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47.「お前さんへの指名依頼にしておく」

 

 

 

「どっこいしょっと――さて、防具の説明はこのくらいにして、装備をお前さんに渡す前に交渉に移りたいんじゃが、構わんかの?」



 ガルムさんは最初に座っていた椅子まで歩いて行き腰掛ける。

 座る時に『どっこいしょ』と言うのはゲームの中でもポピュラーな掛け声なんだろうか。



「儂も慈善事業で鍛冶屋をやっているわけではないんでの。いくらお前さんがワルターの紹介じゃったといっても、無償で儂の作った作品を渡すつもりはない」



 さっきまで友好的な雰囲気だったガルムさんが、眉間に皺を寄せ目を細めて俺に強い口調で言ってくる。

 俺は無償だなんてとんでもないと、慌てて顔の前で手を横に振りながら答えた。



「もちろんです。これだけの装備をなんの対価もなしにもらうなんて」



 そんな俺の反応と答えを見聞きして、ガルムさんの雰囲気が元の友好的な物へと再び戻った。



「そうか、それならいいんじゃ。本来なら初対面のもんにこいつ等を見せることはおろか、勧めたりすること自体がないんじゃ。じゃからお前さんはその点に関しては優遇しておるでの。それで納得してくれ」


「はい、ありがとうございます」



 俺はガルムさんに向かい合う椅子に腰掛け頭を下げた。



「じゃあ交渉じゃ。今お前さんに見せた【ブルーライトクリスタルアーマー】と【偃月槍】の二つじゃが、合わせて1,800,000(ロン)じゃ」



 予想以上のお値段で思わず俺は『えっ』と、ビックリして声を上げてしまう。

 ガルムさんは俺のその様子を見て悪戯が成功した子供のように、にやりと悪い笑みを浮かべて値段の詳細について説明する。



「まず防具の方じゃが一式合わせて1,550,000Lじゃな。部位ごとに値段を言うと『頭』が50,000L、『腕』が両腕合わせて300,000L、『胴』が500,000L、『腰』が300,000L、『足』が両足合わせて400,000L、占めて1550,000Lじゃ」



 その時イオは知らなかったのだが、今回のこの防具の値段は一般的なNPCの鍛冶屋が取り扱っている物と比べると、約二倍の値段という高額設定だった。

 これはたとえプレイヤーではなくNPCだったとしても、【鍛冶】スキルを持つ職人が製作した一品物で、大量生産品とは使用した素材から性能まで、全てにおいて段違いとなっていたためだ。

 


 ちなみに生産職のプレイヤーが作成した現在最高クラスの防具の防御力は、公になっている物で+100という物がある。

 だがそれは鋼鉄で全身を覆った甲冑で、どこまで防御力が上げられるかとうテストのために作られた物のため、一歩前に歩くだけでも一苦労という一種のネタ装備だった。

 それと比べると防御力は低いが、追加効果のおかげで十分最高クラスといえる性能が【ブルーライトクリスタルアーマー】にはあった。



「そして武器の方が250,000Lじゃ。全部合わせると1800,000Lとなるわけじゃ」



 最後に武器の方。

 今回の【偃月槍】の攻撃力は+18だったが、これは武器全体を見ると中の上から上の下ほどの数値だが、槍の中だけで見ればかなり高い。

 追加効果にスタミナが減ってしまうデメリット効果があるが、攻撃力を求める槍使いプレイヤーからしてみればメリットの方が十分上回る代物だろう。



「ちなみに今言った値段でもかなりおまけしておるぞ。これ以上の値引きは一切せんし受け付けん」



 体の前で腕を組んで胸を張って言い放つガルムさん。

 堂々としたその姿は年齢を感じさせない力強さが溢れていた。



「……じゃが、いきなり1800,000Lもの大金を寄越せと言っても、用意するなんて無理じゃろう――じゃから」



 どうしよう。

 いちおう手元にはフォートの街で手に入れた2000,000Lがあるから、今すぐこの場で一括払いしようと思えばできるんだけど……。

 だけどガルムさんはまだ何か話そうとしてるみたいだし、一度全部聞いてからにしよう。



「じゃからお前さんには儂の手伝いをしてもらう」


「手伝いですか?」


「そうじゃ。もちろんちゃんとクエスト発行所を通して、正式な依頼としてお前さんを指名させてもらう。そして儂の依頼をいくつかこなしてもらった暁には、あれらをお前さんに譲ろうと考えておる」



 そういってガルムさんは顎を使って装備の方を指し示す。



「そう悪くない話だと思うんじゃが。儂は人足を得てお前さんは対価として儂の作った武具を手に入れる。どうじゃ?」


「そうですね……」



 やろうと思えば手持ちのお金で購入することもできるけど、ガルムさんの提案もなかなか捨てがたいと思う。

 なるべく緊急時に備えてお金は取っておきたい。



 そしてなにより、これはゲームだ。

 ゲームならゲームらしく苦労クエストとかは買ってでもしてやろうじゃないか。



「わかりました。その話、お受けします」


「そうかそうか、礼を言うぞ」


「いえ、お礼を言うのは俺の方です。気を遣ってもらってありがとうございます」



 俺は椅子に座ったままだったが、深く頭を下げた。

 頭越しにガルムさんがいいからいいからと言っているのが聞こえる。



「じゃあ今日のところはここまでじゃな。儂はクエスト発行所に出す依頼書の準備をする。そうじゃな……今日中には出すでの、明日になったらクエスト発行所の方に顔を出すんじゃ。お前さんへの指名依頼にしておくから、依頼書が張られている掲示板を見ればすぐわかるじゃろ」


「明日ですね、わかりました。今日はどうもありがとうございました」


「ああ、気をつけて帰るんじゃぞ」


「子供じゃないから大丈夫ですよ」


「儂からしてみればお前さんみたいな若い連中は、みーんな子供じゃわい」



 忘れずに【足軽】装備を回収し、豪快に笑いながら見送るガルムさんに見送られ、一礼してから俺は部屋を出た。

 店の方へとやってくるとカウンターには弟子の男性はおらず、お客さんと思われる人と一緒に剣が何振りも飾られている場所付近で、楽しそうに笑いながら何やら話し込んでいた。



「おや、もう用事は済んだんですか?」



 お客さんが剣を手にして具合を確かめている隙を見て、男性は俺に声をかけてきた。



「ええ、今日のところはこれで失礼します。明日からガルムさんの作ったあの装備を譲ってもらうために、指名依頼をこなすことになりましたよ」


「そうなんですか。おそらくガルムさんの依頼は鍛冶に使う素材の収集だと思いますよ。よく戦闘がこなせる知り合いに頼んだり、クエスト発行所に依頼書を出したりしてますから」


「じゃあ俺の指名依頼もそうかもしれませんね」


「たぶんですけどね。頑張って下さい」



 そこに剣を見ていたお客さんが男性に話しかけてきたため、俺はそこで会話を止め軽く会釈だけして店を後にすることにした。



 外に出てみると来た時よりも人出が多いように感じた。

 きっとお昼時の休憩時間が終わったため、食事やら何やらしていた人達が一斉に活動を開始したのだろう。



「さてと、これからどうしようかな。明日になったらガルムさんの依頼を受ける用事があるけど、今日は特にすることもないよな」



 とりあえず通りのど真ん中に棒立ちしていては、他の通行人の邪魔以外の何者でもないので、行くあてもなくただ人の流れに沿って歩くことにした。

 ただプラプラするのも何なので、ことのついでとばかりにヴァイスの街を観察してみることにする。



「この辺りは現実で言うところの商店街みたいな物なのかな?」



 通りにはフォートの街とは違って屋台などは出てなくて、基本的に二階建ての建物が軒を連ねている。

 建物の一階部分には多種多様の店が入っていて、二階部分には看板も何も出ていないので何なのかよく分からない。

 もしかしたら二階部分は居住スペースになっていて、一階で店を営む人達が住んでいるのかもしれないな。



「鍛冶屋、ポーション専門店、モンスターショップ(現実で言うところのペットショップで、危険性のないモンスターを扱っている)、肉屋、魚屋、八百屋――」



 順番に並んでいた店を羅列してみた。

 最初の方に口にした店はゲームならではだったが、後半はまさに商店街みたいな生活感溢れる店だ。

 そして俺は一つの店に目が引きつけられた。



「焼き菓子の詰め合わせ、か」



 俺が立ち止まって様子を見た店は一件のカフェ?だった。

 疑問系なのはカウンターに並んでいる数人のお客さん達が、みんな立ちながらカップを口に傾けつつケーキのような物をフォークで突いているからだ。

 言うなれば立ち飲み形式のカフェだろう。



「そういえばトーラスくんのお見舞いって、ちゃんとしてはいなかったっけ」 



 焼き菓子の詰め合わせに目を付けトーラスくんのことを思い出したのは、詰め合わせに使われているバスケットが現実でお見舞いの品として送られる、フルーツの盛り合わせに使われているアレと非常に酷似した姿形をしていたからだ。

 現物は流石にビニールみたいに透明な物では包装はされていないようだが、サンプルが店先に飾られていたので中身がどんな物なのかは確認出来た。



「うーん、……よしっ、これ買って今日はお見舞いに行くか。すみませーん。あの、あそこに飾られてた焼き菓子の詰め合わせ下さい」



 トーラスくんの薬を運んだ事もあるし、容体がどうなっているのか気にもなる。

 その確認がてらお見舞いに行くことにして、俺は焼き菓子の詰め合わせを購入することにした。



「――ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」



 店員さんの女性に見送られる俺の片手には、バスケットが一つ握られていた。

 俺は自分の現在位置と、ドランの家であるあの木材加工の店の場所を頭の中に思い浮かべ、ルートを考えながら足を進めた。





お読み頂きありがとうございました。


主人公にはゲームらしく、クエストをこなして装備を手に入れてもらうことにしました。

ですので新装備入手はもう少しお預け。


しばらくはゲームパートが続きます。

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