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34.「お帰りなさい」

お気に入り登録して頂いた皆様、ありがとうございます!

今後もよろしくお願い致します。


※誤字修正・加筆しました。4/16

 

 

 

 門番が見守る中ヴァイスの街に一歩足を踏み入れると、聞き慣れた『ポォーーン』というアナウンスを知らせる音が頭の中に響いた。

 何だかクエストを達成したってことと、ヴァイスに来たプレイヤーは俺が最初で、特典として【ヴァイス優待宿泊券】を手に入れたって言ってたけど。



「俺の家はここから少し行ったところにある。こっちだ」



 もっと詳しく調べようと思ったが、ドランが口早に言いスタスタと道を歩いて行ってしまう。

 ――いや、あれは歩くというか、スピード的には競歩に近いな。



「急ぎましょう。早く薬を届けてあげないと」



 リックは普通に小走りしてドランの後を追っていく。

 俺も【ヴァイス優待宿泊券】に着いて調べるのはあとにして、二人を追いかけないと。

 もう二十四にもなるのに、街中で迷子になるのはゴメンだ。



 ……そういえば森の中でロックベアーを倒した時に、【槍】スキルで新しく何か覚えましたってアナウンスもあったな。

 なんだったっけ?

 たしか《大車輪》だったか?

 それも試してみないといけないな。



 俺はそんなことを考えながら、先を行く二人の背中を見失わないように追いかける。

 残念ながら、まだ他のプレイヤーが誰一人として見たことのない街並みを観察する暇はなかった。



 …………………。

 …………。

 ……。





 門から移動すること二十分くらい。

 どうやらこのヴァイスの街で言うところの工業地帯にやってきた。

 見るからに職人といった感じの人々が道を行き交い、木材や土砂、その他いろいろな物を乗せた台車や荷馬車の往来でガヤガヤしている。



 そんな中にあった一軒の建物が視界に入ってくると、ドランがついに競歩から駆け足に変わった。

 建物は丸太を加工して木材を作る工場のようで、吹きさらしになっていて外から丸見えの屋内には、加工前の丸太と加工済みの木材が所狭しに置かれている。



「帰ったぞっ、トーラスはいるか!」



 ドランの突然の乱入に、作業をしていた人達は一瞬驚いていたようだが、乱入してきたのがドランだとわかるとワラワラと寄ってきた。



「ドランっ! 帰ってきてたのか!?」


「お帰り、ドラン」


「よく無事だったなっ、盗賊が街道に出るって聞いてたから心配してたぞ!」


「リックはどうした? 一緒にフォートに行ったのだろ?」


「トーラスの薬は手に入ったのか?」



 ドランを揉みくちゃにする作業員の人達。

 時折バシバシ痛そうな音を立ててドランを叩いているが、全員が全員ドランの帰りを喜んでいるのが傍目から見てもわかった。



「薬はちゃんと手に入った。それで、トーラスは上にいるのか? それとも診療所か」



 トーラスというのは、会話の流れからわかると思うが、ドランの弟の名前だ。

 名字、このゲームの世界的に言えば家名を付けると、トーラス=スカットンとなる。

 フォートからヴァイスに向かう道中で聞いた。



「トーラスは今は上で寝てるはずだ。お袋さんもいるはずだぞ」



 よかった、どうやらドランの弟はちゃんといたようだ。

 まあここにいなかったら診療所に行くだけの話だが。



「ん? おおっ、リックもいたのか! 気付かなか、……? あんた誰だ?」



 ドランを囲んでいた作業員の一人が、俺とリックの存在に気が付いた。

 その人の言葉を耳にして、その場にいた他の人も俺達のことに気付いて顔を向ける。



「ただいまです。トーラスの薬は僕が持ってますよ。それで、この人は――」


「イオと言います。よろしくお願いします」



 リックに言われる前に俺は自分で自己紹介した。

 


「詳しい話は(はぶ)きますけど、僕とドランがこうして無事ヴァイスに帰ってこられたのは、イオのおかげなんです」 



 そのリックの話を聞いて、俺の事を不思議そうに見ていた人々は、一気に態度を変えて笑顔で俺の事を迎え入れてくれた。



「そうなのか! 俺からも礼を言うぜっ、ありがとな!」


「ありがとうございます」


「感謝するよ」



 そしてドランのように揉みくちゃにされる俺。

 悪意なしの一〇〇パーセント善意からの行為なので、止めてもらおうにも言い出しにくい。



「それくらいにしておけ。俺達は上に行く。作業を続けてくれ」



 ドランの鶴の一声のおかげで解放された。

 人々は最後に俺達にそれぞれ一言ずつ言って、元いた場所へと戻っていき作業を再開した。



「すまなかったな。じゃあ行くぞ。案内する」



 作業をしている人の邪魔にならないように気をつけ、傍らを通らせてもらい作業場と隣接している部屋へと入る。

 そこはどうやら事務所が入っていたようで、書類が積み重ねられている机がいくつか並べられていた。

 だがタイミングが悪かったのか、中には誰もいなかった。



「こっちだ。上に上がる階段がある」



 ドランの後を追って階段を登る。

 丸太を加工している作業場が近くにあることもあり、階段には木の匂いがたちこめていた。



「―――ここだ」



 コンコンコン。



「トーラス、俺だ、入っていいか?」



 階段を登って右に曲がると、通路の左右にそれぞれ二部屋ずつ部屋があって、ドランは通路一番奥の左側の部屋の前で立ち止まりノックした。

 どうやらここがゴールらしい。



『えっ!? 兄さんなの!?』



 部屋の中から声が聞こえた。

 扉越しの声なのでちょっと声が遮られている。



『ちょっとまってっ、今開けうわっ!』



 ガチャ、ドサッ、ゴトン。



 何だか中から騒がしい音が聞こえてきた。



「トーラス、入るぞっ」



 ドランが答えを聞く前に扉を開けて、部屋の中へと素早く体を滑り込ませる。

 俺とリックはその後に普通にお邪魔した。



「ホントに兄さんだ。それにリンクスさんも。二人とも、お帰りなさい」



 部屋の中はいたってシンプルな造りだった。

 壁際には本が収められている本棚、窓辺には小さな机とセットの椅子、そしてベッドが置かれていて、その上では一人の男の子が身を起こしていた。



 男の子はドランと同じ茶髪で、頭の後ろからは尻尾のように細く束ねられた髪が一房垂れ下がっている。

 だが兄弟だとわかる判断材料は『同じ髪の色』、これだけだった。



 筋骨隆々ガタイのいいドランとは正反対で、細過ぎじゃないかと思ってしまう体。

 男らしい低い声のドランと、変声期がまだ来ていないような高い声。

 そしてなにより、ドランの弟は美少年(・・・)だった。

 正直に言うと、本当に同じ遺伝子から生まれたのかと疑ってしまうレベルだ。



『薄幸の美少年』



 そんな言葉がしっくり来る。

 最初にドランの『弟』だという事前情報が無かったら、もしかしたら女の子と間違えてしまっていたかもしれないな。



「大きな音がしたがどうした? それとお袋はどこにいる?」



 ドランはベットの脇に落ちている本や、金属で出来ている定規みたいな物に視線を落としながら聞いた。



「ごめんなさい。いきなり兄さんの声が聞こえてちょっと慌てちゃって、ベットの上から本とか落としちゃったんだ。母さんは隣の部屋で寝てるはずだよ。昨日徹夜しちゃったんだってさ」



 ニッコリ。



 ドランの弟――トーラスくんは、はにかむように笑顔を見せる。

 目の錯覚だろうか。

 トーラスくんの顔がキラキラと光るエフェクトを放っているように見えた。



 ゴシゴシ、ゴシゴシ。

 パチパチ。



 目を擦って瞬きをしてからもう一度トーラスくんを見てみる。

 うん、さっきのはやっぱり幻だったみたいだ。



「それで兄さん。そっちの人は誰? たぶん、ボク初めて会う人だと思うんだけど」



 トーラスくんが体を傾け俺の事を真っ直ぐ澄んだ瞳で見つめてくる。

 


「はじめまして、俺はイオっていうんだ。二人とはフォートで知り合ってね、ちょうどヴァイスに行こうと思ってたから一緒に来たんだよ」



 細かいことは省いて簡単に説明する。

 だがそんな説明でもトーラスくんは納得してくれたようで、俺に笑顔を向けて『兄がお世話になりました』なんてお礼を言ってきた。

 なんて出来た弟なんだろうトーラスくんは。

 俺の妹(春香)にも見習ってもらいたいな。



「トーラス。早速だが薬を飲もう。リック」


「わかってるよ。――ほら」



 ドランが促して、リックは腰のベルトに括り付けられていたポーチのような入れ物から、大事そうに布で包まれた小瓶を取り出す。

 中にはエアーガンで使うBB弾くらいの大きさの、薄いピンク色をした丸い薬が入っていた。



「これが薬だよ。毎朝――朝食を食べた後に一粒だけ飲むんだ。今日はもう昼近いけど、お昼は食べた?」



 リックが瓶を手にしながら薬の説明をする。

 お昼を食べたかという質問に、トーラスは首を縦に振って答えた。



「じゃあ今飲んじゃおうか。水差しは」


「あ、用意するよ」



 俺は一人何もすることがなく手持ちぶさただったので、何か手伝おうと体を動かす。

 ベッドの脇にあったランプの置かれている台の上から水差しを手に取り、注ぎ口に蓋をするように置かれていた木で出来たカップに水を注いだ。



「はい」


「ありがとうございます」



 ちゃんとお礼を言って俺からカップを受け取るトーラスくん。

 リックから受け取った瓶の蓋を取り、一粒だけ薬を取り出すと口に含んで水で流し込んだ。



「あとは横になっておけ。俺達はこれから用事があるからまた出る」



 ドランがトーラスくんの肩に手を置いて、ベッドに横になるようにそっと押す。

 枕に頭が乗ったのを確認すると、布団を丁寧に首元まで掛けてあげた。

 用事というのは騎士団の詰所に行く件のことだろう。

 俺達は三人でそれとなくアイコンタクトを取る。



「どこに出かけるの?」


「安心しろ。用事があるのはヴァイスの中で、だ。街の外に出ることはない」



 それを聞いて安心したのか、トーラスくんは眼を細めて微笑み『いってらっしゃい』と言った。

 


「じゃあ行ってくる」


「また来るからね、トーラス。その時はいろいろ話を聞かせてあげるから」


「お邪魔しました」



 順に、ドラン、リック、俺だ。

 トーラスくんが小さく手を振って見送ってくれる中、俺達は部屋をあとにして、騎士団の詰所へと向かった。






最後までお読み頂きありがとうございます。


ドランの弟、トーラスが登場しました。

美少年です。

病弱で体の線が細い、薄幸の美少年です。

カチムチなドランの弟とは思えないこのギャップ。

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