↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になりたいのに賞金首になっちゃったボク ~人助けするたびに、懸賞金と仲間が増えていく~ バンディット!!  作者: ちゃんなか
相対する転生者達――グリングリン・ロッジ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/87

第72話 “チート錬金術”

 ――焦(こ)げた木々の匂(にお)いが漂(ただよ)い、空にはまだ薄(うす)い雷光(らいこう)が残っている。

 ロマ達が見上げる先で、タイガは思い切り胸(むね)を張(は)った。


「よっしゃあああああああッ!!! クエスト……クリアだあああああああああああああああああああああああッ!!!!!」


 その声が空へ突(つ)き抜(ぬ)けた瞬間(しゅんかん)、張(は)りつめていた空気がふっと緩(ゆる)んだ。


「は、ははっ……! やりやがった……ッ!! あいつ……!!」

「さ、流石(さすが)にちょっと……肝(きも)を冷やしたにゃ……」


 ロマの肩(かた)から、ようやく力が抜(ぬ)けた。

 ミヤコも腰(こし)を落とし、尻尾(しっぽ)をだらりと地面へ垂(た)らす。


「ガ……ガウゥ……ガアアァ……ッ!!?」

「ガウァ!! ガウアゥ!!」


 戦いを見ていた虎達(とらたち)も一目散(いちもくさん)に退散(たいさん)し、巨大(きょだい)な虎(とら)が沈(しず)んだ方へ駆(か)けていく。

 そうして命懸(いのちが)けの巨大(きょだい)な戦いは、静かに幕(まく)を下ろした。



 雷光(らいこう)を失ったタイガが、空中で3人に振(ふ)り返(かえ)る。

 そして満面の笑みで、ひらひらと手を振(ふ)り――


「――おーーい!!! お願い!! 受け止めてーーーーっ!!!」

「え……はっ!!? ちょ、ちょっと待って!! キミあれだけの脚力(きゃくりょく)があるんだから、自分で着地……!!」

「からだーーーっ!! 動かなくなっちゃったーーーーー!!!」

「「「えええええええええええええッッ!!!?」」」


 地上の3人は揃(そろ)って顔を青ざめさせた。


「いや受け止めるって……!! な、なにかクッションになるものないか!!?」

「いきなり言われたって、そんにゃもんねェよ!!!」

「ど、どうしよう!!? このままじゃタイガさん、落っこちて……!!!」


 頭は真っ白、足は空回り。3人の混乱(こんらん)だけが森に木霊(こだま)する。



 そして――



「――わあああああああああああああああ落ちるううううううううううううううううううッッ!!!?」

「「「う、うわあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!??」」」



 ドシャアアアアアアアアアアアンッ!!!



 ――盛大(せいだい)な土煙(つちけむり)をあげ、タイガは3人の上に落下した。


「いっ……でへへへ……あはは、ありがとね。受け止めてくれて……」


 タイガは、咄嗟(とっさ)に自分の下敷(したじ)きになった3人へ申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑いかけた。


「ぐ……おミャー、せっかく助かったのに大ダメージ受けるとこだったぞ……!!」


 タイガのすぐ下に押(お)しつぶされていたミヤコが、地面にめり込(こ)みそうな声で不満を漏(も)らす。


「うぐ、全(まった)くだ……あんな高さから落ちてくる人間1人を受け止めるなんて……下手すりゃ死んじゃうよ……」


 ミヤコのさらに下のロマも、苦しげにうめき声を上げた。


「……あれ? てかオレが一番下になるつもりだったけど……ルリノ……は……」


 言いかけて、ロマは自分の下の〝妙(みょう)に柔(やわ)らかい感触(かんしょく)〟に気づく。


「きゅ~~~……!!!」


 そこには3人に押(お)しつぶされ、目を回しているルリノの姿(すがた)があった。


「る……ルリノォッッ!!?」

「おわっ!!?」「んにゃ!!?」


 ロマは慌(あわ)ててタイガとミヤコをどかし、ルリノの体を抱(だ)き起こした。


「うわぁああああ!!!? ごめんルリノォッ!!? 大丈夫(だいじょうぶ)か!!?」

「う~……んあ? あ、あれ……? 私(わたし)、なにして……」


 ロマに体を揺(ゆ)すられ、ルリノはぱちりと目を開けた。まだ少しふらついている。


「大丈夫(だいじょうぶ)か!? ルリノ……どこか痛(いた)まないか!!?」

「え……あ~……私(わたし)、ちょっとだけ気を失ってたのね。あはは、ごめんね心配かけて。私(わたし)は平気だから」


 ルリノはいつもの調子で柔(やわ)らかく笑ってみせたが、ロマの心配はまったくおさまらなかった。


「へ、平気って……いやダメだ! 見た目は大丈夫(だいじょうぶ)そうでも、骨折(こっせつ)とかしてるかもしれないだろ!!? 早く治療(ちりょう)を……っ!!」


 そう言うや否(いな)や、ロマはルリノの手をぎゅっと握(にぎ)り、村へ連れて行こうとする。

 だが、ルリノはその腕(うで)を軽く引いて制(せい)した。


「ま、待ってよロマ!! 治療(ちりょう)を受けないといけないのは、タイガさんの方よ!!」

「え……あ……!」


 ルリノに言われ、ロマはようやくタイガの状態(じょうたい)を思い出した。


 振(ふ)り返(かえ)った彼(かれ)の視界(しかい)に飛(と)び込(こ)んできたのは――



 ――血にまみれた、小さな少年の姿(すがた)だった。


 服は裂(さ)け、あらゆる箇所(かしょ)から血が流れている。

 胴体(どうたい)には、巨大(きょだい)な虎(とら)が刻(きざ)んだ3本の〝深すぎる爪痕(つめあと)〟。

 右足は牙(きば)で肉を抉(えぐ)られ、傷(きず)の奥(おく)には白い骨(ほね)が覗(のぞ)きかけていた。


「た……タイガ……」

「えへへ、みんな無事そうだね。良かった!!」


 その惨状(さんじょう)にも関わらず、タイガはニコっと笑う。


「ぶ、無事って……キミが無事じゃないだろ……!!」

「へ? ああ、ダハハ!! 大丈夫(だいじょうぶ)だよ、別に生きてる……し……だか、ら……はれ?」


 いつものように軽口を叩(たた)こうとしたその刹那(せつな)――


 タイガの頭が、カクンと揺(ゆ)れた。


「……っ!!? タイガ!!」

「な、んか……めが……かす、んで…………ガクっ……」


 言葉がたどたどしくなり、そして最終的には電池が切れたように気を失った。


「っ!!!? おい!! しっかりしろ!!! タイガ!! 目を覚ませ!!! タイガァ!!!!」


 ロマが声を張(は)り上(あ)げ呼(よ)びかけるが、タイガはびくりとも動かない。


「え……タイガ……ど、どうしたんだよ……おミャー……し、死んで……」


 ミヤコの声が大きく震(ふる)えた。

 短い時間とはいえ、共に旅し、戦い、笑い合った――


 その少年の、こんな姿(すがた)を見るのは初めてだった。


 ロマはタイガの胸(むね)に耳を当てた。


「鼓動(こどう)はある、息もしてる……!! でも……弱い……!!」

「じゃ、じゃあ早く病院に……頼(たの)む、連れてってくれ……ミャーだけじゃ、無理だ……!!」


 ミヤコが涙(なみだ)をこぼしながら懇願(こんがん)する。

 しかし、ロマは苦しげに首を振(ふ)った。


「いいや……病院には連れて行かない」

「にゃ!!? にゃんで……まさか、タイガが〝賞金首(しょうきんくび)〟だから……」


 暗い予感を口にするミヤコ。

 だがロマは彼女(かのじょ)が言い切る前に、コートの内側から1本の薬瓶(くすりびん)を取り出し、叫(さけ)んだ。


「今ここで治療(ちりょう)する!! 生存率(せいぞんりつ)は、その方が遥(はる)かに高い!!!」

「……っ!!!」


 ロマはひざまずき、緑色の薬液(やくえき)をタイガの深い傷口(きずぐち)へと注ぎかける。


 ジュウッと音を立てるように、傷口(きずぐち)から淡(あわ)い緑光が噴(ふ)き上がった。

 タイガの全身が、ぼんやりと光に包まれていく。



 <アイテム使用:特級ポーション《B》>



(〝特級ポーション〟……傷(きず)の洗浄(せんじょう)と消毒(しょうどく)、回復(かいふく)も出来る超便利(ちょうべんり)アイテムだが、流石(さすが)に手持ちだけじゃ量が足りない……っ!!!)


 ロマはタイガの体中の傷(きず)と、残りの薬量を注意深く見比(みくら)べる。

 彼(かれ)の瞳(ひとみ)は、焦(あせ)りと冷静さの狭間(はざま)で鋭(するど)く光っていた。


「ルリノ! ミヤコちゃん! オレの小屋から消毒液(しょうどくえき)と綺麗(きれい)な水をありったけ持って来て!!」

「わかったわ!! 消毒液(しょうどくえき)って前に使ってたアレよね? 場所は覚えてるわ!!!」

「じゃ、じゃあミャーは水を汲(く)んでくる!!!」


 2人は迷(まよ)いなく駆(か)け出(だ)した。

 その背(せ)を見送ると同時に、ロマは手持ちの薬品と素材(そざい)を広げ、即席(そくせき)の錬金(れんきん)治療(ちりょう)を始める。


(ぐ……!! 死ぬなよ、タイガ……目の前で知り合いが死ぬのなんて、もうこりごりなんだ……!!)


 ロマはきつく歯を食いしばった。

 その脳裏(のうり)に、消えない記憶(きおく)がよぎる――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――病院の屋上、小さくて、今にも消えてしまいそうな後ろ姿(すがた)。


『このまま風に乗って、どこかに飛んで行っちゃいたいな――』




 ――痛(いた)みと後悔(こうかい)に、ロマの口元が歪(ゆが)む。


 それでも、薬を扱(あつか)う手を止めるわけにはいかなかった。

 今は、目の前の少年を救(すく)うことだけを考える――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――それから、ルリノとミヤコは小屋を何度も往復(おうふく)し、必要なものを全て運び終えた。


「……ぜぇ……ぜぇ……っ!! あ、あと……必要なモンは……!!」


 息を切らしながらも、まだ何か手伝おうとするミヤコ。


「大丈夫(だいじょうぶ)だ、ありがとう……! よく頑張(がんば)ってくれたね……!!」


 ロマは短く、けれど真剣(しんけん)な声で労(ねぎら)いの言葉をかける。


「タイガさん……大丈夫(だいじょうぶ)なの? 助けられる……?」


 ルリノが眉(まゆ)を寄(よ)せ、不安を隠(かく)しきれない声で問う。


「……〝絶対(ぜったい)〟とは言えないな……」

「そう……」

「っ!!?」


 淡々(たんたん)としたやり取り。

 けれど、その言葉はミヤコの胸(むね)を冷たく突(つ)き刺(さ)した。


「そんにゃ……タイガ……っ!!」


 治療中(ちりょうちゅう)のタイガは、まるでただ眠(ねむ)っているだけのように静かだった。

 しかしその静けさが、かえってミヤコの恐怖(きょうふ)を煽(あお)る。


 彼女(かのじょ)の脳裏(のうり)に、故郷(こきょう)を失った〝あの日〟が鮮烈(せんれつ)に蘇(よみがえ)った――



 ――

 ――――

 ――――――



『――娘(むすめ)になってくれてありがとう。

 私(わたし)はあなたのおかあさんになれて、幸せでした』


 もう動かない母の亡骸(なきがら)。

 崩(くず)れた家の中で見ることになった、最後の言葉――




『――この村は猫(ねこ)ちゃんの……〝大切な場所〟なんだ!!!!』


 崩(くず)れゆく村で、自分を守るため戦ってくれた少年の背中(せなか)。

 ボロボロになっても、それでも必死に立っていたタイガの姿(すがた)――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――ミヤコの瞳(ひとみ)から、透明(とうめい)な雫(しずく)が零(こぼ)れ落(お)ちる。


「――っ!!! お願いしますッ!!!」

「っ!!?」


 気づけばミヤコは地面に手をつき、ロマとルリノの前で深く頭を下げていた。砂埃(すなぼこり)が舞(ま)い、両肩(かた)は震(ふる)えている。


「タイガを……助けてください……っ!!!」

「……ミヤコちゃん……」


 ロマは治療(ちりょう)の手を動かしながら、少女の訴(うった)えに耳を傾(かたむ)けていた。

 ミヤコの声は震(ふる)え、呼吸(こきゅう)は途切(とぎ)れ途切(とぎ)れだ。それでも彼女(かのじょ)は、絞(しぼ)り出(だ)すように続ける。


「タイガは……〝賞金首(しょうきんくび)〟だけど……悪い奴(やつ)じゃないんだ……っ!!!」


 額(ひたい)を土に押(お)しつけたまま、片手(かたて)を胸(むね)に当てる。

 込(こ)み上(あ)げる嗚咽(おえつ)をこらえ、言葉をつないだ。


「あいつは……ミャーの故郷(こきょう)を救(すく)ってくれたんだ……もう全員死んじゃって……廃墟(はいきょ)同然の村だったけど……でも……っ!!」


 ミヤコは唇(くちびる)を噛(か)み、あの日、言えなかった言葉を――今度こそ、はっきり叫(さけ)んだ。


「ミャーの〝大切な故郷(こきょう)〟だッ!!!! あいつはそれを……守るために戦ってくれたんだッ!!!!!」


 ぽたぽたと地面に落ちる涙(なみだ)。

 ミヤコの声はかすれ、喉(のど)が焼けるほどの必死さが滲(にじ)んでいる。


「でも……その戦いで〝王国の調査隊(ちょうさたい)〟をぶっ飛ばしちまって……それでタイガに〝懸賞金(けんしょうきん)〟が……ミャーのせいだ……っ!!!」


 地面しか見えない。

 2人の顔なんて見られない。

 ただ、ひたむきに。がむしゃらに。


「だから〝賞金首(しょうきんくび)〟だけど……タイガは悪い奴(やつ)じゃないんです……だから……だからぁ……!!!」


 弱々しくなっていく声。

 胸(むね)の奥(おく)に隠(かく)していた罪悪感(ざいあくかん)と後悔(こうかい)が、全部あふれ出してしまったかのようだった――




 ――ロマはうつむいた少女にも届(とど)くように、力強く告(つ)げた。


「助けるよ、〝絶対(ぜったい)〟に」

「っ!!!」


 その言葉に、ミヤコは弾(はじ)かれたように顔を上げた。

 ロマはタイガの傍(そば)らで膝(ひざ)をつき、淡(あわ)く緑色の光に包まれている。

 まるで生命そのものを呼(よ)び起こすような、温かい光だった。


「ごめんね、キミにそこまで言わせて……タイガが悪い奴(やつ)じゃないって、オレ達もわかってた」

「うん……私達(わたしたち)を守るために、命懸(いのちが)けであんな大きなモンスターと戦ってくれたんだもの……」

「ロマ……ルリノ……っ!!」


 ルリノはそっとミヤコの背(せ)を撫(な)で、落ち着かせるように優(やさ)しく頷(うなず)いた。


「ふ……っ。全(まった)く泣かせてくれるじゃないか。こちとらシリアス無縁(むえん)の異世界(いせかい)スローライフを送ってたってのに……まあいい」


 ロマはその場に似合(にあ)わない軽口を叩(たた)く。

 しかし、その言葉を吐(は)いた後、空気が一変した。


「それじゃあ始めようか。予定調和の〝チート錬金術(れんきんじゅつ)〟を……ッ!!!」

 第73話は明日の20時10分に投稿(とうこう)です。

 ブックマーク、評価等で応援よろしくお願いします。

 感想、コメントなども待っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。