女神を獲得してしまいました!
真っ白な光が、部屋いっぱいに広がった。
あまりの眩しさに、俺は反射的に目を閉じた。ガチャマシンの中から聞こえていた音が次第に大きくなり、突然、頭上で何かが弾けたような音が響く。
ポンッ!
「きゃあっ!」
「えっ?!」
誰かの悲鳴とともに、ずしりとした衝撃が伝わってきた。俺はそのままベッドの上に倒れ込み、正体不明の何かが俺の上へと落ちてきた。
光が少しずつ消えていく中、俺は恐る恐る目を開けた。
最初に目に入ったのは、澄み渡る青空をそのまま映したような青い髪だった。腰近くまで伸びた長い髪が、俺の肩やベッドの上に流れ落ちている。
その隙間から覗く顔は、驚くほど美しかった。
雪のように透き通った肌に、すっと通った鼻筋。光の加減によって青や金に色を変える、神秘的な瞳。頭には、星と小さなガチャ玉を思わせる金色の髪飾りがついていた。
白と青を基調とした神聖な衣装からは、淡い光が漂っている。人間というより、神聖な絵画の中からそのまま抜け出してきたかのような姿だった。
見た目だけなら、俺と同じくらいの年齢に見える。
え? あれ……ま、まさか!!!!
「……カミカゼ様?」
「……カイト?」
俺の上に落ちてきた青髪の少女――いや、ガチャの女神カミカゼが、大きく目を見開いた。
互いの顔は、思っていたよりもずっと近い位置にあった。
状況を理解できず、俺たちはしばらく何も言えなかった。カミカゼの青金色の瞳には、困惑する俺の顔がそのまま映っていた。
「…………」
「…………」
しばらくして、カミカゼの顔が一瞬で真っ赤になった。
恐らく俺の顔も、似たような状態になっているだろう。
「きゃああああっ! ど、どこを見ておるのじゃ、バカカイト!! 不敬じゃぞ!!!」
「俺だって見たくて見ているわけじゃありませんよ!! とにかく上から退いてください!」
「言われなくても分かっておるのじゃ!」
カミカゼは飛び上がるように俺の上から退いた。俺もベッドの端へ移動し、乱れた服を整えた。
突然の出来事のせいで、心臓はまだ激しく鳴っている。
それにしても、どうしてカミカゼ様がここにいるんだ?
俺は確かに銀貨一枚を入れて、《ランダムガチャ》を回した。景品が出る直前に光が弾けて、その直後にカミカゼが現れたわけで……。
ま、まさか……。
俺の疑問に答えるように、目の前へ半透明のウィンドウが現れた。
『おめでとうございます!』
『EXランク《ガチャの女神カミカゼ》を獲得しました』
『当該ガチャは、世界に一つしか存在しません』
俺は目の前のメッセージを何度も読み返した。
EXランク……。
ガチャに存在する六つのランクの中で、最も高いランクだ。しかも、その景品が武器やスキルではなく、ガチャの女神カミカゼだなんて……!
「本当に……引いちゃった?」
「何を言っておるのじゃ?!」
カミカゼが、いまだ赤い顔のまま尋ねてきた。
俺は何も言わず、目の前のメッセージを指さした。カミカゼもシステムウィンドウを確認すると、泣きそうな顔を浮かべたまま、その場で固まってしまった。
「……あり得ぬのじゃ……」
「ここには、カミカゼ様が景品だとはっきり書いてありますけど?」
「そんなはずがあるものか! この身はガチャを司る女神! 引かれる側ではなく、ガチャを引く者たちを見守る存在なのじゃ!」
「それでも、引かれたのは事実ですよね」
「銀貨一枚で、女神であるこの身を引いたというのか?!」
カミカゼは信じられないと言わんばかりに、両手で頭を抱えた。
「そもそも、この身のような存在が出る確率など、ほとんどないのじゃ。数億回引いたところで、一度出るかどうかという確率なのじゃぞ!」
「あっ。それなら、確率が完全にゼロというわけではなかったんですね」
「重要なのはそこではないのじゃ、バカカイト!」
カミカゼが床を強く踏んだ瞬間、部屋の空気がわずかに揺れた。窓がガタガタと鳴り、天井から吊るされた明かりも左右に揺れる。
やはり、女神は女神らしい。
カミカゼは何かを確かめるように目を閉じた。彼女の周囲に青い光が集まり、複雑な魔法陣が浮かび上がる。
「天界へ帰還するのじゃ!」
何も起こらなかった。
「……天界へ帰還するのじゃ!」
今度も同じだった。
魔法陣は少しの間輝いたものの、そのまま力なく消えてしまった。
俺は笑いを必死にこらえながら尋ねた。
「プッ……戻れないみたいですね?」
「黙るのじゃ……! 貴様のせいで集中が乱れただけなのじゃ!」
カミカゼは再び手を前へ突き出した。
「空間の門よ、この身の呼びかけに応じ、天界へと続く道を開くのじゃ……!」
青い光がその指先から現れたが、今回もすぐに散ってしまった。
その直後、新たなシステムメッセージが表示された。
『《ガチャの女神カミカゼ》は召喚報酬として登録されました』
『召喚者カイトとの契約が継続している間、元の世界へ帰還することはできません』
部屋の中に長い沈黙が流れた。
カミカゼは無表情でメッセージを見つめていた。しかし、小刻みに震える肩を見る限り、相当怒っているらしい。
「カミカゼ様……?」
「銀貨一枚……」
「はい?」
「たった銀貨一枚でこの身を引いたうえ、天界へ帰ることまでできなくしたというのか?」
「いや、俺だってわざとやったわけじゃないだろ! それに今の俺にとって、銀貨一枚はすごく大切なお金なんだぞ! 今日一日ずっと薬草を採って、ようやく稼いだお金なんだからな!」
そこまで言ってから、俺はようやく違和感に気づいた。
ついさっきまでカミカゼに丁寧な言葉を使っていたのに、興奮した拍子に、思わずため口で話してしまったのだ。
カミカゼもそれに気づいたらしく、目を細めた。
「ほう……今、この身にため口を利いたのか?」
「あ……それは……」
「女神であるこの身にそのような口を利くとは、なかなか肝が据わっておるではないか」
「それについては謝りますけど、カミカゼ様だって、ずっと俺のことをバカって呼んでいるじゃないですか」
「貴様は本当にバカなのじゃから、事実を言っただけなのじゃ」
「ひどすぎませんか……」
カミカゼは腕を組んで俺を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。
「まあ、すでにこの身を引き当て、契約まで結んだ仲なのじゃ。いつまでもそのような堅苦しい話し方をするのも妙であろう」
「それなら……」
「特別に許してやるのじゃ。これからは気楽に話すがよい」
「本当にいいの?」
「許した途端にため口かっ!!」
「気楽に話せって言っただろ!」
「それでも、少しくらいは遠慮する素振りを見せるものではないのか、バカカイト!」
俺たちはしばらく互いを睨み合った。
初めて会ったときから相性が良くないとは思っていたが、今になって確信した。
カミカゼは自分勝手なうえに、何かあればすぐ怒り、俺が何を言っても反論してくる頑固者だ……!
それでも、それほど腹が立っているわけではないし、聞いてみたいこともたくさんあった。
カミカゼも怒ってはいるものの、本気で不愉快そうな顔ではなかった。
「ところで、神様はあらゆる魔法を自由に使えるの?」
俺が話題を変えると、カミカゼは待っていたと言わんばかりに堂々と顔を上げた。
「当然なのじゃ! この身を誰だと思っておる? 炎、水、風、大地、光、闇はもちろん、回復や結界、空間魔法までぜ~んぶ使えるのじゃ!」
「それって、もう最強なんじゃないか?」
「本来の力をすべて使えるのであれば、そうであろうな。しかし、人間界では神の力が大きく制限されるのじゃ。今はまだこちらの世界にも適応できておらぬから、本来の力のごく一部しか使えぬのじゃ」
「それでも、並の魔法使いよりは強いんだろ?」
「並などという次元ではないのじゃ。ものすごく、ものすごく、ものすごく、ものすご~く強いのじゃ! この身を平凡な人間と比べるでないぞ」
カミカゼは腕を組み、自信満々に言った。
確かに力が制限されているとしても、Fランク冒険者になったばかりの俺とは比べものにならないだろう。
初めてのガチャで、とんでもない景品を引いてしまったんだよな……?
これって完全にチートじゃないか!
「それじゃあ、これからよろしくな、カミカゼ」
「なぜ当然のように、この身が貴様についていくと思っておるのじゃ?」
「天界にも戻れないんだろ。それに、この世界で知っている相手も俺しかいないじゃないか」
カミカゼの表情が固まった。
どうやら図星だったらしい。
「それに、俺もこの世界へ来たばかりなんだ。一人より二人のほうがいいだろ?」
「……貴様と二人で、ということか……」
カミカゼは小さく呟き、そっと顔を背けた。先ほどの慌ただしい出来事を思い出したのか、その頬が再び赤くなっている。
「変な意味で言ったわけじゃないからな!」
「こ、この身も妙なことなど考えておらぬのじゃ!」
「じゃあ、どうして顔が赤いんだよ?!」
「貴様こそ顔が赤いではないか、バカカイト!」
再び言い争いが始まりそうになったが、カミカゼはすぐにため息をついた。
「仕方あるまい。契約を解除し、天界へ帰る方法を見つけるまでの間だけ、貴様のそばにいてやるのじゃ」
「ああ、それで十分だ」
「勘違いするでないぞ! この身が貴様を好きだからそばにいるわけでは、決してないのじゃ!」
「? 俺、好きだとかそんな話はしてないけど?」
「うぐっ……。本当に気に入らぬバカなのじゃ!」
こうして……。
どうやら今日から、ガチャの女神と一緒に生活することになったらしい。
ほんの少し前までは、初めてのガチャから何が出るのか楽しみにしていただけだった。
まさか女神本人を引き当てることになるとは、夢にも思わなかった。
カミカゼは窓辺に立って夜空を眺めながら、とても小さな声で呟いた。
「……それでも、この身を引いたのが貴様でよかったのかもしれぬな」
「何か言った?」
「何も言っておらぬのじゃ、バカカイト!」




