表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/73

45.「ボケちまったのかと思ったわい」

※誤字修正、加筆しました。5/5 5/7 5/11

 

 

 

「……そうだ、ご主人。ちょっともうひとつ聞きたいことがあるんですけど」



 サンドウィッチを全て胃の中に納めきり、ホットミルクもあともう数口分しか残っていない。

 そんな時にもうひとつ質問を切り出した。



「『ご主人』なんてやめてくれ。鳥肌が立っちまう。俺の事はロジィとか親父って呼んでくれ」


「ではロジィさんと呼ばせてもらいます。それでなんですけど、ロジィさんは『ガルム』という名前の鍛冶屋を知ってますか?」



 俺が聞きたかったもうひとつの質問とは、鍛冶屋ガルムのことだ。

 紹介状があるので一度訪ねてみようと思ってる。



「あぁ、知ってるぞ。ガルムんところの鍛冶屋なら、騎士団の詰所を挟んでウチと真逆の大通りに店を構えてる。外観が真っ黒だから一目見ればわかるはずだ」



 幸いなことにロジィさんは鍛冶屋ガルムのことを知っていて、ガルムというのはどうやら鍛冶職人の名前らしいこともわかった

 大体の場所と目印になる特徴的な外見について聞くことが出来たので、俺は思い立ったが吉日、この後すぐに行ってみることにしようと考えた。



「なんだイオ? 装備でも整えるつもりなのか」


「いや、そこまでは考えてませんけど、その辺りは直接店を覗いてみてからですね」


「そうなのか? だがガルムんところに目を付けたのは良い判断だと思うぞ。アイツはこの街でも指折りの鍛冶職人だからな。まぁ俺とアイツは畑違いだから何がどう凄いのかは知らんが、周りからの評価が高いのは間違いない」



 ロジィさんはいろいろ知っているみたいだが、ガルムさんと直接的な面識はないようだ。

 何度かロジィさんの酒場に足を運んできたことがあり、見たことはあるけど言葉を交わしたことはないんだとか。

 シンディはウエイトレスとして軽く会話をしていたらしい。



「ごちそうさまでした」



 俺はミルクを飲み干すと食後の挨拶をして椅子から腰を上げる。

 すかさずロジィさんが皿とカップを片付けた。



「はいよ。さっそく行ってみるのか?」


「えぇ。行ってみようと思います。そうだ、鍵は預かっててもらえるんでしたっけ。じゃあコレをよろしくお願いします」


「あぁ、預からせてもらう」



 俺は泊まっている部屋の鍵をロジィさんに預け、店を出るため扉へと向かった。

 背後から『気をつけて行ってこい』という見送りの言葉を受けつつ、扉に手をかけ店を後にした。



 まずは騎士団の詰所を目指して歩く。

 一度ドランとリックと一緒に歩いた道だったので、迷うことなく無事辿り着けた。

 そしてそこまでの道中で前回ログインしていた時とヴァイスの街が変わっている点に気が付いた。



 多数のプレイヤーと思われる人達がいたのだ。



 どうやら俺が一週間ほど“∞”にログイン出来ないでいた間に、他のプレイヤー達もフォートの街から進出してきていたみたいだ。

 だけどまだまだその数は少ない。

 フォートからヴァイスにプレイヤーの活動範囲が移るまでには、もう少し時間が掛かるだろう。

 そんなことを考えながら鍛冶屋ガルムを目指し、止まっていた足を前に動かし始めた。



 ――――――。

 ――――。

 ――。





「――ここだな」



 そうこうしているうちに目的地に辿り着いた。

 大通りに店を構えてると言われていたので、とりあえず歩いた先にあった通りに沿って歩いていたら、特徴として教えられていた真っ黒な建物が見えてきて、近づいて見ると『鍛冶屋ガルム』と看板があったので間違いない。



「これ夏とか暑い季節だと、黒色だから熱吸収して大変だろうな」



 そんなどうでもいい心配事を口にしながら、俺は開け放たれていた入口から店の中に入る。

 中に入ってみると壁には沢山の武具が飾られていた。

 長剣、短剣、ナイフ、グレートソード、長槍、短槍、弓、盾、鎧、甲冑………。



 これぞまさに『武器屋(鍛冶屋)』といった内装だった。



「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」



 俺が店の真ん中にあったスペースで立ち止まり、店内をキョロキョロ見渡していたところに、若い男性の声が聞こえてきた。

 声のする方を見てみると、気が付かなかったがカウンターには一人のNPCが椅子に座っていた。

 歳は俺より少し若いくらいだろうか。



「すみません、いきなり声をかけたんで驚かせてしまいましたか?」


「え? あーいや、大丈夫です」


「それはよかったです。随分集中してご覧になっていたので、声をかけるか悩んだんですよ」



 俺はそう言われて少し恥ずかしくなってしまった。

 年甲斐にもなく、子供みたいに目をキラキラさせていたと思うので、そんなところを見られたと思うと頬に熱が宿る。



「あの、ここはガルムさんの鍛冶屋ですよね? あなたがガルムさんですか?」



 見たところ店の中には俺と目の前の男性しかいない。

 この店の店員は男性だけだったので、自然と彼がガルムさんだと思ったのだが、



「いえ、違いますよ。僕はガルムさんの弟子です」



 どうやら俺の考えは間違っていたようだ。



「ガルムさんは今ちょっと店を空けてまして。もうすぐ帰ってくると思うんですけど……っと、噂をしてたら帰ってきたみたいです」



 男性が俺の背後に視線を送ったので、釣られて俺も振り返る。

 そこにはご老人が一人立っていた。



「今帰ったぞー、ん? なんじゃお主は。客かの?」



 このご老人がガルムさんらしい。

 年齢は六十から七十くらいあるかと思われ、身長も低かったが背筋は見事にピンと伸びている。

 肌も健康的に褐色に焼けていて、見た目の歳の割には皺も少なく、髪の毛も白くはなっているがフサフサだ。

 俺の第一印象は、パワフルおじいちゃんだった。

 アロハシャツと麦わら帽子、そしてサングラスをかければ海が似合いそう。



「おかえりなさい。こちらはお客さんで、ガルムさんに用事があるみたいです」


「儂に用事じゃと? お前さんは……はて? 儂とどこかで会ったことがあったかの? すまんが全く思い出せんのじゃ」



 ガルムさんは申し訳なさそうに軽く頭を下げた。



「いえ、ガルムさんとは初対面ですよ。だから思い出せないのも当然です」


「そうかそうか、それならいいんじゃ。もしかして儂の頭がボケちまったのかと思ったわい」



 そう言ってガルムさんは笑った。

 


「まぁ立ち話もなんじゃ。奥に来客用の部屋があるから、そっちで詳しいことは聞こうじゃないか」



 俺はガルムさんに連れられて来客室へと通された。

 弟子だと名乗った男性は、ガルムさんに言われてそのまま店番をしている。



「まずあらためて自己紹介じゃ。儂はガルム。家名の方は舌を噛むような言いにくさなのでな。儂のことはただのガルムと呼んでくれ」


「ご丁寧にどうも。俺はイオって言います。よろしくお願いします」



 ガルムさんがスッと手を差し伸べてきたので、俺はその手を握り返した。

 グッと力を入れると、ガルムさんも力強く握り返してくる。



「さて、それで本題じゃが、今日はどんな用事で訪ねてきたんじゃ?」



 俺はガルムさんにフォートの街で、執事のワルターさんにもらった紹介状を手渡した。



「ふむふむ、なるほどな」



 紹介状を渡されたガルムさんは、内容を読むと時折俺の事をチラチラ見て何かに納得したように頷いていた。

 そして読み終わると丁寧に折りたたんで俺に返す。



「お前さんがワルターの紹介でやってきたのはわかった。ワルターは儂の大切な友人の一人なんじゃ。奴からの紹介なら儂はお前さんに喜んで力を貸そうじゃないか」



 ガルムさんが膝をパンッと叩き小気味よい音を立てる。



「それじゃあまずは今使っておる装備を見せてもらえるかの?」


「あ、はい。ちょっと待って下さい」



 さっそくだがガルムさんは鍛冶屋らしく俺の装備を見てくれるようだ。

 俺はステータスから装備をいったん全て外し、ガルムさんが指示した台の上に並べて見せた。



「じゃあちょっとばかり見せてもらうからの」



 一言断りを入れてからガルムさんは俺の防具から手に取り、いろんな角度からしげしげと鑑定するように見定める。



「……ふむ」



 防具が終わると次に槍を握った。

 こちらは防具よりも短い時間で見定めが終わる。



「見させてもらったがお前さんが持っていた武器も防具も、まぁ悪くはないの。駆け出しの槍使いには使い勝手の良い装備じゃ」


「そうなんですか。もらい物なんであまり詳しくは知らないんですよね」


「この装備は【足軽】というシリーズの物での。『頭』 『腕』 『胴』 『腰』 『足』の五カ所を全て【足軽】で統一すると、追加効果も発生するんじゃ」


「追加効果、ですか?」


「なんじゃ、お前さん、知らんかったのか?」



 今までプレイ開始の時からこの装備を使ってきていたけど、追加効果については初耳だ。

 俺が驚いているとガルムさんは俺にその効果について教えてくれた。



「この【足軽】で統一すると、『重さ軽減』と『槍でのクリティカル発生率アップ』が追加されるんじゃ。じゃが防御面で考えると駆け出しの者向けだけあって少々心許ない。じゃからお前さんには儂がもっといい防具と武器をこさえてやるぞ」


「よろしくお願いします」



 この装備も愛着はあるが、より優れた装備を手に入れる方が重要だ。

 ゲームの中とはいえ死にたくはない。

 弱い装備でも巧みに戦い勝利するなんてのは、もっとゲームが得意な人に任せることにしよう。







 ============

 以下、登場人物紹介です。

 ============



【ガルム=デュッシュリョウ】



 男性。NPC。年齢不明(見た目六十から七十くらい)。鍛冶職人。


 VRMMORPG“∞―エンドレス―”にて、ヴァイスの街で鍛冶屋を営む老人NPC。

 街の中でも指折りの鍛冶職人で、その手で作り出される作品の評価は高い。


 自分の仕事に誇りを持っており、『値引き交渉』をしてくる客は追い返してしまう。

 値引き=作品に提示された値段ほどの価値はない、と言われているも同然だという考えらしい。


 弟子が一人いるが、家族はいない。

 デュッシュリョウという家名が『言いにくい』という理由で好きではなく、自己紹介の時は大抵ガルムとだけ名乗るため、家名は付き合いの長い一部の者しか知っていない。


 パワフルおじいちゃん。





お読み頂きありがとうございます。


【足軽】装備には『破壊不可』という効果が各パーツについています。

これは初回に運営からプレゼントされる装備にのみついている、救済効果でもあります。

今まで主人公が手入れをしていなくても問題無かったのはこの効果のおかげという設定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ