40.『お兄ちゃんばっかりずるいよー!』
現実パート開始です。
そして最後に登場人物紹介を追加で書いてみました。
また、この40話の一時間前に39話も投稿しておりますので、話数にご注意下さい。
※加筆4/26
※誤字修正6/25
「お兄ちゃん。今度街まで車で送ってくれない?」
仕事から帰って春香が作った夕食を食べている最中。
春香がそう話を切り出してきた。
俺は口の中にまだ夕飯が残っていたので、よく噛み飲み込んでから聞き返す。
「――ん。今度っていつだよ?」
「えっとねー」
春香が口にしたのは今週の金曜日にある祝日の日だった。
金曜、土曜、日曜と続く三連休の嬉しい週末だ。
「あー、その日か。その日は俺も仕事の予定入ってないから、一人で出かけようと思ってたんだけど」
俺の用事とは詰まるところドライブだ。
ああいった車はエンジンをかけて走ってやらないと、調子が悪くなっちゃうからな。
最近放置気味になってたから、そろそろ構ってやらないと。
「へーそんなこと言っちゃうんだ。ほーほー」
「な、なんだよ?」
俺が都合が悪いと暗に伝えようとしていたら、春香が口元に笑みを浮かべる。
ニタニタとした、年頃の女の子がしちゃいけないような顔だ。
「じゃあ私この間お兄ちゃんにもらった、『いうこと聞かせる権利』を使う!」
春香の言った『いうこと聞かせる権利』とは、機嫌が悪かった春香の機嫌を戻すために俺が言ったことだ。
遡ること、VRMMORPG“∞―エンドレス―”にて、俺が第二の街『ヴァイス』に辿り着いてログアウトした後のこと。
………………。
…………。
……。
俺はゲームをログアウトした後、リビングでテレビを見ていた春香に倣って、ソファに座って一緒にテレビの画面を見つめる。
ソファの前にあるローテ―ブルには春香が用意したと思われる、スナック菓子やジュースの類が置かれていて食べていいかと聞いたら、『いいよー』と生返事だが許可をもらったのでお菓子と飲み物に手を出した。
「――ふぅ」
「――はぁ」
テレビの中では番組がいいところでコマーシャルに切り替わった。
俺と春香は意図せず同じタイミングで息を吐き、手つかずだったお菓子に手を伸ばす。
「そういえばお兄ちゃん、さっきまで“∞”やってたんでしょ? 最近ゲームの中で会ってなかったけど、今どんな感じなの?」
春香が手に付いたお菓子のカスを、舌を出してペロッと舐め取りながら聞いてきた。
「うん? まあ、ぼちぼちだな」
一度コップに注いでおいたジュースを飲んで、口の渇きを潤してから続きを話す。
「一応クエストが出たからそれを達成はしたよ」
「へえ~。どんなクエスト?」
春香もジュースを飲んだ。
「『第二の街ヴァイスに辿り着け』ってクエストだよ。NPCとPT組んで何とかヴァイスに着けた」
「んっぐぅ!? ケホケホッ!」
突然春香がダンッ!と勢いよくコップをテーブルに叩きつけたかと思うと、『ケホケホッ!』と何度も咳き込んで目にうっすらと涙を浮かべた。
「大丈夫か? 変なところにジュースでも入っちゃったか」
心配する俺だが春香はちょっと待ってとでもするように、バッと掌を向けてきたので大人しく春香が落ち着くまで待つことにする。
「ケホ、――んんっ!」
部屋に備え付けられていたティッシュを何枚か抜き取ったりして、春香はようやく咳が止まった。
ちょっとテーブルに飛んでしまった水滴は、俺が用意しておいた布巾を渡して拭い取る。
全部終わると咳払いして、佇まいを正しソファに深く腰掛けた。
「お兄ちゃん。聞きたいことがあります。正直に隠し事なく正確に! 答えてちょうだい!」
「お、おう」
春香の得体の知れない迫力に、俺は感覚的に体を押されたながら訳もわからず返事した。
「まず、お兄ちゃん今『次の街に行った』って言ってたけど、それって本当?」
「嘘は言ってないぞ。ヴァイスって言う街で、クエストもちゃんと達成出来たんだから」
俺が答えると春香は小さな声でボソボソと独り言を呟く。
小さすぎる声だったので、独り言の内容までは聞き取れなかった。
「……そのクエストってどんなだったの? どうやって発生してのかわかる?」
「えっと、クエストの説明には単純に『ヴァイスに辿り着け』ってだけ書いてあった。発生したのは知り合いになったNPCからアイテムとかいろいろもらったら、突然ウィンドウが出てきたな」
今度もまた春香は独り言を呟く。
だけど少しだけ今度は俺にも聞こえてきて、『そうか、NPCの友好度が』とかなんとか言ってたと思う。
「じゃあ最後に、『NPCとPT』って組めるの?」
「? 組めないのか? 俺はヴァイスに向かおうとしたら、あっちの方から『一緒に連れて行ってくれ』って言われたからいいよって答えたんだ。そしたらなんか勝手にPTを組んだことになってて――春香?」
春香の様子がおかしかった。
いきなりガクッと顔を俯かせたかと思うと、肩をプルプル振るわせている。
「おい、何だ、どうしたんだよ?」
俺は春香が泣いてしまったのかと思ってオロオロした。
泣いてしまったとして、その原因もわからなかったので尚更どうしたらいいのかわからず右往左往する。
「……い」
「え?」
「お……り、……るい」
春香が何か言っているけどよく聞こえない。
俺はソファから中腰で立ち上がって、耳を春香の方に向けて近づけた。
「なんだ、よく聞こえないんだけど」
あらためて聞き直そうとした時、春香が突然勢いよく立ち上がった。
「お兄ちゃんばっかりずるいよー!」
「ぐわっ!?」
春香は俺が狡いと言って駄々っ子パンチを繰り出してきた。
俺はと言うと駄々っ子パンチを止めてもらいたいところだが、その前の大声を耳元で言われたので耳がキーンとしてそれどころじゃなかった。
「何でゲーム初心者のお兄ちゃんがベータ版で遊んでた私よりも先に進んじゃってるのー! まだ最前線組みだってフォートの街周辺にいるのにー! わかるっ!? 早く先に進みたいのに『まずは地盤を固めましょう』ってPT組んでるフレンド達から止められてる私の気持ちがー! もう資金集めとか疲れたよー! 男子禁制ギルドを作るために女の子に声を掛けまくるのももう面倒くさいんだよー! ゲームの中でまでナンパなんかしてこないでよバカーーー!」
どうやらゲームの中でいろいろ苦労していたみたいだ。
俺はゲーマーな春香の性格を知っているから、きっと早く攻略したいんだろうな。
最後のは……まあ、現実と同じ容姿に設定したお前が悪いと思うぞ。
そんな時に俺が先に進んでるって聞かされて、今まで溜まってたストレスが爆発しちゃったのか?
「いてっいて、いててて!」
だんだんと春香のパンチの力が上がってきてる気がする。
『うわーーー』とか言いながら腕をギュンギュン回転させていた。
「ご、ごめんっ! ごめんってばっ」
俺は悪くないのは明白だが、咄嗟に謝ってしまった。
「そうだっ、今度春香の言うこと出来る範囲で聞いてやるから! なっ!? それで勘弁してくれよっ」
ピタッ―――。
「……ホントに?」
「本当本当。ただし、俺の出来ないことはダメだからな」
――――――。
――――。
――。
「あの時のか……。でも俺、アレはゲームの中でってつもりで言ったんだけど」
「え~。聞いてなかったからそれは無効でっ」
春香は実にいい笑顔で俺の話を速攻で却下した。
「じゃあ今度の金曜日よろしくね~」
それ以上の反論も許さず、春香は手を軽く上げて自分の部屋へと戻っていってしまった。
「はあ~。仕方ないか」
ポジティブに考えよう。
どのみち車で出かけるんだから、当初の予定のドライブ(車の運転という意味で)に変わりは無いじゃないか。
そう考えることにして、俺は金曜日の予定を頭の中で組み立てようとし、春香にちゃんとした目的地の詳細を聞いていなかったことに気付いて、部屋まで戻った春香に聞きに行くのだった。
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以下、登場人物の紹介です。
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【伊織坂 京谷】(いおりざか きょうや)
男性。中肉中背。二十四歳。主人公。
ゲーム内のアバターネームは本名の“伊織坂”から取って『イオ』。
妹の春香と一緒にVRMMORPG“∞―エンドレス―”をプレイし始めた。
ゲームは元々あまりやらない方でゲーム初心者。
趣味は車で、運転は勿論メンテナンスまで何でもござれ。
自他共に認める天然パーマで目元まで伸びたその髪型は、『モジャモジャ』 『海藻』とよく言われる。
無自覚のシスコン。
ゲーム内では槍を使った近中距離攻撃をメインとした戦闘スタイル。
【伊織坂 春香】(いおりざか はるか)
女性。スタイル抜群。高校二年生。主人公の妹。
ゲーム内のアバターネームは『シャロン』。
ゲーム好きのゲーマーで“∞”もベータ版に応募してプレイしていたほど。
ベータ版ではなかなかに有名プレイヤーだったらしく、正式スタート後は『女性限定』 『男子禁制』のギルドをフレンドと一緒に立ち上げるべく活動している。
かなり整った容姿をしているため、街を歩けばスカウトやナンパのターゲットになったりする。
だが本人は今のところそういったことに興味がなく、全て断っている。
若干ブラコン気味。
ゲーム内では魔法を使った遠距離攻撃をメインとした戦闘スタイル。
お読み頂きありがとうございます^^
現実パートは数話を予定しています。
それと以前ちらっと予告?していた『登場人物紹介』を書いてみました。
どうでしょうかね?
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