37.「報酬のお話を致しましょう」
「何か珍しい物でもあったか」
俺が『WOW』と驚きの声をあげたら、どうやらドランの耳に聞こえたようだ。
「いや、別に何でもないから気にしないでくれ」
ドランも大して気になっていたわけじゃなかったようで、『そうか』と言ってそれっきりしつこく問い質したりしなかった。
そのまま通りを歩きながら、時折リックが指を指してアレコレ説明してくれるのを黙って聞く。
そして、騎士団の詰所から歩いて三十分くらい経った。
「――あそこだ。あの建物がこのヴァイスの発行所だ」
目的地のクエスト発行所に到着した。
なんと外見はフォートの街にあったクエスト発行所と瓜二つで、もし二軒並べてみたら間違い探しのようになるだろう。
キィーーー。
クエスト発行所の扉を開けて中に入ってみる。
やはりカウンターや掲示板など大元のレイアウトは同じだったが、観葉植物や調度品なんかの細々とした物の違いがあった。
「イオは発行所に来るのは初めて――って、そういえばイオを初めて見たのってフォートの発行所だったっけ」
リックが言いかけたが途中で誤りに気が付き、訂正して言い直した。
間違ってしまって少し恥ずかしいようで、頭に手を当てカリカリと掻いていて。
「いや、入ったこと自体はあるけど、実際にクエストを受けたことはないんだ。だから利用するのは今回が初めてになるから、あながち間違いでもないな」
フォートでクエスト発行所に入ったのは、ドランとリックが俺を見かけたあの時の一回こっきり。
その時もクエストを受けるためじゃなくて、ヴァイスに行くための情報を手に入れようと思って足を運んだんだ。
「そっか、じゃあ報酬の受け取り方も知らないよね。僕たちが教えるから着いてきて。こっちだよ」
リックの後に続いて、正面カウンターではなく、入口から入って左手奥にあるカウンターに向かう。
そこは他のカウンターよりも台が広々としていて、大体畳一畳分くらいのスペースがあった。
「すみませーん」
「はーい、少々お待ちくださ~い」
カウンターの前まで来てリックが声を掛けると、奥にいた女の子が対応に出てきた。
奥には女の子の他にも、男女数人の従業員がいるのが見て取れる。
返事をしてやってきた女の子は、まだ幼さが残る素朴な可愛い顔つきで、たぶん中学生くらいの年齢だと思う。
今まで見てきたクエスト発行所の従業員の人達は、みんな俺と同じくらいの二十代くらいか、少し年上くらいの人しかいなかったんだけどな。
ここまで若い従業員もいたのには驚いた。
「お待たせしました。クエスト達成の報告でしょうか?」
水仕事でもしていたのか、女の子は服の上から身につけていたエプロンで手を拭いている。
頭には三角巾も付けていて、俺が感じた第一印象は『パン屋の店員さん』みたいだった。
「えっと、騎士団の方から何かしらの連絡が来てると思うんですけど」
「え~っと?」
女の子はよく分からないようで、首を傾げていた。
「ロックベアー討伐の件だ。騎士団の詰所に行ったら、ここで報酬が出ると聞いたんだが」
ドランがリックの後ろから追加で説明する。
すると女の子はうーんと少し考えて、ふと何か思い当たることがあったみたいで、目を少し見開き『あー』と口を開いた。
「皆さんがあの話の人達でしたか。すみません、騎士団の方から連絡があったので、騎士の方が来ると勘違いしてました」
ペコリと頭を下げる女の子。
ちょっとコミカルな動きだった。
「すみませんが少々お待ち下さい。この件で人が来たら、担当の者を呼ぶように言われてるので」
そう言ってから女の子はカウンターを出て、俺達から見て左の壁にあった扉を開いて中に入っていった。
俺達三人は大人しくカウンター前で待つことにする。
「――おい、あんた。そこに並んでるのか? 並んでないならどいてもらえないか」
「あ、すみません。どうぞ」
手持ちぶさたで待っていたら、後ろから声を掛けられた。
声を掛けてきた男性NPCにその場を譲ると、男性はカウンターに立ち受付の人と会話を始める。
ちらほら聞こえる会話の単語を聞くに、何かの採取クエストの達成報告をしているみたいだ。
待っていた場所が悪かったな。
確かにあそこじゃあのカウンターに用がある他の人の邪魔になっていた。
「あっちの方で待ってようか。ここだと他の人の迷惑になっちゃうから」
カウンターから離れて待っていると、女の子が入っていった扉が開き、初老の男性を伴って女の子が戻ってきた。
女の子は俺達がカウンターの前にいないことに気が付くと、探す素振りを見せたがすぐに俺達のことを見つけ歩み寄ってくる。
「お待たせ致しました。あなた方が騎士団から連絡頂いた方々で間違いないでしょうか?」
とても丁寧に話しかけてくる初老の男性。
男性はクエスト発行所の制服を着ていた。
さっきカウンター奥で働いていた、男性従業員と同じデザインの服だったので間違いない。
「そうです。私はイオといいます。こっちはドランツェ、そしてこっちがリンクスです」
俺が代表して自己紹介すると、それに合わせてドランとリックは会釈した。
「私はこのヴァイスクエスト発行所の副所長をしております、ジーク=リアブルと申します。以後お見知りおきを」
リアブルさんはにこやかな笑顔で手を差し出してきたので、俺はそれに答えて手を握り軽く握手した。
ドランとリックにも手を差し出し、同じく握手する。
「では早速ですが報酬をお渡し致しますので、私に着いてきて頂けますか」
どうやらカウンターでは今回の報酬はもらえないようだ。
さっき声を掛けてきた採取クエストの男性は、その場で報酬をもらっていたみたいだったけど。
まあ騎士団の詰所でパートンさんも、『今回の報酬は特例措置』だって言ってたから仕方がないのかな。
特に異論もなかったのでわかりましたとリアブルさんに伝える。
「それでは参りましょう。――君」
「はい」
「君は元の仕事に戻りなさい。後は私が引き受けます」
「わかりました。それでは皆さん、失礼します」
女の子は小走りにカウンターへと戻って行く。
俺達はリアブルさんの背中を追って、誘導されるがままに扉の向こうへと着いていった。
「ここです、どうぞお入り下さい」
扉の向こうは本来ならば従業員以外立入禁止のエリアのようだ。
少し歩くと開けた場所に繋がっていて、学校の職員室、市町村の役場のように机と棚が整然と並べられた場所に出た。
そこで忙しなく動き回っていた従業員たちは、最初一般人の俺達三人のことを見つけると『誰だろう?』 『何しに来たんだろう?』という感じの視線を向ける。
「この方々は私の客人です。ですから安心して仕事を続けなさい」
リアブルさんのその一言で、こちらに注目していた従業員達は各々の仕事へと戻っていった。
「ウチの者が失礼しました。ささ、どうぞ」
部屋に入る前に一度謝りを入れ、気を取り直して俺たちは部屋へと入った。
中に入ると座るように勧められたので、部屋の中央にあった背の低いテーブルを挟んで、リアブルさんと俺たち三人となるように別れて向かい合うようにソファーに腰掛ける。
チリン、チリーン。
―――コンコンコン。
ガチャ。
「お呼びでしょうか」
「こちらの方々に飲み物を」
「かしこまりました」
そしてリアブルさんは流れるような動作で、テーブルの上にあった花弁を模したベルを鳴らす。
するとすぐに女性職員の人が部屋を訪れ、飲み物を持ってくるように言われて部屋をあとにした。
「……それでは報酬のお話を致しましょう」
雰囲気が変わるリアブルさん。
その空気を感じて俺は佇まいを正した。
「今回は騎士団からの要請を受け、特例措置としてロックベアー討伐の報酬をご用意致しました。ですが、今回はあくまで特例措置です。ですので今回の報酬受け取りに関しては、他言無用でお願い致します」
そう言われ俺達は無言で頷いた。
俺達の反応を見たリアブルさんは、満足したようで『ありがとうございます』と言うと元の雰囲気に戻る。
「では報酬ですが、『ロックベアー討伐』の報酬は80,000Lとなります。また討伐の際に入手したドロップアイテムにつきましては、皆さんのお好きになさっていいようになっています。もしお売り頂けるのでしたら、適正価格で買い取らせて頂きます」
ロックベアー討伐のクエスト達成報酬は、80,000Lだった。
宿代が一泊大体4~5000Lなので、もし一人で討伐出来たらこれだけで半月近く宿代に困らなくなる。
でもまあこれが現実での話だったら、熊(っぽい姿のモンスター)を倒してこの金額ってどうなんだろう?
高いんだか安いんだかわからないな。
コンコンコン。
ガチャ。
「失礼します。お飲み物をご用意致しました」
丁度良いタイミングで先程の女性が戻ってきて、俺達の前にそれぞれコップを並べていく。
ちゃんとテーブルに置く前に、小指を挟むマナーを見せる。
何だかんだで、初めてガラス製のコップを見たな。
今までは木製か陶器だった。
「すまないがこのクエストの報酬を持ってきてくれ」
女性に紙を渡すリアブルさん。
そのまままた部屋を出て行った女性は、程なくしてお盆の上に巾着のような袋を乗せて戻ってきた。
「中に宝珠が入っています。中身のご確認をお願いします」
代表して女性から一番近かったドランが受け取り、袋の口を開いて中身を確認した。
どうやらちゃんと揃っていたようで、無言で俺とリックのことを見ながら頷いてみせる。
「どうやら大丈夫だったようですね。慌ただしくて申し訳ありませんが、私はこれで失礼致します。仕事が残っていますので」
申し訳なさそうに話すリアブルさんを見送り、出された飲み物を飲み終え報酬を持ってきて、そのまま待機していた女性に連れられ部屋をあとにし、クエスト発行所の出入り口までやってくる。
「クエスト達成おめでとうございます。またのご利用をお待ちしております」
女性の見送りの言葉を背に受けながら、俺達はクエスト発行所をあとにしたのだった。
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