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25.「メイドの嗜みです」

 

 

 

 あの乱闘にも似た騒ぎも俺が適度にダメージを受けた辺りで落ち着いた。

 俺、アムストロさん、マクレイヤさん、当主代理の女の子の四人は、あの部屋から場所を移して、応接室のような部屋に来ていた。

 


 ヌリヌリ、ペタペタ。

 シュル、シュル、キュッ。



「出来た……完璧」



 得意げに鼻をフンスと鳴らす女の子。

 今さっきまでソファに座る俺の横では、女の子が座って俺の体に付いた傷の手当てをしてくれていた。



「ありがと」



 俺が女の子にお礼を言うと、満更でもない様子で腰に手を当てて胸を張っていた。



「あとの片付けは私が」



 そう言って俺と女の子が座るソファの後ろに控えていたアムストロさんが、手当てに使った品々を救急箱にテキパキと仕舞い込む。



「ふ、ふふ。ははは、はぁ……。何、やってるんだろ……わたし。謝る相手に、また同じ事しちゃって。わたし、学習能力無いの? 馬鹿なの?」



 そして部屋の隅には、マクレイヤさんが体育座りのように膝を抱えて一人寂しく黄昏れていた。

 こちらからは背中しか見えないが、落ち込んでいる様子が手に取るように伝わってくる。

 彼女の頭上に『どよ~ん』とした雲のような物が目に見えるようだ。



「マクレイヤさん。俺は別に怒ってませんから。さっきのはこの子を大切にしてるあなたなら仕方がないですよ」



 もう十分すぎるくらい、身に染みて理解してますよ。

 痛む顔面とか、引っ掻かれた腕とか、引っ張られた髪の毛とかでね。



 本当はちょっと文句を言ってやろうかとも考えたけど、俺の方にも落ち度はあったし、何より彼女が本当に反省しているというのが伝わってきたから。

 自分でちゃんと反省出来ているなら、俺から言うことはもうないだろ。

 


「君からも何か言ってあげてくれないかな? 君が励ましたりしてくれれば、彼女もきっと元気になると思うんだ」



 俺は横に座る女の子に話しかけた。

 


「……?」



 だが女の子は『何の話し?』みたいな反応を見せる。

 その手にはいつの間にかマグカップがあった。

 もしかして、飲み物を飲んでて俺の話を聞いてなかったのかのか?



「お客様もいかがでしょうか? 紅茶からワインまで多種多様にご用意致します」



 そしてこれまたいつの間にか、テーブルの上に白に金色の装飾が施されたお高そうなティーセットや、ワインボトルとコルク栓抜きに加えてワイングラスを広げていたアムストロさん。

 あの短時間の間にどうやってここまで用意出来たんだろう?

 というか、どこから持ってきたんですかね?



「メイドの嗜みです」



 心を読んだかのようなタイミングでの言葉に、俺は知らず背中に汗をかいていた。

 きっとメイド長にまで上り詰めるような人だから、何でも出来るんだ。

 そうに違いない。

 そういうことにしておこう。

 


「お心遣いありがとうございます」



 いえいえ、どうってことないですよ。

 ――あまり詮索が過ぎると、嫌なことが怒る予感がするしな………。



 ツッコミなんて入れないし、許可もしないぞ?



「じゃあせっかくなんで、オススメの紅茶でもあればそれをお願いします―――ってそうじゃなくって!」



 クピクピと飲み物を飲む女の子にあらためて声をかけた。



「えっとね、君からマクレイヤさんに声をかけてあげて欲しいんだよ。俺は怒ってないから、もう隅っこにいるのは止めたらって」 



 出来るだけわかりやすく話したつもりだけど、ちゃんとわかってくれたかどうかわからない。

 女の子は今度はちゃんと俺と目を合わせて話を聞いていたから、さっきみたいに聞き逃したってことはないと思うんだけど。



「……セサラ」



 女の子は自分で自分の事を指さしながらそう言った。



「“キミ”じゃない、セサラ」



 どうやら女の子はセサラという名前で、俺が『君』って呼んでいたのが気になっていたみたいだ。



「そっか、セサラちゃんっていうのか。ゴメンね、君なんて呼んじゃってて。俺はイオって言うんだ。よろしくね」



 ここでようやくお互いに自己紹介することが出来た。

 何だかんだで、俺もまだ自分の名前を一度も教えていなかったからな。



「ネーネは、大丈夫。いつものこと」



 ねぇね?

 ねーね、か?

 また新しい人の名前が出てきたけど、話の流れ的にマクレイヤさんのことなのかもしれない。



「“ねーね”って誰のこと? マクレイヤさんのあだ名か何か?」



 俺がセサラにそう質問した時、ちょうどアムストロさんが紅茶を入れ終えたようで、おれに『どうぞ』と静かに差し出してくれた。

 カップをテーブルに置く時に一切の音が出ないのは、さすがメイドさんと言ったところなのだろうか。



「あ、どうもありがとうございます」



 紅茶が淹れられたカップを手に取り、顔へと近づける。

 さっきの部屋で目が覚めた時に、町医者だといっていた男性に勧められた紅茶とはまた違う香りがしたけど、どちらもいい匂いがするのは同じだった。



「ネーネは、隣の家の、お姉ちゃん。……昔、一緒に遊んだ」



 紅茶を飲んでいるとセサラが呟くように言った。



「マクレイヤはこの屋敷の近くに実家を持つ、セサラ様の幼少からの幼馴染みでもあります。その頃からの呼び方なのです……直して頂くよう何度も申し上げているのですが、一向に直される様子が無くて」



 アムストロさんがセサラの言葉を補足するように説明してくれた。

 最後の方はちょっとした愚痴っぽくなってたけどな。



「私の方からも、放っておくことをご提案します。アレは落ち込んでいても、そこから自力で立ち直るのも早いですから」



 それに同意するようにセサラもこくんと首を縦に振る。

 俺よりも彼女のことをよく理解している二人がそう言うのなら、俺がとやかく言うこともないだろう。

 


 と言う訳で、マクレイヤさんについては『現状維持(放置とも言う)』としておこう。



「わかりました。そう仰るなら、このままにしておきます」



 さて、このあとどうしようかな。

 とりあえず紅茶を飲み終わったらお暇させてもらって、今日は一人でモンスターと戦ってこようかな。

 あーその前に一回、クエスト発行所だったっけ?

 そこに行ってみるのも良いな。



「では私はこの度のお詫びの品を用意して参ります。少々お待ち下さい」



 体の正面で両手を重ねて、腰から綺麗に曲げるお辞儀をして応接室を出て行こうとするアムストロさん。

 俺は慌てて彼女を引き留めた。



「ちょっ! ちょっと待って下さい。お詫びの品とか、そんなの全然いいですから。俺別にもう気にしてませんし、ちゃんと謝ってもらったんでそれで十分ですよ」



 実に日本人な俺。

 恐縮して首を横に高速で何度も振って、顔の前で手もブンブン振る。



「お心遣いありがとうございます。ですが、これは当家の面子にも関わることなのです。謝罪の言葉と対応だけで済ませたとあっては、メレディアン家の名に泥を塗ることになってしまいます。お優しいイオ様からしてみればご迷惑かもしれませんが、当家の名と我々を助けると思ってどうかお受け取り下さいませんか?」



 そう言ってもう一度、今度はさっきのお辞儀よりも深々と頭を下げるアムストロさん。

 彼女の姿は頭を下げているという体勢にも関わらず、威厳に満ちあふれた雰囲気を醸し出していた。

 これが本物のメイドさん(メイド長)というものなんだろうか。



「私からもお願いします! どうかお受け取り下さいっ」



 そしていつの間にか復活していたマクレイヤさんが、部屋の隅から移動してきてアムストロさんと同じようにお辞儀をした。

 メイド長のお辞儀とメイドさんの差なのか、仕草の美しさには明らかな差があったが、やはり心から思っての行動だというのは伝わってきた。



 クイッ、クイッ。



「………」



 セサラも俺の服を引っ張り、俺が振り返るとどこか懇願するような目で下から見上げてきた。



「――わかりました。そこまで言われたら、謹んで受け取らせてもらいます」



 根負けという訳じゃないが、俺は姿勢を正して頭を下げた。

 三人の真摯な訴えに対するなら、俺もちゃんと答えないといけないと思ったんだ。



「ありがとうございます。では只今お持ち致します。アナタも手伝いなさい」


「はいっ、わかりました!」



 今度こそアムストロさんは応接室を出て行った。

 マクレイヤさんも手伝うために同行する。



「……おかわり、いる?」


「ん? あぁ、それじゃあもらおうかな」



 いつの間にか空っぽになっていたカップに、セサラがポットから紅茶のお変わりを淹れてくれた。

 俺とセサラの二人しかいなくなった応接室は、自然と静寂に包まれたが、俺は気まずい気持ちになることもなく、むしろ心地良い気分でセサラが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。



「―――にげぇ」



 何故かセサラが淹れてくれた紅茶は、さっき飲んでいた者と同じ物の筈なのに、比べる必要がないくらい苦かった。







お読み頂きありがとうございます!


メイドさんの不思議『どこからともなく物を取り出す』を書くことが出来て、作者は満足です(笑)


それと細かな裏設定なのですが、ゲーム内のNPC達は全員『姓名』があります。

プレイヤーの方は『名』しかありません。

これはアバターネーム設定時に『・や=』などの記号が使えなかった為で、『姓』をつけるとう発想がなかったという設定。


ですが、ある条件をクリアーすると………あとは内緒で!


次話もよろしくお願いします^^

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