第37話 “いってらっしゃい――ミヤコがパーティーに加わった!!”
――そして、村の建物がすべて燃え尽き……夜が明けた。
鳥のさえずりが焼け跡に降り注ぎ、かすかに立ち昇る煙が朝の光に透けてゆく。
その静けさの中、タイガとミヤコは村の中心に立っていた。
「……火は残ってないかな? 見たところ、綺麗に燃えたっぽいけど……」
「ご愁傷様です」
タイガはぺこりと頭を下げる。
「おミャー、それしか知らないのか?」
「え~と……じゃあ、お気の毒様です?」
「おミャーに言われるとなめられてる気がするにゃ」
ジト目で冗談を返すミヤコに、タイガは「ははっ」と笑った。
「……さて、ホントにこれからどうしようかな~。行くところのあてもないし……」
「あ! そうだ、ミヤコ!! ボクずっと言いたいことがあったんだ!!」
突然、タイガが両手を打ち鳴らし、声を弾ませた。
「ん……? にゃんだ?」
ミヤコがきょとんと目を瞬かせるより早く、タイガはあふれ出すように叫んだ。
「ボクの〝仲間〟になってよ!! 一緒に世界を救う〝勇者になろう〟ッ!!!」
「え……? 〝仲間〟……?」
ミヤコの声が小さくこぼれる。
自分には似合わない、遠い世界の響き……
「い、いや……そんなミャーが勇者のパーティーになんて……そんなの……
魔王相手に戦いを挑む勇気だって……ないし……」
否定の言葉を並べながらも、彼女はその誘いに惹かれていた。
まぶしすぎる言葉を、正面から受け止められない。
「なんで? 調査隊には立ち向かってたじゃん」
「いや、あいつらと魔王じゃ違い過ぎるって……!!」
必死に反論する。
けれどタイガは、そのすべてを笑い飛ばすように言い切った。
「同じだよ! あいつらも自分よりずっと強い相手だったでしょ? 魔王に挑むってのは、そういうことだよ!!」
「え~……そ、そうかなァ……」
ミヤコはそれでも困惑し、視線を逸らした。
すると――
「――うん……?」
目を背けた先、黒く焼けた瓦礫のすき間から、かすかな光が漏れていた。
火の粉とは違う。朝日の反射でもない。
それは確かに、そこだけが自ら輝いているように見えた。
「あれ……なんだろう?」
「へ? ……あ、ホントだ。何か光ってるね」
タイガもすぐに気づき、身を乗り出した。
「お宝かも!? ちょっと取ってくる!!」
「あ……まだ火がぜんぶ消えてるかわからないから危ない……! って、そんなのあいつには関係にゃいか……」
ミヤコは止めようと声を上げたが、すぐに諦めた。
タイガは迷いも恐れもなく、瓦礫の中へ一直線に進んでいった。
「でも多分、ガラスかなんかの破片が光を反射してただけなんじゃ……」
「見てみて~! これ!! 綺麗なペンダントだった!」
煤で顔を黒くしながらも、タイガは手を掲げる。
彼の手の中には、水の雫をそのまま結晶にしたような、蒼く透き通るペンダントが握られていた。
「へ~そうか、ペンダントかぁ……いやペンダントォ!!!?」
ミヤコは思わず二度見した。
ただの飾りではない。あれほどの炎と崩落の中にあって、煤ひとつ付かずに姿を保ち続ける……そんな代物が、普通であるはずがない。
心の奥底から、苦々しい数日前の会話が鮮明によみがえる――
――
――――
――――――
『――ミャーの故郷に……〝勇者の紋章〟が刻まれたペンダントがあります……!』
『こ……こんなに村を無茶苦茶にしたら、おミャーらの探すモノだってただじゃ済まないだろ!!?』
『いいや、これで〝ただで済む〟から〝勇者の装備〟なのだ。俺の木槌程度じゃ傷1つつかない……
だからいっそのこと、この村の全てを瓦礫の山に変えてしまった方が早い。
その中で、ただ1つ輝くものがあれば――それこそが〝グランのペンダント〟だ――』
――
――――
――――――
「――ま、まさか……それ……」
恐る恐るミヤコは、その蒼き光に目を向けた。
淡く揺らめく光は、朝日を反射しているだけではなかった。
まるで内側から輝きを放ち、存在そのものが〝ここにある〟と告げているようだった。
「か、〝鑑定〟――!!」
ミヤコの瞳が一瞬、鋭く光を帯びる。
スキルが発動し、装備品の正体が映し出される――
◆ ◆ ◆
【グランのペンダント】
ステータス:不明
スキル:不明
◆ ◆ ◆
「な……!!? なにいいいいいいいぃぃぃぃぃぃィィィィ!!!?」
「わ!!? ビックリした、どうしたの?」
声を上げずにはいられなかった。
わかったのは名前だけだったが……それで充分だった。
それは、紛れもなく勇者の装備。伝説に語られる秘宝が、今まさに目の前にある証だった。
「う、嘘だろ……ホントにあったのか……この村に……それにしても、今まで一体何処に……」
ミヤコは瓦礫を振り返る。
そのペンダントが埋まっていたのは、ミヤコにも心当たりのない家の、焼け落ちた床下だった。
どうやら、家が崩れたことで初めて表へ現れたらしい。
「ま、まあ……ミャーだって村の建物全部知ってたわけじゃないけど……
そ、それにしても……〝グランのペンダント〟……ほ、本物か?」
「装備してみれば?」
タイガのあっけらかんとした一言に、ミヤコは目を見開いた。
「え!? い、いいのかなァ……」
「いいでしょ! だってミヤコの村にあったモノなんだし!」
「そ、そうかな……そうかも?」
戸惑いながらも、ミヤコはペンダントを首にかけた。
その瞬間、冷たい感触とともに、力の奔流が全身を駆け抜けた。
「えと……こんな感じか?」
「お~! カッコイイ! 似合ってるよ!!」
「あはは……どうもありがとう……って、うわッ!!?」
直後、ミヤコの視界に信じられない数値が飛び込んできた。
「<うんのよさ>が〝100〟も上がった!!? それになんだこのスキル!!?
毒・麻痺・出血・火傷・呪いへの耐性《A》……しかも恐怖・混乱・魅了等の精神系の状態異常を……無効化……!!!?」
驚愕のあまり、言葉が途切れ途切れになる。
常識を覆すその性能は、もはや恐怖さえ覚えるほどだった。
「装備のランクも《SS》って……にゃんだそれ、聞いたことないランクだ……」
「《A》ランクの上の《S》ランク……それのさらにもう1つ上のランクじゃない?」
「え……《A》ランクの上にゃんてあるのか?」
あまりに異常な性能を前に、何かの間違いではないかとすら思ってしまう。
だが、胸元で静かに輝き続ける蒼き雫は、その伝説が真実であることを物語っていた。
「こ……これが〝勇者の装備〟……そりゃあ、あいつらが血まなこになって探すはずだ……」
(この村で必死に隠してた……いや、多分守ってた伝説のアイテム……
ミャーを帰郷させるきっかけになったモノ……この村が襲われる原因になったモノ……)
ミヤコは首元の蒼い雫をじっと見つめた。
数日間にわたる騒動、その中心にあった存在。
心の中で様々な思いが渦巻く。
やがて……ミヤコは、意を決してペンダントを外す。
そして、そっとタイガへと差し出した。
「……ん」
「……うん? どうしたの?」
「だから……やるよ。このペンダント……おミャーに」
「え!? いいの!!?」
予想外すぎる申し出に、タイガは目を丸くする。
「だっておミャー……〝勇者〟になるんだろ? まあホントになれるかは知らねーけど……でもまあ、これは勇者を目指してるヤツが持ってるのがいいと思う……〝魔王と戦う〟……勇気があるヤツが、持ってるのがいいと思う……」
「ん~……」
そう言いながら、ミヤコは視線を逸らす。
それはタイガと目を合わせるのが照れくさいからか、それともペンダントの輝きから逃げるためか。
だがタイガは少し考え込むと、首を横に振った。
「いや! 別にいいや!! それはミヤコが持ってなよ!」
「へ……? い、いやいや……!! なに言ってんだ!!」
思いもよらない拒否に、ミヤコは驚き、声を裏返らせる。
「こんなにスゲー装備、ミャーにはもったいねェよ!! これは……誰かを救うために、世界のために使うべきだ……」
「でも、さっきも言ったけど、これは元々この村にあったモノじゃん。だからミヤコが持ってるべきだよ!」
「いやいやいや……っ!! だからァ……!!!」
「それにさ!!!」
タイガは笑顔で、さらりと言った。
「ボクが必要になった時は、〝ミヤコが貸して〟くれればいいだけでしょ?」
「ッ!!? か、貸すって……おミャー……それっていつもミャーが近くにいないとダメじゃ……」
「ん? これから一緒に旅をするでしょ? なら何も問題はないじゃん」
あたりまえのように言うタイガ。
ミヤコは呆気にとられてしまう。
「いや……ま、まだ一緒に行くって決めたわけじゃ……」
ミヤコは言葉を濁し、揺れる気持ちを隠そうとした。
しかし――屈託なく笑うタイガを前に、その迷いも押し切られていく。
――そう、出会った日と同じ……まっすぐな笑顔。
始まりは、行き倒れていた少年にご飯を分けた……いや、半ば奪われたことで生まれた奇妙な縁。
突然、巨大なモンスターを倒してしまい、度肝を抜かれたこと。
駅で調査隊の前で言い争いになり、湖に突き落としたこと。
それでもタイガはミヤコの故郷まで追いかけてきて、王国調査隊を相手に、一歩も引かずにやっつけてしまったこと。
母の死の真相を知った時も、そばにいて慰めてくれた。
村を弔うために焼いた時も、何も見ていないふりをして、隣で手を握ってくれた。
その姿を思い出すたび、彼女の中で固く結ばれていたモノが、少しずつほどけていく。
そして今……無邪気な笑顔で差し伸べられた言葉が、最後のひと押しとなった――
やがて……ミヤコは深くため息をつき、肩を落とす。
そして観念したように、しかしどこか吹っ切れた声色で言った。
「はあ……まあしょうがない。魔王の城の玄関くらいまでは、一緒に行ってやるよ……」
「えへへ!! やったァ!!!」
タイガは歓声を上げて飛び跳ねた。
足をばたつかせ、手を広げ、全身で嬉しさを爆発させる。
「やれやれ……」
呆れたようにミヤコはつぶやく。
けれど、その目元はわずかに潤み、口元には小さな笑みが浮かんでいた――
こうして……タイガの最初の仲間は決まった――
「そんじゃ、出発するにゃ!」
「お? もういいの? なにか村でやり残したことはない?」
「うん……もうだいじょうぶ……」
「そっか! じゃあ行こ~!!」
タイガは走り出す。
焼け跡に新しい朝の光が差し込む中、軽やかに、迷いなく。
ミヤコも一歩、そしてもう一歩と後を追った。
やがて村を抜ける森の入り口に差し掛かり、ふと立ち止まる。
振り返れば、そこには瓦礫の山と、細く立ち昇る煙だけがあった。
「うん……? ミヤコ?」
「……」
ミヤコは手を大きく振り上げ、声を張る。
「それじゃあみんな!! いってきます!!!」
満面の笑みと共に告げたその言葉は、確かに誰かへと届くように空へ響いた。
そして彼女は〝みんな〟に背中を見せる。
もう迷いはない。
前だけを見て、彼女は新しい旅へ駆け出した――
――
――――
――――――
――東の大陸の南端。
深き森に抱かれた辺境の地。
そこには、かつて人々の営みを支えた家々があった。
だが今は、炎に焼き尽くされ、黒い残骸だけが静かに横たわっている。
少し離れた森の広場には、数十基の墓標が並んでいた。
その周囲では、一面に咲き誇る純白の花々が、まるでそこに眠る人々を優しく包むように揺らめいている。
そこはすでに滅んだ村の跡地。
村の住人はすべていなくなった……
1人の少女を除いて。
賑やかな声も、温かな笑いも、消え去ったわけではない。
すべては少女の胸の中で、今も確かに生き続けている――
――そして、旅立ちの時は訪れた。
墓地を渡る一陣の風が花を揺らし、少女の背をそっと押すかのように吹き抜ける。
ヤマモモ村。
ここはかつて勇者が訪れた、温かな微笑みの村。
今、その名は新たなる物語の第一歩として刻まれる――
【ミヤコが パーティーに加わった!】
~あとがき~
第38話は明日の20時10分に投稿です。
第1章完結まで毎日投稿中!!
【グランのペンダント】
〇ランク:《SS》
〇分類:装飾品
〇ステータス補正
うんのよさ+100
〇付与スキル
※装備中のみ、装備者に以下のスキルを付与する。
〇基礎能力スキル
毒耐性《A》[パッシブ]
毒に対する抵抗力が大幅に上がる。
麻痺耐性《A》[パッシブ]
麻痺に対する抵抗力が大幅に上がる。
出血耐性《A》[パッシブ]
出血に対する抵抗力が大幅に上がる。
火傷耐性《A》[パッシブ]
火傷に対する抵抗力が大幅に上がる。
呪い耐性《A》[パッシブ]
呪いに対する抵抗力が大幅に上がる。
精神耐性《SS》[パッシブ]
恐怖・混乱・魅了など、精神に作用する状態異常を無効化する。




