第41話 “錬金人間 ロマ登場”
「――ん? なんだ今の声……」
深い森の静寂を破った絶叫に、1人の青年が足を止めた。
濃い緑のロングコートを羽織り、その姿は森の木々に溶け込むようだ。
細められた琥珀色の瞳が、音のした方角を鋭く探る。
「旅人か冒険者か? まさか……〝盗賊〟にでも襲われてるのか……?」
思案しながらも、青年は迷わず声の方へ駆け出した。ロングコートの裾が翻り、揺れる黄色のハチマキが木漏れ日にきらめく。
「あ~もぉ……ダルイけど……放ってはおけないよなァ……」
ぼやく声とは裏腹に、その足取りは速い。
枝を踏み越え、木々の間を縫うように進むたび、声は次第に大きくなり、はっきりと聞こえてきた。
「うわ~~~~~っ!!! 助けてください!! 助けてくださいいいいいいいいいいいいィィッ!!!」
「――まるで昔の〝恋愛映画〟だな……待ってろよ……!!」
皮肉めいた言葉を零しながらも、青年の目つきは真剣そのものだった。
そして、その声の主のもとへと辿り着いた――
「――おい!! 大丈夫か!!? 今助けに……」
「ミヤコ!! とりあえず、その辺で採ってきた、体に〝よさそうな見た目の薬草〟を……」
駆け込んだ青年が目にしたのは、涙目の少年が、ぐったりした少女の口元へ、〝紫色の得体の知れない草〟を押し込もうとしている光景だった。
だが、その草を見た瞬間。
青年の顔色が変わる。
「え……? うわあああああああああッ!!!? 馬鹿やめろォ!!!! それは〝毒草〟だァ!!!!!」
青年は叫ぶなり、少年――タイガへと飛びかかる。
「へ? だれ……? おあああああああァッ!!?」
タイガは突然の飛び込みに驚きつつ、反射的に身を引く。
そのせいで青年は止まりきれず――
「――あべし!!」
顔面から地面へ一直線。
ドッシャアアアアン!!
派手な音とともに、盛大に転倒した。
「えええええええ!!? だ、大丈夫? お兄さん……」
タイガは目を丸くしながら、おそるおそる声をかける。
青年は土まみれのまま、ぴくりと肩を揺らした。
濃緑の髪に黄色のハチマキ。
灰色のズボンと革靴は上質そうだが、今はすっかり土埃で台無しになっている。
「む……むあ……ふぁいほう……んえェ?」
青年はむくりと顔を上げる。
無造作な濃緑の髪。
その下から覗く顔立ちはかなり整っており、目元にはどこか気だるげな雰囲気が漂っていた。
――が、その表情はたちまち驚愕に歪む。
「はれ……? ふぉれなんふぁ……んあァ!!?」
「あ……それ、さっきお兄さんが〝毒草〟って言ってた……」
飛びかかった拍子に、タイガが持っていた〝毒草〟の先端が、青年の口へすっぽり入り込んでいたのだ。
勢い余って〝咥えて〟しまった形だった。
「ふ……ふわああああああああああああああああああッ!!!?」
青年の絶叫が森に響き渡る――
――だが、すぐにスン……と真顔に戻り……
「……もしゃもしゃ……ゴクン。あービックリした」
「いや食べた!!? 〝毒草〟だって言ってたよね!!?」
言っていることと、やっていることがまるで噛み合っていない。
タイガは間髪入れずにツッコんだ。
だが青年は平然と首を振った。
「いや、食べてない」
「絶対食べてたけど!!? なんでそんな嘘つくの!!?」
「いや、そう見えたかもしれないけどホントに食べてないんだよ……」
あまりにも堂々とした否定に、タイガはキャラにもなく連続でツッコむ羽目になった。
しかし、そんなやり取りは一瞬で終わる。
青年の視線が、地面に倒れたミヤコへと向いた途端、その顔つきが変わった。
「まあその話は置いといて……キミの〝彼女〟、今ヤバい状態なんだろ?」
「〝彼女〟……? あー!! そうだミヤコ!!」
その言葉にタイガはハッとして、ミヤコを見下ろす。
「ば……ばん……ばばばばん……っ」
少女は小さく痙攣しながら、口の端からかすれた声を漏らしていた。
タイガの中に、焦りが一気に込み上げる。
「た、大変なんだよお兄さん! ミヤコ、蛇にお尻を噛まれちゃったんだよ!!」
「なんだって? それは大変だ」
青年は素早く辺りを見回し、地面に転がる焼け焦げた蛇を見つける。
「こいつは……〝グリングリンスネーク〟じゃないか!! 何故か黒焦げだけど……〝毒蛇〟だぞ!!」
「ええ!!? 大変だーーー!!!?」
タイガは青ざめた顔で青年にしがみついた。
「お願いお兄さん!! ミヤコを助けて!! 〝仲間〟なんだ!! 大切なんだッ!!!」
涙目で縋るその必死さに、青年は一瞬だけ目を見開く。
けれどすぐに、短く息を吐いて言った。
「っ!! ……〝仲間〟……か……まるでどっかの“海賊王”みたいだな……いいよ、ついて来て!!」
その一言で、タイガの顔がぱっと明るくなる。
「ホント!? ありがとう!!! 恩に着る!!!」
「礼を言うのは早いよ。100%助けられると決まったわけじゃないし……とりあえず、近くの村まで行こう」
「あばばばばば……っ! た……おま……ばばばば……!!」
痙攣するミヤコを背負い、タイガは青年と共に森を駆ける。
「この森を抜けると〝街道〟がある」
「“カイドウ”……? “ワノ国”まで行くってこと?」
「いや誰が今“四皇”の話するかよ、街までの道のことだよ」
こんな切羽詰まった状況だというのに、タイガはいつもの調子で〝漫画ネタ〟を口にする。
青年も反射のようにツッコミを返してしまった。
初対面のはずなのに、不思議なほど会話の呼吸が合ってしまう。
そんな違和感を残したまま――
「そんなこと言ってる場合じゃない。村までは走って20分ほどだ、急ぐぞ!!」
「うん! わかった!!」
タイガはミヤコを背負い直し、さらに速度を上げた青年に食らいつく。
だが――その最中、青年はふと先ほどの言葉を反芻し、思わず立ち止まりかける。
「……ん……? “カイドウ”……? いやちょっと待て!!」
「え? なに?」
「いや……なんでキミ、“ONE PIECE”知ってんの……?」
青年の瞳が、大きく見開かれる。
さっきまでの冷静さが崩れた。
「なんでって……あんな世界中で人気な漫画、みんな知ってる……」
「いやここは〝異世界〟だぞ!!? 〝漫画〟なんて売ってない!!」
その指摘に、タイガは「あ、そうか!」とあっさり頷いた。
「そういや、この世界じゃ誰も知らないじゃん。アニメや漫画のこと」
タイガの呑気な様子とは対照的に、青年は明らかに動揺していた。
「……キミ……いったい何者だ……? まさかオレと同じ……」
「あ、名乗ってなかったね。ボクはタイガ! よろしく!!」
だが、緊張感の欠片もない自己紹介に、青年も息を整えつつ名を名乗った。
「そ、そうか……オレは〝ロマ〟……多分、キミと同じ……〝転生者〟だ」
〝転生者〟。
その一言だけが、森を駆ける足音にも埋もれず、はっきり響いた。
本来なら、息を呑むような告白。
けれど――
「テンセイシャ……?」
タイガは首をかしげた。
あまりに手応えのない反応に、ロマは思わず声を張る。
「だからキミと同じように!! 元の世界で死んで、この世界に〝転生〟してきたんだ!!!」
「へ~、そうなんだ。よろしくね! ロマ!!」
重大な事実をぶつけられたはずなのに、タイガは驚くどころか、笑顔のまま軽く返す。
「いや『そうなんだ』って……は~……もういいや、ダルっ……」
力の抜けた声を漏らしながら、ロマは半ば観念したように肩を落とした。
ケモニアの少女を背負ったまま、平然と走る少年。
異世界でアニメや漫画の話が通じるという、とんでもない偶然。
その全部が、まだ現実味を持たない。
それでも――
「ああ。こちらこそよろしく、タイガ……」
ロマは確かに、その出会いを受け入れた。
こうして、森の只中で転生者達は出会った。
それはきっと、ただの偶然なんかではなかった。
――その意味を知るのは、まだ先のこと。
今はただ、ミヤコを救うため、2人は森の先にある村へと走り続けた――
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ミヤコの現在のステータス――
盗賊Lv.9
HP:52 MP:22
ちから:18
みのまもり:17
すばやさ:50
こうげき魔力:19
かいふく魔力:0
きようさ:33
うんのよさ:120
装備
〇装飾品
グランのペンダント
所持スキル
〇基礎能力スキル
アジリティ《E》[パッシブ]
身のこなしが軽くなり、すばやさが上がる。
マニューバ《F》[パッシブ]
手先や動作の精密さが増し、きようさが上がる。
雷属性耐性《F》[パッシブ]
雷属性から受けるダメージを軽減する。
毒耐性《A》[パッシブ/装備付与]
毒に対する抵抗力が大幅に上がる。
麻痺耐性《A》[パッシブ/装備付与]
麻痺に対する抵抗力が大幅に上がる。
出血耐性《A》[パッシブ/装備付与]
出血に対する抵抗力が大幅に上がる。
火傷耐性《A》[パッシブ/装備付与]
火傷に対する抵抗力が大幅に上がる。
呪い耐性《A》[パッシブ/装備付与]
呪いに対する抵抗力が大幅に上がる。
精神耐性《SS》[パッシブ/装備付与]
恐怖・混乱・魅了など、精神に作用する状態異常を無効化する。
〇技能スキル
短剣術《E》[パッシブ]
短剣を装備している間、きようさと会心率が上がる。
木工《F》[パッシブ]
木材を加工する際の作業効率が上がる。
料理《E》[パッシブ]
料理を作る際の技術が向上し、完成した料理の品質が上がる。
忍び足《E》[アクティブ]
足音と気配を抑えながら移動する。
〇武技スキル
二連突き《F》[アクティブ]
短剣による素早い突きを2回連続で放つ。
キャットネイル《E》[アクティブ]
鋭い爪を使って敵を攻撃する。
盗む《F》[アクティブ]
相手の隙を突き、所持品を盗み取る。
〇魔法スキル
『ヒューサ』《D》[アクティブ]
MPを消費し、圧縮した突風を放つ初級風呪文。
『ヒューサル?』《?》
覚えかけの中級風呪文。
〇異能スキル
鑑定《E》[アクティブ]
対象へ使用することで、そのステータスと装備品、および所持スキルの一部を判別できる。




