43.『凄く楽しかったです!』
現実パート今回で終了。
※誤字修正5/1
「はいっ、ではこちらの方々にお話を聞いてみたいと思います! よろしくお願いしまーす」
三階堂アナがさっきまで話していた声のトーンよりも、少し上の高さの声で喋りマイクを俺達に向ける。
そのマイク以外にも頭上には、竿の先についたモップみたいな集音マイクも伸びていた。
「皆さん本日はここにどんな用事でお越しになったんですか?」
「えっと、三人で洋服を見に来ました」
春香が質問に答える。
カメラがズームしレンズ内でピント調整したのが見て取れた。
「なるほど。もしかしてその袋がそうですか?」
三階堂アナが俺の持っている袋に注目する。
「あ、はい、そうですよ」
俺は袋を見やすいように少し持ち上げる。
袋には買い物をしたショップのロゴがプリントされていて、三階堂アナはそのショップに詳しく知っていたようで、様々な話しをして春香が時折『へー』とか相づちを打っていた。
基本的には春香が三階堂アナの質問に答えて、時折セイにも話が振られる。
俺はほとんど置物と化していた。
「お三方はご友人ですか?」
唐突にそんな質問が出てきた。
さっきまでショッピングモールの話題だったのだけど。
「いえ、違いますよ。私とこの子が友達で、こっちは私の兄です」
「ああそうだったんですか。いえ、男性一人と女性二人の組み合わせは珍しいなーと思いまして」
確かに、珍しい組み合わせかもしれないな。
俺達と同じ年頃の人達は同性で固まっていたり、男女同じ人数ずつだったり、カップルだ。
男、女、女の組み合わせと言えば、家族で買い物に来ている人達くらいだと思う。
「兄に車を出してもらったんですよ。もともと私とこの子の二人で来る予定だったんですけどね」
「そうなんですか。優しいお兄さんですね」
三階堂アナが俺の方を見る。
俺はそれと一緒にカメラもこちらを向いたのがわかったので、なんだか恥ずかしくなりぶっきらぼうに『ど、どもです』とだけ答えた。
……しまったな。
今の返事は自分でもどうかと思う。
だがそんな俺の心配は杞憂に終わり、何事もなく女性陣でキャッキャうふふと会話を再開していた。
「―――では最後に、ここで買い物をしてみたご感想をお願いします」
それから十分ちょっとインタビューは続き、最後の質問までやってきた。
まず最初に春香にマイクが向けられる。
「凄く楽しかったです! また来たいですね」
子供っぽい感想を述べる春香。
次にセイにマイクが向く。
「商品の品揃えが充実していて活気もあり、とてもいいと思いました」
模範解答的な感想を述べるセイ。
最後にマイクが俺に向けられた。
「えーっと、このショッピングモールは広いんで案内図とかもっとちゃんとしてもらいたかったです。ジャンルごとにお店の場所が固まっているのは便利だと思います」
俺は素直に今の気持ちを答えた。
ショッピングモールが広いことと案内図の兼は思い当たる人が多いようで、俺達を囲む人垣の中から同意の声や頷いている人の様子が窺える。
「本日はお忙しい中ご協力ありがとうございました」
三階堂アナがそう言って最後を締めた。
「――はいっ、オッケーでーす」
取材クルーの中からそんな声が聞こえると、カメラと集音マイクは下ろされスタッフは集まり機材の点検か何かをし始めた。
だが他のスタッフがそんな作業をしているにもかかわらず、三階堂アナだけが俺達のところに一人残っている。
「今日はどうもありがとうございます。おかげでいい映像がとれましたよ」
質問していた時からまた変わり、俺達に最初に話しかけてきた時のような雰囲気に戻っていた。
「今撮った映像は一週間後の『モーニー!』の中で流れるので、よかったら見て下さいね」
きっと編集などで時間が掛かるのだろう。
俺は番組編集には詳しくないからわからないが、一週間後というのは妥当なのかもしれない。
「それと、これをどうぞ」
三階堂アナが上着のポケットから取り出したのは、三枚の名刺だった。
それぞれ一枚ずつ俺達に手渡してくる。
「たぶん後で佐藤さん、えっとあそこにいる人の事なんだけど、あの人から二人には名刺が渡されると思うんです。何か聞きたいこととかがあったら、遠慮無くその名刺に書いてある私の連絡先まで連絡して下さい」
俺達が何のことだろうと考えているうちに、三階堂アナはスタッフ達の輪の中へと帰って行ってしまった。
とりあえず俺達はもらった名刺を無くさないようにしまいこんだ。
「あのー、ちょっといいかい?」
そしてちょうどそのタイミングでさっき三階堂アナが教えてくれた、『佐藤さん』という男性が声をかけてきた。
さらに三階堂アナが行った通りその男性からも名刺をもらうことになる。
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「よーし、撤収するぞー。忘れ物のないように注意しろー」
今日の取材が終わりを迎え、佐藤さんの号令の元各自がそれぞれ担当の撤収作業を開始し始める。
私はPITを弄っている(おそらく局の方に取材が終わったことの連絡をしている)佐藤さんに声をかけた。
「お疲れ様です、佐藤さん」
「ん? おぉ、お疲れ」
佐藤さんはPITを手早く操作して、連絡を終えると私と話す姿勢を取った。
「今日の取材はどうでしたか」
「んー、まぁ問題無いでしょ。時間内に終われたし、取材も予定よりも使えそうな画が撮れたからね」
そういうと佐藤さんは嬉しそうに笑う。
もうすぐ六十でこの業界でも一目置かれている佐藤さんだが、新人ADや私みたいないちアナウンサーにも、分け隔て無く接してくれる良い人だ。
「そうそう、いい画といえば今日はダイヤの原石を二人も見つけることが出来たからね。いやー、今日は良い日だよ」
佐藤さんの言う『ダイヤの原石』とは、十中八九あの三人組みにいた女の子二人のことだろう。
あの二人を見つけた時は私も驚いた。
アナウンサーという職業柄、芸能人を始めとした世間から美男美女と呼ばれる人達に会うことがあるが、そんな彼ら彼女らにも劣らない二人だったのだから。
「名刺も渡したけど……どうやらあの子達はあんまりこの業界に興味がなかったみたいでね。好感触とは言えなかったな」
佐藤さんは苦笑いを浮かべながら後頭部に手を当て頭を掻く。
この佐藤さんの趣味の一つに、『人材発掘プロデュース』というのがある。
文字通り自分で見つけた人材をスカウトし、自分の手でプロデュースするのだ。
業界で色々なコネクションを持っている佐藤さんは、今までにも少なくない人々をプロデュースさせてきた。
「あの二人は私も最初に見た時は目を疑いましたからね。そんじょそこらのモデル顔負けのビジュアルでしたし」
「そうなんだよ。あー、あの子達ならどんな道ででもトップを目指せるのになー」
佐藤さんは『まぁ、気長に待つよ』と良いながら、スタッフに呼ばれたのでそちらに歩いて行った。
私も一度あの三人が去っていった方を見てから、撤収作業の手伝いをするためにカメラマンの元へと向かった。
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ショッピングモールからの帰り道。
俺は車を運転しながら後部座席の春香とセイの二人と会話をしていた。
「いやー、まさかテレビの取材されるとは思わなかったね」
「そうね。アレには驚いたわ。しかもこんな物までもらったしね」
セイが手にしているのは二枚の名刺だった。
一枚は三階堂アナからもらった物。
もう一枚はあの佐藤さんという男性から去り際に渡された者だ。
「二人はどうするつもりなんだ?」
俺は前を見ながらそう二人に聞いてみた。
「どうするって?」
「いや、あれってスカウトの話だったろ。だからそのことだよ」
大体二人の答えは予想がついているけど、車内での会話のネタが思いつかなかったので一応聞いてみた。
「私は特にこちらから連絡するつもりはありません。今は学校と部活、家の事の方が大事ですから」
「私も~。いつも通りだよ」
春香のいつも通りは『興味がない』ということだ。
今一番興味があるのは今日買った洋服のようで、袋から出して広げているのがバックミラー越しに見える。
「今度出かける時は今日買った服着ていこうね、セイちゃん」
「そうね。それもいいかもしれないわ」
二人は今さっきショッピングモールから出たばかりだというのに、車内で次の出かける計画を立て始めた。
もしまた二人が出かけることになったとしても、今度は俺は遠慮したいと思いながらアクセルを踏み込み車を加速させる。
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以下、登場人物紹介です。
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【佐藤 益夫】(さとう ますお)
男性。ぽっちゃり。五十八歳。既婚者。
芸能界で一目置かれているディレクター。
長年業界で仕事をしてきて、その人柄もあり多くの人から信頼を得ている。
趣味が『人材発掘プロデュース』で、役者、芸人、タレント、歌手、アナウンサーと自分がスカウトした素人を数多くプロデュースしてきた。
年齢が年齢だが体に全く異常がなく、本人の希望もあり特例で定年を迎えても仕事を続けることが決まっている。
役員の話もあったが現場にこだわり辞退した。
名前で呼ばれるのが好きじゃない。
良い人代表お父さん。
VRMMORPG“∞”はプレイしていない。
お読み頂きありがとうございます。
前書きに書きました通り、これで現実パートは終了です。
次話からゲームパートになります。
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