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勇者になりたいのに賞金首になっちゃったボク ~人助けするたびに、懸賞金と仲間が増えていく~ バンディット!!  作者: ちゃんなか
相対する転生者達――グリングリン・ロッジ編

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第48話 “こじんまりとした宴”

 ――日が沈(しず)んだグリングリン・ロッジに、巨大(きょだい)な火が灯る。


「「「かんぱ~いッ!!!!」」」


 いくつものジョッキが勢(いきお)いよくぶつかり合い、甲高(かんだか)い音が夜の村に響(ひび)いた。


 村の中央。

 そびえ立つキッドタワーのふもとで、村人達は大きなたき火を囲(かこ)んでいた。

 ぱちぱちと薪(まき)の爆(は)ぜる音に、笑い声と歌声が重なり、昼間の疲労(ひろう)など嘘(うそ)のように村全体が熱を帯びていた。


「キャンプファイヤーだ~ッ!!! ボク、キャンプファイヤー大好きーッ!!!」

「おう兄ちゃん!! 今日はとことん楽しんでくれェー!!!」


 タイガは屈強(くっきょう)な村人と肩(かた)を組み、たき火の周りではしゃぎ回っていた。


 まわりのみんなも笑っている。

 ジョッキを片手(かたて)に酒を飲む者。串焼(くしや)きを頬張(ほおば)る者。昼間の作業で疲(つか)れ切(き)っていたはずの男達は、今は声を張(は)り上(あ)げ、陽気に騒(さわ)いでいた。


「もう……快気祝(かいきいわ)いは5日後なのに、みんな浮(う)かれちゃって……」


 その様子に、ルリノは困(こま)ったように眉(まゆ)を上げる。


「まあまあ!! だから今日は、村で〝こじんまり〟とした飲みをしてるんじゃないか!!」

「これが〝こじんまり〟なもんですか!! ……私(わたし)が港に行ってる間に、全部解決(かいけつ)しちゃうなんて……ギルドが依頼(いらい)を貼(は)りだす前でよかった」


 ルリノは驚(おどろ)き半分(はんぶん)、困惑半分(こんわくはんぶん)といった表情(ひょうじょう)でタイガを見る。


 件(くだん)の少年は、すでに大勢(おおぜい)の村人に囲(かこ)まれていた。

 昼間、6本のバンブームをあっという間に切(き)り倒(たお)した小さな英雄(えいゆう)。


 ルリノは村人の群れをかき分けて、タイガに近づいた。


「みんな!! ちょっと避(よ)けて……え、えっと……タイガさん……」

「ん? どうしたの?」

「……この度は、村を危機(きき)から救(すく)ってくださり、ありがとうございました」


 ルリノは丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をし、タイガに精一杯(せいいっぱい)の感謝(かんしゃ)の気持ちを伝えた。


「このお礼は必ずさせていただきますので……」

「別にいいよ。この村に来てから美味(おい)しいモノいっぱい食べさせてもらったもん!! てか今も食べてるし!!」

「で、ですが……」


 村長の娘(むすめ)――村の代表として恩人(おんじん)に報(むく)いようとするルリノ。

 だがタイガは、そんなこと別にいいと笑う。

 けれどそれでは気が済(す)まず、戸惑(とまど)うルリノを差し置いて、村人の1人割(わ)って入(はい)る。


「そうだ兄ちゃん!! この村の野菜はうめェだろ!! ほら、もっとたくさん食ってくれ!!」

「ちょっとバドさん……!!」


 ルリノにバドと呼(よ)ばれた男は、タイガにまるでバーベキューのように焼いた野菜の串(くし)を渡(わた)す。


「おー!! ありがとう!! ガブ……んめーーーっ!!!」

「ガッハッハッハ!! そうだろ!!」

「……もう……呑気(のんき)なんだから……」


 会話が途切(とぎ)れてしまい、頬(ほお)を膨(ふく)らませるルリノ。

 だが、そんな彼女(かのじょ)のことはお構(かま)いなしにタイガと村人達は盛(も)り上(あ)がる。


 村人達は、興味津々(きょうみしんしん)といった様子でタイガを見つめていた。

 唐突(とうとつ)に、どこからか問いが飛んでくる。


「なあ!! 兄ちゃんは冒険者(ぼうけんしゃ)なんだよな? ランクはいくつなんだ?」

「んえ!!? そ、それは……内緒(ないしょ)で!!」


 村人からの質問(しつもん)を、タイガはきょどりながら誤魔化(ごまか)した。


(……かなり不自然だけど……まあいいか)


 それをミヤコは、ジトっとした目で注視(ちゅうし)していた。


(ミャーが言った通り、余計(よけい)な事は言わないようにしてるな)


 そう。

 気を抜(ぬ)いたらなんでもポロっと言ってしまいそうなタイガに、ミヤコはあらかじめ釘(くぎ)を刺(さ)していたのだ――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――それはタイガがバンブームをすべて倒(たお)し終(お)え、一段落(いちだんらく)した時のことだった。


 日は傾(かたむ)き始(はじ)めていた。

 村人達に囲(かこ)まれていたタイガを、ミヤコはほんの一瞬(いっしゅん)の隙(すき)をついて村の隅(すみ)へ引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)した。


「いいか? ミャー達のこれまでの冒険(ぼうけん)の事は、言うんじゃないぞ」

「え? なんで?」

「なんでもだ!!! じゃないとおミャー、ポロっと自分が〝賞金首(しょうきんくび)〟だってこと漏(も)らしちまうだろ!!!!」

「わ、わかったよ……」


 ミヤコのあまりの剣幕(けんまく)に、タイガも押(お)され気味(ぎみ)に頷(うなず)くしかなかった――



 ――

 ――――

 ――――――



「――今まで倒(たお)したので、1番強かったモンスターは!!?」

「な、内緒(ないしょ)で……」

「じゃあ印象(いんしょう)に残ったダンジョンは?」

「それも内緒(ないしょ)で……」

「じゃあ1番美味(うま)かったモンは!!?」

「えっとぉ……それも内緒(ないしょ)?」

「おいおい……内緒(ないしょ)ばっかりじゃねェか……」


 とっかえひっかえの質問(しつもん)を全部かわされ、村人達は残念そうに肩(かた)を落とす。

 タイガも申(もう)し訳(わけ)なさそうに頭を掻(か)きむしる。

 それを見かねて、ロマが助(たす)け舟(ぶね)を出すように割(わ)り込(こ)む。


「まあまあ、タイガの実力を見ただろ? 高いランクの冒険者(ぼうけんしゃ)になると、国の重要機密(じゅうようきみつ)を扱(あつか)うクエストにも駆(か)り出(だ)される事がある。必然的に秘密(ひみつ)も多くなるんだよ」

「むう、そういうもんなのか……悪かったな兄ちゃん。いろいろ詰(つ)め寄(よ)っちまって」

「ううん!! いいんだよ。ボクの方こそごめんね、何も答えられなくて……」


 お互(たが)いに少し遠慮(えんりょ)がちになり、空気が妙(みょう)にしぼんでしまう。

 その沈黙(ちんもく)を放っておけなくなったのか、ミヤコは小さく息を吐(は)いた。


「……美味(うま)かったモンくらいは、言ってもいいぞ」

「え!? いいの!?」


 質問(しつもん)に答えられず歯がゆい思いをしていたタイガは、ミヤコからの許(ゆる)しが出た途端(とたん)、ぱっと顔を輝(かがや)かせた。


「えっとね~……!!! この森の野菜も美味(うま)かったんだけど~、でもやっぱり1番は~……!!」


 タイガは記憶(きおく)をたどるように遠い目をし、ニコッと笑って言った。


「〝ミヤコのシチュー〟かな!!!」

「んぐっ!!!?」


 思いもよらない答えに、ミヤコはすすっていた野菜スープを喉(のど)に詰(つ)まらせかけた。


「ゲホッ!! ゴホッ!! ゲッホ……ッ!!」


 慌(あわ)てて胸(むね)を叩(たた)き、どうにか飲(の)み込(こ)む。

 それから、顔を真っ赤にしてタイガへ詰(つ)め寄(よ)った。


「い、いやいやいや……!!! もっとあるだろ!! あれてきとうに作ったんだぞ!!?」

「でもさ、とってもあったかくて、心にしみる感じがしたんだ……あんな料理、初めてだったなぁ~」


 タイガの声には、照れもからかいもない。

 本当にそう思っているのだと、ミヤコもすぐわかってしまった。


「~~~っ!!! こいつ……!!!」


 だからこそ、恥(は)ずかしくなる。


 耳まで真っ赤になり、ミヤコはぷいっと顔を背(そむ)けた。


 そんな初々(ういうい)しい反応(はんのう)を見て、周りの村人達の顔がにやける。


「へ~……!! お熱いねェ、彼女(かのじょ)が作った料理が1番かい」

「そんにゃんじゃない!!! ミャーとタイガは!!!」

「おや、そうなのかい?」


 てっきり2人はそういう関係だと思っていたロマは、意外だと目を丸くする。


「? ミヤコは大切な仲間だよ!!」

「そう!! 仲間!!! ……それも、ちょっとあらためて言うと恥(は)ずかしいな……」


 元気よく言い切るタイガと、認(みと)めながらも余計(よけい)に頬(ほお)を赤くするミヤコ。


「……付き合ってもいない男女が2人旅なんて……」

「言うな。おかしい事はわかってる……」


 ロマの指摘(してき)に、ミヤコは小さな声で返した。


 自分でも、変な関係だってことはわかっている。

 わかっているからこそ、他人から言われるとミヤコは妙(みょう)に落ち着かなかった。


 少し奇妙(きみょう)な空気が流れ始めたところに、ルリノが慌(あわ)てて割(わ)って入(はい)った。


「ま、まあ……世界には色んな関係があるってことね!!」


 それは、ルリノなりの精一杯(せいいっぱい)のフォローだった。

 それでも会話は弾(はず)まず、その間を埋(う)めるように、バド(さっきルリノに名前を呼(よ)ばれていた屈強(くっきょう)な村人)が串焼(くしや)きを差し出す。


「よっしゃ! いい焼(や)き加減(かげん)だ……!! タイガ……これ食ってみな、サイコーだぜ? 猫(ねこ)ちゃんのシチューには及(およ)ばないと思うがな!!」

「ん? これは……キノコ?」


 バドが差し出したのは、大きなキノコだった。

 薄(うす)くスライスされて串(くし)に刺(さ)さっているが、それでも1枚(いちまい)1枚(いちまい)が人の顔ほどある。

 たき火で炙(あぶ)られた表面は香(こう)ばしく焼き色がつき、じゅうじゅうと音を立てながら、透明(とうめい)な汁(しる)を滴(したた)らせていた。


 その香りだけで、タイガの目がきらりと輝(かがや)く。


「デッケェキノコだなぁ!! いただきます!!! あぅむ……っ!!」


 タイガは串(くし)を受け取ると、思いっきりかぶりついた。



 次の瞬間(しゅんかん)――



「――っ~~~~~!!!! うめみゃーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」


 口いっぱいに広がった衝撃(しょうげき)に、タイガは歓喜(かんき)の悲鳴を上げる。


「はっはっは!!! スゲェだろ!!! これはバンブームの幹(みき)に寄生(きせい)する〝ブーマッシュ〟だ!! 木1本につき1個(いっこ)しか生えねェ、希少(きしょう)なキノコだ。宿主(しゅくしゅ)の木がデカいほど、こいつもデカくなり……そして美味(うま)くなる!!!」


 バドは、我(わ)が事(こと)のように胸(むね)を張(は)る。


「今日のバンブームはデカかったからな……!! その分、旨味(うまみ)は増(ま)し……そして価値(かち)が上がる!!! いつもなら木を伐(き)り倒(たお)した後は、こいつを売って少しでも損害(そんがい)を取(と)り戻(もど)そうとするんだが……今日はタイガ!! お前が全部倒(たお)してくれたからな!! 全部お前のもんだ!!!」

「いいの!!? やったーーーーっ!!!!」


 タイガは両手を上げ、全身で喜(よろこ)びを表した。


「いやぁ悪いな~、こんないいモノ貰(もら)っちゃって~」

「とんでもない!! むしろこれくらいやらせてくれよ!! お前さん、木の〝伐採報酬(ばっさいほうしゅう)〟は受け取らなかったんだろ?」


 バドは、いまだに信じられないといった顔をしていた。

 そこへルリノも言葉を足す。


「合計で〝60万ディジー〟の大金なのに……ギルドを通してないとはいえ、せめて『半分だけでも』っていっても断(ことわ)るんですもの」


 だがその言葉に対して、タイガは迷(まよ)いなく言い切る。


「うん。だって昼間に野菜食べたし……それにこれは、ロマに朝、助けてもらった事へのお礼でもあるから!!」

「おー!! 流石(さすが)ロマ!! オレ達の知らない間に人助けなんて、このこのォ!!」


 大きな腕(うで)が、ロマの肩(かた)を小突(こづ)いた。

 彼(かれ)は恥(は)ずかしそうに頬(ほお)をかく。


「人助けって、大げさな……安物のポーションをあげただけだよ」

「謙遜(けんそん)すんなよロマ!! お前のポーションはポートの方でも人気だぜ? がっはっはっは!!!」バン!! バン!! バン!!

「痛(いた)い!! 痛(いた)いってバド!!!」


 バドは大笑いしながらロマの肩(かた)を叩(たた)く。

 ロマは顔をゆがませながらも、その口元は笑みを隠(かく)し切(き)れない。


「ロマ人気者だね~!! はぁ~、やっぱ〝仲間〟にしたいなぁ……はむ。うめえええエエエエェ!!!!」

「っ……!! 〝仲間〟……?」


 独(ひと)り言(ご)ちながらも、〝ブーマッシュ〟の味に再(ふたた)び舌鼓(したつづみ)を打つタイガ。

 だが、その独(ひと)り言(ごと)を聞き、表情(ひょうじょう)を曇(くも)らせる者がいた。


「なんなんだろうこれ……まるで肉だ!!! 〝肉汁(にくじゅう)〟が溢(あふ)れ出(だ)す!!!!」


 当のタイガはそんなことには気づかず、キノコの味に夢中(むちゅう)になっていた。


「〝肉汁(にくじゅう)〟……? 何言ってるんだおミャー、それキノコだろ? てかミャー達、ここに来て食ってばかりだな……」


 叫(さけ)ぶタイガを横目に、ミヤコは少し離(はな)れた場所で呆(あき)れたように言った。


 昼間に野菜を食べ歩き、今は巨大(きょだい)キノコ。

 2人の胃袋(いぶくろ)にとっては、ずいぶんと忙(いそが)しい1日である。


 そんなミヤコを、ロマは苦笑しながらなだめる。


「この村に来たんだ、むしろ食わなきゃ損(そん)だよ。まあ、キミ達の旅が魔王討伐(まおうとうばつ)の冒険(ぼうけん)から、異世界(いせかい)グルメものにならないかだけは心配だけどね」

「ホントだにゃ。旅の目的が変わっちゃ世話ないぞ」


 ロマの皮肉が現実(げんじつ)にならないか、ミヤコはちょっとだけ本気で心配になる。



 だが――



「――ミヤコ……そんなこと言いながら、またよだれ」

「は? 誰(だれ)がよだれなんて垂(た)らしてばあああアアァァァァ……!!!!」

「たれてるよ!!! めっちゃ!!」


 冷静な態度(たいど)を装(よそお)っていても、ミヤコの食欲(しょくよく)はまったく止まっていなかった。


 たき火に炙(あぶ)られたブーマッシュの香りが、鼻をくすぐるたびに耳がぴくぴく動いている。


「ほら、ミヤコも食べてみなよ」

「ま……まあ……一口くらいなら食べてみるけど……ほんと一口だけな」

「いや絶対(ぜったい)に止まらなくなるよ、一度食べたら……てかなんで、ちょっとそっけない態度(たいど)なの? 昼間はボクと一緒(いっしょ)にはしゃいでたのに……」

「ぐ……その昼間に食(た)べ過(す)ぎたからだよ。いくら野菜でも食(た)べ過(す)ぎたら……ちょっとな……」


 そう言いながらプイっと顔を背(そむ)けるミヤコ。

 どうやら彼女(かのじょ)も年頃(としごろ)、気になるモノがあるらしい。


「ひ、一口だけ……ほんの一口だけだから……大丈夫(だいじょうぶ)……ガブ……!!」


 そう恐(おそ)る恐(おそ)る、ミヤコはキノコを口にする。



 すると――



「――うみゃあああああああああああ……!!!!! ホントだナニコレ!!? まるで肉汁(にくじゅう)だ!!! うま味が溢(あふ)れ出(だ)してくる!!!

 ……ガブ!! うみゃああああああああああ!!!!」

「言ったそばから2口目いってるし!!?」


 一瞬(いっしゅん)で〝ブーマッシュ〟の虜(とりこ)になったミヤコに、タイガも思わず鋭(するど)くツッコむ。


「見事な即落(そくお)ちだなぁ……チョロすぎて不安になるね~、プゥプル~」

「ピィー!」


 タイガは膝(ひざ)の上に置いたカゴを覗(のぞ)き込(こ)む。

 そこには、昼間捕(つか)まえた小さなスライムがぷるぷると揺(ゆ)れていた。


「〝プゥプル〟も食べな~美味(おい)しいよ~」

「ピィー? ムシャムシャ……ッ!!! ピィイイイイイイイイイッ!!!!!」


 キノコをかじった瞬間(しゅんかん)、小さなスライムは昼間のキャベツの時以上に、大きな感動の声を上げる。


「あー!!! スライムなんかに、こんなイイモン食わせんなよ!!! てかいつの間に名前つけてたんだ……」

「んな!? 『スライムなんか』じゃないよ!! プゥプルは大事な友達だ!! それに、みんなにご飯を分(わ)け与(あた)えるのが〝勇者〟だよ!!!」


「……え? 〝勇者〟?」


 その言葉に一瞬(いっしゅん)、村人達は固まったが、直(す)ぐにタイガの言葉が響(ひび)く。


「そうだ!!! このキノコ……みんなで食べよっ!!!」

「え!? いいのか!!? 兄ちゃん」

「おいおい……どこまでお人好しなんだよ!?」


 村人達はその提案(ていあん)に喜(よろこ)びよりも、若干(じゃっかん)戸惑(とまど)いが勝っていた。

 だがタイガは、そんなこと気にせずに告(つ)げる。


「だって〝もったいない〟じゃん!! こんな美味(おい)しいモノ、ひとりじめなんて!!!」

「んえ? 〝ひとりじめ〟が……もったいない?」

「……へ~」


 その言葉に村人達はポカンとする。

 だがただ1人、ロマだけが愉快(ゆかい)そうに目を細めていた。


「……お言葉に甘(あま)えようよ、みんな」

「いや、だってなぁ……」

「なんか……逆(ぎゃく)に不安になっちまうよ。こんだけよくしてもらったらよ……」


 見返りを求めないタイガの様子に、村人達は逆(ぎゃく)に落ち着かなくなっていた。

 だがロマは、彼(かれ)らをなだめるように口を開いた。


「タイガが分け合いたいって言ってるんだ、気にすることない……それにみんなと一緒(いっしょ)っていうのは、何事にも代えがたい安心なんだよ。長い事〝独(ひと)りきり〟だった人間には、特にな」

「っ……!!! そうかぁ……兄ちゃんも大変だったんだなぁ……っ!!!」

「んえ?」


 唐突(とうとつ)に涙(なみだ)ぐむ村人に、タイガはキョトンと首をかしげる。

 自分が妙(みょう)な方向に誤解(ごかい)されていることには、まったく気づいていなかった。


 だがそんな事お構(かま)いなしに、彼(かれ)らは再(ふたた)び場を盛(も)り上(あ)げる。


「よっしゃーーーーッ!!!! じゃあこのキノコ、みんなで分け合うぞーーーーー!!!!」

「おーーーーー!!!! オレ達は一緒(いっしょ)だからなァ!!! タイガァ!!!!」

「うん!!! グリングリン・ロッジさいこーッ!!!!」


 再(ふたた)び村に歓声(かんせい)が爆(は)ぜた。


 ブーマッシュの串(くし)が次々とたき火の上に並(なら)べられ、香(こう)ばしい匂(にお)いが夜空へ立ちのぼる。

 タイガもまた拳(こぶし)を突(つ)き上(あ)げ、楽しそうに雄(お)たけびを上げた。


(……はは、なんとか誤魔化(ごまか)せたか……全く……)


 盛(も)り上(あ)がる村の中心から少し離(はな)れながら、ロマは困(こま)ったように息を吐(は)く。


(あまりにも見返りを求めないと、却(かえ)って不審(ふしん)がられるからな……やれやれ)


 それでも、彼(かれ)の表情(ひょうじょう)はどこか穏(おだ)やかだった。


 たき火の光に照らされた村人達。

 その中央で、笑っているタイガ。


 騒(さわ)がしくて、呆(あき)れるほど単純(たんじゅん)で、少しだけ危(あぶ)なっかしい――



 けれど……タイガと過(す)ごす時間は、悪くない。



 ロマは小さく笑い、たき火に背(せ)を向け、歩き出した。


「あれ? ロマどっか行くの?」

「キノコ食わねェのか? 〝もったいない〟ぞー!!」


 去ろうとするロマを、引(ひ)き留(と)めようとするタイガとバド(屈強(くっきょう)な村人)。

 だがロマは振(ふ)り向(む)きもせずに、小さく手を振(ふ)る。


「ちょっと野暮用(やぼよう)があるんでね、オレの事は気にせずに楽しんでくれ」

「そっか。わかった!! キノコ残しとくね~!!」

「残さなくていい、風味が落ちる。オレの分はキミが貰(もら)ってくれ」


 そう言うとロマは、村のある小屋へ向かって歩いていく。

 それを見てバドは事情(じじょう)を察したように、口角を上げる。


「野暮用(やぼよう)ねェ……はは!! あいつも隅(すみ)に置けないな!!」

「へ? どういうこと?」


 タイガは答えを待つように、バドの顔を見上げる。

 だが彼(かれ)は楽しそうに笑い、わざとらしく肩(かた)をすくめた。


「ははは!!! そりゃあ〝内緒(ないしょ)〟だな!!」

「む……言い返されちゃった……」


 してやられたような顔をするタイガに、村人達の笑い声が響(ひび)く。


 たき火はなおも赤々と燃(も)え、火の粉(こ)を夜空へ舞(ま)い上(あ)げていた。

 ブーマッシュの香りと、酒と、笑い声。


 グリングリン・ロッジの夜は、まだまだ賑(にぎ)やかに続いていく――

 第49話は明日の20時10分に投稿(とうこう)です。


【アイテム図鑑(ずかん)】


【ブーマッシュ】

 〇分類:希少食材(きしょうしょくざい)/キノコ

 〇ランク:《C》

 〇採取場所(さいしゅばしょ):グリングリン地方のバンブームの幹(みき)

 〇採取量(さいしゅりょう):木1本につき1個(いっこ)

 〇取引価格(とりひきかかく):1,000~50,000ディジー(大きさと品質(ひんしつ)によって大きく変動)

 今回タイガ達が食べたものは最大価格(さいだいかかく)に近い。


『バンブームの幹(みき)に寄生(きせい)する、大型(おおがた)の食用キノコ。


 宿主(しゅくしゅ)となる木が大きいほど、自身も大きく育ち、味もよくなるという特徴(とくちょう)を持つ。

 巨大(きょだい)なバンブームから採(と)れたものは、薄(うす)く切った1枚(いちまい)だけでも人の顔ほどの大きさになる。


 最大の魅力(みりょく)は、肉と錯覚(さっかく)するほどの濃厚(のうこう)なうま味。

 火で炙(あぶ)ると表面に香(こう)ばしい焼き色がつき、かじった瞬間(しゅんかん)、閉(と)じ込(こ)められていた汁(しる)が口いっぱいに溢(あふ)れ出(だ)す。

 キノコだと知っていても、思わず〝肉汁(にくじゅう)〟と呼(よ)びたくなる味わいである。


 ただし、どれほど大きな木にも、生えるのはたった1個(いっこ)。

 その希少性(きしょうせい)と味のよさから、高級食材として高値(たかね)で取り引きされる。


 グリングリン・ロッジでは、バンブームの伐採後(ばっさいご)にこれを売り、村が受けた損害(そんがい)の埋(う)め合(あ)わせにすることも多い。

 村人にとっては、手放すには惜(お)しく、食べてしまうには少々ぜいたくな森の恵(めぐ)みなのだ。


 なお、このキノコを前にした者の「一口だけ」という言葉は、あまり信用(しんよう)してはいけない』

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