41.『白いやつが良いんじゃないかな』
今日は金曜日。
本当なら平日最後の日だけど祝日ということで、一部を除いてみんなが学校や仕事が休みの日だ。
俺も例に違わず仕事はお休み。
自分で立てた予定では一人でドライブとしゃれ込む………はずだった。
「セイちゃん今日は買う予定ある?」
「まずは現物を見てからかしら。良さそうな物があったら買うかもしれないわね」
「そっか~」
俺の運転する車には、俺以外に二人の人影が乗り込んでいた。
バックミラー越しに後部座席に目をやると、妹の春香とその友達の望月誠の姿が目に入る。
望月さんは“∞”の中で知り合って、春香と一緒に三人でPTを組んだこともあるセイの中の人だ。
以前雨の日に学校まで春香を車で迎えに行った際、ついでに乗せて家まで送り届けた時に同一人物だと知った。
そして『望月さん』と呼ぼうとしたら『セイ』で構わないといわれたので、現実でもゲームと同じように彼女のことはセイと呼ぶことにした。
なんでも春香が付けたあだ名だそうで、仲の良い人からはそう呼ばれているらしい。
その流れから俺のこともイオさんと呼ぶことになった。
流石に現実では“さん”付けだ。
「あ、お兄ちゃん。あそこあそこ、あのショッピングモールね」
目的地に近づいてきた。
今日やってきたのは車で一時間くらいかかるところにある、オープンして半年ほど経った大型複合ショッピングモールだ。
なんだか舌を噛みそうな名前があったと思うけど、よく覚えていない。
「ん~……、やっぱり出入り口近くの駐車場は空いてないな。ちょっと遠くてもいいか?」
俺はハンドルを切ってショッピングモールの駐車場へと車を滑り込ませる。
徐行しながら駐車スペースを探すが、やはり祝日ということもありなかなか見つけられなかった。
なので俺が入口から遠い場所でもいいかと二人に聞いてみると、二人とも構わないとのことだったので少し離れた場所にある駐車スペースへと車を向けた。
ブウゥゥン――キイィッ。
「とうちゃ~く」
バックで車を駐めて車から降りる。
続いて春香とセイが降りる。
「じゃあ俺はその辺をプラプラしておくから、二人の用事が終わったらPITに連絡くれ」
俺はそう言ってその場を後にしようとしたのだが、二人はそんな俺の事をキョトンとした顔で見ていた。
「お兄ちゃん一緒にこないの?」
「え? いやだって、俺が一緒だったら二人の邪魔になるだろ」
「え~、そんなことないよ~。一緒に見て回ろうよ、ねぇセイちゃん。別に一緒してもいいよね?」
俺の上着の袖を掴んで揺さぶる春香。
セイはそんな春香に聞かれて、悩むことなく即答する。
「私もイオさんは一緒に来るものだと思っていましたので、遠慮なんかいりませんよ」
こうして俺は退路を塞がれた。
本当は遠慮なんかじゃなくて行きたくなかったんだけどな……。
「じゃあ三人で行こっか!」
春香がセイと俺の間に立って、腕を絡めるように組んでくる。
俺達は横並びで真ん中の春香に引っ張られる形で、ショッピングモールの中へと入っていった。
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「コレなんかどう? セイちゃんの好みに合ってない?」
「どれ? ――うん、まぁまぁ良いわね」
「でしょ~。似合うと思うよ」
「ありがとう。春香にはコレなんかどうかしら」
「うわ~! すっごくいいねっ」
ショッピングモールに入って真っ先に向かったのは、エスカレータで登った先にある女性服のショップだった。
このフロアは服飾系のショップが集められていて、今いるのはその中でも若者向けで一番人気かつ一番広いショップだ。
「お兄ちゃんこっちとこっち、どっちがいいかな?」
春香が両手で二着の服を持ち、体の前で交互に合わせて見せてくる。
俺から見て右が白のノースリーブシャツで、黒の細いネクタイがアクセントになっているボーイッシュ系。
左が白黒ボーダーのUネックTシャツで、肩から鎖骨、下手したら胸元まで大きく広がっているようなデザインの物だった。
「あー、右の、春香から見たら左の白いやつが良いんじゃないかな」
兄としてはあまりあからさまな露出を促すようなことは言えない。
Tシャツよりはノースリーブの方が露出が少ないから、消去法で俺は右の方を選んだ。
「ふむ、お兄ちゃんはこっちの方が好みなのか」
好みとかではない。
選択肢がそれしかなかっただけだ。
「えっと、次は」
春香はすでに次のターゲット(大げさが言い方だが、ようは服)を探し始めていた。
もうかれこれ一時間半は物色している。
さっきみたな『どっちが似合う?』という質問も、もう何度目だっただろう。
やっぱり女性の買い物は長いんだな。
ザワザワザワ―――。
――それにしても、やっぱり予想通り周りから向けられる視線が突き刺さるな……。
俺達のことを見てヒソヒソと内緒話している人も見受けられる。
「じゃあちょっと試着してきてみるね。セイちゃんも行く?」
「ええ、そうね。ちょうど良さそうな物が見つかったから」
春香とセイは俺に待つように言ってから、試着室が設けられているスペースへと仲良く二人で歩いて行った。
『あの人何? 男なのに女の子向けのショップに一人で立って』
『さっきまで女の子が一緒に居たのよ』
本人達は俺に聞こえないように言ってるつもりなのだろうが、距離が近かったので丸聞こえだった。
『もしかしてさっき試着室の方に行った二人?』
『そうなのよ。ちょっとあの男の人には釣り合わないと思わない?』
俺がショッピングモールに入る前に渋ったのは、まさにそれが理由だった。
身内びいきではなく、春香とセイはかなり整った容姿とプロポーションをしている。
二人にその気があるのなら、芸能界デビューなんか出来るレベルだと思う。
そんな二人と一緒に居る男が、俺みたいな奴だったらさぞかし周りから見たら不釣り合いなことだろうな。
「はぁ~……まぁ、いいけどね」
別に今みたいに影から(さっきのはバレバレだったけど)コソコソされるくらいならいい。
もう慣れた。
いや、今でも嫌ではあるけど諦めたと言ったところか。
一番最悪なのはそれを理由に絡んでこられることだ。
今までにそういった輩に因縁、ないしちょっかいを出されたことは少なくない。
あとは強引なスカウトとか。
「――お待たせ~……んん? どうかしたのお兄ちゃん」
「少しお待たせしすぎてしまいましたか。すみませんでした」
俺が所在なさ気に柱に背中からもたれ掛かっていると、試着室から二人が戻ってきた。
するとまたさらに俺達のことを注目する視線が増える。
「いや、何でもないよ。それでどうだった、その服?」
二人は俺と違って目立つので、日頃から他人の視線に晒されているのだろう。
今も結構な人数から注目されているはずなんだけど、全く意に介しておらず慣れてしまっているようだ。
俺は一人精神的にも肉体的にも疲れながら、まだまだ続く二人の買い物に付き合わされることとなった。
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以下、登場人物紹介です。
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【望月 誠】(もちづき まこと)
女性。ボンキュッボン。高校二年生。春香の友人。
ゲーム内のアバターネームは『セイ』。
主人公の妹、伊織坂春香の同級生にして一番の友達。
高校では女子剣道部の部長をしていて、仲の良い友達からは名前の“誠”の読み方を変えた“セイ”と呼ばれている。
元々ゲームは全くやらなかったが、春香に誘われて“∞”を始めた。
その辺りはゲーム初心者の主人公と境遇が似ている。
春香と同じく容姿が整っているため、スカウトやナンパの苦労を分かち合える数少ない存在。
黒髪ポニーテール。
ゲーム内では弓を使った遠距離攻撃をメインとした戦闘スタイル。
お読み頂きありがとうございます。
今回の『ショッピングモール』での一件が終わったら、ゲームパートになります。
あと1、2話を予定してます。




