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23.「頭、平気?」

※タイトルの話数記載を忘れていたので、書き足しました。3/26

※加筆5/18

 

 

 

 ………う、ぅ。

 ……ん、何、だ?

 何かいい匂い、だな……。



「おや、覚醒が近いようですね。もし? もし? 私の声が聞こえていますか? 聞こえていたら何でも構わないので、反応してみて下さい」



 誰、だろう。

 聞こえ覚えのない男性の声が俺の側から聞こえる。

 もしかして、俺は眠っちゃっていたんだろうか。



「う、ん。今起きまイデェッ!?」



 徐々に意識が鮮明になってきて、どうやらベットの上で横になっていた体を起こそうとしたら、突然体中、特に顔に激痛が走り飛び起きることになった。



「――っ、っ!」



 痛くて仕方なくて思わず、前屈のような体勢で飛び起きた時に、足の方へと飛ばしてしまった布団に顔を突っ込んで動かないようにする。

 筋肉痛のように、少しでも動いたらズキンと痛みが出てくるからだ。



「もう少しだけ我慢して下さい―――《リカバリー》」



 知らない男性の声が聞こえた直後、俺の体の痛みが徐々に引いていった。

 動いても大丈夫になったので顔を上げてみると、男性が俺に向けて両手を向けていて、その掌から水蒸気のような薄い白い(もや)が出ていて、それが俺の体を頭から足にかけて纏わり付くように蠢いていた。



「――どうでしょうか? これで体の痛みは無くなったと思うのですが」



 時間にして一分ほど男性はその行為を続けて、手から出る靄が途切れると俺に確認してきた。



「え? あ……本当だ、痛みが無くなってるっ」



 俺はまるで魔法のような出来事に大きな声を上げてしまう。

 その様子を目の前の男性に見られていることに気が付き、我に返って恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。



「まぁ【治癒魔法】を自身の体に受けるのが初めてならば、そのような反応を見せるのも致し方ないでしょう。私は今までにも似たような方々を何人も見てきていますよ。あ、それとよろしければこちらをどうぞ」



 男性は髪も眉も真っ白だがお爺さんという年齢には見えなかった。

 初老というのかな?

 そのNPCの男性は、柔らかい笑みを浮かべて俺にティーカップを勧めてきた。

 


 起きる前に感じたいい匂いの正体はこれだったのか。

 ティーカップには黄色っぽい液体が入っていて、飲んでみたら紅茶のようだった。

 鼻から抜けていく紅茶の香りが、気持ちを落ち着かせてくれる。



「あの、ありがとうございます。この紅茶も、治療をしてもらったことも」



 さっきこの人が言葉にした《リカバリー》というのが、おそらく【治癒魔法】のスキルで使える魔法なんだろう。

 直前まで痛みで体を丸めていたのに、今はもう何ともなくなっている。

 どれくらいの回復量があるのかわからないけど、かなり効果があるみたいだ。



「いえいえ、お礼ならばこの屋敷の方の方へどうぞ。私はこの屋敷の方からの依頼を受けてやってきた、ただのしがない町医者ですからね」



 そうだったのか。

 俺の事を助けてくれた人が、この男性以外にもまだいるのか。

 そう言われれば、俺が寝ていたこの部屋は借りていた宿の部屋ではなく、何だかやんごとない身分の人が使うようなイメージのする部屋だった。

 床は一面ワインレッドのカーペットに、嗅ぐや調度品は全て清潔感がする純白で、見るからにお値段が張りそうな造りをしている。



「ではこの屋敷の持ち主の方にも感謝しないといけませんね。ですが、あなたの魔法で治して頂いた事実は変わりませんから。本当にありがとうございます」



 こういう筋はきちんと通しておくのが後腐れ無くていい。

 男性も俺の感謝の言葉を今度は『どういたしまして』と受け取ってくれた。



「では私はこれで失礼しますね。屋敷の方にもあなたが目を覚ましたことを伝えておきますので、このまま部屋で待っていて下さい」



 最後に『それでは』と言って踵を返し、部屋を出て行く前に軽く会釈していった初老の男性。

 部屋には俺一人が残った。



 この時は知る由もなかったのだが、実はこの初老の男性NPC、ただの町医者なんてものではなく、フォートの街に拠点を置く“(エンドレス)”の世界でもトップクラスの腕前を持つ『治癒魔法使い』だったのだ。

 名前は『フリストフ』といい、NPCならば誰に聞いても一度は聞いたことのある名前だ。

 だがまだプレイヤーの間での知名度は低く、大々的にその名前が知られるようになるのは、もっと後の話となる。



「さてと、まず状況を整理しようか」



 ベットの縁に腰掛けるように座って考える。

 いつの間にか装備は外されていて、ベッドの反対側にあった台の上に全て揃えられていたので、それに触れて回収しておいた。 



「まずはこの部屋だけど、完璧に身に覚えがないな……眠る前に起きたことって何だったっけ?」



 確か俺は広場で串焼きの女の子と話をしていて、そうだ、その時いきなり女性の大声が聞こえてきて、顔を向けたら………。



「何か良いものを見た気がするんだけど……記憶がはっきりしないな」



 とりあえずその直後からの記憶がなくて、気が付いたらここにいたことになる。

 つまりその前後で俺は何かのせいで眠ってしまって、誰かの手によってこの屋敷に連れてこられて、そしてあのお医者さんを呼んでもらったってことか。



 ―――カチャ。



 俺のいる部屋の扉が小さな音を立てて開いた。

 その音と誰かが部屋に入ってくる気配を感じて、俺は考えるのを止めてそちらを見た。



「平気?」



 そこにいたのは串焼きの女の子だった。

 ただ広場で会った時とは違って、服装がシンプルなワンピースから、フリルがふんだんに使われていて女の子向けのお人形さんが着ているような、つまりゴスロリっぽいドレス風の服に着替えていた。



「頭、平気?」



 トコトコと歩いてベットに腰掛けたままだった俺の前までやってくると、女の子は俺の顔を真正面から見つめてくる。



「さっきお医者さんに治してもらったからね。大丈夫だよ。あと、『頭が平気か』って聞かれると、ちょっと凹むんだけど」



 俺が凹む理由がわからないようで、女の子は『何で?』と聞き返してくる。

 そんな女の子に俺はどう答えたらいいかわからなくて、苦笑いを浮かべるしかなかった。



「――そうだ。この子なら何があったか知ってるんじゃ?」



 この女の子は俺の記憶が途切れる直前まで間近にいたんだ。

 たぶん、いやきっと知ってるはずだ。

 俺に何が起きたのか。

 そして、この子もここにいるのだから、ここはどこで何故ここに俺共々連れてこられたのか。



「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」



 俺が女の子に話しかけた時―――、



 コンコンコン。



『失礼致します。フリストフ様より、お客様がお目覚めになられたと聞き致しました。恐れ入りますが、部屋に入ってもよろしいでしょうか』



 部屋の扉がノックされ、扉の向こうから女性の声が聞こえてきた。

 とても丁寧な口調で、俺は思わず何も考えないで入室の許可を出してしまう。



「ど、どうぞ!?」



 俺が答えると扉を開ける前に、もう一度『失礼致します』と言ってから女性が部屋に入ってくる。

 


 カチャ、バダンッ!



 最初は丁寧にゆっくりと開いていた扉が、いきなり物凄い勢いで開きだして、最後には壁に激突した。

 そして誰かがバタバタと部屋に入ってきて、………突然のことだった。



「この度は誠に申し訳ありませんでしたああああっ!」



 ババッ!

 ズザアァーーー………。



 扉の所には目をまん丸にして唖然としている女性が一人。

 手がドアノブを握るような形で、宙に留まっているところを見るに、最初にゆっくりと扉を開いていたのはこの女性だろう。



 そして、扉が勢いよく開くのと同時に俺の前にかの有名な、ジャンピング土下座(・・・・・・・・・)をしてきたこれまた女性。

 


 扉がいきなり開いたり、生まれて初めて土下座(しかも高難易度のジャンピング土下座!)を目にした俺はかなり驚いたが、それよりもまず気になることがあった。

 それは――――。



「メイド、さん?」



 扉のところで立ち止まっている女性と、目の前で土下座をし続けている女性の格好が、メイドさんだったのだ。

 

 

 

 


お読み頂きありがとうございます。


今回、定番のメイドさんが登場しました。

やっぱりゲームでも、ファンタジーの世界では出さないわけにはいかないですよね?

前話までを読んでいた方々は、おそらく予想が付いていたのではないでしょうか?


それでは、次話もよろしくお願いします。

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