表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/73

48.「知ってることだったら何でも答えるよ」

 

 

 

 ちょうど今いる通りとドランの家へ伸びる通りは、少し歩けば交差するので一度曲がるだけでいいはず。

 迷うはずはないが、最悪迷ったとしてもマップを開いて調べたり、ナビゲーション機能を使えばいい。

 俺は記憶を頼りに通りを歩いて行き、見覚えがある十字路を曲がった。



 ――――――。

 ――――。

 ――。





 三十分かからないくらい歩いて無事目的地に到着した。

 何度かこの道で合ってるんだっけ?と、自信がないところもあったが歩いて行くうちに見覚えのあるお店や看板を見つけることが出来、マップを使うこともなかった。



 ドランの家は前に来た時も見たが二階建てで、一階部分が木材加工の作業場とお店で、二階部分が居住スペースとなっている。

 俺はこの前訪れた時と同様に、作業場の方へと顔を出すことにした。



 とりあえず一番近くで角材に(かんな)掛けをしていた男性に声をかける。

 手拭いを捻って鉢巻きのように頭に付けているその男性は、ちゃんと話した覚えはないが前にここに来た時に見た覚えがあった。 

 壁がない吹き抜けになっているので、俺は通りから直接お邪魔する。



「ごめんくださーい」


「ん? なんだいあんた、こっちは作業場だよ。商品を取り扱ってる方の店は隣の扉を入った中だ」


「あーいえ、今日はトーラスくんのお見舞いに来たんですけど」


「トーラスの見舞い? ……あっ! よく見てみればあんた、ドランと一緒に薬を持ってきてくれた人じゃないかっ」


「そ、そうです」


「いやあ、あの時はありがとうな!」



 俺は思わず一歩後ろに後退しながら答えた。

 なぜなら話しかけた男性が俺の事を思い出した時に大声を出し、何事かと作業場にいた他の人々が一斉に俺の方を見たからだ。



 そして人々は『ああ、あの時の』と言いながら、それまで続けていた作業を中断して笑みを浮かべて俺の方へとゾロゾロと集まってきた。



「今日はどうしたんだ?」


「この間の宴会は楽しかったな!」


「ドランに用事か?」


「トーラスの見舞いに来たんだと」


「見舞い? トーラスの?」


「とりあえず店の方に入っておいてもらうか」


「そうしようか」


「じゃあ俺ちょっとドラン呼んでくるわ」



 集まってきた人の中にこの前の宴会に参加していた人がいたようだ。

 俺が口を挟む暇もなく集まってきた人達は自己解決すると、俺の背中を押して店の方へと連れて行く。



「あのっ、ちょっと」


「いいからいいから」



 そのまま俺は抵抗する暇もなく店の中へと連れて行かれた。

 店の中は人っ子一人いなかったこの前とは違い、一人の女性がカウンターで何かメモのような物を書いている。

 その女性は俺が入って来るとメモから顔を上げ俺と視線を合わせた。



「あらあら、どちらさまでしょう? お客さまかしら? そちらは作業場への出入り口で、お店の出入り口はそちらではないんですよ」



 女性がちょっとおっとりした口調で頬に手を当てながら微笑む。

 気が付くと俺の背中を押していた男性の姿はなかった。



「すみません、俺はお店の方のお客ではないんです。今日はトーラスくんのお見舞いに来たんですけど」


「あら、うちの子のお見舞いに? ……ん~、もしかして、あなたのお名前は『イオ』さん、かしら?」


「あ、はい。そうです、イオっていいます」


「やっぱり。私はドランとトーラスの母のメイアと申します。この度はうちの子の為にご尽力頂きまして、ありがとうございました」



 二人の母親と名乗ったメイアさんは、カンターからわざわざ出てきて深々と頭を下げてきた。

 ワンピースのような服の上からエプロンを着けている、“∞”の中ではありふれた一般的なNPC女性の姿なのに、その佇まいからは気品が感じられる。

 


「いっ、いえいえ! そんな、俺は別に」



 少し見とれていた俺も慌てて頭を下げる。

 下げた頭の上からクスクスと小さく笑うメイアさんの声が聞こえてきた。



「少々お待ちになって下さい。私はお店の方で手が離せませんので、代わりにドランをお呼びしますので」


「その必要はない」



 通りに面した店の扉が開かれ、そこからドランが現れた。

 作業場にいたと思われる男性にが後ろにいて、シュタッと手を上げドランに声をかけ作業場へと戻っていく。

 さっきドランを呼んでくると言っていた人がいたので、あの男性が呼びに行ってきたのだろう。



「あら、ちょうど呼びに行こうと思っていたのよ。グットタイミングね」


「後のことは任せておけ。イオの相手は俺がするから、お袋は仕事に戻ってくれ」


「そう? よろしくね。あ、そうそう。イオさんは今日あの子のお見舞いに来て下さったんですって」


「呼びに来た作業場の奴から聞いてる。イオ、わざわざトーラスのためにすまないな」



 ドランは軽く頭を下げた。

 俺はそれに会釈し、気にするなという意味を込めて答える。



「今くらいならちょうどトーラスも起きてるはずだ」



 ドランは前回と同じように二階へと登る階段へと足を進めた。

 俺もそれに続いて階段へ向かう。

 途中カウンターに戻っていったメイアさんの方を何の気なしに見てみると、微笑みながら手をパタパタと小さく振ってきたので俺はそれに手を軽く上げて見せた。



「何をしてる?」


「いや、別に」



 もう二階まで辿り着いていたドランが不思議そうに俺を見る中、いそいそと階段を登り切り見覚えのある扉の前まで歩いて行く。

 ドランが一度俺の方を『もういいか』と確認するように見てきた。

 俺はそれに無言で頷く。

 それを見てからドランは扉をノックした。



 トン、トン、トン。



『はーい』


「トーラス、俺だ」


『兄さん?』


「この前紹介したイオがお前の見舞いに来てくれた。入っても大丈夫か?」


『えっ、イオさんが!? ど、どうぞっ』



 ノックに答えたトーラスくんは、前回合った時よりも幾らか声に力があるように感じた。

 なぜかちょっと慌てた様子もあったが、とにかく部屋にお邪魔することにする。



「やあ、こんにちはトーラスくん」


「こ、こんにちはっ。今日はボクのお見舞いに来てくれたそうで、わざわざありがとうございます」


「俺もトーラスくんの薬をドラン達と一緒に運んだからね。あの後どうなったのか気になってたし、その確認の意味もあるから気にしないで」



 ベッドの上で状態を起こしたまま、深く頭を下げるトーラスくんに俺はお見舞いの品として持ってきていた、来る途中に買った焼き菓子の詰め合わせを渡す。

 トーラスくんはまさかお見舞いの品までもらえるなんて、と目を大きく見開いてバスケット受け取ってくれた。



「ありがとうございますっ、イオさん」


「すまないな」 


「気にしなくていいよ、二人とも」



 とても喜んでもらえたようでこっちも嬉しい。

 するとドランはバスケットの中身が焼き菓子だとわかると、飲み物を淹れに一度部屋から出て行った。

 必然的に部屋には俺とトーラスくんの二人が残される。



「あの、立ったままじゃ疲れるでしょう。よかったらこの椅子に座って下さい」 



 俺はトーラスくんに勧められ、ベッドの脇にあった木製の丸椅子に座る。

 そしてなかなか座り心地のいい椅子から意識をトーラスくんに戻すと、なんだかチラチラ俺の事を顔色を窺うように見てきたり、布団の中納められている体をモジモジさせていた。

 


 ……もしかしてトイレに行きたいんだろうか?



「あのっ、ボク、今度イオさんに合ったら是非聞きたいと思ってたことがあるんですけど! えっと、今聞いてみてもいいですかっ」



 俺がちょっと失礼なことを考えていると、トーラスくんが意を決したように若干顔を赤らめながらそう聞いてきた。

 もしかしたらそこまで顔見知りではなかった俺に、質問することが恥ずかしかったりして躊躇していただけだったのかもしれないな。

 俺も子供の頃は目上の人に話しかけるのは苦手だったから、なんとなくその気持ちはわからないでもない。



「うん、いいよ。俺の知ってることだったら何でも答えるよ」


「ありがとうございます!」



 ガバッと素早い動きでトーラスくんは頭を下げてお礼を言った。



「イオさんは兄さんたちと一緒にロックベアーを倒したんですよね? ボク、その時のことが聞きたいんです。兄さんが『ロックベアーにトドメを刺したのはイオだ』って言ってたんです。だからイオさんに聞いてみたくて」



 もっと話しを聞いているうちにわかったことだが、トーラスくんは冒険者ギルド(正式名称:クエスト発行所)の依頼を受けて、様々な仕事をこなす人達に憧れに近い印象を持っているようだ。

 現実の方の子供達がサッカー選手や警察官なんかに憧れるみたいな物だろう。

 だがトーラスくんは自分のような病弱な体では、そういった依頼を受けるなんて不可能だと理解していて、そういったこともあってよりいっそう憧れが強まっていったらしい。



「ロックベアーはこの辺りに生息するモンスターの中でも、トップクラスの強敵だって本に書いてありました。いったい皆さんはどんな風に戦ってロックベアーを倒したんですか?」 



 トーラスくんは俺の方に身を乗り出してきた。

 きっと無意識なんだろう。

 俺を見る目はキラキラしていて、羨望の眼差しにも似たその視線は嫌な物ではなかった。



「待たせたな。……ん? どうしたんだ、二人とも」



 飲み物を淹れに行っていたドランも、お盆の上にカップを載せて帰ってきた。

 ちょうどいい。

 あの時の話をするのをドランにも手伝ってもらおう。

 一人よりも体験者は二人いた方がより詳しく話せる筈だ。



「じゃあまずは何から話そうかな」



 それから俺達はお見舞いに持ってきた焼き菓子と、ドランが用意してくれた飲み物を片手に日が暮れるまで話に花を咲かせた。







 ============

 以下、登場人物紹介です。

 ============



【ドランツェ=スカットン】


 男性。NPC。二十歳くらい。ゴリマッチョ。


 VRMMORPG“∞―エンドレス―”の中で、主人公と出会ったNPCの男性。

 周りの人達からは『ドラン』と呼ばれていて、硬派な見た目で男らしい。

 第二の街『ヴァイス』に実家の木材加工業の店があり、街では色々なところに顔が利く。


 父親は亡くなっていて、母親と一緒に力を合わせて店を切り盛りする傍ら、病弱な弟のために少しでも何か出来ないかと奔走している。

 

 家族想いのマッチョ。


 戦闘時は斧を使い、その恵まれた体格を生かしたパワー重視の攻撃スタイル。




【トーラス=スカットン】


 男の子。NPC。十歳くらい。美少年。


 病弱で一日の大半をベッドの上で過ごすことの多かったドランの弟。

 現在はドランが第一の街『フォート』で入手した、病気に効く薬を服用しているため快方に向かっている。


 血の繋がったドランという兄弟がいるが、本当なのかと疑うほどかけ離れた容姿と性格をしている。

 ドランが『剛』ならトーラスは『柔』、ドランが『漢』と書いて男と読むなら、トーラスは『男の娘』と書いて男の子と読む。


 自分があまり動けない体なので、自由に外の世界を旅歩き、モンスターと戦ったりする主人公のような人達に憧れに近い感情を抱いていて、病気が治ったら自分もいつかと密かに考えている。


 薄幸の美少年。

 

  


【メイア=スカットン】


 女性。NPC。見た目は『ギロッ!』……。『うふふ』……永遠ノ、二〇歳デス。底の知れない奥さん。


 ドランとトーラスの母親で、亡くなった夫の分まで二人を愛している。

 下町と言えるような場所に住んでいるが、なぜか高貴な雰囲気を醸し出す。

 おっとりとした口調だが、いつの間にか会話の主導権を握っていることもあり、商売などの交渉では負け知らず。

 

 寝起きが非常に悪いらしく、睡眠の邪魔をすると攻撃されるらしい。

 その様子を知る人達は普段とのギャップのため、その話題が上ると苦笑いを浮かべ詳細は話そうとしない。


 実年齢よりも若い見た目で近所の主婦からはうらやましがられているが、それでも本人はとても年齢を気にしている。

 そのため歳に関する話題はタブーである。

 

 ある意味肝っ玉母さん。






お読み頂きありがとうございます。


トーラスくんお見舞いフラグの回収の意味も込めた話でした。

リックに教わる【薬師】スキル訓練のフラグも、いつになるかわかりませんがちゃんと回収します。


一、二話挟んで装備ゲットのため、依頼クエストの話になる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ