26.「執事の嗜みでございます」
手がかり入手!
※誤字修正5/9
今回のお詫びの品を取りに行ってくると、アムストロさんとマクレイヤさんが応接室を出て行って暫く経った。
何度かセサラが『おかわり、いる?』と紅茶を勧めてくれたので、俺は断ることが出来ず何杯も紅茶を飲むハメになってしまった。
「――けぷっ」
控えめのゲップが出てしまう。
もうお腹の中は紅茶でいっぱいだ。
体を揺すればきっとチャプチャプと音がするんじゃないかな。
「……おかわり?」
セサラはまたポットを手に持って聞いてくる。
「いや、もうお腹いっぱいだから遠慮しておくよ」
俺が首を横に振ってお変わりを拒否すると、『……そう』と一言だけ言ってセサラはポットから手を離した。
その表情はどことなく残念がっているみたいだ。
「それにしても、二人ともなかなか戻ってこないね」
沈黙が応接室を覆いそうになったので、俺は咄嗟に思いついた話題をセサラに振った。
だけど彼女は首を一度だけ縦に振って、また無言に戻ってしまう。
話題の選択をミスったかな?
コンコンコン。
『失礼致します』
ちょうどその時、応接室の扉がノックされて、出払っていたメイド長のアムストロさんの声が聞こえた。
よかった、ナイスタイミングです。
ガチャッ。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「遅くなりましたっ」
部屋に入ってきたアムストロさんとマクレイヤさんは、扉の近くで立ち止まると頭を下げてきた。
そして、その扉からもう一人の人物が入って来た。
「お初に目に掛かります。わたしく、当主様より執事長を任されております、ワルター=アムストロと申します。以後お見知りおきを」
入って来たのは白髪に所々黒のメッシュが入ってる、ダンディな男性だった。
彼は左目にレンズが片方しかない眼鏡――つまりモノクルを着けていて、耳に架かっている弦の部分とモノクルの金縁の間には、細い金色のチェーンが垂れ下がっている。
ピアノのコンサートでピアニストが来ているような、腰の後ろ部分の布が長い燕尾服を着ていて、手には真っ白な手袋をしていた。
要約すると、『これぞ執事のお手本!』って感じの人だった。
そしてさらに気になる点があった。
それは名前だ。
「あの、そちらのメイド長のアムストロさんと同じ名前ですよね? もしかして」
「ご想像の通りでございます。こちらのルーシアメイド長は、わたくしの娘です」
やっぱりそうだったのか。
親子(父と娘)で同じ家で働いていて、しかも父親が『執事長』で娘が『メイド長』か。
よっぽど優秀な人達なんだな。
「代々アムストロ家は、このメレディアン家にお仕えしてきた家系であり、現在は当主代理であるセサラ=メレディアン様のお世話をさせて頂いております」
とっても丁寧に教えてくれたアムストロさん(執事長の方)―――うーん、ややこしいな。
でも初対面かつ、年上の人を名前で呼ぶのも何だかなぁ。
「もしよろしければ、我々使用人のことを名前でお呼び頂けませんでしょうか? さすればわたくしとメイド長を呼ぶ時に混乱しませんし、何より、我々の仕事に対するやる気が上がりますので」
さっきまでと比べて、幾らか柔らかくなった口調でアムストロさん(執事長の方)が、顔に笑みを浮かべながら言ってきた。
その雰囲気は、優しいおじさんみたいだった。
………それにしても、メイドさんに続いて執事長のあなたまでもが、相手の心を読むことが出来るんでしょうか?
「執事の嗜みでございます」
確定。
メイドと執事とは、相手の心を読むことが出来る、恐るべき能力者であった。
何だっけ?
サイコメトラー?
「ではお言葉に甘えて。これからは皆さんを名前で呼ばせて頂きます」
どう抵抗してもこの人達相手では、最終的に提案を受け入れる未来しか見えなかったので、俺は早々に提案を受けることにした。
結果が同じなら、時間をかけるだけ無駄だと思うからね。
「恐縮でございます。――さて、あらためまして此度の件、誠に申し訳ありませんでした。心からお詫び申し上げます。つきましては当家よりお詫びとしまして、コレらの品々をイオ様に譲渡致したく思います。是非お受け取り下さい」
腰を曲げた状態で扉の方を手で指し示すと、マクレ――そうだった、これから名前で呼ぶんだった。
扉からセレスティさんが銀のトレーに何かを乗せて持ってきた。
それを俺が座るソファの前にある、テーブルの上に載せる。
トレーの上にあったのは、大小二つの袋と白い便箋が二通だった。
「まずこちらからご説明致します。こちらには金額にして200万のL硬貨が入っています。お確かめ下さい」
ワルターさんはまず大きい方の袋の口を開いて、中身を見せながら説明を始める。
俺は200万Lという大金に驚いて、若干腰がひけてしまったが言われるがままに、硬貨がぎっしりと詰まっている袋に手を触れた。
ヒュンッ!
《2,000,000Lを手に入れました》
そして手を触れた瞬間に袋が消えてしまい、俺の目の前にメッセージウィンドウが現れ、200万Lを手に入れたことを証明していた。
「どうでしたか? 200万Lちょうどありましたでしょうか?」
俺は首を縦にコクコク振って頷くことしかできなかった。
「それはよかった。では次にこちら、こちらの袋には【丸薬】を入れさせて頂いております。紫色の丸薬が体力と魔力を回復する効果があり、黄緑色の丸薬は状態異常を直す効果があります。それぞれ三十粒ご用意致しました」
丸薬とは、ポーションと同じように回復効果があるアイテムのことで、ポーションとの違い固体で回復率も若干優れている。
ゲームを始めた初日に、ポーションを買った店の店主がそう教えてくれた。
「ありがとうございます」
これを俺は素直に喜んで受け取った。
モンスターと戦う以上、回復アイテムは無いに越したことはないからな。
「最後にこちらの二通の書類です。一通は隣街の『ヴァイス』にある『ガルム』という店への紹介状です。もう一通はセサラ様の身分保証書となっております」
二通の便箋を開いて中身を見せてくれた。
俺はそれを手にとって読んでみる。
どうでもいいことだけど、二通とも日本語で書いてあったのでちゃんと読めた。
一通目の『ガルム』という店への紹介状には、ワルターさんからガルム店主への挨拶から始まり、俺がガルムを訪れたら力になってもらいたいという旨が書かれていた。
「ガルムという店は何屋なんですか?」
「ガルムはわたくしの古い友人が営む店でして、鍛冶屋を営んでおります。イオ様は槍を使ってモンスターと戦うとお聞きしました。店主の腕は私が保証致します」
鍛冶屋なのか。
それはありがたいな。
けど……いったいどこで俺が槍を使っているって聞いたんでしょうか?
「それは秘密であります」
とっても良い笑顔でワルターさんは答えてくれた。
きっと彼独自の特別な情報収集ルートとか、そんな感じのがあるんだろう。
もうメイドと執事関係では、何が起きても驚かないぞ。
………たぶん、ね!
気を取り直して、二通目の身分保証書だ。
これはそのままの意味で、『イオという人物の身分について、当主代理であるセサラ=メレディアンが保証する』と一筆したためられていて、恐らくメレディアン家の家紋と思われる赤い判子が押されていた。
「そちらの身分保証書は万が一、イオ様が問題事や厄介事に巻き込まれた際にお使い下さい。メレディアン家は歴史ある由緒正しい家柄でございますゆえ、きっとお役に立てるはずです」
そうだろうね。
まだ俺が寝かされていた部屋と、廊下、この応接室しか見てないけど、信じられないくらい広い上に高級感が溢れてるから、セサラの家は上流なんだろうなとは思ってたよ。
「でも、コレが役に立つような事態に、ならないに越したことはないですけどねー」
俺がそう言うと、ワルターさんも『まったくでございます』と笑って同意してくれた。
俺も笑いながら二通の手紙を手に取って、便箋に入れ直してからそのまま所持品にしまう。
ポォーーン。
ん、今度は何だろう?
頭の中に飛行機の機内アナウンスが始まる前の、呼び出し音みたいな音が響いた。
便箋を仕舞い込んだ時に鳴ったから、《紹介状と身分保証書を手に入れました》とかかな。
そんなことを考えていた。
《第二の街『ヴァイス』への道標を手に入れました。よって、ヴァイスへ向かうための街道が解禁されました》
ポォーーン。
《クエスト発生。ヴァイスの街へ向かいましょう》
ポォーーン。
《現在受注しているクエストは、ステータスから『クエスト状況』の項目を開くことで確認することが出来ます。詳しい条件や進行度合なども確認出来るので、上手く使ってゲームプレイに役立てて下さい》
《※注意! なおこのメッセージはプレイヤーがクエストを受注した際に、初回のみ一度だけ表示されます。それではVRMMORPG“∞”を心ゆくまでお楽しみ下さい》
俺が考えていたことよりも、数段複雑なことが起きていた。
お読み頂きありがとうございます。
新たな街の情報が手に入りました!
街の名前は『ヴァイス』――GTAのシティーとは関係ありませんっ。
『ちょっとしたお知らせ』
気分転換に異世界転移ファンタジーの作品を投稿しました。
メインの本作品の合間に少しずつ書き進めていきたいです。
※姓名の間を『・』から『=』に変更しました。3/31
次話もよろしくお願いします。




