42.『取材にご協力頂けませんか?』
「いや~満足満足。ありがとね、お兄ちゃん」
「ああ、うん。別に良いよ」
女性陣の買い物はようやく終わった。
今はショッピングモール内の飲食店が軒を連ねるフードコーナーの一角へと来ている。
俺の手には春香とセイが買った服を入れた紙袋が握られていて、いわゆる『荷物持ち』をしている最中だ。
「あの、やっぱり悪いですから。私、自分で持ちます」
「いいからいいから。俺から言い出したんだから、気にしなくて良いんだよ」
俺が荷物持ちをしているのは、お願いされたからではなく、自分から二人の荷物を持つと言ったからだ。
こうでもしてないと周りから向けられる、『あの女の子二人に対して、男が釣り合ってなくない?』という視線を回避出来ない。
荷物持ちとして同行しているということなら、周りからの視線も若干和らぐのだ。
「春香、見つかったか?」
俺は春香に聞いてみたけど、帰ってきた返事は『まだ見つからない』とのことだった。
買い物が済んだ俺達は時間も言い頃合いだったので、お昼を食べることにして今ここにいる。
事前に春香とセイはどこで何を食べるのか調べて決めてきたそうなのだが、その店の場所までは調べ忘れてしまったらしく、こうして足で歩いて探しているというわけだ。
「案内板を見ればいいと思ったんだけどな……。まさか、その案内板が見つからないとは」
普通ならエレベーターないしエスカレーターの近くに、そのフロアの案内図が掲示されていると思ったけどそれが見つからなかった。
「ここは出店しているお店の入れ替わりが激しいですから、いちいち案内図を用意していなかったのかもしれませんね」
セイが苦笑いを浮かべて話す。
なんでも友達からのまた疑義だが聞いた話しによると、一週間前にあったパン屋が後日訪れてみると寿司屋になっていたりしたとのこと。
とりあえずジャンルごとに集まってはいるので、こうして地道に探せばいつかは見つかるはずだ。
「ねぇねぇ、もしかしてあれかな」
程なくして春香が目的地らしき店を見つける。
「えっと……うん、間違いないわ。ここね」
セイは店の看板に書かれていた文字を確認してからそう言った。
「でもどうする? かなり並んでるみたいだけど」
そうなのだ。
ようやく辿り着いた店の前には長蛇の列が出来ていて、俺達以外にも沢山の人々が誘導に従って並んでいた。
「あちゃー。これは考えてなかったなぁ」
「そうね。人気店なんだからこういうこともありえるのに、すっかり頭から抜け落ちていたわ」
二人はちょっとがっかりした様子で、今もまた人が追加された列を見て言った。
「ここじゃないとダメなのか? 他にも沢山あるけど」
ここ以外にも列が出来ているところもままあるが、ほとんどの店にはすぐには入れそうだ。
「ここのデザートが美味しいって評判だったから、一度食べてみたかったんだけどねー」
「仕方がないわよ、春香。今回は諦めて違うところへ行きましょう」
二人はここのデザートが食べたかったのか。
そういわれて見れば列に並んでいる人の七、八割は女性客だな。
男性も少しいるけど女性と一者に並んでいるから、きっとカップルとかなんだろう。
「そうだね。時間が勿体ないし違うお店を探そっか」
春香はがっかりした様子から一変して、元気よく歩き出す。
俺とセイはそのうしろを追いかけた。
「――ん? 何だか騒がしいな」
進行方向から騒音ではないが大勢の人がざわめくような喧噪が聞こえてくる。
その音の方を注視してみると、人垣が出来上がっていた。
「あれ何かな。ストリートパフォーマンスでもやってるのかな?」
「そういうのはここでは一度も見たことがないけれど。一体何かしらね」
「とりあえず行ってみるか」
どのみち俺達が向かっていた方向なので、遠巻きに様子を持て見ることにしてみた。
「はい、どうもありがとうございました! ――オッケーですか?」
「オッケーです。あと五、六人にインタビューして終わりにしましょう」
「了解でーす」
人垣の中心からそんな会話が聞こえてくる。
無理にあの場に加わらず、俺達はチラチラ見え隠れする隙間から様子を窺った。
「どうやらテレビの取材のようですね。カメラを持っている人とマイクを持ったレポーターらしき人が見えました」
セイは目を細めて観察していた。
普通の人が同じ事をしていたら目つきが悪そうに見えるだろうが、セイみたいな美人さんがするとそれでも絵になる。
「あっ! あのレポーターの女の人っ、『モーニー!』の三階堂さんじゃない!? うわー、生で見るとさらに美人に見えるなー」
春香が目の上に手を当てて庇のようにして、セイと同じく人垣の向こうを見て言う。
俺も二人に遅れて取材クルーの姿を確認出来た。
そして、確かにカメラを肩に担いでいる人がいて、マイクを持って一般の人にインタビューしている女性は、俺もよく知る朝のニュース番組『モーニー!』のアナウンサーの一人、三階堂アナウンサーだった。
「やっぱりこういうショッピングモールとかって、本当にテレビの取材がくるんだな」
俺はそんな感想を誰に言うでもなく呟いていたら、インタビューを終えた三階堂アナが俺達の方を偶々見た。
そして数秒見つめていたかと思うと、カメラマンに近づき何か耳打ちをする。
するとそのカメラマンも俺達の方を見てから、さらに他のスタッフの人に指示を出したかと思うと、一直線にこちらに歩いてきた。
それに合わせて人垣も移動する。
「あぁ……、嫌な予感がする」
「イオさんもですか。私もです」
「え? なになに?」
もう取材クルーが俺達に標的をロックオンしているのは間違いないな。
だって何人かと目が合うし。
まあ正確に言えば標的は俺達、というより俺と一緒に居る二人なんだろうけど。
今まで春香関連でいろいろあったけど、さすがにテレビの取材は初体験だな。
「すみませーんっ、私達『モーニー!』という朝の番組の者なのですが、今お時間は大丈夫でしょうか? よろしかったら取材にご協力頂けませんか?」
俺とセイがどうしようかと考えて、春香一人だけ蚊帳の外になっている中、そんな俺達に近づいてきた三階堂アナがその顔に笑顔たっぷりで声をかけてきた。
いつの間にか移動してきた人垣も、俺達と取材クルーを中心に囲むように出来上がっている。
一部からは春香とセイを見て感嘆の声を上げている様子も見られた。
「ど、どうしようか、二人とも」
俺は二人に尋ねた。
「う~ん、どうしようかな」
「………」
春香はこれで以外と強心臓の持ち主なので、テレビの取材にも臆することなくそれどころか以外と乗り気に見える。
セイは無言だが、もしかしたら俺と同じで流れに身を任せようとしているのかもしれない。
「もしお時間が無いのでしたら勿論無理にとは言いませんので、お気になさらないで下さい」
三階堂アナはそう言っているけど、俺にはわかる。
あの目は何としても目的を完遂しようとしている人の目だ。
俺の仕事仲間でも似たような目を見せる人がいるからわかるぞ。
「私は別にいいんですけどね」
三階堂アナと直接会話していた春香が、取材を受けても構わないというニュアンスを含んだ答えをする。
「二人もどうせだからやってみない? 取材なんてそうそうお目にかかれないよ」
春香は単に面白そうだからとかそんな理由でオーケーしたのだろう。
既に乗り気になった春香と取材クルー、さらに周りの人々からも見られる中、俺とセイは顔を見合わせた。
「春香はやる気みたいですね」
「そうだね。ああなったらなかなか諦めてくれないんだよな、あいつ」
「そうなんですよね」
どうやらセイもあの状態の春香に振り回された経験があるようだ。
「……わかったよ。いいよ」
俺は春香にそう言った。
「ありがとうございます! それでは準備しますので少々お時間を頂きます」
春香に対していったのだけど、その言葉にいち早く反応を見せたのは三階堂アナだった。
カメラマンの人やそれ以外のスタッフと打ち合わせでもしているのか、身振り手振りを加えながら話をして準備を済ませるとマイク片手に喋り始める。
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以下、登場人物紹介です。
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【三階堂 美波】(みかいどう みなみ)
女性。スレンダー。二十九歳。独身。
朝の情報番組『モーニー!』の看板アナウンサー。
三階堂という名字の印象が強いため、名前を以外と覚えられていなかったりする。
テレビ局の海外支部にいたことがあるので、流暢な英語が話せるほか、アナウンサー、お天気お姉さん(気象予報士)、占いコーナーの占い(企画)を担当したりと、オールマイティーな能力を見せる。
仕事が楽しくて今のところ恋愛に全く興味が無いため、男性からアプローチされてもまったく気にも留めない。
もうすぐ三十になる彼女が独り身なのに対して本人より周りの人、特に両親二人の方が心配している。
ゆるふわ年上お姉さん。
VRMMORPG“∞―エンドレス―”をプレイしているかどうかは不明。
お読み頂きありがとうございます。
あと一、二話で現実パート終了予定。
その後ゲームパートに戻ります。
本文の中でテレビの取材の話がありましたが、作者はテレビに出たことがあります。
NHKの「おかあさんといっしょ」に。
記憶は全く残ってませんが、着ぐるみ達や体操のお兄さんと撮った記念写真がアルバムに挟まってます。




