22.「話を聞かせてもらえるか」
今回は最初から最後まで、主人公視点ではありません。
お嬢様を探しに中央広場へやってきた。
最近のお嬢様はこの広場で売られている、モゥモゥの串焼きにご執心のようで、暇さえあればフラッと一人で買い食いしに行ってしまう。
「もっと使用人の数を、増やす必要があるかもしれないわね」
屋敷にはいちおう私以外にも使用人はいるし、門番も常駐しているのだけど、お嬢様はどうやってかわからないがその目をかいくぐって外出してしまう。
その対策を考えながら、いつも屋台が出ている場所までやってきた……のだが、今日に限ってお嬢様の姿がなかった。
「あれ? いつもは屋台の前で買い食いしているはずなのに」
もう顔なじみになってしまった屋台の店主に声をかけてみると、『それなら、ほらあそこだ』と指を指した。
「あっ! いた!」
お嬢様はどこにいるのだろうと心配したが、店主のおかげで早々にその姿を見つけることが出来た。
何やら若い男の人と話をしている様子だ。
「お嬢さ、まっ!?」
小走りに近づいて声をかけようとした時、あろう事か件の男の人がお嬢様の体に手を伸ばした。
しかもその手はお嬢様の『胸元』へと伸びていく。
そしてその顔には『笑み』が浮かんでいた―――。
ぷっちん☆ ぷっつん☆
「ウチのお嬢様に何するつもりよ! このロリコンがーーー!」
気が付いた時には、いつのまにか小走りから全力疾走へと走る速度を変えていた。
そんな私の声に驚いたのか、ロリコン男は私の方を間抜けな顔で見た。
私はしゃがみ込んでいて丁度良い高さにあった、ロリコン男のその間抜け面目掛けて跳び膝蹴りを叩き込む、ということしか考えられなくなっていた。
「――へ?」
ロリコン男がそんな声を上げたような気がする。
そして、その直後―――……。
ドッグシャアッ!
ゴロゴロゴロ、ズザザァーーー………。
私の膝に衝撃が走り、ロリコン男は錐揉み回転しながら吹っ飛んで、最後は石畳の地面をゴロゴロ転がり、最後に滑ってずいぶんと離れた場所で止まった。
お嬢様から少しでも距離を離したかったので上々の結果だろう。
ロリコン男の代わりに、さっきまでアイツがしゃがんでいた場所には私がスタッと着地する。
「お嬢様! お怪我はありませんか!? あの変態に何かされませんでしたか!?」
私は捲し立てるように質問して、お嬢様の体の安否を確認した。
「……ネーネ」
どうやらお嬢様はまだ何もされていたかったようだ。
ケガをした様子もないし、服も串焼きのタレが落ちたのかシミが一カ所付いている以外、着崩れているようなこともなかった。
「よ、よかったぁ。お嬢様に何もなくて」
私は体の緊張が解けてしまい、その場でしゃがみ込んでしまった。
そして、ふと地面に落ちていたハンカチに気が付く。
いたって普通な白い生地を使った物で、お嬢様が日頃持ち歩いている物ではなかった。
「あら? 落とし物かしら?」
落ちていたハンカチを広げて見ていると、誰かが近づいてきて私に声をかけてきた。
「あー、その、ちょっといいかい」
私に声をかけてきた者の正体は、あの屋台の店主だった。
理由はわからないが、店主はなにやら気まずそうな顔をしている。
「はい? 何でしょうか」
私は安心して力が抜けていた体を、ふらつきながらも何とか立たせて店主に向かい合う。
そういえばこの人、屋台をほっぽり出してこんな所にいて良いんだろうか?
「あの、な? さっきお前さんが見事な跳び膝蹴りで吹っ飛ばした、ほら、あの兄さんの事なんだけどな」
私の背後で未だに石畳の地面と熱烈なキッスをしたまま、ピクリとも動かないロリコン男を指し示す店主。
この騒ぎで野次馬も集まってきていて、さすがに動く様子のないロリコン男の安否が気になったのか、中には『おーい?』と声をかけたりチョンチョンと指で突いたりしてる野次馬もいた。
はっ!
ザマァ見ろ!
ウチのお嬢様に手を出そうとするからこうなるのよ!
私は心の中でロリコン男のことを自業自得だと思っていたのだが、バツが悪そうな店主が続けて言い放った言葉を聞いて、頭が真っ白になることになった。
「あの兄さん、この嬢ちゃんの『服の汚れを取ろうとしてただけ』みたいだったぞ。ほれ、お前さんが持ってるそのハンカチ。それはあの兄さんの持ち物だ」
…………………。
……………。
………?
「ふぇ?」
十秒くらいして、何だかよく分からない声が私の口から出てきた。
「それと初めて俺の屋台に嬢ちゃんが来た時、金を持ってなかった嬢ちゃんのために、大量の肉を置いていって奢ってやった奴がいたって言っただろ? 例のあれは、あの兄さんだ」
えっと、それって、どういう、ことなの?
確か、お嬢様は、その人のこと、『良い人』だって、言ってた、よね?
ダラダラダラ。
ダラダラダラ。
ツゥー。
私は必死に考えようとするのだが、頭の中が答えを出すのを拒否しているみたいだった。
だけどだんだん事の次第を理解してくると、私の体から貧血になったみたいにサァーっと血の気が引いてきて、寒さに凍えるように体がプルプル小刻みに震えるが、対照的に汗が止めどなく出て水滴となり顎を伝って地面に落ちる。
「じゃ、じゃあ、も、もも、もしかして」
私は絞るように、そしてすがるような声で店主に問いかけた。
「あの男は、悪いロリコン男じゃ、ない?」
私の質問に店主が答える。
「ロリコン野郎かどうかはともかく、悪い奴ではないのは確かだと思う、ぞ?」
「―――――」
その時、私は思考停止に陥ったが、お嬢様が服の裾を引っ張ってくれたおかげで、現実に戻ってくることが出来た。
「……ネーネ。ちゃんと、謝らないと、ダメ」
そしてお嬢様自らの手でトドメを刺された。
ガチャッ、ガチャッ! ガチャッ、ガチャッ!
「我々はフォート守護の任に着いている騎士団の者だ! 市民から騒ぎが起きているとの知らせを受けてやって来た! 一体何があった! 知っている者がいたら情報提供を頼む!」
恐らく野次馬の誰かが騎士団に通報したのだろう。
重そうな騎士の証である鎧を鳴らしながら、三人の男性が走ってやってきた。
騎士達はさっそく私が吹っ飛ばしたロリ――男性を見つけて、『なんだこれは?!』と驚いたが、すぐに騎士の一人が隣の騎士に指示を出して、動かない男性を様子を確認させる。
残った二人が近くにいた野次馬に何か尋ねると、話をかけられた主婦と思われる女性が私の方を指さし騎士達も私を見た。
あ、目が合いました。
それはもうバッチリと――。
「すまんが話を聞かせてもらえるか。そちらの二人も」
騎士達は私に狙いを定めて真っ直ぐやってきて、有無を言わせず事情聴取を始める。
何故か片手は腰にぶら下がっている剣の柄に掛かっていた。
店主は『はい』と騎士に答えて、お嬢様は無言で頷いた。
「は、はは、ははは」
私は汗をかき引きつった顔をして、乾いた声で笑うしかなかった。
お読み頂きありがとうございます!
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今回は前話の最後に登場した女性視点でした。
ちなみにお嬢様と呼ばれていた女の子が『ネーネ』と呼んでいますが、この女性の名前ではありません。
二人の本名は次話にて判明する予定です。
では最後に、前話を読んでくれた友人から、紳士の方々へのメッセージを……【Yes lolita! No touch!】
次話もよろしくお願いします。




