↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になりたいのに賞金首になっちゃったボク ~人助けするたびに、懸賞金と仲間が増えていく~ バンディット!!  作者: ちゃんなか
相対する転生者達――グリングリン・ロッジ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/87

第61話 “獣と人の間”

「な……っ!!? 同じ〝転生者(てんせいしゃ)〟って……まさかクロト、キミも!!?」


 思わず立ち上がったロマの声が、酒場のざわめきにかき消される。

 その反応(はんのう)を愉快(ゆかい)そうに眺(なが)めながら、クロトは肩(かた)を揺(ゆ)らして笑った。


「ははっ!! やっぱりか。ルリノ嬢(じょう)から聞いたよ、キミの功績(こうせき)は。水回りを整備(せいび)して、見たこともない異国(いこく)の料理まで広めたと……典型的(てんけいてき)なスローライフ系(けい)〝転生者(てんせいしゃ)〟だな」

「うぐっ……悪かったな、テンプレ通りの異世界(いせかい)生活を送ってて……」


 痛(いた)いところを突(つ)かれ、ロマは言葉を失う。

 クロトはそんな彼(かれ)を面白がるように、軽くジョッキを揺(ゆ)らして続けた。


「いいや、いいじゃないか。〝スローライフ系(けい)〟は嫌(きら)いじゃないぞ!! 元の世界は色々と騒(さわ)がしかったからな……それにあの村、まだ少ししか回れていないが、悪くない!!」


 クロトはいつもの大仰(おおぎょう)な調子で笑った。

 だが、からかっている様子はない。


「そりゃどうも……」


 ロマは鼻の頭をかいた――



 ――しばらくして、ロマが思い出したように口を開く。


「あ、そうだ。クロト、そういえば今、この酒場にはもう1人〝転生者(てんせいしゃ)〟がいるぞ」

「なんと!!? それは一体……」

「ああ、ついてきなよ。えっと、確(たし)かあいつらは……」


 ロマは辺りを見回す。

 昨日出会ったばかりの少年の姿(すがた)を探(さが)すために――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――その少し前。


 酒場の中央では。


「「「かんぱーいッ!!!」」」


 タイガは酒場の男達とジョッキを高々(たかだか)と掲(かか)げていた。

 泡立(あわだ)つビールの香りが鼻をくすぐる。


「ボクお酒飲むの初めて!! いただきま~す!!」


(すっかり意気投合(いきとうごう)してんにゃ、あいつ……)


 酔(よ)っ払(ぱら)いと肩(かた)を組み、わいわい騒(さわ)ぐタイガ。


(ロマのツレだって言ったら、速攻(そっこう)で囲(かこ)んできた港の連中もアレだけど……それにしたって馴染(なじ)むのが早すぎるだろ)


 ミヤコは猫耳(ねこみみ)をピクつかせながら、ジト~ッとした視線(しせん)をタイガに送った。

 だが当の本人は、そんな視線(しせん)に気づく気配もなく、勢(いきお)いそのままにジョッキを口へ運ぶ――



 ――が。



「――ぶはあああぁぁぁーーーーーーッッッ!!! ナニコレにっがァッッッ!!!!」


 次の瞬間(しゅんかん)、金色の液体(えきたい)が噴水(ふんすい)のように弾(はじ)け飛(と)んだ。

 照明の光を反射(はんしゃ)した滴(しずく)がきらきらと舞(ま)い、店内のざわめきが一段(いちだん)と大きくなる。


「いやにゃにやってんだァ!!? おミャー!?」

「げほっ!! ごほっ!! ……うう……お酒無駄(むだ)にしちゃってごめんなさい……布巾(ふきん)ありますか?」


 むせ返りながらも、しょんぼりと肩(かた)を落とし、差し出された布巾(ふきん)でテーブルをふく。

 その健気(けなげ)さがまた可笑(おか)しかったのか、周囲(しゅうい)の男達は腹(はら)を抱(かか)えて笑い転げた。


「ははは!! まだ兄ちゃんには、ちょっと早かったか!」

「うん……そんなすぐに大人になれるわけじゃないよね……反省」


 しゅんとした表情(ひょうじょう)を見せたのも束(つか)の間(ま)、タイガはふっと顔を上げると満面の笑みで叫(さけ)んだ。


「よし!! じゃあ代わりにハンバーグ10個(じゅっこ)ください!!!」

「お~!! 代わりに大食いか!! いいぞ、イケイケー!!」


 どっと歓声(かんせい)が沸(わ)き上(あ)がり、誰(だれ)かがテーブルを叩(たた)いた。

 ジョッキまでガタガタと跳(は)ねる。


「はしゃぎすぎだ、あいつら……」

「パーティーだもの、はしゃぐべき」


 カウンターの隅(すみ)。

 酒場の喧騒(けんそう)を少し離(はな)れた位置から見つめるミヤコの横で、ノエルは静かにソフトドリンク入りのグラスを傾(かたむ)けた。

 その仕草は落ち着いているのに、言葉の端(はし)には妙(みょう)なノリの良さがある。


「おほ~!! ハンバーグなんて久々(ひさびさ)だな~!!」


 テーブルの方では、タイガが運ばれてきた皿を前に、子供(こども)のように歓声(かんせい)を上げていた。

 鉄板の上でまだジューッと音を立てるハンバーグからは、香ばしい肉の匂(にお)いと甘(あま)いソースの香りが立ちのぼる。

 厨房(ちゅうぼう)では料理人達が汗(あせ)を拭(ぬぐ)いながら、次々と肉をこね、焼き上げていく。


「なんだい兄ちゃん! ハンバーグ知ってんのか!! これはロマがアイデアを出して作った料理なのに」

「え? じゃあここには元々ハンバーグはなかったんだね……そういえば……」


 ロマの言葉をタイガは思い出す――



 ――

 ――――

 ――――――



『――ああ、味は保証(ほしょう)するよ。なんたってオレが〝元の世界の知識(ちしき)〟で作った料理もある――』




「――ロマとボクは同じとこから来たんだ!! だからボクも色んな料理を知ってるんだよ~!!」

「へ~!! 兄ちゃんロマと同郷(どうきょう)だったのか!! あいつと仲良くしてやってくれよ!!」

「うん! ロマはもう友達だよ!!」


 ピースサインをしながら、豪快(ごうかい)に笑うタイガ。

 男達はすっかり気をよくして、タイガの周りはますます賑(にぎ)やかさを増(ま)していく。


 そんな中、1つの影(かげ)がそっと近づく。


「ん……? それお肉? 嗅(か)いだことない、いい匂(にお)い……」


 ノエルの犬耳がぴんと立った。

 鼻先がひくひくと小さく動く。


「店員さん、私(わたし)もこれ〝15個(じゅうごこ)〟ちょうだい」

「じゅ……〝15個(じゅうごこ)〟ォ!!?」


 思わぬ大食い宣言(せんげん)に、周囲(しゅうい)が一斉(いっせい)にどよめいた。

 隣(となり)のテーブルの男が思わずジョッキを落としかける。


「す、すげェ……あの細っこい嬢(じょう)ちゃんも、食う気満々じゃねぇか……!」

「凄(すご)いね! ワンちゃん!! キミもかなりイケるんだね!!」

「うん。パーティーの中で一番食べるのは私(わたし)」


 ノエルは涼(すず)しい顔で言い放ち、タイガの真正面(ましょうめん)に腰(こし)を下ろす。


「お~? これはフードファイト勃発(ぼっぱつ)か~?」

「へへ、いいね! 負けないぞ!!」

「そんなつもりはなかったけど……まあいっか」


 タイガが歯を見せて笑い、ノエルは無表情(むひょうじょう)のまま。

 だが2人の間には、静かな火花が散っていた。


 そして、テーブルに次々と運ばれてくる山のようなハンバーグ。

 湯気が立ちこめ、ソースの香りが一層(いっそう)濃(こ)くなる。


「キタキタ!! ウマそ~!! それじゃあ、“この世の全ての食材に感謝(かんしゃ)を込(こ)めて”」



「「――いただきます」」



 2人が同時に手を合わせる。

 タイガは迷(まよ)いなくハンバーグにかぶりつき、肉汁(にくじゅう)が口の中に広がった瞬間(しゅんかん)、満面の笑みを浮(う)かべた。


「んお~!!! うめェ~~~!!」


 その向かいでノエルはナイフとフォークを静かに操(あやつ)り、上品に肉を口へ運ぼうとする――



 ――だが、その瞬間(しゅんかん)。



「おおォいッ!! 待ったァァッッ!!!」


 怒号(どごう)が響(ひび)き、ノエルの腕(うで)をガッと掴(つか)む者(もの)が現(あらわ)れた。


「あっぶねェ!! 危機一髪(ききいっぱつ)……ッ!!」


 クロトだった。いつもの涼(すず)しい笑みはどこにもなく、今にも血の気が引きそうな顔をしている。


「え? ……なに、クロトも欲(ほ)しいの? なら自分で注文するべき」

「バカ!! そうじゃない!! ハンバーグって〝玉ねぎ〟入ってるだろ!!? そうだよな!? ロマくん!!」

「え……? あ、ああ……そうだけど……」


 突然(とつぜん)の剣幕(けんまく)にロマは目を丸くしたが、すぐに理由を察して手を打った。


「あ! そうか。彼女(かのじょ)、犬だから〝玉ねぎはダメ〟なのか……」

「そうだ……!! 死んでもおかしくないんだぞ、〝玉ねぎ中毒(ちゅうどく)〟は……!!」


 クロトはノエルの手からフォークを取り上げ、汗(あせ)だくの顔で彼女(かのじょ)を見つめる。


「〝ケモニア〟に配慮(はいりょ)してない店も店だが……お前も匂(にお)いでわかるだろう!? 気を付けろ!!」

「ごめん。お肉のいい匂(にお)いに気を取られて、うっかり」


 ノエルはまるで他人事(ひとごと)のようだ。その落ち着きっぷりとは裏腹(うらはら)にクロトの方が慌(あわ)てふためいていた。

 どう見ても凸凹(でこぼこ)な2人だが、どこか息の合ったやり取りにも見える。


「え~ふぉ(えーと)、よくわふぁんないふぇど(わかんないけど)、ファンちゃん(ワンちゃん)はファンファーグ(ハンバーグ)|ふぁべられないんふぁね《食べられないんだね》。ゴクン……それは残念だったね」


 タイガは口いっぱいに肉を詰(つ)め込(こ)みながら、もぐもぐと同情(どうじょう)を口にする。


「うん。でも確(たし)か……玉ねぎって猫(ねこ)もダメだったはず……」

「へー、そうな……え? まさか……」


 タイガはバッと振(ふ)り返(かえ)る――




 ――視線(しせん)の先では。


「はむっ……ん~! あったまるにゃ~!!」


 ミヤコがスープに入った玉ねぎを、ちょうどスプーンで掬(すく)って口に運んだところだった。


「うわあああああああああああぁぁァァァッッッ!!!? ミヤコおおおおおおおおおおォォォッッ!!!?」

「んにゃ? いったいなん……うわァッッ!!?」


 タイガは悲鳴と共にミヤコへ飛びかかり、その体を必死に揺(ゆ)さぶる。


「吐(は)けェェェ!! 食ったもん今すぐ吐(は)けェえええええええええッッ!!!!」

「ゆゆゆゆゆゆらすななななななななッッ!!!!」


 ミヤコはガッとタイガの腕(うで)を掴(つか)み、強引に動きを止めた。


「にゃにすんだっ!! いきなり!!!」

「ミヤコ!! 猫(ねこ)ちゃんは玉ねぎ食べちゃダメなんだよ!!? すぐに吐(は)いてえええええェ!!」

「あ~? 玉ねぎィ……? 別に食べても、どうってことにゃいけど……」


 ミヤコはぽかんとした様子でタイガを睨(にら)み返(かえ)す。


「てか今までだってミャー、玉ねぎ食べてきたし……」

「え……? な、なんで? どういうこと?」


 タイガの混乱(こんらん)を見かねて、ノエルが一歩前に出る。


「多分、猫(ねこ)さんは〝獣性(じゅうせい)が薄(うす)い〟ケモニアだから大丈夫(だいじょうぶ)なんだと思う」

「〝獣性(じゅうせい)〟?」


 首をかしげるタイガに、ノエルは静かに自分の籠手(こて)を外した。


「こういうこと」


 籠手(こて)の下から現(あらわ)れた素手(すで)は、まるで犬そのものだった。

 手の甲(こう)にはモフモフの短い毛が生え、指先には柔(やわ)らかな肉球。


「うお!? 凄(すご)い……犬の手じゃん!!」


 タイガが思わず感嘆(かんたん)の声を漏(も)らす。

 ミヤコの方に目をやると、その手は人間とほとんど変わらない。毛はなく細く、スベスベしていた。


 こうして並(なら)べてみると――その〝差〟は一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。


「私(わたし)は〝獣(けもの)と人間の狭間(はざま)〟のケモニア、猫(ねこ)さんは〝人間寄(にんげんよ)り〟のケモニア……だから、こういう違(ちが)いも出る」

「へ~!! 同じケモニアでも色々違(ちが)うんだね~!!」


 タイガは感心したように頷(うなず)き、ほぉと息を漏(も)らす。

 ノエルは一瞬(いっしゅん)だけ口角(こうかく)を上げたが、すぐに自分のテーブルの上を見て肩(かた)を落とした。


「そう……だから困(こま)った、私(わたし)これ食べられない……」


 皿の上には、湯気を立てる肉厚(にくあつ)なハンバーグが山のように積まれている。

 香ばしい匂(にお)いが漂(ただよ)うたび、ノエルは鼻先をくすぐられて小さく顔をしかめた。


「……勝負はあなたの勝ち。これ優勝賞品(ゆうしょうしょうひん)」


 そう言ってノエルは、自分の席の皿をすべてタイガの前へと押(お)しやる。


「ええ!!? ちょ……流石(さすが)にちょっと多いんだけど!!?」

「残すともったいない、食べるべき」


 ノエルは当然のように言い放つと、すっと席を立ち、またミヤコの隣(となり)に戻(もど)っていった。

 残されたタイガの前には、肉の山――いや、もはや〝肉の壁(かべ)〟がそびえ立つ。


「ぐぐぐ……!! ね、ねェ……これみんなでシェアしな……」


 冷(ひ)や汗(あせ)を垂(た)らしながら周りに助けを求(もと)めるタイガ。

 だが、その声よりも早く、周囲(しゅうい)の酔(よ)っ払(ぱら)い達(たち)が一斉(いっせい)に立ち上がった。


「うお~っし!! 兄ちゃんのいいトコ、見ってみったい!!! あっソーレ!!」

「「「見ってみったい!! 見ってみったい!!!」」」


 酔(よ)いの回った男達がテーブルを叩(たた)き、掛(か)け声(ごえ)の調子をさらに速めていく。


「うえェ!!? こ、この量は……」

「いけ~!! 男ならカッコいいトコ見せてくれェ~ッ!!!」

「うぐ……!! そうだよね……男の子なら……で、出来らあっ!」


 タイガはあおりを受け、少しやけ気味に肉をかき込(こ)み始める。


「うおおおおおおお!!! バクバクムシャムシャッ!! バキバキグピグピィッ!!!!」

「いけいけェ!!」

「FOOOOO~!!!」


 熱気と酒気に満ちた酒場の空気が、一気にタイガを飲(の)み込(こ)んだ。

 彼(かれ)の涙(なみだ)も、やがて歓声(かんせい)と笑い声にかき消されていった――

 第62話は明日の20時10分に投稿(とうこう)です。

 よければブックマーク、評価等で応援よろしくお願いします。

 感想、コメントなども待っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。