第25話 “大切な場所”
「――手記の内容は以上ですか……」
雲が感情の一切を交えず、拾い上げた手記を閉じた。
「……ミーちゃん……」
玲玲は言葉を失っていた。
村人達の悲劇と、それを記録し続けたチーシャの日記。
そのすべてを耳にし、少女の絶叫まで目の当たりにした彼女の表情には、深い陰りが差していた。
しかし――
同じ副隊長である雲と、隊長の開守は冷静なまま、日記の情報を分析していた。
「〝勇者の装備〟のありかでも、書いてあればと思ったのだがな……」
開守の声には、わずかな落胆だけがあった。
「ですが、無駄というわけでもありません」
雲は即座に続ける。
「この日記から、村の生活水準と技術段階は、ある程度把握出来ました。どうやらこの村の人達は、高度な魔法技術なども持っていなさそうです。
隠すとすれば……地中か、床下か、あるいは単純な隠し倉庫。方法は、極めて原始的でしょう」
「ふむ……なら、やり方も単純だな」
開守は踵を返す。
そして、声を張り上げた。
「行け、調査隊!! 村をひっくり返して〝勇者の装備〟を探し出せェ!!!」
――
――――
――――――
――その頃。
村の外れに佇む、1軒の家。
かつて、少女とチーシャが一緒に暮らした家。
「ううう゛……っ!! ああああ……うわああああああああ゛……っ!!!」
少女は床に膝をつき、泣き崩れていた。
変わり果てた、母の姿を前に――
(おかあさん……もう一度、話したいよ……抱きしめてほしいよ……
ミャー、この村から出てずっと……寂しかったんだ……悲しかったんだ……)
恨みと怒りで塗り潰してきた感情の奥底から、純粋な愛情が、悔恨が、溢れ出す。
涙は止まらず、嗚咽が喉を震わせる。
「会いたいよ……あいたいよ"ぉ……!! おがあざん……!!!
まだ話したいことが……たくさんあるのにィ……ッ!!!」
その嘆きに、返ってくる声はない。
代わりに――
ドオオオォン!!!
「っ!!? な……なに……!?」
村の中央から、凄まじい轟音が聞こえた。
ドオオオォン!!! バキバキバキィ!!!
――まるで、何かを粉々に砕き、無造作に放り捨てているような音。
「なにが……起こってるんだ!!?」
涙を拭う暇もなく、少女は立ち上がる。
足に力が入らない。
心はまだ、母の前に置き去りだ。
それでも……音は止まらない。
少女はふらつく身体を引きずるようにして、駆け出した――
――
――――
――――――
――そして……村の中央。
「どおりゃァっ!!!」
調査隊の1人が、巨大な木槌を肩に担ぎ上げ、そのまま勢いよく振り下ろす。
ドカアアン!!! バキバキィ!!!
激しい音を立てて崩れたのは、村の中央にあった1軒の古びた家。
その玄関が粉々に砕け、土埃が宙を舞う。
――中には、白く乾いた腕の骨が転がっていた。かつてここに住んでいた誰かの、確かな痕跡だった。
「な……ッ!? なにを……やってるんだ……ッ!!?」
少女は立ち尽くす。
涙で歪んだ視界の中、〝故郷〟が壊れていく。
ドガアアアアァン!!!
バキバキベキィ!!!
あたりを見回すと、他の家にも同じように調査員が木槌を振り下ろしていた。
屋根が傾きかけた家、壁が崩れ落ちた家……すでに完全に潰れてしまった家もあった。
かつて人々が暮らしていた証が、ただの障害物のように扱われている。
「あ……カッハァ……ッ!! はあ……っ……はあっ……!!!」
目の前の光景に、呼吸の仕方すら分からなくなる。
……なんで、こんなことに……?
そんな破壊の渦中、調査員の背後に静かに歩み寄ったのは、開守だった。
「一撃で玄関だけか。甘いぞ。ちょっと貸してみろ」
彼は無表情のまま木槌を受け取り、何の躊躇いもなく構える。
「こうやるんだ――〝パワースタンプ〟!」
「あ……っ! や……やめ"ろ"お"お"お"お"お"お"おおおおおォォッ!"!"!"」
少女の悲鳴も虚しく、開守の木槌が家屋の中心へと振り下ろされ――
ドカアアアアアァン!!! バキベキボキィ!!!
響き渡る轟音とともに、家屋全体が粉砕される。
柱も壁も、家具も――遺骨もすべてが吹き飛ばされ……誰かの人生が、記憶が、ただの瓦礫と灰の山になった。
「……あ……ああ……ッ!!」
少女はその光景に全身を震わせながら、唇を噛みしめ、目の前の男を怒りと絶望の入り混じった瞳で睨みつけた。
「……ぐ……っ!! おミャーら……一体……ッ!!!
なにをやってるんだあ"あ"あ"あ"ああ"ァ"ァァァァァァァァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァァァァァァ"ァ"ァ"ァッ!!"!"!"」
彼女は咆哮と共に、腰に差していた短剣を引き抜いた。
そして、そのまま開守に向かって飛びかかる。
「う"わ"あああ"あ"あ"ああああああァ!!"!"」
理性も技術も投げ捨てた、渾身の一閃――
だが――
「そんな感情任せの攻撃など……」
開守はまったく怯むことなく、その場で軽く身を捻る。
刃の軌道を見切り、まるで流れるように少女の手首を右手で捉える。
バシィッ!
「んなっ……!?」
その瞬間――
少女の身体が宙を舞った。
開守は掴んだ手首を軸に少女の勢いを利用し、そのまま地面へ叩きつけた。
ドシャアッ!!!
鈍い衝撃音と共に、砂埃が舞い上がる。
少女の細い背中が地面に激突し、一瞬、肺の空気がすべて押し出される。
「かっ……は……ァ……ッ!!」
「まずまずの速度だな、うちの隊員共と遜色ない……だが……」
開守は見下ろしたまま、彼女の腹部を無造作に踏みつけた。
「ぐえ……ッ!!?」
「その程度の速さじゃ、俺には届かん」
少女は苦しみに顔を歪めながらも、踏みつける開守を睨み上げる。
怒りと痛みと、どうしようもない無力感が混じった視線。
「おミャーら……にゃんでこんにゃことをしてるんだ!!?
この村には、〝勇者の装備〟を探しに来ただけだろ!!? なのに……どうして村を……ぶっ壊すんだっ!!!!」
「ああそうだ。これは〝調査〟だ」
「!!?」
開守は顔色ひとつ変えずに返す。
「〝装備〟を手っ取り早く見つける為に、村を〝ひっくり返して〟探すことにした。
ちょうど邪魔をする〝村人〟もいないことだしな……」
「な……!! なんてことを……!!! 家の中には、〝みんなの死体〟があるんだぞ!!?」
その叫びにも、開守は眉ひとつ動かさず、静かに言い放った。
「それがなにか、〝問題〟か?」
「っ!!!? く、狂ってる……っ!!! おミャーなんか!!! 狂ってるッ!!!!」
少女は涙をこぼしながら、怒りと悲しみのすべてを吐き出すように叫ぶ。
だが、開守は淡々と続ける。
「恨むなら、〝装備〟のありかをまったく残さなかった村長と、キミの母を恨むんだな。
その2人なら何かを知っていただろうに……〝装備〟の隠し場所が分かっていれば、我々もこんなことをせずに済んだ。
あの無駄に長い日記には、〝なに〟も書かれていなかったからな」
「〝なに〟も!? 〝なに〟も書かれていなかった!!? ふざけるな!!! あの日記には……おかあさんの〝想い〟が……っ!!!!」
叫びながら、少女は振り返る。
日記が残されていた村長の家――祖父の家を。
「え……あ、ああ……っ!!!」
だが、そこにあったのは――
もはや〝家〟と呼べるものではなかった。
瓦礫と化した屋根、砕けた壁。
土埃にまみれた床に、ひしゃげた家具の残骸。
かつて祖父が暮らしていたぬくもりは、すべて踏みにじられ、破壊され、無惨に消えていた。
……そして、少女の目に――
瓦礫の隙間から覗く、白い骨が映る。
「う"わ"あ"あああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あああああァ"っ!!!!
おじいちゃんの……おじいちゃんのいえ"があああああああ"あ"あ"あ"あああああああああああァァっ!"!"!!」
「ふん……大層な地下室まで用意してあったのに、なにもなかった。村長の家にないとなると……探すのは骨が折れそうだ」
開守は、まるで壊れて打ち捨てられた玩具を見るような冷めた目で、瓦礫の山を見下ろしていた。
「この村の人々の〝想い〟など、全て無価値だった」とでも言いたげなその態度に、少女の目が怒りで燃え上がる。
「よくもォ!!! よくもおまえェ!!!!」
「はっ、駅の時とは随分と態度が違うな……邪魔をするなら、一度痛い目を――」
「――開守っ!! やめるネ!!」
突如、開守を遮る鋭い声が響く。
王国調査隊・副隊長の玲玲だった。
「ミーちゃんに酷いことするのは違うネ!! 離してあげてヨ!!!」
「……玲玲。情でも湧いたか? ……まあいい」
開守はそう言うと、少女を踏みつけていた足をどけ――そのまま片手で彼女の体を持ち上げた。
「うわ!? や、やめろ!! はな……!!」
その抗議すら最後まで言わせず、開守は彼女の体を玲玲の方へと投げつけた。
「わあッ!!? ぐあァ!!!」
どぐしゃっ! という音と共に、少女は玲玲の足元へと転がる。
「ミーちゃん! ……大丈夫?」
「ぐ……!! うぅぐ……ッ!!」
うずくまり、腹を押さえたまま、少女は苦しげにうめく。
言葉すら出せないその姿に、玲玲の目が揺らぐ。
「玲玲、そいつを抑えていろ……これ以上邪魔をされては、加減ができん」
「……っ!! ……わかったネ……」
玲玲はそっと少女の上に跨がると、両腕を押さえ込んだ。
細身の体をしならせながら、関節を的確に締め上げ、動きを封じていく。
「……うう……!! はっ!!! おいっ!!! やめてくれェ!!! これ以上村を壊さないでェ!!!! あぐァ……!!!」
「大人しくしテ、動くと痛くなる締め技ネ……」
それでも少女は必死にもがいた。
力任せに暴れても意味がないことは分かっている――
けれど、叫ばずにはいられなかった。
「こ……こんなに村を無茶苦茶にしたら、おミャーらの探すモノだってただじゃ済まないだろ!!?」
その言葉にも、開守は表情1つ変えず、機械のような口調で応じる。
「いいや、これで〝ただで済む〟から〝勇者の装備〟なのだ。俺の木槌程度じゃ傷1つつかない……
だからいっそのこと、この村の全てを瓦礫の山に変えてしまった方が早い。
その中で、ただ1つ輝くものがあれば――それこそが〝グランのペンダント〟だ」
「〝グラン〟……?」
少女は、その聞き慣れない名を確かめるように呟いた。
答えは、背後から返ってきた。
「〝勇者の名前〟ですよ」
雲が歩み寄る。
バキ……ボキィ……と砕かれた家屋の残骸を、わざと踏み鳴らしながら。
「王都じゃ一般教養です。この村じゃ教えていなかったのですか?」
彼は、ため息交じりにそう言った。
「というか、あなたも心当たりはないんですか? そのペンダントを見た場所の……」
「だ、だって……ミャーがペンダントを見ちゃったとこ……その後、倉庫ごと取り壊されて……老朽化が原因だって……」
「そこまで徹底しますか……」
雲はそう吐き捨てながら、眼鏡の位置を直す。
「それでペンダントのことを知ってそうだったのは、村長とその娘だけ、と……
これは全部ぶっ壊すしかなさそうですね~」
「な……っ!? やめろ……やめてくれよ……!! にゃんで……にゃんでこんな酷いこと……!!!」
少女の声は、次第に怒りから懇願へと変わっていた。
だが――
ドガアアアドガアアアアドガアアアァン!!!
バキベキ!!! バキベキィ!!! バキボキベキィ!!!
破壊の音は止まらない。
調査員達が無感情に木槌を振り下ろし、家々を容赦なく叩き潰していく。
「う"わ"あ"あ"あああああああああ"あ"あ"あ"あ"あああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"ああああ"あ"あ"……ッ!!?
やめてよ……みんにゃのいえ……こわさないでよ"ォ!!!!」
「はっ……何を言って……」
雲は鼻で笑うように息を漏らした。
少女を見下ろしたまま、乾いた声を落とす。
「そもそも、我々をここまで案内したのは、他ならぬ〝あなた〟ですよ?」
「っ!! ……それはァ……っ!!!」
反射的に言い返そうとして……言葉が詰まる。
「だ、だってミャー……にゃにも知らなくて……」
絞り出した声は、自分でも頼りなかった。
その瞬間、開守が一歩前に出る。
感情のない声色のまま、刃物みたいに問いを差し込む。
「知らなかった? キミは我々が少々強引な手段をとることも知っていただろう?」
「ええ、そしてそれを止めようとした少年を……湖の底に沈めた」
「……っ!!! ……あ……っ……ああっ……!!!」
その言葉に引きずり出されるように、あの少年の姿が浮かんだ――
――
――――
――――――
『――だって、命の恩人の〝大切な場所〟でしょ? それを荒らす奴らを見過ごせないよ……!!』
(――〝大切な……場所〟……そうだ、なのにミャーは……!!!)
――
――――
――――――
『落ちろ!! 『ヒューサ』ッ!!』
『おあああああァッ!!?』
『ね、ねごぢゃ……がぼ……っ!! まっで……!!!』
『おご……!! ゴボォ……!! まだ……おぼ……ォ……』
――沈んでいく少年の顔が、意識に焼きついて離れない。
彼が守ろうとしてくれた〝大切な場所〟は、今まさに自分の目の前で壊されている――
――
――――
――――――
「ふぅ……大変だな……これ村中の家全部やるんですか?」
軽薄な調査員の声が、瓦礫の上を滑った。
「ええ、お願いします。あと念のため、あの〝キャメラ〟とかいう道具で、どこでもいいので村の中を撮っておくように言っといてください」
「へ~い、了解しました」
調査員が肩を回し、木槌を担ぎ直す。
そして……ふと、ある家の前で足を止める。
木槌が持ち上がる。
「……あ……まって……!!」
少女はその家を見て、思わず声を上げた。
「それは……〝シヤ〟の……っ!!!」
そう、そこは彼女の友人〝シヤ〟の家だった――
――
――――
――――――
『――ようバケネコ! 今日もヘンな耳だな~!!』
『――おい化け猫~!! また川に遊びに行こうぜ!!』
『――オレ、お前のこと〝好き〟だ』
『――お前のそういう、みんなと違って強いところが!』
――
――――
――――――
「やめろォ!! やめてぐれェ!!!」
「……っ!!! ミーちゃん!!! 動いちゃ……っ!!」
「うぎィ!!?」
少女の絶叫が、空を割るように響く。
だが、その体は再び締め付けられ、自由を奪われる――それでも彼女は叫ぶ。
「これ以上……ミャーの……っ!!! ここは……ミャーの……たいせ……!!!!」
――だが、言葉がそこで止まった。
(っ!! ……言えない……そんな資格、ない……っ!!)
過去に吐いた自分の言葉が、返ってくる――
――
――――
――――――
『――こいつらが……ミャーの故郷を荒らしたって、別にいい……むしろいい気味にゃ……』
『――〝故郷〟が誰にとっても、大切だにゃんて思うなよ……!!』
『――そもそも、我々をここまで案内したのは、他ならぬ〝あなた〟ですよ?』
――
――――
――――――
「あ……っ! うぁ……ああ……!!!」
(今さら……こんなボロボロになってから……今さら……っ!!)
口にしかけた言葉が、罪悪感に押し戻される。
(ミャーに……ここが〝たいせつ〟だなんて言う資格……ない……っ!!)
その迷いを嘲笑うかのように、調査員の腕がゆっくりと持ち上がった。
握り締めた柄が軋み、巨大な木槌が頭上を覆う。
シヤの家に、ひときわ重い影が落ちた。
「一撃で木っ端みじんにしてやるぜ……! よっとォ!!!」
巨大な木槌が、空気を唸らせながら落ちてくる。
空気が押し潰され、風圧が頬を叩く。
少女はただ、その軌道を見つめるしかなかった。
「ああ……っ! いや……や"め"て"え"え"え"ええええええええ"え"え"ええええええええ"え"え"え"ええェェ"ェ"!"!"!!」
悲鳴は掠れ、裂け、形を失う。
その瞬間、世界の輪郭がわずかに歪んだ。
風が止み、舞い上がっていた土埃が宙で揺らぎ、遠くの破壊音が水の底に沈むように薄れていく。
振り下ろされた木槌が、家屋に触れる……
寸前――
ピッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!
空を裂く閃光が、森の方角から一直線に奔った。
轟音が遅れて到達し、村全体が跳ね上がる。
「ぎや"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああッばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっばッッ!"!"!!」
「!!??」
木槌を振り下ろしていた調査員の身体を、稲妻が直撃した。
彼は全身を激しく痙攣させながら、地面に転がる。
焦げた匂いが立ちのぼり、黒煙が細く揺らぐ。
「んな!!? 〝雷撃〟!? 一体どこから!!?」
雲の冷静な瞳に、初めて揺らぎが走った。
「雷の魔物か……? この森に……こんな強力なモンスターが……?」
開守が構えを取りながら、地面へ目を落とす。
そこには、放射状の焦げ跡が焼き付いていた。
「ら、〝雷撃〟……? それにあいつの腹……」
痙攣する調査員の腹部には、まるで蹴られたかのような真っ黒な足跡が付いていた。
――彼女は、そのイカヅチに見覚えがあった……
それをやったのは、まぬけで、呑気で、行き倒れて人のシチューを全部食ってしまうような迷惑な奴で……
けれど……まっすぐな瞳をした少年――
「――おい!!! オマエらァッ!!!!」
叫び声が響く。
あの駅のホームでも聞いた――忘れようのない声。
目を向けると、調査員が壊そうとしていた〝シヤの家〟の屋根の上に――
――あの少年が立っていた。
「……っ!! な……なんで……おミャーが……」
少女の目から、ポロリと涙がこぼれる。
信じられない。
あの時、自分が沈めてしまったはずの、彼が――
――〝タイガ〟が、そこにいた。
「……っ!!? 事情はよくわかんないけど……これ以上は……この村を壊させない……!!!」
「……ほう……」
開守が興味深そうに目を細めた。
風が吹き抜ける。
土埃が舞い、タイガの髪を、マフラーを揺らす。
彼の瞳は、一直線に開守を射抜いていた。
そして――
「この村は、猫ちゃんの……〝大切な場所〟なんだ!!!!」
声が、空を打つ。
少女が言えなかった言葉。
喉の奥で凍りついていた言葉。
それを、彼は迷いなく口にした。
まるで……彼女の代わりみたいに――
「……っ!! タイガぁ……!!!」
頬を伝う涙の理由が……変わっていた。
それは後悔でも、罪悪感でもない――
――砕け散ったはずの心の奥に、小さな明かりが灯った。




