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39.「今日のオススメはなんだ?」

お気に入り登録者数が300を超えました!

誠にありがとうございます^^


※加筆5/18

 

 

 

「よしっ、じゃあ何か食べに行かないか? 少し食べたら本格的にお腹が空いて来ちゃったよ」



 俺はお腹を服の上から撫で摩る。

 このゲームでは味覚はあるけど空腹という感覚は、まったく感じないようになっているので、本当は『お腹が空いた』なんてプレイヤーである俺が言うわけがない。

  


 今のこの雰囲気を変えるために、とりあえず考えて偶々思いついたのが、どこかに食べに行くっていうアイディアだっただけだ。

 


「二人はどこか美味い料理を出す店知らないか? あんまり高くないなら、俺が奢ってもいいぞ」



 そう二人に言ったのだが、奢らなくていいとやんわりと断られてしまった。



「イオに奢ってもらうほど僕たちお金に困ってなんかいないよ」


「ああ。それに、俺達が知ってる美味い店はどこも『早い、安い、美味い』の、三拍子が揃ってる店だからな。金の心配はするだけ無駄だ」



 リックはプリプリ怒って、ドランはフッと鼻で笑う。

 ずっと思っていたけど、リックって年齢に似合わず子供っぽい仕草と反応を見せるな。

 別にわざとやってる風でもないから、これが素のリックなんだろうけど。



「じゃあ案内頼むよ」


「了解だ。俺達の知る中で、三拍子が揃った一番の店を紹介してやる」 



 ドランは笑って見せながら自分の胸を軽く叩く。

 俺は見る人が見たら若干怖く見える、ドランの薄ら笑いに頼むよと答えて後に続く形で歩き出した。



 しかし……『早い、安い、美味い』の三拍子って……。

 ゲームの中の世界でもそれはやっぱり重要なのか。

 いや、ゲームを作ったのが日本人だったからなのかもしれないな。





 道中一度だけ、ドランとリックがどの店にするかで口論になった。

 リックは『あっさりヘルシー野菜系』を()す店、ドランは『がっつりボリューム肉系』を推す店。

 最終的には俺が決めることになり、俺自身は野菜よりも肉が好きなので今回はドランのオススメする店に行くことになった。



「……僕のオススメのお店だって、美味しいんだから」



 いじけてしまったリックに、今度リックのオススメする店に連れて行ってもらう約束をして、どうにか機嫌を直してもらうことに成功した。

 そんな話をしていたら、リックはドランにもその話をし始めたので、食べに行くのはまたこの三人一緒になりそうだ。



 ―――――――。

 ―――――。

 ―――。





「この店だ。ここは一階が酒場になっていて二階が宿になってる。同じ経営者が営んでいて、俺達の知り合いでもあるんだ」



 到着したのはヴァイスの街を紹介してもらった際に、宿がある辺りと教えてもらった辺りにあった、酒場兼宿屋の店だった。

 いや、宿兼酒場なのかもしれない。

 一階の酒場は倉庫なんかもあるようで、二階の宿屋部分よりもスペースが狭いみたいだ。



 キュィーー。



「いらっしゃいませー!」



 年季の入った扉を開いて酒場に入ると、元気のいいウエイトレスさんに迎え入れられた。

 春香と同じくらいの年齢に見え、赤毛のツインテールが妙に似合ってるの可愛い女の子だ。

 手に食器を何枚も重ねてバランスよく持って、カウンターとお客さんが座っているテーブルを行き来している。

 


「あっ! ドランさんにリックさんじゃないですか。ちょっと待ってて下さいねー」



 どうやらこの店の経営者と同じように、女の子も二人の知り合いだったようだ。



「お待たせしましたー。こちらにどうぞー。……あら? そちらのお兄さんは初めて見る人ですね」



 女の子は手早くひとつのテーブルの上にあった物を片付け、最後に布巾で綺麗にテーブルを磨いた。

 俺達はそのテーブルに案内されたのだが、俺の存在に気が付くと興味津々に頭の上から足の先まで見てくる。



「ああ、どうも。イオって言います。よろしく」



 俺はその視線をあえて無視して自己紹介した。



「どうもはじめまして、あたしはシンディ=フィリプスです。あたしのことはシンディって呼び捨てにして下さい。フィリプスの方だと呼ばれ慣れたいないんで。この酒場と上の階の宿屋を経営してるお父さんの娘です。よろしくお願いしますね、イオさん」



 シンディはハキハキと話すので、こちらも気持ちよく話すことが出来る。

 まさに接客業に向いた性格なんじゃないかと思う。



「早速だが注文を頼む」



 ドランは席に着くなり注文を頼んだ。

 俺はメニュー表も何もなかったので、いったいどんな料理があるのかわからずドランに一任することにした。



「今日のオススメはなんだ?」


「肉で、ですよね? だったら今日のオススメはキラーラビットですね。ハンターさんが今日は大量だって言って、肉屋に大量に肉を売ったんで沢山仕入れられました」



 ドランが聞くとマニュアルでもあったかのように、咄嗟の質問にもスラスラと答えるシンディ。

 もしかしたらこのやりとりは、いつものことなのかもしれないな。



「ほお? よくキラーラビットを仕留められたもんだ。あいつらは警戒心が強いから、なかなか多く狩るのは難しい筈なんだがな」


「私も気になって仕入れの時、肉屋の人に聞いてみたら、なんでも『別のことに集中していたみたいで、まったくこちらに気付く様子がなかった』そうですよ」



 シンディは両手を頭の上に持っていき、幼稚園児がやるお遊戯のようにその手を兎の耳に見立てて、ピョコピョコと周囲の音を探るような仕草をする。

 


「なにやってんだシンディよー?」


「ん? それは何の儀式だ」


「って、そこにいるのドランじゃねぇか! 帰ってきてたのか」


「シンディ……お前、自分の歳を考えろよ歳を」


「―――可愛い」



 そんな様子を酒場にいた他のお客に見られて、シンディは頬を赤らめて『料理が出来るまで少々お待ち下さい!』と目にも止まらぬ速さで、厨房と思われる奥へと一目散に姿を消した。

 


「……僕たち、まだ何も注文してない……よね?」



 リック、そこはスルーしておいてあげよう。

 今更シンディも注文し直しに来るのもバツが悪すぎる。

 まあドランがオススメを聞いていたから、キラーラビットってやつの肉料理が出てくるはずだ。



「ドランいつ帰ってきてたんだ? それにリックは知ってるが、そっちの海藻みたいな頭した兄ちゃんは誰だよ」



 お客の中にいたドランの知り合いと思われる男性が、若干お酒の匂いをただ酔わせながら、笑顔で俺達のテーブルに近づいて来る。

 その男性に自己紹介したりして会話を楽しんでいたら、ポツポツと酒場にお客が増え始めてきた。

 するとその中にさらにドランの知り合いがいて、口々に『おかえり』と言ってくる。



 薄々感づいてはいたけれど、ドランって顔が広いよな。



 キュィーー。



「ちわーっす。あー今日も疲れたぜ―――ん?」



 酒場の扉が音を立てながら開いて、新規のお客さんが入って来た。

 そしてその男性は騒がしい酒場の中で、俺達がいる場所を見て、素通りしたあとまた視線を戻し二度見する。



「やっぱりドランだったかっ、なんだ、トーラスの薬は手に入ったのかよ」



 そのまま男性は俺達のテーブルに合流してくる。



 ガヤガヤ、ガヤ―――。



 こんなことが何度かあり、今俺達が着いているテーブルでは賄いきれないほど人が集まってきた。

 しかたがないので、頬の赤らみが取れ落ち着きを取り戻したシンディが、数々の肉料理(ステーキ、唐揚げ、シチュー)とお酒(さっきのお詫びとシンディの奢り)を運んできたタイミングで、もっと大人数が着けるテーブルに移動してどんちゃん騒ぎになった。



 あ、やっぱり料理はキラーラビットの肉を使った物だった。



「こいつはイオだ。俺の仲間だから、よろしくしてやってくれ」



 ドランが一言そういうと、集まった人々の俺に対するどこか余所々々しい態度もなくなり、背中をバシバシ叩いてきたり肩を組んできたりしてきた。

 現実の方ではあんまりこんな風に騒いだりしたことがないので、なかなか新鮮な気分だ。



「お前さんヴァイスは来たばっかなんだろ? だったらここの上の宿に泊まれよ。ドランの知り合いってんならサービスしてもらえると思うぜ。それになにより―――気軽にこうして一緒に飲めるからな!」



 話の中で俺が泊まる場所がないという事を言ったら、一人の男性がこの酒場の上の宿に泊まればと勧めてくる。

 それを聞いていた他の人も、それがいいそうしろそうしろと勧めてくるので、俺はこの宿に泊まることに決めた。



 その後も料理がなくなったら誰かがすかさず追加を注文し、お酒がなくなったらどこからともなくビンごと調達してきて、急遽始まった飲み会は続く。

 だが徐々に時間も遅くなってくると、一人、また一人と酒場を後にしていき、最後には俺、ドラン、リックの三人だけが残った。



「……さて、それじゃあ俺達も帰ることにする。リックも運ばないといけないしな」



 そういうドランの伸ばす手の先には、酔いつぶれてテーブルに突っ伏して眠るリックの姿があった。



「も、もう……飲めな、い。……お、腹……い、ぱい」



 ある意味お約束な寝言を言っているリックに苦笑いする。

 リックはいろんな人から飲めや食えやと勧められると、断らないで全部飲み食いしていたからな。

 そんなところに少し共感を覚えた。



 ちなみに俺も結構な量のお酒を飲んだけど、別に気持ち悪くなったり酔うことはなかった。

 そもそもお酒自体にアルコールを感じなくて、果汁一〇〇パーセントのジュースみたいな味。

 このゲームは未成年もプレイしているので、その辺りに配慮してこうなったのかもしれないな。



「じゃあまたな。何かあったら遠慮なく連絡してくれ。こっちもそうする」


「わかった。じゃあリックを頼むな」


「いつものことだ。コイツは酒に弱いからな」



 いやいや。

 ドランは俗に言うザルだから、普通なリックと比べちゃダメだろ。

 俺よりも飲んでいたはずなのに、ドランは足下をふらつかせる様子もなく、少しだけ頬が火照っているかな?くらいの変化しかない。



「それじゃあ、おやすみ」



 ドランはリックを背負いながら、背中越しに手をヒラヒラさせて酒場を後にする。

 俺は飲み会に参加した人達がそれぞれ置いていったお金を、最後に代表してシンディに支払う。



「あとここの宿に泊まりたいんだけど」


「ええ、大丈夫ですよ。何泊にします?」


「えーっと、とりあえず一週間で」



 宿に泊まることを伝え一週間分の宿泊代を先払いし、建物の二階にある空き部屋に案内してもらった。

 なんでも基本敵に酒場はシンディの父親、宿の方は母親が担当しているらしいが、シンディはこの酒場だけでなく宿の方の従業員もこなしているらしい。

 


「それじゃあコレが鍵ね。出かける時は私か両親に預けてくれればいいから」



 鍵を俺がちゃんと受け取ったのを確認すると、シンディは仕事に戻っていった。

 まだ酒場にはお客が残っていたので、その為だろうと予想しながら俺は部屋に入り、装備を収納し普通の服に着替え終わるとそのままベットに入り込んだ。

 こんな時、風呂やシャワーの必要がないゲームは便利だと思う。



 枕の位置を調節して、布団を自分の体に掛けてそのまま目を閉じる。

 そして俺はゲームから無事ログアウトすることが出来た。





お読み頂きありがとうございます。


ゲームパートはこれでいったん終わりです。

次話から現実パートに入り、暫くしたらまたゲームパートに戻ります。


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