↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になりたいのに賞金首になっちゃったボク ~人助けするたびに、懸賞金と仲間が増えていく~ バンディット!!  作者: ちゃんなか
相対する転生者達――グリングリン・ロッジ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/87

第62話 “村に潜む影”

「――うっぷ……もう食べられません……」


 タイガは満腹(まんぷく)でパンパンになった腹(はら)を抱(かか)えていた。

 顔は真っ赤、息は荒(あら)く、まるで満月のようにお腹(なか)が丸く膨(ふく)らんでいる。


「はは、お疲(つか)れ様(さま)。タイガ」

「バカなことしてんにゃ~、おミャーは」

「うぐ……“腹(はら)がいっぱいすぎてかなり具合悪いんだよォーッ”」


 ロマが苦笑しながらタイガの腹(はら)をさすり、ミヤコは呆(あき)れ顔で尻尾(しっぽ)をぱたぱたと揺(ゆ)らす。

 汗(あせ)と肉の匂(にお)いが混(ま)じった空気の中、テーブルの向こうからクロトが歩(あゆ)み寄(よ)ってきた。


「悪いな、うちの馬鹿犬(ばかいぬ)のせいで」

「い、いいんだよ……ハンバーグは、めっちゃ美味(おい)しかったし……うぷっ……」


 タイガは今にも倒(たお)れそうな声で、それでも笑みを作る。

 椅子(いす)の背(せ)にもたれ、苦しげに息を吐(は)くその姿(すがた)を見て、クロトは小さく肩(かた)を竦(すく)める。


 そんな2人のやり取りを見ていたロマが、ようやく切り出した。


「ああ、そうだ。クロト、もう1人の〝転生者(てんせいしゃ)〟ってのは彼(かれ)の事ね」

「なんと! そうだったのか……タイガと言ったか。改めて自己紹介(じこしょうかい)をしよう!!」


 クロトは言うが早いか、勢(いきお)いよく立ち上がった。

 コートの裾(すそ)を大きく翻(ひるがえ)し、片手(かたて)を片目(かため)に当て、芝居(しばい)がかった動きで天井を仰(あお)ぐ。


「オレ様はっ! ギルド登録から僅(わず)か2年で〝《B》ランクまで昇格(しょうかく)した〟――超天才(ちょうてんさい)イケメン冒険者(ぼうけんしゃ)、クロト様だッ!!!」


 ビシィッとポーズを決め、酒場中に響(ひび)き渡(わた)るほどの声量(せいりょう)で名乗りを上げる。

 周囲(しゅうい)にいたクロトのパーティーメンバーが「また始まったか」とでも言いたげに視線(しせん)を向ける中、タイガは青ざめた顔で呻(うめ)いた。


「へ、へ~……よろしくねェ……クロト……うぷっ……! 生まれそう……」


 こみ上げるモノをこらえ、タイガは震(ふる)える声でなんとか返事を絞(しぼ)り出(だ)す。


「〝《B》ランク〟ねェ……チビュウから聞いてたけど、にわかには信じられないにゃあ……まあ……」


 ミヤコはちらりとタイガの方へ視線(しせん)をやる。

 彼(かれ)は今にも椅子(いす)ごと倒(たお)れそうな体勢(たいせい)で、必死にバランスを取っていた。


(こいつの例もあるからな……こっちは〝賞金首(しょうきんくび)〟だけど……)


 尻尾(しっぽ)を軽く揺(ゆ)らしながら、ミヤコは呆(あき)れ混(ま)じりに心の中で呟(つぶや)くのだった。

 そんなミヤコの心情(しんじょう)も知らずに、クロトは胸(むね)を張(は)り、さらに勢(いきお)いを増(ま)して喋(しゃべ)り出(だ)した。


「そうだッ! 〝《B》ランク〟だ!!」


 クロトは人差し指を立て、皆(みな)に見せつけるように腕(うで)を高く掲(かか)げた。


「このランクに辿(たど)り着(つ)ける冒険者(ぼうけんしゃ)なんざ、ギルド全体の1%にも満たない!! オレ様のことを〝英雄(えいゆう)〟と称(たた)える者(もの)も多い――ある村じゃ銅像(どうぞう)まで建ったくらいだッ!!

 大都市の宿屋じゃ顔パスで泊(と)まり放題(ほうだい)!! 下町の屋台じゃツケが通る!! 女将(おかみ)さんは『今日も格好(かっこう)いいわね』が挨拶(あいさつ)だ!! 言われなくとも知ってるがな!! ダーッハッハッハーッ!!!」


 クロトの声がホール中に響(ひび)き渡(わた)り、酒場の客達もなんとなくつられて拍手(はくしゅ)を送る。


「ヘ~、ソレハスゴイネ~」


 ロマは片言(かたこと)のように返事をして、わざとらしく感心したふりをした。

 だが――すぐに口元にうっすらと笑みを浮(う)かべながら、タイガとミヤコの方を見た。


「でもそう言えば、もう1人〝《B》ランク〟の人に心当たりがあったような……」

「ギクッ……!!」


 ミヤコの肩(かた)がピクリと跳(は)ねた。

 クロトも同時に身を乗り出し、目を見開く。


「なんだと……っ!? 〝《B》ランク〟なんて滅多(めった)に会うもんじゃないと思うが……!!」


(で、出来れば内緒(ないしょ)にしてほしいにゃ……!! ちょっとこいつに言うと、面倒(めんどう)なことになりそうだし……)


 ミヤコはロマの方を見つめ、目で「頼(たの)む」と訴(うった)える。

 ロマは小さく肩(かた)をすくめて答えた。


(ん……? ああ、この自意識(じいしき)過剰(かじょう)男に張(は)り合(あ)われたくないか……悪かったね、了解(りょうかい))


「あ~……まあここは港町だからな、色んなヤツが来るんだよ」

「なるほど、やはりこの規模(きぼ)の町になると高ランクの冒険者(ぼうけんしゃ)も立(た)ち寄(よ)ることがあるんだな」


 クロトは腕(うで)を組み、納得(なっとく)したように頷(うなず)いた。どうやら、ごまかすことには成功したようだ。

 ロマはこっそりとミヤコにウインクを送る。


「まあタイガ君、そんな訳(わけ)で〝異世界(いせかい)転生者(てんせいしゃ)同士(どうし)〟仲良くしようじゃないか」

「うん……よろしくね、クロト……」


 タイガはその丸い体を必死に起こして、クロトに手を差し出した。

 クロトもその様子に苦笑しながらも、その手を握(にぎ)った――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――同時刻(どうじこく)。

 グリングリンロッジ近くの街道。


 月の光が木々の隙間(すきま)を抜(ぬ)け、まだら模様(もよう)の明かりが地面を照らしている。

 その中を、1人の男が静かに歩いていた。


 腰(こし)に剣(けん)を提(さ)げたその男は、ロッジを守る駐在(ちゅうざい)。

 鍛(きた)え上(あ)げられた腕(うで)には、幾度(いくど)となく剣(けん)を振(ふ)るってきた証(あかし)――古傷(ふるきず)が刻(きざ)まれている。

 その傷跡(きずあと)が、淡(あわ)い月光を受けてわずかに鈍(にぶ)く光った。


「……さて、そろそろ戻(もど)るとするか……」


 男は片手(かたて)で帽子(ぼうし)のつばを押(お)さえ、夜露(よつゆ)を避(さ)けながら街道を進む。

 遠くで虫の声が聞こえ、風が枝(えだ)を揺(ゆ)らした。


 静かな夜。


 見慣(みな)れたはずの森が、今日はなぜか息を潜(ひそ)めているように感じた。



 ――ふと。



 鼻先に、鉄のような匂(にお)いが混(ま)じった。


「……ん?」


 男は足を止め、眉(まゆ)をひそめた。

 風上から漂(ただよ)ってくるのは、戦場で幾度(いくど)も嗅(か)いだ、〝あの臭(にお)い〟だ。

 しかし、この森でそれを感じる理由はない。


 ゆっくりと、匂(にお)いのする方へと歩みを進める。

 足音がやけに大きく響(ひび)いた。

 月明かりの乏(とぼ)しい茂(しげ)みの奥(おく)――地面に黒く濡(ぬ)れたものが広がっている。


「……〝血〟か……?」


 かすれた声が漏(も)れた。

 彼(かれ)の喉(のど)は乾(かわ)き、息が荒(あら)くなる。

 足元を踏(ふ)みしめるたび、ぬかるんだ音が「ぐちゃり」と響(ひび)いた。


 鼻を刺(さ)す悪臭(あくしゅう)が強くなる。

 空気が重い。〝ナニカ〟が近くにある。

 そして、木の根の陰(かげ)を覗(のぞ)き込(こ)んだ瞬間(しゅんかん)。



 男の目が、闇(やみ)の中で何かを捉(とら)えた――



 それは〝人の腕(うで)〟だった。


 隣(となり)には脚(あし)、そして……頭。



 血と泥(どろ)にまみれ、誰(だれ)が誰(だれ)かも分からない。

 切(き)り刻(きざ)まれ、重ねられたように転がる〝死体の群れ〟だった。


「な……ッ!?」


 声にならない。

 冷たいものが背筋(せすじ)を這(は)い上(あ)がる。

 地面を染(そ)める血の赤が、男の視界(しかい)を埋(う)め尽(つ)くした。


「う、うわああああぁぁぁぁぁあああああああああアアアアアァッ!!!?」


 森の静寂(せいじゃく)を切(き)り裂(さ)くように、駐在(ちゅうざい)の悲鳴が響(ひび)き渡(わた)る。

 その声に驚(おどろ)いた鳥達が、一斉(いっせい)に闇(やみ)へと舞(ま)い上(あ)がった。


 風だけが、何事もなかったかのように木々を揺(ゆ)らしていた――



 ――

 ――――

 ――――――



 一方、その頃(ころ)のグリングリン・ポート。酒場の前では――


「――ふう~! いや~、いっぱい食べたな~!! ボク満足!」


 タイガは満足げにお腹(なか)を叩(たた)く。

 さっきまで風船のように膨(ふく)らんでいた腹(はら)は、いつの間にか少しぽっこりした程度(ていど)に戻(もど)っていた。


「おミャー、スゲェ消化スピードだな……」

「へへ、肉のお陰(かげ)で旅の疲(つか)れも全快(ぜんかい)!! 食(く)い溜(だ)めも出来た!!」


 タイガは誇(ほこ)らしげにピースサインを掲(かか)げる。

 その無邪気(むじゃき)さにミヤコはあきれつつも、どこか安心したような笑みを浮(う)かべた。

 ロマはそんな2人のやり取りを眺(なが)めながら、ふと首を傾(かし)げる。


「そういえばキミ達、今日の宿は決めてる?」

「ん……? そうか。このまま港町(ポート)に泊(と)まるのもありか……」


 ミヤコの返答を聞き、ロマは指を折(お)りながら説明する。


「ロッジの宿は自然いっぱいで静かな夜を過(す)ごせて安いけど、その代わりちょっと狭(せま)い。

 一方港町(ポート)の宿は広い場所も多くて設備(せつび)もいいけど、全体的に値(ね)が張(は)る。

 中にはロッジより安い宿もあるけど……安全は保証(ほしょう)出来ない」

「……今日もロッジでいいにゃ……」

「うん!! ボクもロマ達の村がいいな!!」


 2人の意見は合致(がっち)した。

 ロマは目を細め、穏(おだ)やかに笑った。


「よし! じゃあ村まで一緒(いっしょ)に戻(もど)ろうか!」

「うん!」



 3人が肩(かた)を並(なら)べて歩き出そうとした、その時。



「ちょっと待ったァッ!!」


 背後(はいご)から、やたらと通る声が響(ひび)いた。


「……なんだい? クロト」


 振(ふ)り返(かえ)ると、ランタンの灯(ひ)を背(せ)にクロトが立っていた。

 黒いコートの裾(すそ)をひるがえし、腕(うで)を組み、何故(なぜ)か決め顔で。


「ふっ……オレ様もロッジの方に泊(と)まりたい、案内をしてくれるかな? ロマ君」


 ロマは片眉(かたまゆ)を上げ、ミヤコは「えっ!?」と目を丸くした。


「……面倒(めんどう)なのが増(ま)えたにゃ……」


 その小さなつぶやきは、夜風にさらわれていった――




 ――村への帰り道。


「ふ……! 今日は久々(ひさびさ)に静かに寝(ね)れそうだ。都市では人々が常(つね)にまとわりついて、静寂(せいじゃく)などなかったからな……!!」


(どの口が言ってるんだ。ロッジが騒(さわ)がしくなったら嫌(いや)だな……いや、いかんいかん! 友好的にしないと……)


 そう思いつつも、ロマの顔には小さな陰(かげ)りが残る。

 そんなロマとは反対に、タイガは明るい声で口を開いた。


「ねえ! あのワンちゃんは村に泊(と)まらないの?」

「ああ、ノエルか。あいつは……というより、オレ様のパーティーの冒険者共(ぼうけんしゃども)は、全員港町(ポート)に置いてきた。あの人数だ、押(お)しかけても迷惑(めいわく)だろう」


 クロトが言うように彼(かれ)が連れていた冒険者(ぼうけんしゃ)はざっと20~30人はいた。

 不遜(ふそん)な態度(たいど)を取る彼(かれ)だが、そこら辺のことはわきまえているのだろう。

 だがそこで少し疑問(ぎもん)が残る。


「でも、仲間を全員置いてきて、キミは平気なのかい?」

「ふ……っ! 大丈夫(だいじょうぶ)に決まっているだろう!! あいつらが全員束になっても、オレ様には敵(かな)わない……オレ様はあいつらの100倍強いからなッ!!」

「100倍!? スッゴぉい!!」


 誇(ほこ)らしげに決めポーズを取るクロトと、無邪気(むじゃき)に目を輝(かがや)かせるタイガ。


 そんな他愛(たあい)ないやり取りの中――森の奥(おく)から、冷たい夜風が吹(ふ)き抜(ぬ)けた。

 木々の間から見える村の灯(ひ)が、ちらちらと揺(ゆ)れる。


「見えてきたね、村の明かりだ」


 ロマの言葉に皆(みな)が村の方を見た、その瞬間(しゅんかん)だった――




「――っ!! 大変だァ!! 大変だァーッ!!」


 突然(とつぜん)、悲鳴にも似(に)た叫(さけ)びが森に響(ひび)く。

 駆(か)けてくる影(かげ)――それは村の方角からだった。


「え……? な、なんだッ!?」


 タイガが目を丸くする。ミヤコとクロトは即座(そくざ)に身構(みがま)えるが、ロマはその声に覚えがあることに気づいた。


「アレは……村の〝駐在(ちゅうざい)〟? あんなに慌(あわ)ててどうしたんだ……?」


 やがて駐在(ちゅうざい)の男が荒(あら)い息を吐(は)きながら飛(と)び込(こ)んできた。

 額(ひたい)から汗(あせ)を滴(したた)らせ、ナニカどす黒いモノにまみれた靴(くつ)のまま足を止める。


「ろ、ロマ……! 大変なんだっ!! 村の近くに……!!」

「お、落ち着け……! 一体何が……」


 ロマが心配そうに尋(たず)ねると、駐在(ちゅうざい)は息を整えながら顔を上げた。

 その表情(ひょうじょう)には、恐怖(きょうふ)と混乱(こんらん)が入(い)り混(ま)じっていた。


「む、村の近くの街道で……〝大量の死体〟が……っ!!」

「なッ!!? 死体!!?」


 その言葉に、場の空気が一瞬(いっしゅん)で凍(こお)りつく。

 誰(だれ)もが息を呑(の)み、夜の闇(やみ)がいっそう濃(こ)く感じられた――

 第63話は明日の20時10分に投稿(とうこう)です。

 ブックマーク、評価等で応援よろしくお願いします。

 感想、コメントなども待っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。