第70話 “タイガVS超トラ”
「――グガルギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!」
大気そのものを裂くような咆哮が森に轟いた。
超弩級の虎が吠えた瞬間、地面はビリビリと震え、足場に細かな亀裂が走る。
その声だけで木々が震え、葉がざわめき、森全体が恐怖に怯えるようだった。
「ミヤコ……ッ!! ロマとルリノさんを連れて逃げられる……?」
タイガは巨大虎に向けたままの視線を一度も逸らさず、後ろへ声を飛ばす。
「な……む、無理だ!!! 周りを囲まれてる……ッ!!」
ミヤコが悲鳴のように叫ぶ。
彼女の言う通り、四方八方を取り囲むように何十体もの白い虎――逃げ場は完全に塞がれていた。
「ボクがなんとか道を切り開く……だからミヤコ……!!」
「それには及ばないよ! タイガ!!」
突然ロマが割って入った。
彼は試験管をタイガに投げ渡すと、真っ直ぐ前を見据える。
「ちっこいのはオレが相手をする……だからキミはあのデカブツに集中して!!」
「な……!! ちっこいって言ったって、そいつら結構強いよ!? てか普通にデカいし!!」
確かに、取り囲む虎達はどれも成人男性より大きい。
そして中には――人の背丈の〝3倍〟を超える虎まで混じっている。
「はは……気にするな。アレに比べたらお人形サイズさ……!!」
軽口を叩きながらも、ロマの頬には汗が伝う。
強がりなのは明白だった。
「大丈夫……鑑定したけど、周りのヤツらは最高でも〝《C》ランク〟……オレでもギリギリいける……多分」
(まあ……1対1ならの話なんだけどね……しかも〝《C》ランク〟の魔物なんて、1回しか倒したことないし……)
コートの内側は、すでに冷や汗でぐっしょり濡れていた。
(それに……あの馬鹿デカいのは……)
ロマは言い淀みながらも、その鑑定結果をタイガに告げる。
「……因みに……あのデカブツは〝《B》ランク〟だったけど……いけるのかい?」
ロマはその圧倒的なステータスを共有する。
(……オレの鑑定スキルでも、あまり多くの情報は得られなかった……それだけこの虎は強いってことだ……)
◆ ◆ ◆
【白王閃牙】
〇分類:虎型幻獣
〇成長段階:???
〇ランク:《B》
〇基礎ステータス
HP:410
ちから:109
〇所持スキル
タフネス《B》
爪撃《B》
威嚇《B》
◆ ◆ ◆
「うん! ボクだって同じランクだ!!」
「……そうか」
心臓が速く脈打ち、喉が乾き、膝が震える。
(タイガはああ言ってるが、万全な状態じゃない彼が同じランクの相手と戦うんだ……正直、絶体絶命だな)
それでも――ロマは、虎達の前に立ち続けた。
(でも……たとえ、オレがどうなっても……)
視線をわずかに後ろへ向ける。
そこには、怯えた瞳で彼の背中を見つめるルリノがいた。
今にも泣き出しそうに唇を噛みしめ、肩を震わせていた。
「ろ……ロマ……っ!!」
「大丈夫……キミだけは、絶対に守るから!!」
「っ……!!」
その言葉に、ルリノはハッと息を呑んだ。
「タイガ、そのポーションは傷に直接ぶっかければいいから!」
「わかった! ありがとう!!」
タイガは返事と同時に駆け出し、巨大な虎へ向かう勢いのまま自分の足へポーションを浴びせた。
<アイテム使用:特級ポーション《B》>
抉れた肉の奥が淡い緑光に照らされる。
流れていた血が止まり、自然治癒力が極限まで高まる。
傷ついた組織が、高速で修復されていく。
「さあ、いく――」
そう言い、剣を構えた――
瞬間。
ドグシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンッッッッッッ!!!!
――音の方が早かった。
タイガがいた場所に、〝壁〟のような何かが叩きつけられ、大地が大きく陥没する。
「……は?」
ロマの口から、間の抜けた声が漏れた。
理解が追いつかない。
(え……? な、何が……?)
土煙が静かに広がっていく。
時間の流れがゆっくりになったように感じられ、耳鳴りだけが残る。
やがて、風が煙を払い――
――それが〝壁〟ではないとわかった。
〝虎の前脚〟だった。
近くで見れば当たり前なのに、さっきまでの距離感では認識できなかった。
家屋ほどの太さを持つ腕が、ただ〝振り下ろされただけ〟で大地を抉っていた。
「た……たい……が……?」
ロマの声が震える。
視界の端が暗くかすむ。
(はは……なんだよ……これ……こんなの……)
脳が拒否する。
さっきまで隣にいた少年が〝跡形もなく消えた〟現実を。
「い、嫌……タイガさんが……ぺちゃんこに……」
ルリノは肩を震わせながら呟いた。
ぽろりと涙が頬を伝う。
(こんなバカでかいヤツに……勝てるわけ……)
ロマの胸の奥まで、じわ……っと黒い何かが染み込んでいく。
逃げ場もなく、策もなく、人が一瞬で潰された。
身体の芯が冷え、指先の感覚が遠のいていく。
絶望が、静かに広がってく――
だが――
「――うおおおおおおおお"お"お"お"お"お"おおおおオオオオおおお"お"おお"オ"オオオオおおおおおおおおお"お"お"おおおッッッッッ!!!!!!!」
「あぇ……? んなァ……ッ!!?」
――聞こえるはずのない声が、響いた。
踏み潰されたはずの少年の、怒号。
ロマは陥没した地面に目を凝らしたが、少年の姿は見つからない。
「この……スーパーデカデカトラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「た……タイガァ!!? 一体どこから声が……ッ!!」
状況が一瞬でひっくり返り、ロマとルリノの思考は完全に置いていかれる。
その混乱の中――ひとりだけ、ミヤコは目を細めていた。
「……あそこ」
「へ……? んなァ……ッ!!?」
ミヤコの指先が示す方向。
それは巨大な虎の〝腕〟。
その上を、小さな影が駆けていた――
――タイガだ。
彼は確かにそこにいて、走っていた。
あの超重量の一撃に、叩き潰されたように見えたのに。
「さあ……クエスト開始だッ!! デヤアアアアアアアアアアアッ!!!!」
叫びと同時、タイガの足が雷光に包まれる。
「うぐ……っ!!? 痛だだだだだだだだだだだだだ……ッ!!!!??」
雷の刺激が、傷ついた脚を容赦なく責め立てる。
息を吸うだけで倒れそうな痛み――それでも。
「痛い……!! けど……だああああああああああああああああああああッ!!!」
タイガはその痛みを噛み砕くように跳んだ。
虎の腕から、まっすぐ巨大な顔面へと向かって。
対する白き王者は、その動きを真っ向から受け止めるように双眸を光らせる。
「……グルウゥ……!! グアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
咆哮と共に、さっきとは逆の腕を大きく振り抜いた。
人間と同じ大きさの爪が5本。
その1本だけで、人体をまるごと引き裂ける質量――それが迫りくる。
「っ……!! だあああああ!!!」
タイガは咄嗟に迫る腕へ向け、雷撃を叩きつけた。
バチバチバチィィィッッッ!!
青色の電流が、巨大な腕へ走る――けれど。
「グルガアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
その重い腕は、雷を浴びても振りが鈍らない。
「な……ッ!? 雷が効いていないぞ……!!」
ロマが叫ぶ。
巨大な爪が、タイガを切り裂こうと――いや、跡形もなく消し飛ばそうと迫る。
だが――
「デエェヤァッッ!!!」
バッチィイイインッ!!!!
次の瞬間、タイガの身体が横へ飛ぶ。
まるで〝見えない力に押し出された〟ように、虎の腕から離脱した。
「え……ッ!? 体が腕から弾かれるみたいに……な、何が起こってるの……!!?」
ルリノは、爪が空を切った場所と、跳び離れたタイガとを交互に見た。
「さあ……あいつは〝ジシャク〟? みたいにゃモンだって言ってたけど……」
「〝磁石〟だって……? それが……彼の力……?」
ミヤコの説明に、ロマはタイガの不可解な動きを少しだけ理解する。
あれは雷撃だけじゃない――〝何か他の力〟も働いている。
「が、ガウア……」
「ウグルルルゥ……」
周囲の虎達も、群れの王とタイガの戦いに釘付けになっていた。
誰もがその異様な……けれど壮絶な戦いに目を奪われている。
(こいつらも夢中だな……どうにか隙を見て……いや……)
一瞬、ロマは虎の群れの隙間に視線を走らせた。
しかしすぐに頭を振る。
(この状況……3人とも逃げるのは無理だ。誰かは犠牲になってしまう……なら……)
ロマは空を見上げる。
そこには、巨大な虎の腕から弾かれ、さらに上へと跳んでいく小さな影――
(王を倒せば、群れはきっと崩壊する……)
普通では考えられない。
あの巨体を人間が倒すなんて、本来ありえない。
だけど――
(――キミに賭ける……タイガ……ッ!!!)
第71話は明日の20時10分に投稿です。
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~あとがき~
【モンスター図鑑】
【白閃牙】
〇分類:虎型動物
〇成長段階:成体
〇ランク:《C》
〇基礎ステータス
HP:125
MP:48
ちから:73
みのまもり:56
すばやさ:68
こうげき魔力:37
かいふく魔力:0
きようさ:51
うんのよさ:38
〇所持スキル
〇基礎能力スキル
タフネス《E》[パッシブ]
体が頑強になり、最大HPとみのまもりが上がる。
マッスル《E》[パッシブ]
肉体の力が高まり、ちからが上がる。
アジリティ《E》[パッシブ]
身のこなしが軽くなり、すばやさが上がる。
脚力《D》[パッシブ]
足を使った行動をする際、ちからが上がる。
〇武技スキル
爪撃《D》[アクティブ]
鋭い爪で相手をひっかく。
噛みつき《C》[アクティブ]
鋭い牙で相手に噛みつく。
威嚇《D》[アクティブ]
敵を激しく威圧し、ひるませる。
閃爪《D》[アクティブ]
爪に光属性の力を纏い、高速で相手を切り裂く。
閃牙《D》[アクティブ]
牙に光属性の力を纏い、強烈な力で相手を噛み切る。
成熟し、群れの主戦力となった白閃牙。
体長は人の背丈の〝3倍〟を超えるまでに成長し、若体とは比較にならないほど強靭な筋肉と鋭い爪、牙を持つ。
成体になると光属性の力を自在に爪や牙へ纏えるようになり、その攻撃は白い閃光のように見える。
群れでは狩りの中心を担い、若体へ獲物の追い方や仕留め方を教える役目も持つ。
また、幼体や若体を守る意識が強く、群れに危険が迫ると真っ先に敵へ立ち向かう。
白閃牙は本来、朱円王国の人里から遠く離れた秘境に生息しており、他の地域で大規模な群れが確認されることは極めて珍しい。




