29.「身ぐるみ全部置いていきな!」
※加筆しました。4/15
俺はストックさんとスカットンさんと順番に握手した。
アナウンスでも知らされたが、俺が二人の同行を許可した時点で、三人でPTを組んだことになっていた。
「さっそくですが、このままヴァイスに向かうんですか? それとも一度フォートまで戻って準備をしてからにしますか?」
ストックさんが俺に聞いてきた。
そういえば俺はフォートからヴァイスに向かうにあたって、準備とか何もしてなかったことに気が付いた。
「ここからヴァイスまでは、どのくらい時間掛かります?」
さすがに数日とか言われたら、フォートに戻って野宿とかの準備が必要だろう。
一日くらいだったらなんとか歩き続ければいいかな。
「ここから歩いて行くとすると、だいたい半日くらいかかるな。今から出発するのであれば、日の入り前にはヴァイスに辿り着けると思う。馬か馬車があればもう少し早いんだがな」
ヴァイスの街はフォートの街から歩きで半日ほどの場所にあるようだ。
確か人の歩く速度が時速四、五キロだったはずだから、五〇~六〇キロ離れている計算になる。
そのくらいだったらこのまま行ってもいいかな。
「お二人の準備はどうですか?」
俺が二人に尋ねると、二人とも問題無いとのことらしい。
「ではこのままヴァイスに向かいましょうか。早くスカットンさんの弟さんに薬も渡したいですしね」
これは本心から思っている。
今の俺はクエストで指示されたからヴァイスに向かいたいのではなく、病気だというスカットンさんの弟にはやく薬を届けて上げたい。
俺も弟じゃないけど、春香って言う妹がいるからな。
春香がもし病気になってしまって、俺が薬を届ける立場だったとしたら、一刻も早く春香の元に戻りたくなる。
「……すまない。ありがとう」
スカットンさんがまた頭を下げる。
今度のお辞儀は今までで一番深く下げられた物だった。
「あと、俺の事は『ドラン』でいい。それに堅苦しい言葉遣いもいらない」
「あ、僕も。ストックじゃなくて『リック』って呼んで下さい。仲のいい人はみんなそう呼ぶんです」
『ドラン』というのはドランツェという名前の頭から取った物だろうけど、なんでリンクスは『リック』なんだろう?
外国のあだ名の付け方で、レベッカっていう女性のあだ名は総じてベッキーになる、っていうのと同じ感じなのかもしれないな。
「わかったよ、ドラン、リック。じゃあ行こうか」
俺は二人に号令を掛けて、三人で関所の門へと近づく。
そして武器や防具、持ち物をあらためて確認してから関所を通り抜け、森へと延びる街道を歩き始めた。
―――――――――。
――――――。
―――。
関所を抜けて暫く歩いた。
森に入った最初の頃はカイドウと森との境界は、左右それぞれ三〇メートルくらい離れていたのだが、もう今歩いている場所は『森を寸断する街道』ではなく『森の隙間を縫うような街道』に様変わりしていた。
「聞いた話だとこの辺りから盗賊の目撃情報があるらしい。用心して進もう」
ドランはそれまで落とさないようにガッチリ固定していた、背中に背負う斧の固定具をいくつか解除した。
それまでは背中にぴったりとくっついていた斧だが、柄部分が多少背中から離れていく。
「そうだな。そういえば聞きそびれていたんだけど、リックは戦えるのか? 見たところ武器も持ってないけど」
俺とドランは武器を背中に背負っているから一目瞭然だけど、リックに関して言えば見ただけではわからない。
可能性があるとしたら己の体一つで肉弾戦を挑む格闘家か、シャロンみたいに魔法を使うのかもしれないな。
「僕はいちおう魔法を使います。でも僕が得意な魔法は『補助回復系』の魔法なんで、直接の戦闘向きの魔法じゃないんです。攻撃魔法がまったく使えない訳じゃありませんけど、大した戦力にはなれませんね」
どうやらリックは後方支援向きみたいだ。
でも、この三人PTは以外とバランスが良いんじゃないか?
接近戦は斧のドラン。
中距離は槍の俺。
遠距離と後方支援のリック。
俺には一応【蹴撃】と【火魔法】のスキルもあるし、どちらかが危なくなったらカバーも出来るはずだ。
「俺は見ての通り斧で相手をぶった切ることしか出来ん。魔法は自分の体を強化する魔法しか使えないから、離れた場所にいる敵には手が出せない。代わりに盾役として力を振るおう」
ドランが自分の戦闘スタイルを話したので、俺も二人に続いて自分の戦い方を教えた。
それを聞いた二人は『近・中・遠距離と器用だな』と言ってくれた。
「だがいろいろ出来てしまうと、自分にとっての『これだ』という武器がないことにもなりかねない。その辺りは注意しておかないと、後々苦しむことになるかもしれないぞ」
「そう、ですね。ドランが言ったみたいな人の話を聞いたことがあります。その人はいろんな技術を持っていたんですけど、どれも『普通の人よりは出来る上手い人』くらいのレベルで伸び悩んでしまったそうです。そして一つの分野をひたすら追い求めていた人にその分野で勝てなくて、いつしか持てる技術の全てが誰かに必ず劣っているようになって、八方ふさがりになってしまったとか」
リックの話は器用貧乏の人の苦悩みたいだな。
人間得意分野は一つに絞った方がいいって学生時代、何かの行事で偉い人の話を聞いた時に耳にした気がする。
「まあお節介だったかもしれませんね。すみません、イオさん」
言ったあとになってから、俺の内情に踏み込みすぎたと思ったのか、リックとドランが謝ってきた。
「いやいや、タメになる話だったよ。ありがとう」
俺が気にしてないとわかって二人の顔に安堵の色が窺えた。
そんなに俺って二人から見て怖いのか?
正直なところドランの方が見た目怖いんだけど。
「いや。あの関所を通れたということは、イオは偉い身分の人なのか偉い人と繋がりがあるんだろう? そんな人の機嫌を損ねたりしたら、俺やリックみたいな平民にはどうしようもないからな」
二人に俺ってそんなに怖いのかと聞いたら、ドランがそんな答えを言った。
リックもそれに同意するように首を縦に振る。
「違う違う。そんなんじゃないよ。俺も二人と同じで平民だし、関所を通れたのもこの身分保証書のおかげだから。これをくれた人とも、あんまり深い付き合いはないよ」
間違いを正すために説明する。
説明が身分保証書をくれたメレディアン家の話しに及ぶと、二人は口をパクパクさせて足を止めてしまった。
そこから俺に対してなるべく礼儀正しく接しようとし始めて、よそよそしいその態度が俺は嫌だったので普通に接してくれとお願いした。
「―――ほら行こう。ドランの弟が待ってるんだから」
暫く歩きながら説得したおかげで、二人は前と同じように普通に接してくれるようになった。
最初は恐る恐るという感じだったけど、今は違和感もない。
……それにしても、冒険者ギルドの受付にいた女性といいこの二人といい、メレディアン家って言葉に異様な反応を見せていたな。
いったいどんな家系なんだろう。
考え事をしながら街道を歩く。
俺は考え事をしていたせいで注意力が散漫になっていた。
―――ビュンッ!
「っ! イオ!」
「え――ぅわっとぉ!?」
カキィン!
突然俺はドランに首根っこを掴まれ、思いっきり後ろに引き倒された。
俺が後ろに仰向けで倒れ、咄嗟に後頭部を地面にぶつけないよう腕で庇い、受け身をとっていると金属と金属がぶつかる音が聞こえた。
「敵襲だ! たぶん例の盗賊だぞっ、気をつけろ!」
ドランが大きな声で注意を促す。
俺はすぐに起き上がって背中から槍を取り出し構えた。
ドランが街道の真ん中で斧を構えてその後ろにリックが立ち、ドランと俺でリックを挟み込むようにして辺りを見渡した。
「イオさん大丈夫でしたか。さっきのは弓の攻撃でした。ドランの正面側から放たれたみたいですけど、たぶんもう同じ場所にはいないはずです。注意して下さい」
俺は『ああ』と短く返事する。
ビュンッ!
「っ、このっ」
森の中から弓の弦が鳴る音がして矢が放たれた。
今度はリックが狙われたようで、俺から見て正面だがリックからしたら背後の方向から矢が飛んでくる。
ブンッ!
カァァン―――。
俺が振り払った槍が飛んで来た矢を空中で薙ぎ払った。
考える前に体が動いた結果だったが、なんと成功してしまい出来た俺もビックリだ。
「ありがとうございますっ」
「気にするな。……ここで立ち止まっていても矢の標的になるだけだ。相手が攻撃してこないうちに移動するぞ!」
二人も同じ考えだったようで全員で街道を走り出した。
ビュンッ! ビュンッ!
そんな俺達目掛けて矢が放たれた。
どうやら弓で狙ってきているのは最低でも二人いるようで、街道の左右の森から一本ずつ矢が飛んでくる。
「出来るだけジグザクにっ、真っ直ぐ走らず不規則に走れっ」
「強化魔法を掛けます! ――《スピーダー》!」
ドランの指示通りに街道を真っ直ぐ走らないで、ジグザグに蛇行しながら走った。
走っていた途中にリックが掛けてくれた強化魔法は、どうやら俊敏性が上がる魔法だったようで、普段以上の速さで走ることが出来た。
「俺もっ、《早駆け》!」
初めて【早駆け】のスキルを使ってみた。
疲れやすくなって疲労が溜まる感覚があったけれど、明らかに走る速度が更に上がったのが実感出来る。
事実、俺はいつの間にか先頭を走っていて、徐々に二人との差が開き始めていた。
「おっと、このままじゃ二人を置き去りにしちゃうな」
そう思って走る力をちょっと抑えてみたところ、さっきまで感じていた疲れやすさがなくなっていた。
もしかしてと思いもう一度力いっぱい走ってみたが、速度はさっきほど出なかった。
おそらく走る力を抜いた時に【早駆け】の効果も切れてしまったのだろう。
「二人ともっ、前を! 人影です!」
リックが言ったその先には確かに人影があった。
人数はよく分からないけど、全員武器を持っているのはわかった。
いつの間にか弓の攻撃もなくなっていたので、前方の人影集団と距離を取った場所で立ち止まった。
「テメェら身ぐるみ全部置いていきな! もし従いたくないってんなら別にそれでも構わねぇぞ。――テメェらを始末してから手に入れるからな!」
想像通り、相手は盗賊達だった。
そして、ヴォルフの時のように体力を現す赤いゲージが表示された。
お読み頂きありがとうございます。
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主人公PTのバトル相手は盗賊達です。
もちろん盗賊は全員NPCでプレイヤーは混ざっていません。
そしてここで久しぶりにスキルを使った主人公のステータスをどうぞ。
アバターネーム:イオ
習得スキル:【槍】・二段突き 【蹴撃】・前蹴り 【火魔法】・ファイア 【早駆け】 【身体能力上昇】 【隠密】 【薬師】・調合
主人公のスキルに関しては、第3話「ようこそ“∞”の世界へ」にてスキル説明など書いています。
作者もどんなスキルを取っていたのか忘れていて、見直してしまったのはここだけの話し><;
これらのスキルを使い分けてVS盗賊です!
次話もよろしくお願いします!
※誤字修正4/6




