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32.「《二段突き》!」

※加筆しました。4/12・4/14・4/15 5/14

※矛盾点を修訂しました。4/14

※修正6/20

 

 

 

「っ!? 二人とも避けろ!」



 俺はそう言って、横に飛び込むように体を投げ出した。

 直後に後ろ足二本で立ち上がっていたロックベアーは、勢いよく倒れるような形で前足を振りおろす。



「うわあっ!?」


「リック! 避けろっ」



 やはり見た目通りの重さと威力があるようで、軽くだが地面が揺れ誰もいない場所の地面を叩いた前足は、浅く地面にめり込んでいた。



「このっ」



 ドランが攻撃後の硬直の隙を突いて斧を振りかぶった。

 俺はロックベアーから見て左側面にいるが、ドランとリックの二人は反対側の右側面にいる。

 振りかぶった斧はドランの鍛え上げられた太い腕で、勢いよくロックベアーの右脇腹へと振り下ろされ、



 ガガッ!



「ちっ、やっぱり硬いなこいつの毛皮は!」



 鈍い音を立てて斧は毛皮に阻まれ、肉体にまで届くことなく止まってしまった。

 ドランの攻撃は全く効いてない――ということはないようだったが、大したダメージにもなっていないようだ。

 


 このロックベアーの体力ゲージは今まで見た者の中で一番の量だった。

 一本では収まり切らなくて、ゲージが二本に分割されて表示されている。

 


 観察しているとロックベアーが咆哮を上げ、今さっき自分に攻撃してきたドランの方へと鼻先を向けた。

 こうしてはいられない。

 俺も槍を構えて攻撃する。



「《二段突き》!」



 俺は最初から【槍】スキルの《二段突き》を使って攻撃する。

《二段突き》は以前もヴォルフ相手に使ったが、文字通り槍による素早い『二連続攻撃』を繰り出す【槍】スキルの技だ。

 しかもただ普通に槍を使った二連撃ではなく、一撃目の突きより二撃目の突きの方がやや威力がある。



 ドッ、ドシュッ!

 


 俺の使った《二段突き》は外れることなく標的を捉え、槍を伝って二回、鈍い感触が手に伝わってきた。

 前にヴォルフ相手に使ったが、その時に感じた手応えよりも硬い物を叩いたような、ビリビリとした感触が伝わってくる。



「おおっ! 効いてますっ、効いてますよ!」



 そしてロックベアーがよろけた。

 よろけるその姿を見てリックが、先程まで恐怖で強張らせていた顔に笑顔を浮かべはしゃいでいる。



 どうやらドランの攻撃とは違って、俺の攻撃はロックベアーに多少効いたようだ。

 見た目ではドランの攻撃の方が威力がありそうだったけど、斧――斬撃――よりも槍――刺突――の方が効くのか?

 もしかしたらスキルを使ったかどうかの違いもあったのかもしれない。



「ロックベアーが怯んだぞっ、リック! 魔法をぶちかましてやれっ!」



 リックの前に立ち守るように斧を構えていたドランが、はしゃいでいたリックに怒鳴りつけるように言った。

 言われたリックは直ぐさま両手を前に突き出し、言われた通りに魔法を放つ構えを取る。



 そして俺の攻撃で僅かにだが後退したところを狙って、ロックベアー目掛けてリックが魔法を放った。



「《ウィンドカッター》!」



 ロックベアーは自分に手傷を負わせた俺の方ばかりを、威嚇するように見ていたためリックの魔法を避けることが出来ない。

 そしてロックベアーは身構えることもなく、《ウィンドカッター》の直撃を顔に喰らった。



「ああっ!?」



 ――が、しかしリックはやはりまだ内心では慌てていたのか、狙いが逸れてしまい、ロックベアーの頬が切れただけのようで致命傷までには至らなかった。



「こいつは特に氷魔法か雷魔法に弱いっ、イオ! お前どっちか使えるか!? うおぉぉっ!?」



 今度はリックをターゲットにしたらしく、ロックベアーがその大きな口を開いて牙を剥き出しにし、二人目掛けて突進を敢行した。

 リックの前にはドランが陣取っているため、その突進はドランが受け止めることになる。



「ダメだっ、俺は火魔法しか使えないんだ! 《ファイア》!」



 ボゥン!



 今度は俺から目を離した隙を突いて、ロックベアーに《ファイア》を喰らわせてやる。

 とにかく二人から注意を逸らそうと思って咄嗟に使っただけだったので、狙いも付けられずロックベアーの胴体に着弾させるのが精一杯だった。



「くそぉっ!」



 確かに胴体に命中したのだが、俺の魔法はロックベアーの注意を完全に逸らすことは出来なかった。

 若干突進の速度は落ちたようだったが、変わらず二人目掛けて走り続け接近していく。



 ドガギィンッ――。



「ぐうっ、ごほっ!?」



 ドランは斧の広い面を使って盾のように見立て、ロックベアーの突進をなんとか防ごうとする。

 だが斧にロックベアーの頭がぶつかった時、犬が体に付いた水を飛ばすように勢いよく頭を振って、斧ごとドランを吹き飛ばしてしまった。



「「ドラン!?」」


 

 俺とリックの声が重なる。

 ロックベアーはドランの後ろにいたリックに構うことなく、今さっき吹き飛ばしたドランの方へとその巨体を向けた。

 


 ノッソノッソとゆっくりとした足取りだが、それはまるでもう抵抗することのない獲物へと近づく捕食者のようだった。

 ドランは胸の辺りを抑えながら咳き込んでいて、すぐに起き上がることが出来ない。



「やめろこの熊野郎がぁっ」



 俺はそれを見て考えることよりも先に体が動いていて、ロックベアー目掛けて駆けだしていた。

 無意識に身軽になるために手にしていた槍を放り投げる。



「―――っ! ――!」



 リックが掛けだした俺に何か言っていたみたいだが、よく聞こえなかった。

 その時の俺はロックベアーに対して思っていた『恐怖心』が、いつの間にかドランを傷つけたことに対する『怒り』へと変わっていた。



「この、この、このっ」



 そして俺はロックベアーに肉薄し、ひたすら後ろ足を狙って蹴りを繰り出し、胴体をがむしゃらに殴り続けた。



「この、この――がはぁっ!?」



 何度目かの蹴りとパンチを放った時に、突然脇から何かがぶつかってきて、俺の体は真横に倒れてしまう。

 いきなりの痛みで軽く頭の中がパニックになっていると、ロックベアーが俺の方を見下すように仁王立ちしているのが見えた。



「……あぁ、そうか。俺は、あいつに、薙ぎ払われた、のか」



 ふと胸の防具の表面を触ってみたら、ロックベアーの攻撃が当たって摩擦熱なのか仄かな熱を帯びていた。

 防具の下に着込んでいた服も、ちょうど袖口が引き裂かれていた。

 ロックベアーの前足を見てみたら、切り裂いた時に付いた服の切れ端が爪に絡まったままだった。

 あの爪がちょうど当たったようだ。



「イオ! くっ、《ウィンドカッター》! 《アクアショット》! 《ウィンドカッター》!」



 リックが出鱈目に魔法で攻撃する。

 攻撃系の魔法は苦手ということもあり、さらにドランの斧も効きにくい毛皮には、やはり大した威力はないみたいだ。

 けれど、それでも一発も外れることはなくロックベアーに全弾命中した。



 背後からの攻撃を最初は無視していたロックベアーだったが、一発、二発、三発……と攻撃が増えていくごとに、倒れている俺から意識が外れていくのが見て取れた。

 そして最後には堪忍袋の緒が切れたようで、体の芯に響く重低音の咆哮を上げ、背後を振り返った。



「ひっひぃいいっ!? すみませんすみません、ホントすみませんっ」



 今度はリックが仁王立ちしたロックベアーと対峙した。

 両手を前に突き出してブンブン振り、涙を流しながらゆっくりとすり足で後退していくリック。



 泣きわめいているリックを見て、ロックベアーは仁王立ちから四足歩行に戻って、ゆっくりとまるで獲物を追い詰めるようにリックに近づいて行った。



「ごほっごほっ!、リッグ、逃げろ゛」



 俺はまだ痛む体をなんとか起こしてリックに言った。

 胸の辺りを攻撃されたせいで上手く声が出ない。

 だけど俺の声はちゃんと届いたようだ。

 リックは俺の方をチラッと見て―――ロックベアーから見えない角度で、親指だけを立て俺に向けて見せる。



「あわわわっ」



 ついにロックベアーの攻撃が届く範囲にリックが追い詰められた。

 ロックベアーは狙ったのか、リックの背後には大きな木がありそれ以上下がることが出来ない。



 ロックベアーは前足を空高々と持ち上げる。

 その前足が振り下ろされる先は、木を背にしてどうすることもで希代でいるリック。



 もはや万事休す―――。



「うわあああっ―――今だドランっ!」



 ――ガサ、バサバサバサァッ!



「おおおおおおっ!」



 ドガァーン!



 ―――慌てふためいていたリックが、突然大声でドランの名前を呼んだ。

 その直後、リックの頭上の木が揺れて、その上からいつの間に登ったのか、ドランが飛び降りてきた。



「よっ、しゃおらああっ」



 しかもただ飛び降りただけでなく、落下の勢いを利用して斧をロックベアーの首辺りに叩き込んだ。

 落下の勢いも加わった斧の威力は、普通に地上で振るった時とは大きく違ってた。

 その証拠に、頑丈そうだったロックベアーの首辺りに生えていた背びれのような岩は、斧が当たった場所を中心に崩れてしまっている。

 


 ロックベアーは流石に今の攻撃は効いたようで、口から涎を垂れ流しながら地面に体を擦りつけるように暴れた。

 体力ゲージもギュインッと一気に減った。

 ドランはすぐにロックベアーから離れて、リックの元へと駆け寄る。

 


「やったよドラン! 流石だよっ」



 リックが興奮した様子でドランに詰め寄ろうとした。

 だがドランはまだ気を緩めてはいない。



「まだだ、まだ仕留め切れてないっ」



 遅れて俺も二人と合流する。

 ロックベアーが苦しんでいる間に、ライフポーションも飲んだので体の痛みも回復していた。



「どうやら、向こうはまだまだやる気みたいだぞ」



 痛みは落ち着いたようで、ふらつきながらも体を起こして俺達のことを睨み付けてきたロックベアー。

 喉奥で『ウ゛ウ゛ウ゛』と唸るような音を出しながら、牙を剥き出しにして涎を口の隙間から垂らす。

 


 そして、一度吠えると口を開いて向かって再び突進してきた。

 ロックベアーの赤黒い口内が目に飛び込んでくる。



「やっぱりさっきのは相当効いたみたいだな。勢いがなくなってるぜっ。《ディフェンダー》!」



 ドランが斧を構えて防御姿勢を取る。

 さっきはそれでも吹き飛んでいたが、どうやら今回は強化魔法を使っているようで、ドランの体はマンガやアニメで見かけるオーラのようなモノで、うっすらと青く光っていた。



「さあ来い!」



 そう言われたからどうかはわからないが、ロックベアーはドランの挑発に乗るように、構えられた斧へと頭から突っ込んでいった。



 ギャリィン!



「くっ」


「ドラン!?」



 ドランはロックベアーに押されて引き摺られていく。

 俺は心配から大声を出していた。

 ガリガリガリとドランの足裏が地面を削る音がする。



「――捕まえたぞ、この野郎」



 だがドランはロックベアーの巨体を受け止めていた。

 現実ではあり得ない光景だ。

 地面を数メートル押される形で滑っていった跡が二本、ドランの足から軌跡のように伸びている。

 


「イオ! トドメを刺せええっ」


「これをっ!」



 リックが俺が投げ捨てていた槍を投げて寄越す。

 俺は突進を回避した体勢から、短距離走のスタートダッシュのような姿勢になり、投げられた槍を空中でキャッチし矛先をロックベアーに合わせる。



 狙いはロックベアーの顔―――あの赤い目だ。

 どんなに体の表面が硬い毛や皮で守られている生き物だって、目は弱点だしその奥には脳だってあるはず。

 攻撃力不足が否めない俺が仕留めるならここしかないと思った。



()れっ、イオ!」


「行っけえええ!」



 二人の叫び声を聞きながら俺はそれを口に出す。

 今この時、俺が持てる全ての力を込めて。



「ぉおおおおっ、《二段突き》!」



 攻撃を放つ直前、ちょうどロックベアーが頭を振ってドランを退け、俺の声に反応してこちらを振り返ってしまう。

 そして俺と視線がバッチリ合った。



 俺は視線を逸らすことのないまま、ロックベアーのその二つの赤い目を狙って槍を突き出す。



 ズシュッ、グシュッ!



 槍越しに二度の手応えを感じた。

 そして槍の矛先が深々と突き刺さったまま、ロックベアーは力が抜けたように膝からその巨体を地面に横たえ、二度ほど体をビクッビクッと痙攣させると静かになる。



「はあ、はあ、はあ、……んくっ」



 ロックベアーが完全に動きを止めたのと同時に、残っていた体力ゲージは全てなくなった。

 しばらくその様子を息を荒げながら呆けたように見ていると、ヴォルフを倒した時のように、ロックベアーの巨体は光の泡となって消えていく。



「……終わった」



 ポォーーン。



【槍】

 New!《大車輪》を覚えました。



【火魔法】

 New!《ファイアアロー》を覚えました。 



 俺が呟いた直後にアナウンスを知らせる音が頭の中に響いた。



 アナウンスの内容は……まぁ気になるけど、それよりも今はこの戦いの余韻に浸っていたい。

 確認するのは後回しにするとしよう。







お読み頂きありがとうございます^^


ドランの活躍が主人公とリック以上に目立ちました(汗)

これには訳があって、『戦闘経験の差』が原因という設定です。

主人公がこれまで自力で倒したモンスターはヴォルフだけなので、今回のロックベアーを倒せたのはドランのおかげ。

ちなみに主人公が最後に放った攻撃はクリティカルのため、一気に倒すことが出来たという設定。

狙ったのが『両目』ですから(汗)

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