36.「うわーおぅ」
補足説明(設定)が後書きにあります。
※誤字訂正4/19
「―――はい、今の質問で最後です。ありがとうございました」
パートンさんがわざわざ椅子から立ち上がり、綺麗な姿勢から頭を下げてお礼を言う。
俺達も釣られて立ち上がって頭を下げた。
「いや、別に構いませんよ」
盗賊たちとの遭遇とロックベアー討伐の話は、およそ一時間ほどで終了した。
パートンさんも聞きたいことは全部聞き終えたようで、話の内容をメモしていた紙をまた胸元に仕舞い込む。
おもむろに胸元に手を突っ込むのは、ドキッとして心臓に悪いので正直止めてもらいたい。
「何はともあれ、ようやくこれで街道封鎖の終わりが見えてきました。人々に苦労と不便を掛けることがなくなって、一安心ですよ」
嬉しそうに目を細めて話すパートンさん。
きっと今まで気苦労が絶えなかったのだろう。
まだ出会って話をしてから一時間ちょっとしか経っていないけど、パートンさんは騎士の鑑と思えるいい人だった。
「そういえば忘れていました」
用事が済んだので部屋を出て、建物の出入り口に向かっていた時、パートンさんが立ち止まって俺達の砲に振り返った。
左手の掌を上に向け、そこに右手で作った拳を手刀の要領で、ポンとぶつける。
「実は皆さんが討伐したロックベアーなのですが、クエスト発行所の方で討伐依頼がありました。ですので討伐報酬が出るそうです。報酬は用意してあるそうなので、お時間がある時にでも足を運んで下さい」
そうなのか。
別に狙って討伐したわけじゃないけど、もらえる物はもらっておくかな。
「………ちょっといいか?」
「はい? 何でしょうか」
さっきまで黙っていたドランがパートンさんに問いかける。
「俺の記憶が正しければ、討伐系クエストは事後受領は出来ないはずだったと思うんだが」
「あっ、そういえば」
ドランの話しを聞いてリックも何か思い出したようだ。
「確かに。通常ですこのようなクエストは先に受領しておくのがセオリーとなっています。ですが今回はあの森にいたロックベアーだったとハッキリしていますので、特例措置として報酬が用意されたそうです」
俺は『事後受領』とか『特例措置』などがよく分からなかったので、隣にいたリックにコソコソと尋ねてみる。
そしてリックから聞いた話をまとめてみると、この様になった。
**********
通常だとクエストにはまず受領してから向かうことになる。
今回のロックベアー討伐のクエストを例に挙げると、
一、『フォート~ヴァイス間の森に出没するロックベアーの討伐』というクエストを受領する。
二、指定された森へ向かってロックベアーを討伐する。
三、討伐報告をして報酬を受け取る
という流れになる。
ここで重要なのが『どこの、何を、どうするのか』ということだ。
今回だと『フォートとヴァイスの間にいる、ロックベアーを、討伐する』必要がある。
だがこれをもし違う場所にいたロックベアーを、前もって討伐しておいて、このクエストを受けてあたかも指定された場所で討伐したように欺いたら大変なコトになる。
なにせ本来討伐してもらいたかった場所には、まだロックベアーがいるのだから。
この様なことを防ぐために、討伐系のクエスト――特に今回のロックベアーのような強力なモンスターの討伐クエストは、事後受領してはいけないと暗黙の了解として認識されている。
もちろん全てのクエストにこれが当て嵌まるわけではない。
今回のが例外的な一件だったと言うだけだ。
**********
「それは騎士団が証明してくれたってことですか?」
リックがおずおずと手を上げて質問した。
「その通りです。皆さんはフォート側の関所を通りヴァイスまで来たことは判明してますし、その上でロックベアーのドロップアイテムを所持していましたので」
そこまで聞いてドランとリックは納得したようで、もうパートンさんに質問することはなかった。
「では私はここで失礼します。皆さんにお話し頂いた内容を、上の者に伝えないといけませんので」
建物の出入り口があるロビーまで戻ってきた。
パートンさんの見送りはここまでのようだ。
最後に『それではまた』と言葉を残して、今歩いてきた廊下とは違う廊下へと姿を消していった。
「じゃあ俺達も行こうか」
俺が促して三人で騎士団の詰所を後にする。
その時に最初にドランが声を掛けたフルフェイスの騎士の人が、『お疲れ様です』と声を掛けてきたので会釈しておいた。
「それじゃあどうしましょうか? このままクエストの報酬もらいに行きますか?」
リックがそう聞いてきたので、一度他の通行人の迷惑にならないように、道の端によって立ち止まる。
「……うーん」
だが俺はそれに答える前に、ちょっと気になる事があった。
いや、本当に大したことじゃないんだが。
「どうしたんですか?」
俺の様子がおかしいことに気が付いたリックが、俺の顔を覗き込むようにする。
ドランはただ黙って事の行く末を見守る体勢に入っていた。
「リック、敬語なんて使わなくていいぞ」
「へ?」
そう、俺が気になっていたのは『俺に対するリックの話し方』についてだ。
俺はもうリックは友達で仲間だと思ってるんだけど、リックは出会った時と比べればいくらか柔らかくはなっていたが、未だに敬語を使って話しかけている。
だけど俺以外――ドラン、トーラス、ドランの家の職人たちなど――に対しては、敬語を使わずフレンドリーに話していた。
「あー、その、なんだ。敬語だとこっちも気を遣うというか、壁を感じるというか、えーっと」
どう言えばいいのかわからず言葉を濁す俺。
そんな様子を見ていたリックはポカンと頭の上に『?』を浮かべていて、ドランは口の端をつり上げて含み笑いを浮かべていた。
「……わかったよ。僕達は一緒にロックベアーを倒した仲間だもんねっ、イオ!」
呆けた顔から一度クスッと笑って、リックは敬語なしで俺に話しかけてきた。
俺は何だか恥ずかしくて、小さく『あぁ』と答えるのが精一杯だった。
「話し合いは終わったな」
ずっと傍観していたドランが一歩前に出る。
「それで、さっきの話に戻るが、この後報酬をもらいに真っ直ぐ発行所に向かうか?」
俺達は少し考えた。
そして、ドランは要件は一片に片付けたいらしくこのまま向かいたい派、俺とリックはいつでもいい派だったので、このまま真っ直ぐクエスト発行所に向かうことにした。
「それじゃあ行こっか。発行所はここから少し離れた場所にあるから、行く途中でいろいろ案内してあげるよ」
「それは助かる。こっちからお願いするよ」
敬語がなくなったことで、リックとの距離が近くなったような気がする。
物理的にではなく精神的に。
「じゃあ少し遠回りして行くか。大通りを通った方が色々教えられるからな」
ドランも案内には乗り気で、俺達は最短ルートから外れながらも、クエスト発行所を目指して歩き始めた。
………………。
…………。
……。
「それであっちが市場になってて、食べ物から日用品、モンスターの素材まで何でも売ってるんだ」
ヴァイスの街の大通りは、フォートの街とは違う感じだった。
フォートは東西南北の広場と中央広場を繋ぐために、大きく『十』の字状に幅広い道が整備されていたが、ヴァイスは『米』の字みたいに十と×が交差している。
本数が多いので一本当たりの道幅はフォートの半分くらいだ。
「何か、アーケード街とか商店街みたいな雰囲気だな」
俺は感じたままに誰に言うでもなく独り言を呟いた。
「あ、あとイオにとって重要な宿だけど、市場とは反対側をずっと行った先にあるから。大通りに面してる宿は、大抵良心的なところだから安心して利用出来るはずだよ」
おっと、この情報は大事だ。
俺は二人と違ってヴァイスに自宅(兼店舗、作業場)なんてないからな。
一応今後のアップデートで、このゲーム内に家を建てることが出来るようになるらしいが。
………そういえば、ヴァイスの街に入った時にもらったアレ。
アレって確か―――。
俺は所持品の中からある物を探した。
たぶんこの辺りにあったようなー……見つけた。
【ヴァイス優待宿泊券】
やっぱり宿関係の物だ。
どんな物なんだろう。
優待宿泊券ってことは、割引とかオプション追加とかしてもらえる券なのかな?
フォートで大金もお詫びの品としてもらってるし、豪遊とは言わないけど少しいいところに泊まってみようか。
俺はワクワクしながらアイテムの詳細を見てみた。
【ヴァイス優待宿泊券】
ヴァイスの街に最初に辿り着いたプレイヤーに贈られる専用アイテム。
ヴァイスの街でのみ使用可能。
ヴァイスの街の中にある宿泊施設の利用料金が無料になる。
“イオ”専用。
プレゼント、トレード、売却不可。
「うわーおぅ」
思わずわざとらしい驚きの声が出てしまった。
割引くらいと思っていたのに、まかかそれ以上の無料だったなんて……。
でも、これは他のプレイヤーに見せられないな。
見せたら確実に狡いとか言われそうだ。
シャロン辺りだったら絶対言いそうだ。
お読み頂きありがとうございます。
宿の利用料は、平均して3~4000Lです。
一泊、素泊まり、朝飯あり。
大体クエストを一度こなすとこのくらいの報酬がもらえるので、プレイヤーはクエストを頻繁に受けています。
実は主人公が他のプレイヤーとあまり関わらない、というか出会わないのは、多くのプレイヤーが資金集めのためクエストに出かけているためだったりします。




