。朝食は終わってましたけど、『まだ昼でもなかった』って言ってましたから」


「えっ、本当に?」


「はい。ですから気にしないで下さい」



 知らないうちに親切なサービスをされていることを知って、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが同時に湧き上がる。

 俺は今回はお言葉に甘えることにしたが、今度からは注意しようと心に決めた。



「ごちそうさま。美味しかったですってロジィさんに伝えておいてくれるかな? 俺はもう部屋に戻るよ」


「ありがとうございます。お父さんにはちゃんと伝えておきますね」


「よろしく。それじゃ」



 俺は酒場から二階へと上がり、泊まっている部屋まで帰ってきた。

 もうすることもないのでとっとと寝ることにする。



 この“∞”ではログアウトする方法は中立地帯である街の中などで、眠ることだがログアウトをしないでただ単に眠ることも出来る。

 そうすると時間だけが過ぎて、夜眠れば朝に、朝眠れば夜へと時間帯が変わることになるので、時間を勧めたいプレイヤーなんかはこの方法を取っていた。

 もちろん眠っている間も、他のプレイヤーやNPC達は活動を続けている。



「おやすみー」

 


 俺は装備を外し収納すると誰に言うでもなくそう告げて、体を横たえ目を瞑った。

 徐々に意識が薄れていって、俺は現実でもこれだけスムーズに眠れたら、と羨むくらいあっさりと眠りについた。




 



 ============

 以下、登場人物紹介です。

 ============



【シンディ=フィリプス】


 女性。NPC。十代後半くらい。看板娘。


 ヴァイスの街で酒場兼宿屋を営むフィリプス家の一人娘。

 赤髪を両サイドで結ぶツインテールという髪型が似合う、可愛らしい容姿をしている。

 体型は標準的。


 母親は宿を担当し父親は酒場を担当していて、その両方を手伝っている。

 男性客達から人気もあるが近所の可愛らしい子供を愛でるという感じ。

 怒るとお盆の角が炸裂するらしい。


 下町の元気はつらつ娘。





最後までお読み頂きありがとうございます。


ゲーム内での日常系なお話はここまでとなります。

次話からは依頼クエストを受けて、街の外へと出て行く予定。

戦闘や採取があるので、よりゲームっぽい内容が出てきます。

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