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VOICEを警戒する政治家

 海翔はそこまで入力すると、椅子の背にもたれた。

「ふう……」

 長く画面を見続けていたせいで、目が少し疲れている。

 飲みかけのコーヒーに手を伸ばした。

 冷めていた。

「ここでか……」

 父のノートの次のページには、久しぶりに見覚えのある名前が大きく書かれていた。

 三浦。

 海翔は少し笑った。

 三浦のことは覚えている。

 子供のころ、何度か遊んでもらった。

 テレビに出ていた元芸人というだけあって、とにかく子供の相手が上手かった。

 海翔が小さいころには、例のギャグも一緒にやった。

「俺だって――」

 そこまで口に出して、海翔はやめた。

「……何やってんだ、俺」

 1人で笑う。

 海翔にとって三浦は、長い間、

 面白いおじさん

 でしかなかった。

 政治家として何をしたのか。

 父と何を考えていたのか。

 子供だった海翔はほとんど知らない。

 だが、今読んでいる歴史では、その三浦がこれから重要な役割を果たすことになるらしい。

「三浦さんが、ここで出てくるのか……」

 海翔は父のノートを持ち上げた。

 小さいころ自分と変なポーズをして笑っていた男と、これから読む政治家としての三浦が、どうしても同じ人物に見えない。

「これはちょっと……ギャップ萌えしそうだな」

 言ってから、また笑った。

 そして次のページを開いた。


 *


 三浦は、このころにはすでに自由共和党に所属していた。

 自由共和党は与党第1党。

 三浦自身の当選回数は3回になっていた。

 もっとも、最初から党の人間だったわけではない。

 初当選した選挙では、周囲からの支援こそ受けていたものの、無所属で立候補している。

 元芸人という知名度があり、本人にも選挙運動のうまさがあったため、無所属でもそれなりに戦えた。

 転機になったのは、その後だった。

 自由共和党所属の議員がスキャンダルで辞職し、その議席をめぐる補欠選挙が行われることになった。

 当時の自由共和党は、その選挙区でかなり苦戦すると見られていた。

 党公認候補を立てれば野党に負ける可能性がある。

 かといって候補を出さなければ、与党第1党として格好がつかない。

 そこで党側が目を付けたのが三浦だった。

 知名度がある。

 無党派層にも比較的強い。

 しかも、思想的にも党と決定的に対立する人物ではない。

 三浦を党へ取り込み、公認候補として立てれば、少なくとも議席を野党へ渡す可能性は下げられる。

 自由共和党が三浦を担いだ形だった。

 ただし三浦も、ただ党へ入ったわけではない。

 交換条件を出した。

 それが、

 電子署名基盤の実装

 だった。

 当時、まだVOICEという名称すらなかった。

 対象も地方自治体に限られていた。

 紙の署名を電子化し、本人確認を伴った形で行政へ届ける。

 その程度のものとして説明されていた。

 自由共和党側にしてみれば、それほど大きな要求には見えなかった。

 地方行政のデジタル化政策の一つ。

 そう考えた者が多かった。

 三浦も、あえてそれ以上の説明をしなかった。

 そして電子署名基盤は実装された。

 後にVOICEという名称を与えられ、利用者からの要望を受けるたびに少しずつ機能を増やしていった。

 自治体への要望。

 国への要望。

 コメント機能。

 利用者同士の対話。

 そのたびに三浦は党幹部へ説明し、担当する官僚との間をつないだ。

 派手な法案を提出するわけではない。

 党内で大演説をするわけでもない。

 細かな制度改正として、一つずつ進めていく。

 その繰り返しだった。


 *


 その日、三浦は議員会館の自室へ北村を呼んでいた。

 北村はデジタル庁の国民向けサービスグループに所属する官僚だった。

 以前は総務省で地方自治分野を担当していたキャリア官僚で、VOICEが自治体中心だった時代から制度に関わっている。

「お忙しいところ、すみません。北村さん。コーヒーでいいですか?」

 三浦が聞いた。

「いえ、三浦さん、お構いなく。こちらからも一度ご相談に伺いたいと思っていましたので」

「じゃあ遠慮なく、僕だけ飲みますね」

「どうぞ」

 2人の間では、「先生」「課長」といった呼び方を使わなかった。

 初めて本格的に仕事をしたとき、三浦が、

「先生って呼ばれると、どうも背中がかゆくなるんですよ」

 と言ったのが始まりだった。

 北村も、

「では私も役職で呼ばれるのはやめましょう」

 と応じた。

 それ以来、お互いに「さん」で呼んでいる。

 三浦はコーヒーを一口飲んだ。

「早速なんですけど」

「はい」

「VOICEから上がってますよね。投票機能と、市民会議を試験的にやってほしいって話」

「上がっています」

「北村さん、あれどう思います?」

 北村はすぐには答えなかった。

 言葉を選んでいる。

「技術的な話と、制度的な話を分ける必要があると思っています」

「というと?」

「技術的には対応可能です。ただし、実施するかどうかについては、すでに行政だけで決めてよい範囲を越え始めています」

「政治案件になった?」

「私はそう認識しています」

 三浦は椅子へ深く座った。

「やっぱりそうなりますか」

「実際、与党のある議員の方からは、かなり慎重な対応を求められています」

 三浦の目が少しだけ細くなった。

「党として?」

「そこが、こちらでは判断できません」

 北村は淡々と答えた。

「その方個人のお考えなのか。一定の議員の方々に共有された懸念なのか。あるいは自由共和党として、今後そういう方向へ意見を集約する可能性があるのか」

「それを僕に聞きたい、と」

「はい。むしろ、その点はこちらから三浦さんにお伺いしたかったところです」

「なるほどなあ……」

 三浦は天井を見た。

「少なくとも、今のところ党の主流意見ではないですよ」

「そうですか」

「というか、誰かが問題にしなければ、VOICE内部の運用改善として北村さんたちで決めちゃってよかったんですけどね」

 少し間があった。

「横槍、入りましたか」

「その表現が適切かどうかは分かりませんが」

「誰です?」

 北村は微笑んだ。

「それは申し上げられません」

「ですよね」

 三浦も笑った。

「聞くだけ聞いてみました」

 北村は続けた。

「逆にお伺いしたいのですが、この件について党内で何らかの方針をまとめていただくことは可能でしょうか」

「うーん……」

「こちらとしては、実施、見送り、どちらの可能性にも対応できるよう準備しています。ただ、長期間判断が宙に浮くのは避けたいと思っています」

「党でまとまるかなあ」

 三浦は首をひねった。

「そもそも議題に上がるかどうか」

「そこまで関心が低いですか」

「VOICEって、党内ではまだ中心課題じゃないんですよ」

 三浦は少し笑った。

「だから僕みたいな下っ端議員が、ずっと担当してるわけで」

 一瞬止まった。

「あ、いやいや。北村さんが下っ端官僚って意味じゃないですよ」

 北村も笑った。

「大丈夫です。私の部署が省庁内の花形ではないことくらい、自分でも分かっています」

「すみません」

「ただ、この仕事には誇りを持っています」

「もちろん。僕もです」

 少し妙な間ができた。

 三浦は咳払いした。

「で、開発そのものは?」

「ほぼ問題ありません」

 北村は説明を始めた。


 *


「ご存じのとおり、VOICEの開発についてはデジタル庁が全体方針を決め、J-LISに基盤部分の運用や自治体との調整を担ってもらっています。そのうえで、複数の民間企業や研究機関から少数精鋭の技術者を集めています」

 J-LIS。

 地方公共団体情報システム機構。

 もともとはマイナンバーカードや住民基本台帳ネットワークなど、地方公共団体の情報基盤に深く関わってきた組織だった。

 VOICEが本人確認基盤を必要としたことから、初期段階から重要な役割を担っている。

「開発方式も、昔の行政システムとはかなり変わっています」

「アジャイルでしたっけ」

「はい。小さく作って、実際に使ってもらい、問題を修正する。それを短い周期で繰り返しています」

「じゃあ、市民会議も作れる?」

「作れます」

「投票機能も?」

「はい」

 北村はあっさり答えた。

「ただし優先順位を変える必要があります」

「何を後回しにするんです?」

「次期開発で予定していた検索機能の拡張や、画面操作の改善などです」

「セキュリティ関係は?」

「そこは後回しにしません」

「ですよね」

「特に投票機能を入れるのであれば、本人認証、重複投票防止、監査ログ、障害時の復旧、外部からの攻撃への対策は、今まで以上に重要になります」

「半年くらい?」

「本番利用の範囲を限定するのであれば、それより早く試験運用まで持っていける可能性があります」

 三浦は少し驚いた。

「早いなあ」

「機能そのものには、それほど新規性がありませんから」

「にしても、最近システム開発って本当に速くなりましたね」

「10年前とはかなり違います」

「VOICEを最初に作ったときも早いと思ったけど、最近ますます速い」

「AIの使い方が成熟してきたのが大きいですね」

「やっぱりAIですか」

「設計補助、コード生成、テストケース作成、脆弱性検査、既存機能への影響分析。かなりの工程を支援できます」

「じゃあ人間はいらなくなる?」

「むしろ逆の面もあります」

「逆?」

「優秀な人間の価値が上がっています」

 三浦が少し首をかしげた。

「どういうことです?」

「能力の高い技術者がAIを使うと、1人で以前の数人分、場合によってはそれ以上の仕事ができます」

「ああ」

「平均的な技術者との差が縮まるというより、広がっている印象があります」

「AIが能力差をなくすんじゃなくて、増幅する?」

「少なくとも今の開発現場では、そう感じます」

 三浦は感心したようにうなずいた。

「どこ行ってもAIだなあ」

 そして、少し姿勢を崩した。

「じゃあ結局、やるかやらないかは僕ら政治側の問題か」

「そういうことになります」

 北村はそこで少し間を置いた。

「これはあくまで、私個人の意見ですが」

「はい」

「VOICEは、国にとってかなり有用な仕組みだと思っています」

 三浦は黙って聞いた。

「行政が国民の不満や要望を、これほど早く把握できる仕組みはこれまでありませんでした。改善すべき点は当然ありますが、機能そのものは今後も拡張していく価値があると思います」

 三浦が笑った。

「いいですね」

「何がです?」

「僕も同じ意見です」

 そして、少し前のめりになった。

「で――そんなVOICEに、急に注目し始めた議員って誰です?」


 *


「ですから、お名前は」

「言えない?」

「はい」

「じゃあヒント」

「三浦さん」

「当選回数は?」

 北村はしばらく黙った。

 それから、わずかにため息をついた。

「三浦さんと同じです」

「3回」

「はい」

「年上?」

「……」

「世襲?」

「三浦さん」

「お父さんも国会議員だった?」

 北村は答えなかった。

 三浦は笑った。

「なるほど」

 頭の中に1人の顔が浮かんだ。

「高山さんですか」

 北村の表情が一瞬だけ動いた。

 それで十分だった。

「ああ……やっぱり」

「私は何も申し上げていません」

「はいはい。僕が勝手に想像しただけです」


 *


 高山。

 自由共和党の衆議院議員。

 45歳。

 三浦と同じ当選3回。

 父親も国会議員だった、いわゆる二世議員である。

 外交や安全保障分野に強く、党内でも将来を期待されている。

 三浦から見ると、正直VOICEとは畑違いに思えた。

 ただ、高山は以前からVOICEについて質問が出るたび、

「便利な仕組みだとは思いますが、政治制度との関係は慎重に考える必要があります」

 と答えていた。

 明確に反対はしない。

 しかし、積極的に推進することもない。

 三浦はその態度が少し気になっていた。

 その後、2人はVOICEの利用者数や新しく増えている要望の傾向について意見を交わした。

 話が終わりかけたころ、北村が思い出したように言った。

「そういえば」

「はい?」

「村田さんからも問い合わせがありました」

 三浦の表情がわずかに変わった。

「村田さん?」

「はい。ただの問い合わせです。市民会議の要望がどの程度出ているのか、と」

「そうですか……」

 三浦は少し笑った。

「まあ、村田さんも気になりますよね。VOICEの生みの親の1人みたいなもんですから」

「そうですね」

 北村はそれ以上言わなかった。

 ただ三浦には、北村が自分の反応を見ているのが分かった。

 ――俺と村田さんの関係、探ってるな。

 外から見れば、2人に深いつながりがあるようには見えない。

 政治家としての立ち位置も大きく違っていた。

 村田は元地方議員。

 その後、知事を2期務めて国政へ転身した。

 国会議員としては当選2回。

 三浦より1回少ない。

 しかし、党内での格はまるで違った。

 地方行政を熟知している。

 政策にも強い。

 知事時代から中央官僚との人脈もある。

 60代半ばでありながら、若手議員からの求心力も高かった。

 さらに、自由共和党の主流派閥に所属し、派閥領袖からの覚えもいい。

 将来の重要閣僚候補。

 場合によっては、その先すらある。

 そんな見方をする者もいた。

 三浦のほうが国会議員としては1期先輩になる。

 しかし党内の力関係で言えば、村田のほうがはるかに上だった。

 そして外から見れば、2人にはほとんど接点がない。

「分かりました、北村さん」

 三浦は話を終わらせた。

「こっちでも少し動いてみます。党の方向が見えてきたら連絡します」

「お願いします」

 北村は立ち上がった。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ」

 北村が部屋を出ていく。

 扉が閉まった。

 三浦は数秒黙っていた。

「……高山さんかあ」

 椅子に深く沈んだ。

「ああ、面倒くさい」

 頭を抱える。

「あの人、なんか苦手なんだよなあ」


 ***


 これまでVOICEの機能追加は、ほとんど行政側の判断で進められてきた。

 行政への要望を分類する。

 コメントを整理する。

 本人確認を簡略化する。

 検索を改善する。

 利用者同士で話せるようにする。

 そうした変更なら、

 行政サービスの改善

 という説明で済んだ。

 デジタル庁にとっても、VOICEが成長することは悪い話ではなかった。

 利用者が増える。

 行政内での重要性が高まる。

 予算が増える。

 人員も増える。

 組織としての発言力も強くなる。

 そのため、庁内にはVOICEの拡張へ比較的好意的な空気があった。

 投票機能についても当初は、

 「VOICE内部の利用規約について利用者の意見を確認するための機能」

 程度から始めるつもりだったらしい。

 そこまでなら、行政システム内部の改善として処理できる。

 市民会議も、

 VOICEの利用ルールを考えるための試験的な意見交換

 と言えばいい。

 少なくとも北村たちは、そう考えていた。

 だが高山が動いた。

 三浦にとって、それは非常にまずかった。


 *


 そもそも三浦は、VOICEについて党内で意図的に目立たないよう振る舞ってきた。

 重要政策だとは言わない。

 日本の民主主義を変えるとも言わない。

 聞かれれば、

「いやあ、便利な電子署名ですよ」

 くらいに答える。

 三浦自身についても同じだった。

 元芸人。

 タレント議員。

 政治家としては三流。

 何となく面白いことを言っている人。

 そのイメージを、むしろ利用していた。

 本気で政策を説明しなければならない場でも、わざと少し大げさな未来像を語ることがあった。

「将来は国民がスマホで政治を決める時代になるかもしれませんよ!」

 と言う。

 当然、古参議員から突っ込まれる。

「三浦君、それでは議会はいらないという話になるじゃないか」

「いやいや、そこまでは考えてないですよ」

 と笑う。

「制度上の問題はどうするんだ」

「そこは専門家の先生方に……」

「何だ、考えてないのか」

「すみません」

 頭をかく。

 そこで話が終わる。

 相手には、

 ――やはり元芸人だな。

 と思わせればいい。

 VOICEに対する評価も、

 三浦が熱心にやっている、ちょっと変わったデジタル政策

 くらいに落ち着く。

 それでよかった。

 本当にVOICEがどこまで成長する可能性があるのかを、党内の実力者たちに真剣に考えてもらう必要などなかった。

 三浦は、ときには意図的に穴のある説明をした。

 相手に突っ込ませる。

 困った顔をする。

 引き下がる。

 そして翌月、別の小さな機能だけを追加する。

 その繰り返しだった。

「三流政治家が、細かい案件で頑張ってる」

 それが一番都合がよかった。


 *


 三浦は秘書を呼んだ。

「ちょっと高山さんの動き調べてもらえる?」

「VOICEですか?」

「うん。最近何かやってないか。党内の勉強会とか、官僚呼んでないかとか」

「分かりました」

 数時間後。

 秘書が戻ってきた。

「三浦さん」

「何かあった?」

「高山議員、議員立法の準備をしているようです」

 三浦の顔から笑いが消えた。

「何の?」

「VOICEに関する法案です」

「……法案?」

「まだ提出前ですが、党内手続きに入る準備をしているようです」

 三浦は黙った。

 議員立法。

 昨日今日思いついて作れるものではない。

 条文を書く。

 関係法令を確認する。

 党内の法務部門と調整する。

 官僚や専門家から意見を聞く。

 少なくとも、かなり前から準備していたということになる。

「いつからだ?」

「正確には分かりません。ただ、少なくとも最近思いついた話ではないと思います」

「だよな……」

 三浦は腕を組んだ。

 VOICEは一部で、

 怪物になるかもしれない

 と言われ始めていた。

 しかし、それはまだ政治関係者のごく一部でしかない。

 多くの国会議員は、

 ――新しいから国民が面白がっているだけだ。

 ――そのうち飽きる。

 ――SNSの流行と同じだ。

 そんな程度に考えていた。

 三浦自身、そう思わせるように努力してきた。

 それなのに高山は、かなり早い段階から違うものを見ていたことになる。

「まずいな……」

 三浦は小さくつぶやいた。

 高山が何を目的に法案を準備しているのかは、まだ分からない。

 VOICEを禁止するのか。

 機能を制限するのか。

 政治的な利用に一定の枠をはめるのか。

 あるいは単に、法的根拠を明確にしたいだけなのか。

 敵と決まったわけではない。

 だが。

「1回会うしかないか」

 三浦は高山の議員事務所へ電話を入れた。

 秘書が出た。

 三浦が面会を希望していると伝えると、少し待たされた。

 やがて返事が来た。

 翌日の午後なら空いているという。

「明日?」

 三浦は思わず聞き返した。

 国会議員同士の予定としては妙に早い。

「はい。高山もぜひ三浦議員とお話ししたいと申しております」

「……分かりました。では伺います」

 電話を切る。

 三浦は受話器を置いたまま、しばらく動かなかった。

「ぜひ、ねえ……」

 そして頭を抱えた。

「怖いなあ」

 秘書が怪訝な顔をする。

「何がです?」

「待ち構えられてる感じがする」

「考えすぎじゃないですか?」

「いや」

 三浦は首を振った。

「あの人、絶対なんか仕掛けてる」

「法案のことですか」

「それだけならいいんだけどなあ」

 三浦は机の上のVOICE関連資料を見た。

 これまで、できるだけ静かに育ててきた。

 目立たせない。

 大物に興味を持たせない。

 小さな行政サービスの顔をさせたまま、少しずつ根を張らせる。

 そのつもりだった。

 だがVOICE自身が、それを許さなくなり始めている。

 利用者が増える。

 機能が増える。

 要望が増える。

 そして、政治家が気づき始める。

 三浦は大きくため息をついた。

「もうちょっと、そっとしててほしかったんだけどなあ」

 誰に言うでもなくぼやいた。

「成長が早すぎんだよ」

 そして、少し恨めしそうにVOICEの資料を見る。

「目立つじゃねえか、お前」

 翌日。

 三浦は初めて、VOICEを本気で警戒している政治家と向き合うことになる。


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