44.「……決めました」
【連絡】
先程誤って既に投稿済みの話を最新話として投稿してしまいました。
あらためて最新話を投稿し直します。
ご迷惑をお掛け致しました。
ゲームパートの始まりです。
※誤字修正5/2
※登場人物紹介を追加しました。5/4
※加筆5/18
久々に“∞―エンドレス―”にログインする。
病気でダウンしてしまった仕事仲間の穴埋めをしたりして、なんだかゲームをプレイする気分になれず、結局最後にゲームをプレイしたのは一週間くらい前だ。
今日は件のダウンしていた人が復帰して、俺の仕事量も減り体力気力共に余裕があったので、最近遊んでいなかった“∞”をプレイすることにした。
もう慣れた手順でVRSを準備して、意識がVRへと切り替わっていく。
――――――。
――――。
――。
「………」
目が覚めるとそこはもうゲームの中だった。
俺は横になっていたベットを軋ませながら床へと足を下ろす。
約一週間ぶりの感覚を確かめるように、両手をグーパーと交互に握っては開くという動作を繰り返した。
「よし、全然違和感はないな」
最初の頃にあったVR独特の体の違和感もない。
体の調子を確認した俺は、次にステータスを開いて所持品や装備の確認をしてみた。
別に何をするでもなくただ何となく開いてみただけだったのだが、頭の片隅に追いやられていて存在を忘れていた物を見つける。
【ワルターの紹介状(鍛冶屋ガルム)】と【ヴァイス優待宿泊券】だ。
「そういえばこんなのあったな。すっかり忘れてた」
【鍛冶屋ガルム(鍛冶屋ガルム)】はフォートの街で、俺がロリコン扱いされて被った被害に対するお詫びとしてもらった物だけど……完全に忘れてた。
せっかくなので一度この『鍛冶屋ガルム』という場所には行ってみようと思う。
【ヴァイス優待宿泊券】も、あれだけ使って見ようと思っていたのに忘れてた。
まあ、あの夜はドンチャン騒ぎで盛り上がっていたから仕方がないか。
あの時は集まってきた人達が、周りの迷惑にならないように気を遣っていたり、声をかけてくるドランの知り合いを捌いたり、無くなったお酒や食べ物の追加注文をしたりと幹事みたいな事をしていたからな……。
「今更だけど一応コレ使えるか聞いてみるか」
俺はステータスから装備欄を開き装備を装着し終えると、所持品から【ヴァイス優待宿泊券】を取り出し、それを片手に部屋から出た。
階段を下りて向かうのは宿のカウンターだ。
「ふふんふん、ふーん。おぉ、起きたのかい」
宿のカウンターは一階の酒場にある。
酒場のカウンターは『L』の字になっていて、短い方が宿の手続きやらをするカウンターになっていて、そのカウンター内には男性が一人いた。
ちょうど真ん中辺りで鼻歌交じりに食器を洗っている。
「おはようございます」
「おう、おはようさん。つってももう昼近くだけどな! がははっ」
カウンターにいた男性は食器を洗いながら豪快に笑う。
おそらくこの男性はこの酒場兼宿屋を切り盛りする一家の旦那さんだろう。
俺を部屋まで案内してくれたシンディが言っていたことを思い出しながら推測してみた。
「あんたウチの娘が担当したお客だったよな? 俺はこの店の店主ロジィ=フィリプスだ。宿の方はウチの嫁の担当だが、酒場は俺がやってる。飯とかも俺の担当だから、腹が減ったり酒が飲みたくなったら遠慮無く言ってくれ」
男性はやはりシンディの父親だった。
「イオと言います。お世話になってます」
俺がそう挨拶すると『お世話するのはウチの仕事だ』と笑っていた。
「それでイオ、少し遅いが昼飯でも食うか? 食うなら少し待ってもらわないといけないが」
「あ、いえ。食事ではなくて違う用事があるんですけど」
「うん? いったいなんだ?」
俺は左手に持っていたそれを店主のフィリプスさんに差し出してみた。
「コレなんですけど。ちょっと見てもらっていいですか」
「どれどれ、貸してみな……ありゃっ! こりゃあ『優待宿泊券』じゃないか。イオ、お前こんなもんもってたのか」
よかった。
どうやら【ヴァイス優待宿泊券】のことを知ってたみたいだ。
俺は顔には出さなかったけど、内心ホッとした。
「実はフィリプスさんの娘さんに宿に泊まりたいと言った時には、恥ずかしながらお酒も入っていてこの券を出し忘れてしまったんです」
俺は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「そうだったのかい……いや、こっちも本来なら確認しないといけなかったんだ。すまないな。優待宿泊券は滅多に持っているやつがいないから気が緩んでたみたいだ」
フィリプスさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
俺はまさか謝られるとは思ってなかったので、慌てて頭を上げてもらうように言う。
「いやそんな、こっちが悪いんです。だから頭を上げて下さいよ」
その後少しの間だ、『すまなかった』 『いやいいですから、頭を上げて下さい』 『そうもいかん』 『いやいや』というやりとりが続いたが、俺がフィリプスさんの謝罪を受け入れる形で終止符を打つ。
謝罪と称していつまでも立ち話も何だからと、俺は酒場側のカウンターに誘われてそこで軽く飲み食いさせてもらうことになった。
フィリプスさんの奢りだ。
「それでこの【ヴァイス優待宿泊券】なんですけど、とりあえずもう一週間分の宿泊代は払ってあるんで、その分が無くなったら継続して泊まるように使っても大丈夫ですか?」
フィリプスさんはミルク?にみえる白い液体を、戸棚から取り出した鍋に入れ温めている。
奥に見える厨房ではなくカウンターの上で、理科の実験で使ったアルコールランプのような物で加熱しているので、作業をしながらも会話が出来た。
「『前払いした分が無くなったら使う』じゃなくても、最初からそれを使ってたことにしていいぞ。お前が払った分も返金しよう。――っと、ほれ、食え」
いつの間に用意していたのか、サンドウィッチのような軽食が俺の前に出された。
俺はそれに手を着けずさらに質問した。
「いいんですか?」
「ああ。何だったらこんな場末の宿じゃなくても、高級宿に移ったって良いんだぞ? まぁその時は一泊分の宿代はもらうがな。この券は高級宿でも問題無く使えるから、大体この手の券を持ってる奴等はそういう宿を利用するんだよ。そんなわけでウチの娘も確認を怠ったんだろうよ」
そう言いながらフィリプスさんはサンドウィッチに続いて、温められていたミルクも俺の前に並べられる。
ほんのり湯気が立つそれからは、何だか懐かしい甘い匂いがしていた。
「悩んでるようならとりあえず食え。冷めないうちにな」
俺がどうしようかと悩んでいる様子を見て、フィリプスさんが食事を勧めてきた。
「いただき、ます」
俺も素直に言われた通り食事に手を着ける。
まずはサンドウィッチから食べてみた。
「――っ!?」
バンズは現実の食パンよりもやや堅め、生地の色も白くなく小麦色で、パン独特のあの香ばしい匂いが強い。
そんなバンズの間に挟まっていたのは、シャキシャキした食感のレタスみたいな野菜に、生ハムみたいな香辛料で味付けされた肉、そしてタルタルソースみたいに白いソースは酸味が効いていて、他の食材の味を際立たせているように感じた。
――何だかなんちゃってグルメリポーターみたいな感想になったけど、ようするにこのサンドウィッチは『すごく美味い!』ということだ。
「……決めました。俺、この宿に泊まり続けようと思います」
ミルクを温めていた道具を片付けていて、こちらに背中を向けていたフィリプスさんに向けて俺はそう言った。
「いいのか? 高級宿はウチ何かより部屋も快適だし、サービスも良いんだぞ」
「ここが良いんです。こんなに美味しい料理が食べられるんですから、他の宿に移るのはこっちから遠慮させてもらいますよ」
現実世界でもここまで美味しい料理を食べたことはほとんど無い。
以前仕事の関係で出席させられたパーティで出席者に振る舞われた、世界的評価を得た料理人が作った料理を食べた時くらいだと思う。
「がははっ! そうかそうか、俺の料理をそこまで褒めてくれるとな。なんだかちょっと照れくさいな」
フィリプスさんは鳥肌でも立ったのか、自分を抱きしめるように腕を摩る。
「そういうことなら、俺も腕を振るって最高の料理を提供しようじゃないか。ウチの宿を選んで正解だったって思ってもらえるようにな」
俺は『よろしくお願いします』と笑いながらおどけるように言った。
「じゃあとりあえず優待宿泊券を使うようにするから、前払いした分は返金しておくぞ。確かめてくれ」
フィリプスさんはカウンターの奥から取っ手の付いた金属製の箱を持ってきて、その中から俺が払った分のLを取り出しカウンターの上に見やすいように広げた。
俺は食べ終えたサンドウィッチの欠片がついた指を、ペロッと一舐めしつつ合っているか確認する。
「……はい、大丈夫でした。合ってます」
俺のその言葉を聞いて、フィリプスさんは再び箱を奥へと仕舞いに行った。
おそらくあの箱は手提げ金庫みたいな物なんだろうと思う。
俺はそんなことを考えながら返金されたLを回収して、残ったサンドウィッチとミルクを片付けることにした。
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以下、登場人物紹介です。
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【ロジィ=フィリプス】
男性。NPC。五十歳くらい。店主。
VRMMORPG“∞―エンドレス―”の中で、ヴァイスの街にて宿屋兼酒場の店を営む一家の大黒柱。
本人は酒場を主に担当し、妻は宿を、娘は両方の手伝いをしている。
料理の腕が立ち、その腕前は高級宿屋のコックにも引けを取らない。
豪快な性格に見えて、これでいて実は誠実な男。
酒場という人の集まる店を経営しているため、情報通でもある。
酒場の一流料理人。
お読み頂きありがとうございます。
作中にサンドウィッチが出てきましたが、最初はおにぎりでした。
次にハンバーガーに変更され、最終的にはサンドウィッチに。
書いていて食べたくなったので、作者の今日のお昼はサンドウィッチに決まりました。




