国民が選んだ総理候補
2039年秋。
君塚は、思いもよらない知らせを受けた。
「……うちの先生が、デジタル大臣ですか?」
思わず聞き返した。
電話を切ったあとも、しばらく意味が分からなかった。
「どこをどうしたら、そういう人事になるんだ……」
君塚は公共未来党党首、柴田明彦の私設秘書だった。
秘書団の中では一番若い。
当然、重要情報が最初に回ってくる立場でもない。
今回も、連立協議の詳細についてはほとんど知らされていなかった。
もっとも、テレビで発表される前に聞けただけでも、
――一応、俺も中の人間なんだな。
という小さなプライドは保てた。
*
思い当たることはあった。
数か月前。
VOICEで流行していた「ネクストキャビネット」である。
もともとは利用者が勝手に、
「自分なら誰を大臣にするか」
を選ぶ遊びだった。
だが似たようなスレッドが乱立し始めると、
「だったら一度まとめてやってみよう」
という話になった。
複数の大規模スレッドが合同し、各閣僚ポストについて候補者を推薦する。
そこで利用者の支持を集計する。
もちろん公式の制度ではない。
政治的拘束力もない。
ところが結果が予想以上に注目された。
その中で、デジタル担当については柴田が圧倒的だった。
二位以下に大きな差をつけて一位。
他の閣僚ポストでは候補が割れていた。
財務は3人。
厚生労働は4人。
外務も複数の有力政治家に支持が分散していた。
ところがデジタルだけは、
柴田明彦。
ほぼ一強だった。
公共未来党がVOICEを一貫して支持してきたこと。
柴田自身が制度設計について何度も発言してきたこと。
そして、もともと自由共和党に所属していた時代から行政デジタル化に関心を持っていたこと。
その蓄積だった。
*
その結果を見たV監――VOICE情報利用監督委員会でも、
「政治家の政策分野別評価は、公式調査として意味があるのではないか」
という議論が始まった。
このころのV監には、かなり野心的な委員がそろっていた。
VOICE側代表だけではない。
国会選出の委員にも、VOICEの機能拡張に積極的な議員が増えていた。
折しも、自由共和党では総裁選挙が近づいていた。
政治家側も、
誰を党の顔にすれば国民の支持を得られるのか
という情報を欲しがっていた。
VOICEによる調査は、その材料の一つになった。
*
総理候補として最も高い評価を受けたのは、大久保だった。
自由共和党の中堅からベテランへ差しかかった政治家である。
VOICEには比較的好意的。
ただし熱烈な推進派ではない。
ほかの政策についても、極端に強い主張をする人物ではなかった。
そのかわり、
安心感がある。
という評価が強かった。
行政実務に詳しい。
人の話を聞く。
敵を必要以上に作らない。
不祥事もない。
派手ではないが、任せれば無難にまとめる。
典型的な調整型政治家だった。
VOICE内でも、
「大改革するなら別の人だけど、今の日本を任せるなら大久保」
「総理向きというより、総理にしても怖くない人」
「地味だけど実務家」
といった評価が多かった。
褒めているのか分からないものもあったが、それでも支持は高かった。
*
大久保は自由共和党総裁選を制した。
そして総理に就任すると、間を置かず衆議院解散に打って出た。
党独自の情勢調査でも優勢。
VOICEの調査でも高い内閣期待値が出ていた。
今なら勝てる。
そう判断したのだろう。
結果として、その読みは当たった。
自由共和党は議席を伸ばした。
ただし問題が一つあった。
それまで連立を組んでいた小政党が大きく議席を減らしたのである。
自由共和党単独では過半数に届かない。
従来の連立相手を加えても、ぎりぎり足りなかった。
当初は、
無所属議員を何人か取り込めば何とかなる
と見られていた。
政治評論家もその前提で話していた。
ところが大久保が選んだのは、別の方法だった。
公共未来党との連立。
*
「そこまでやります?」
君塚は先輩秘書に聞いた。
「俺も最初聞いたときは驚いたよ」
公共未来党は参議院では、前回の躍進によって野党第1党になっていた。
しかし衆議院では事情が違う。
小選挙区制の壁があり、議席では野党第3勢力にとどまっていた。
それでも大久保は、その公共未来党と組んだ。
政策の方向性には共通点も多い。
行政改革。
デジタル化。
政治資金透明化。
財政規律。
一方で社会保障、労働政策、安全保障などでは細かな違いもあった。
それでも選挙前から水面下で話が進んでいたのだろう。
連立合意は驚くほど早かった。
*
君塚は先輩秘書と事務所の隅で話した。
「VOICEのアンケート結果、大久保さんの判断に影響したんですかね」
「そりゃしただろうな」
「やっぱり?」
「他の大臣候補は割れてたのに、デジタルだけはうちの先生が飛び抜けてたからな」
「だから柴田先生にデジタル大臣を?」
「それだけじゃないだろうけどな」
先輩秘書はコーヒーを飲んだ。
「連立するなら、公共未来党にも看板になるポストを渡さないといけない」
「ああ」
「財務や外務は自由共和党が手放さない。厚労も重い。じゃあ公共未来党が一番成果を出しやすくて、党のイメージにも合うところはどこか」
「デジタル」
「そういうこと」
「党内から反発なかったんですかね」
「当然あっただろ」
「ですよね」
「でも柴田先生、もともと自由共和党だからな」
「古巣ですもんね」
「昔の仲間もいる。完全な外様じゃない」
君塚はうなずいた。
世間も、おそらく同じように見るだろう。
*
「大久保さん、これからVOICE横目に見ながら政治するんでしょうね」
君塚が言った。
「横目どころか、正面から見るんじゃないか」
「そこまで?」
「今までは総理が気にするのは、まず党内だった」
派閥。
支持団体。
連立相手。
世論調査。
報道。
「これからは、その中にVOICEが入る」
「僕でもそうしますよ」
「お前が?」
「もし総理ならですよ」
「ならないから安心しろ」
「可能性ゼロと言い切らないでくださいよ」
「ゼロだ」
2人で笑った。
*
君塚は人事表をもう一度見た。
「村田さんが官房長官っていうのも、僕はちょっと意外でした」
「そうか?」
「はい」
「村田さんと大久保さん、昔から近いぞ」
「そうなんです?」
「地方行政関係で一緒に仕事してた時期がある。大久保さんは調整型だから、村田さんみたいに政策も党内事情も分かる人を官房長官に置くのは自然だと思う」
「なるほど」
君塚はさらに一覧を見た。
「高山さんは防衛大臣」
「ああ」
「こっちは派閥バランスですか」
「それもあるだろうな」
高山はVOICE慎重派。
外交・安全保障分野の実績も積んでいる。
防衛大臣なら専門性にも合う。
「でもVOICEの立場でもバランス取ってません?」
「というと?」
「総理の大久保さんは穏健な推進派。柴田先生は積極派。村田官房長官も積極派」
「うん」
「そこに慎重派の高山さんを防衛大臣として入れる」
「なるほど」
「VOICE推進内閣だけど、反対意見も排除してませんよ、って見せられる」
先輩秘書が感心したように君塚を見た。
「お前、たまにはちゃんと考えるな」
「失礼だな」
「ただ、別の見方もできる」
「何です?」
「高山さんを党に置いとくとうるさいから、政府に抱え込んだ」
「ああ……」
「防衛大臣なら仕事は山ほどある。VOICEばかり相手していられん」
「それ、ありそうですね」
*
君塚は人事表を下へスクロールした。
「VOICEといえば、三浦さんも入ってますね」
「ああ」
「デジタル大臣政務官」
「とうとう政府入りか」
「当選5回ですからね」
「むしろ遅いくらいだ」
「ずっとVOICEばかりやってましたから、入れるならデジタルが一番自然ですよね」
「ただ」
「はい?」
「柴田先生と三浦さんじゃ、VOICE積極派が2人だ」
「確かに」
「だから副大臣は桑田さん」
「ああ」
桑田は自由共和党のVOICE慎重派だった。
反対派というほどではない。
ただ、
「VOICEは行政参加の補助手段であり、国会の意思決定を代替すべきではない」
という立場を一貫して取っている。
「大臣が積極派、副大臣が慎重派、政務官が積極派」
「バランス取ってるな」
「三浦さん、喜んでますかね」
「そりゃ喜ぶだろ」
「やっぱり?」
「当選5回して政府の役職経験ゼロだったら、本人も多少気にするだろう」
「元芸人のタレント議員扱いも、まだ残ってますしね」
「嬉しいというより」
先輩秘書は少し考えた。
「ほっとした、じゃないか」
***
三浦は、かなり喜んだ。
いや。
正確には、
安心した。
が一番近かった。
当選5回。
自分でも選挙には強いと思っている。
もっとも三浦の選挙運動は、相変わらず独特だった。
最初のころから売りにしてきた、
貧乏選挙。
を今でも続けていた。
実際には、国会議員として5回当選すれば、それなりの資金を使うことはできる。
支持者もいる。
党からの支援もある。
しかし急に豪華な選挙を始めたら、
「三浦も変わったな」
と言われる。
それが嫌だった。
それに何より。
三浦自身が、金を使わない選挙に慣れすぎていた。
事務所の椅子は古い。
選挙カーも最低限。
ポスターも無駄に種類を増やさない。
スタッフから、
「もう少し金使えますよ」
と言われても、
「何に?」
と聞き返す。
結果として政治献金もあまり集めなかった。
*
一度だけ、政治資金パーティーを開いたことがある。
「国会議員になったんだから、1回くらいやってみたい」
そんな程度の理由だった。
ところが元芸人の人脈が災いした。
1枚のパーティー券を買った若手芸人が、
「後輩2人連れてきました」
と言って3人で来る。
別の芸人は5人連れてきた。
「いや、お前、1枚だろ」
「三浦さん、細かいこと言わないでくださいよ」
「いや、政治資金なんだけど」
「芸人仲間じゃないですか」
追い返すこともできない。
追い返したら翌日のネット番組で何を言われるか分からない。
そのまま入れた。
当然、料理が足りなくなった。
「先生、追加します?」
秘書に聞かれた。
「するしかないだろ!」
寿司。
揚げ物。
飲み物。
追加注文が続いた。
最終的には、
政治資金パーティーを開いたのに主催者が赤字
という、極めて珍しい結果になった。
三浦は二度とやらなかった。
*
議員報酬も、生活費と選挙資金を除けばかなり余った。
三浦には妻も子供もいない。
そこで一部を子ども食堂などへ寄付するようになった。
政治的な宣伝には、あまり使わなかった。
というより、そこで子供たちと遊ぶのが単純に好きだった。
ある日。
「おい三浦!」
小学生に呼ばれた。
「先生くらい付けろ!」
「三浦、あのギャグやって!」
「人の話聞けよ!」
周りの子供たちが笑う。
三浦は仕方なく立ち上がった。
「俺だって――」
子供たちが一斉に続ける。
「バカじゃない!」
「俺に言わせろ!」
また笑いが起きる。
子供は忖度しない。
つまらなければ笑わない。
笑うときは本当に笑う。
三浦にとっては、それが気持ちよかった。
*
政府入りの連絡が来たのは、組閣の数日前だった。
電話をかけてきたのは村田だった。
新内閣で官房長官への就任が固まっていた村田は、政務三役人事の調整にも深く関わっていた。
『三浦君』
「はい」
『デジタル大臣政務官をお願いしたい、と総理が言っている』
三浦は一瞬黙った。
「……僕ですか?」
『君以外に誰がいる』
「いや、そうですけど」
『受けるな?』
「もちろんです」
即答だった。
「よろしくお願いします」
『分かった』
ここまでは正式な話だった。
少し間があった。
村田の声が変わった。
『やっと表で電話できるな』
三浦が笑った。
「本当ですね」
『今までコソコソしすぎた』
「秘書がいるときは連絡もしませんでしたからね」
『これからは官房長官とデジタル政務官だ。仕事で話しても誰も不思議に思わん』
「楽になります」
『おめでとう、と言っていいのかな』
「いいですよ」
三浦は笑った。
そして本音を言った。
「でも、嬉しいというより、ほっとしました」
『ほっとした?』
「当選5回ですよ」
『ああ』
「5回当選して政府の役職一度もなしって、さすがに肩身狭くなってきてたんですよ」
村田が笑った。
『党のほうでも、今回はどこかへ入れること自体は決まっていた』
「本当ですか」
『ああ』
「デジタルは村田さんの推薦?」
少し間があった。
『今回は否定しない』
「珍しいですね」
『俺がかなり強く推した』
三浦の表情が少し真剣になった。
「理由は?」
『この内閣で、VOICEは正念場を迎える』
「正念場?」
『ああ』
村田は続けた。
『総理は、年金問題をVOICEで議論させるつもりだ』
三浦から笑みが消えた。
「……年金ですか」
*
年金問題。
2034年の財政検証で、将来見通しは政府想定より悪化していることが明らかになった。
出生数。
労働人口。
賃金。
高齢者人口。
複数の数字が悪い方向へ動いていた。
その後、政府は細かな修正を繰り返した。
適用範囲を広げる。
積立金運用を見直す。
高齢者雇用を促進する。
給付の調整方法を変える。
しかし根本的な問題は先送りされた。
そして2030年代末。
団塊ジュニア世代が、本格的な年金受給世代へ近づき始めた。
もう先送りできない。
給付を抑えるのか。
保険料を上げるのか。
税を投入するのか。
受給開始年齢を変えるのか。
高所得高齢者の給付を調整するのか。
現役世代の負担をどこまで認めるのか。
どれを選んでも誰かが怒る。
*
「本格的ですね」
三浦が言った。
『ああ』
「しかも、いきなり一番難しい部類じゃないですか」
『そうだな』
「世代で利害が真っ二つになる」
『所得でも違う。職業でも違う。家族構成でも違う』
「国民全体の議論になりますね」
『それが総理の狙いだ』
三浦は少し考えた。
「国会と政府が何年も苦労して、結論を出せなかった問題をVOICEに?」
『どうやっても批判されるからな』
「ですよね」
『政治家は次の選挙がある。自分から国民に負担増を言うのは難しい』
「それを国民自身に議論してもらう」
『そういうことだ』
三浦は椅子から立ち上がった。
少し興奮していた。
「これ、成功したら大きいですよ」
『分かってる』
「政治資金問題とはレベルが違う。あれは国民と政治家で利害が分かりやすかった」
『今回は違う』
「国民対国民になる」
『ああ』
「若者と高齢者だけじゃない。高所得と低所得。正社員と自営業。子供がいる家庭といない家庭」
『だから試される』
三浦はすぐに一つの言葉を思い出した。
「倉沢モデルですね」
『俺もそう思っている』
村田が答えた。
「利害の違う人間を同じテーブルに乗せる」
『地方でやったことを、国政規模でやる』
「うまくいけば、VOICEが一皮むける」
『そうだ』
*
三浦は一つ気になった。
「高山さんは反対しなかったんですか」
電話の向こうで村田が少し笑った。
『しなかった』
「意外ですね」
『総理と3人で話した』
「高山さんも?」
『ああ』
「何て?」
『むしろやってみればいい、と』
三浦は眉をひそめた。
「……怖いな」
『俺もそう思った』
「絶対、違う未来を見てるでしょう」
『見てるよ』
「どんな?」
『VOICEで年金を議論させれば、国民同士の利害対立がむき出しになる』
三浦は黙った。
『高齢者は給付を守りたい。現役世代は負担を減らしたい。子育て世代は年金より子供へ回せと言う。自営業者には自営業者の事情がある』
「はい」
『まとまらない』
「なるほど」
『最後には国民自身が、“やっぱり、こういう問題は選挙で選んだ政治家が責任を持って決めるしかない”と考える』
三浦は感心した。
「代表制民主主義の価値を、逆にVOICEで証明する」
『高山はそう読んでる』
「あり得ますね」
三浦は素直に認めた。
「十分あり得る」
『だから高山も賛成した』
「同じ制度に、真逆の期待をしてるわけだ」
『面白いだろ』
「当事者だとあんまり面白くないですよ」
*
村田は続けた。
『そういう状況だから、君をデジタル庁へ入れた』
「なるほど」
『大臣は柴田さんだ』
「VOICE推進派の総本山みたいな人ですね」
『君も似たようなものだろ』
「僕は隠れ推進派です」
『もう隠れる必要はない』
「え?」
『三浦君』
村田が少し笑った。
『もう自己演出はやめていいぞ』
三浦は黙った。
長い間、
元芸人。
三流政治家。
少し変わった政策だけ熱心なタレント議員。
そう見えるようにしてきた。
VOICEを守るためだった。
自分ごと軽く見てもらう。
VOICEまで軽く見てもらう。
そのほうが育てやすかった。
だがもうVOICEは、政治家が知らないふりをできる規模ではない。
「……分かりました」
少し間を置く。
「じゃあ」
『何だ』
「やっと本気出せますね」
『今まで本気じゃなかったのか』
「そこは言葉のあやです」
2人は笑った。
*
電話を切ると、すぐに部屋の外から声がした。
「先生、入っていいですか?」
「どうぞ」
秘書が顔を出した。
先ほどから落ち着かなかったのだろう。
「どうでした?」
「何が?」
「何がじゃないですよ! 官房長官から電話来てたんでしょう」
「ああ」
「人事ですか?」
「うん」
少し間を取った。
「デジタル大臣政務官」
秘書は一瞬固まった。
「……政務官?」
「うん」
「デジタル?」
「そう」
顔がゆるんだ。
「よかった……」
「何だよ、その反応」
「いや、もっと格下のところかと思ってました」
「失礼だな!」
「だって先生、当選5回なのに今まで何にもないから」
「言うなよ」
「これで秘書仲間にも顔が立つ……」
秘書は笑っていた。
目が少し潤んでいるようにも見えた。
三浦はそれに気づいたが、指摘しなかった。
「お前も気にしてたの?」
「そりゃ気にしますよ」
「俺以上に?」
「先生は気にしてないふりしてましたから」
「ふりじゃないよ」
「嘘ですね」
「……まあ、ちょっとは」
*
三浦は少し得意になった。
「でも俺さ」
「はい」
「デジタル庁なら、長官とか副長官でもやれると思ってるけどな」
秘書が黙った。
「何?」
「先生」
「うん」
「デジタル庁は、大臣、副大臣、大臣政務官です」
三浦は止まった。
「……長官じゃないの?」
「違います」
「庁なのに?」
「はい」
「気象庁は長官じゃん」
「デジタル庁はデジタル大臣です」
「……そうなの?」
「知らなかったんですか?」
「いや」
三浦は少し考えた。
――長官のほうがかっこいいのに、大臣か、知らなかった
――知らなかったと正直にいうべきか。
――いや自己演出は終わりだ。賢い面を見せる必要がある。
「知ってたけど、一瞬混ざった」
「絶対知らなかったでしょう」
「5回当選してても知らないことはある!」
「威張らないでください」
「俺だって――」
「それでごまかさないでください」
三浦は笑った。
秘書は大きくため息をついた。
村田から、
もう自己演出はやめていい
と言われたばかりだった。
三浦は思った。
――まあ。
――解除は少しずつでいいか。
いきなり別人になる必要もない。
それに。
今のは演技ではなかった。
そこだけは、秘書には黙っておくことにした。




