第39話 “もし……転生したら……?”
~グリングリン・ロッジ編、開始~
――都会の喧騒から少し離れた、白い建物の屋上。
風を遮るものはなく、快晴の陽ざしがまぶしいほどに降り注いでいる。
けれどそこは、どこか寂しく――まるでこの世から切り離された箱庭のようだった。
フェンスの外には、ビルの群れが立ち並び、道路を行き交う車の音が、遠くでかすかに響いている。
屋上の隅では、古びた室外機がゴウン……ゴウン……と規則的な唸りを上げていた。
その音だけが、時間がまだ動いていることを教えてくれる。
外の世界から見れば、ここはきっと〝透明〟だ。
誰の視線にも映らず、誰の記憶にも残らない。
そんな孤独を抱えた、少年少女が屋上に佇んでいた。
少年は青色の病衣を、少女は淡い緑の病衣を身に纏っていた。
どちらも少し大きめで、袖口から細い手首がのぞいていた。
少女は長い栗色の髪を風に遊ばせながら、屋上のフェンスの前に立つ。
眩しさに目を細めつつも、その緑の瞳は遠くの街を見つめていた。
そこにあるのは羨望――そして、届かないという現実の影。
少年はその背中を、ただ黙って見つめていることしかできなかった。
沈黙が長く続いたのち、ようやく風に混じって落ちた声は、少女のものだった。
「……たった、〝一度きりの人生〟……」
短い言葉。
けれど、その響きには、彼女がどれほどその意味を考え続けてきたかが滲んでいた。
「〝だから好きなことをしなきゃ〟とか〝夢をかなえなきゃ〟〝やるべきことをやらなくちゃ〟……とか、続く言葉は星の数ほどあるけど……」
少女の声は明るいが、そこにはどこか愁いも滲んでいた。
「そんなコトを言える人は、きっと……このフェンスの外側で、〝自由に生きてる〟人達なんだろうな……」
呟く彼女は笑顔を浮かべていた。
けれどその顔は、陽光を受けながらも今にも泣き出してしまいそうだった。
少年は一歩踏み出し、何か言おうと口を開く――が、言葉が見つからない。
そんな彼の気持ちを察したのか、少女は静かに振り返る。
そして、目を細めて微笑んだ。
「ねえ、〝ロマ〟……キミはさ――」
風の音の中、優しく、けれど少し震える声が届く。
「――もし、〝生まれ変わる〟なら――〝ナニ〟になりたい?」
その言葉は、白い屋上の空に溶けていった――
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