お金が必要なので、冒険者ギルドに登録します
町の中心部に建つ冒険者ギルドは、俺が想像していたよりもずっと大きな建物だった。
分厚い木材で造られた三階建ての建物には、剣と盾が交差した看板が掲げられている。扉を開けて中へ入ると、酒と汗、それから革の匂いが入り混じった独特な空気が鼻をついた。
建物の中には、鎧を身につけた戦士からローブ姿の魔法使いまで、さまざまな人たちが集まっていた。掲示板の前で依頼書を眺めている者もいれば、朝から酒を飲んでいる者もいる。
うわあ、本物の冒険者ギルドだ~~!
地球ではゲームやアニメでしか見たことのない光景が目の前に広がり、俺は思わず辺りをきょろきょろと見回した。
「見ない顔だな」
低く荒々しい声が聞こえ、隣を見ると、大きな斧を背負った男がこちらを見ていた。
「ぼ、冒険者になろうと思って来ました!」
「そうか。受付はあっちだ。あまりきょろきょろしていると怪しい奴に見られるかもしれねえから、さっさと行ってこい」
「あっ、ありがとうございます!」
険しい見た目とは裏腹に、なかなか親切な人だった。
俺は男が指さした方向へ向かった。受付には、茶色い髪をきれいにまとめた若い女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。本日は冒険者ギルドにどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をしたいんです」
「新規登録ですね。こちらの申請書に、お名前と年齢、使用できる武器や魔法をご記入ください。文字の読み書きが難しい場合は、こちらで代筆することもできますよ」
幸い、俺はこの世界の文字を読むことができた。カミカゼから与えられた転生特典なのか、文字を見た瞬間にその意味が自然と頭に入ってきたし、もちろん書くこともできた。
俺は申請書に名前と年齢を記入した。
カイト、十六歳。
シノミヤという姓は書かなかった。いや、正確にはもう使う必要がなかった。
シノミヤ・カイトは地球で暮らしていた二十二歳の俺であり、異世界に転生した今の俺は、十六歳の少年カイトなのだから。
申請書を書き進めていた俺の手が、使用できる武器と魔法を記入する欄で止まった。
俺が持っている能力は《ランダムガチャ》だけだ。だからといって、初対面の相手に自分の能力をそのまま明かすわけにはいかない。
銀貨さえ入れれば、どんな物でも手に入れられるスキルだと知られたら、何が起こるか分からない。
結局、その欄には「なし」と記入した。
「確認いたしますね」
申請書を受け取った受付嬢は内容に目を通すと、しばらく俺の顔を見つめた。
「武器も魔法も使えないのですか?」
「はい……今のところは」
「冒険者は魔物と戦う機会が多い職業です。戦闘経験がないのであれば、最初から討伐依頼を受けることはおすすめできません」
「戦わなくてもできる依頼はありますか?」
「もちろんです。薬草採取や町中でのお手伝い、荷物運びなど、比較的安全な依頼もありますよ」
彼女はそう言うと、受付台の下から小さな金属板を取り出した。
その金属板には、俺の名前と一緒に大きなFの文字が刻まれていた。
「冒険者ギルドに登録された方は、全員Fランクからのスタートとなります。依頼を着実に達成して実績を積めば、Eランクへ昇格できますよ」
「登録料はいくらですか?」
「初回の登録は無料です。ただし、ギルドカードを紛失した場合は再発行料として銀貨五枚をお支払いいただきますので、ご注意ください」
銀貨五枚か。絶対になくさないようにしないとな。
俺は受け取ったギルドカードをポケットの奥深くにしまった。
「ギルドが仲介した依頼を達成した際は、報酬の一部を手数料としていただきます。また、依頼中に故意に問題を起こしたり、依頼人の物を盗んだりした場合は、冒険者資格が停止されることがあります。ほかの冒険者との私闘も禁止されています」
「分かりました」
一通りの説明を終えると、受付嬢は初心者向けの依頼書を何枚か見せてくれた。
その中から俺が選んだのは、町の外れに生えている回復草を採取する依頼だった。
根を傷つけずに採取した回復草なら一本につき銅貨二枚、状態の良いものなら銅貨三枚で買い取ると書かれている。
「回復草を見たことがないんですけど、大丈夫でしょうか?」
「こちらが回復草です」
受付嬢は、見本として保管している薬草を取り出して見せてくれた。
細長い葉の中央には白い筋が伸びており、葉先が三つに分かれている。
「よく似た草もありますので、葉の中央にある白い筋を必ず確認してください。採取場所は東門から歩いて二十分ほどの草原です。森の奥にさえ入らなければ、危険な魔物と遭遇する可能性も低いですよ」
「それなら、この依頼にします」
「新しく登録された冒険者には、採取用の袋を一つ支給しています。戻ってきたら、右側にある買取窓口へお持ちください」
俺は袋を受け取ってギルドを出た。
東門から続く道を歩いていくと、広大な草原が見えてきた。遠くには深い森が広がっていたが、受付嬢の忠告を思い出し、森には近づかないようにした。
問題は、回復草が思っていたほど簡単には見つからないことだった。
「白い筋があって、葉先が三つに分かれている……」
しゃがみ込んで何度も草を確かめたが、そのほとんどが何の変哲もない雑草だった。
ようやくそれらしい草を見つけて引き抜こうとしたところで、白い筋がないことに気づいたこともあった。
薬草採取なんて、適当に草を引き抜けばいいだけだと思っていたのに、これも意外と簡単じゃないな。
そうしてしばらく辺りを歩き回った末、岩陰でようやく最初の回復草を発見した。
「見つけた!」
興奮して茎を引っ張ろうとした俺は、受付嬢の言葉を思い出して手を止めた。
報酬として買い取ってもらうには、根を傷つけずに採取しなければならない。
周囲の土を指で慎重に掘り、根まで傷つけないように引き抜いた。葉の状態も良く、中央の白い筋もはっきりしている。
コツをつかんでからは、採取する速度も上がっていった。
回復草は日差しの強い場所よりも、岩や木の陰に多く生えているようだった。
どれくらい時間が経っただろうか。
持ってきた袋が半分以上埋まった頃、俺は腰を伸ばして空を見上げた。太陽は少しずつ西へ傾き始めていた。
これ以上欲張ったら、町へ戻る前に暗くなってしまうかもしれない。
俺は採取を切り上げ、冒険者ギルドへ戻った。
買取窓口の職員は、袋から回復草を一本ずつ取り出して状態を確認していく。
「通常の回復草が二十二本、状態の良い回復草が三本ですね。根もほとんど傷ついていません。初めて採取したにしては、かなり上手ですよ~」
通常の回復草二十二本で銅貨四十四枚。状態の良い回復草三本で銅貨九枚だ。
「報酬は合計で、銀貨五枚と銅貨三枚になります」
トレーの上に並べられた五枚の銀貨と三枚の銅貨を見て、胸が高鳴った。
異世界で初めて稼いだお金だ!
しかも、銀貨一枚があればガチャを一回回せる。
あちこちで話を聞いてみたところ、安い宿でも一泊銀貨二枚、食事にも銅貨六枚から八枚ほど必要らしい。
今日稼いだお金を全部使ってしまえば、今夜泊まる場所すらなくなってしまう。
でも……一回くらいなら、回してもいいんじゃないか……?
俺はギルドの近くにある宿で部屋を取り、簡単な夕食を済ませた。
残ったお金は銀貨二枚と銅貨五枚。
ベッドに腰かけた俺は、銀貨を一枚、手のひらに載せた。
「一回だけ……」
《ランダムガチャ》を使うことを意識すると、目の前に半透明のガチャマシンが出現した。
コイン投入口の上には、見慣れた文字が浮かんでいる。
『ガチャ一回:銀貨一枚』
俺はしばらく銀貨を見つめた末、とうとうコイン投入口へ押し込んだ。
カチッ。
ガチャマシンの中で、何かが回転する音が聞こえ始めた。
ピロリ~ン――
そして次の瞬間、真っ白な光が部屋いっぱいに広がった。




