↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になりたいのに賞金首になっちゃったボク ~人助けするたびに、懸賞金と仲間が増えていく~ バンディット!!  作者: ちゃんなか
異世界の夜明け!ヤマモモ村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/87

第18話 “ヤマモモ村 異変記録簿”

 目の前にある〝白骨化(はっこつか)〟した遺体(いたい)――

 それに視線(しせん)を奪(うば)われたまま、少女と玲玲(リンリン)は動けずにいた。



 ――どれほどの時間が経(た)ったのか。

 村の静けさの中、遠くから誰(だれ)かの声が響(ひび)いた。


「隊長!!! 村中の家から〝白骨死体(はっこつしたい)〟が発見されました!!」


 その言葉に、少女はハッと我(われ)に返る。


「……白骨(はっこつ)、が……? まさか……そんな……っ!!」


 彼女(かのじょ)はふらつく足取りで家を飛び出し、村の広場を見(み)渡(わた)した。


 そこでは、調査員(ちょうさいん)達が各家を調べて回り、何人もの〝遺体(いたい)〟が見つかったことを、次々と報告(ほうこく)していた。


「こっちの家も……」

「こちらも……同様です」

「こ、これは……全滅(ぜんめつ)……なのか……?」


「……あ……っ……!! ああ……!!! そんにゃ……っ!!!」


 少女はその光景に、思わず膝(ひざ)から崩(くず)れ落(お)ちた。


 調査員(ちょうさいん)の手にした布(ぬの)にくるまれた骸(むくろ)。


 風にさらされた白骨(はっこつ)。

 壊(こわ)れたまま放置された家具。

 何年も前に時間が止まったような台所。


 そこには、村人達の暮(く)らしがとうに途絶(とだ)えた|名残だけがあった。


「争った痕跡(こんせき)は見当たりませんね。武器(ぶき)の類(たぐい)もなく、家が荒(あ)らされた様子もない」


 副隊長の雲(ユン)が、冷静に現場(げんば)を見(み)渡(わた)しながら報告(ほうこく)する。


「じゃあ、どうして……っ! みんなは……!!」


 少女の視界(しかい)が滲(にじ)んでいく。


 憎(にく)しみの対象(たいしょう)だったはずの村人達――


 だが、彼(かれ)らが変わり果てた姿(すがた)で発見されたという現実(げんじつ)は、怒(いか)りではない別の感情(かんじょう)を呼(よ)び起こす。


 悲しみ。

 混乱(こんらん)。


 そして……どうしようもない、喪失感(そうしつかん)――



「――ミーちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)アルか……?」

「……」


 心配する玲玲(リンリン)の声にも、彼女(かのじょ)は返事ができなかった。

 こみ上げてくるものを必死に飲(の)み込(こ)みながら、ただ唇(くちびる)を噛(か)みしめた。


「隊長!! 中央の建物に、日記らしきものがありました!!!」

「っ!!」


 調査員(ちょうさいん)の1人が報告(ほうこく)する。

 村の中央にある最も大きな家――それは少女の祖父(そふ)である村長が住んでいた家だ。


「日記か。何かわかるかもしれんな」

「みゃ、ミャーが確認(かくにん)する!!!」


 少女は顔を上げると、まっすぐ村長の家へ走り出した――




 ――扉(とびら)を押(お)し開(あ)けた瞬間(しゅんかん)、カビと埃(ほこり)の混(ま)じった匂(にお)いがした。


 古びた家具達が、少女を迎(むか)えるようにそこにあった。



 そして――



「……ッ!?」


 書斎(しょさい)の隅(すみ)。

 椅子(いす)に座(すわ)ったままの〝それ〟を、少女は見つけてしまう。


「うそ……うそだろ……ああ……っ……なんで……なんでェ……ッ!!!」


 着ていた服で、すぐにわかった。


 今でも耳に焼き付いている。

 〝しわがれながらも優(やさ)しく芯(しん)が通った声〟――




『――ミーちゃんや……いるかい?』


『――随分(ずいぶん)とそっくりな親子じゃ……』


『――心じゃよ、心で繋(つな)がっとるんじゃ』




 それは、この家の主(あるじ)――




「なんで……お"じい"ぢゃん"がッ!!!!」


 少女の祖父(そふ)の――〝白骨(はっこつ)〟だった。


「……ああっ……にゃんでだよ……」


 膝(ひざ)から力が抜(ぬ)け、床(ゆか)へ崩(くず)れ落(お)ちる。


「ミャー、あんなに憎(にく)んでたのに……っ!! でも……でもォ……ッ!!!」


 憎(にく)んでいたはずだった。

 恨(うら)んでいたはずだった。


 けれど今、その存在(そんざい)を失って――息ができないほど、苦しかった。


 嗚咽(おえつ)が漏(も)れる。

 言葉にならない声が、喉(のど)の奥(おく)で震(ふる)え続ける。


「日記はどこにある?」


 後ろから開守(カイシュウ)の声がかかる。

 調査員(ちょうさいん)が差し出したのは、1冊(いっさつ)の古びた手帳。


「……これです」

「なるほど……書いた者の名前は……」


 埃(ほこり)をかぶったその表紙には、手書きの文字でこう記されていた――




 《ヤマモモ村 異変記録簿(いへんきろくぼ) ――記:チーシャ》




「なッ!?」


 その名を聞いた瞬間(しゅんかん)、少女の表情(ひょうじょう)が強張(こわば)る。


「おかあさんの……名前だ……ッ!」

「……そうか、なら――」



 ――開守(カイシュウ)は静かに、少女の前へと日記を差し出した。



「代表して、君が読み上げるか?」

「っ!!」


 彼女(かのじょ)は震(ふる)える両手で、その日記を胸に抱(だ)くように受け取った。


 祖父(そふ)の死を前にし……


 母の残した言葉を手にして――




 ――少女は、かつての時間と向き合う覚悟(かくご)を迫(せま)られていた。




「……ミーちゃん……無理しなくてもいいネ、代わりに私(わたし)が……」

「いや……いい……っ!!」


 玲玲(リンリン)の提案(ていあん)を、彼女(かのじょ)は首を振(ふ)って拒(こば)む。


「これは……ミャーが読まなきゃ……受け止めなきゃ、いけないモノだと思うから……っ!!」


 恐(おそ)ろしくて堪(たま)らない。

 頭がぐちゃぐちゃで……纏(まと)まらない。


 けれど――この記録は、他の誰(だれ)でもない〝自分〟が向き合うべきだと、少女にはわかっていた。


 だから彼女(かのじょ)は、覚悟(かくご)を決めて日記の1ページ目を開いた――




《ヤマモモ村 異変記録簿(いへんきろくぼ) ――記:チーシャ》




『――この記録は、もしもの時のために書き残すものです』




 日記の文字は、まぎれもなく少女の母――チーシャのものだった。


(〝もしもの時〟ってにゃんだ……? 一体この村でなにが起こってたんだ……?)




『今、私(わたし)がこの記録を書いている時点で――』




 ――思わずページをめくる手に力が入る。


 そして次の瞬間(しゅんかん)、その視線(しせん)は紙面に凍(こお)りついた。





『――村に住む〝半数〟の人間が、すでに命を落としています』




「ッ……!?!?」


 衝撃(しょうげき)に、少女は息を呑(の)んだ。

 その場にいた調査員達(ちょうさいんたち)からも、思わずどよめきが漏(も)れる。


「にゃ……にゃんだよ……それ……!!!」


 声が震(ふる)える。

 喉(のど)の奥(おく)が熱くなっていく。


(村人の〝半分〟が……ッ!!? これをおかあさんが書いてる時点で……ていうか、この日記は一体いつ書かれたものだ!!?)


 その事実が、胸(むね)にずしりとのしかかった。

 けれどページは、容赦(ようしゃ)なく次の真実を紡(つむ)ぎ出(だ)していた。




『これを読んでいるのが誰(だれ)かはわかりません。

 ……というか、そもそも読んでくれる〝誰(だれ)か〟がいるかどうかも、正直わかりません。


 ――けれど、この村で起きたことを残さなければいけない、

 この村の人達の想いを記しておかなければいけない。


 そう思い、この記録を綴(つづ)ります――






 始まりは……ジラおじさんの死でした――』




 ――

 ――――

 ――――――




 ――4年前。


 ヤマモモ村の空を、ゆっくりと白い煙(けむり)が流れていた。

 その下では、ジラの葬儀(そうぎ)が静かに執(と)り行(おこな)われていた。


 村の中央にある広場。簡素(かんそ)な棺(ひつぎ)が置かれ、村人達が花を手に順番に進んでいく。

 風はなく、木々のざわめきも止まり、ただ焼香(しょうこう)の煙(けむり)だけが空へ昇(のぼ)っていた。


 棺(ひつぎ)の中には、村のみんなに愛された老人――ジラの亡骸(なきがら)があった。

 白い髭(ひげ)を蓄(たくわ)え、深い皺(しわ)を刻(きざ)んだ顔は、どこか穏(おだ)やかで、〝ただ眠(ねむ)っているだけ〟と思いたくなるほど安らかに見えた。


 その棺(ひつぎ)の前で、黒い喪服(もふく)に身を包んだ幼(おさな)い猫耳(ねこみみ)の少女が背伸(せの)びをしていた。


「うぐ……届(とど)かにゃい……」


 小さな彼女(かのじょ)の腕(うで)では、棺(ひつぎ)の縁(ふち)に花を置くことさえ難(むずか)しい。


 すると背後(はいご)から、がっしりとした大きな手が、そっと彼女(かのじょ)の脇(わき)を掴(つか)んだ。


「ほら、これでどうだ?」

「駐在(ちゅうざい)さん……! ありがとう」


 ひょいと持ち上げられた少女の視線(しせん)の先――



 そこには、もう動かないジラおじさんの顔があった。



 ボサボサの白髪(しらが)に、笑い皺(じわ)の残る頬(ほお)。

 何度も自分を母の「チーシャ」と呼(よ)び間違(まちが)えたあの声が、もう二度と響(ひび)くことはない。


「……井戸おじいちゃん、来たよ。チーシャじゃにゃいからな、最後まで間違(まちが)えるにゃよ? ミャーの名前は……」


 あの世に行っても自分を母と呼(よ)び間違(まちが)えないよう、ジラを叱(しか)る少女。


 その姿(すがた)に、隣(となり)で見守るチーシャがふっと笑みをこぼした。

 悲しみと、少しの愛しさが混(ま)じる――そんな微笑(ほほえ)みだった。


 葬儀(そうぎ)の会場には、湿(しめ)った土と線香の匂(にお)いが混(ま)ざり合(あ)っていた。

 遠くで鳴く鳥の声が、やけに鮮明(せんめい)に響(ひび)いていた。


 その静寂(せいじゃく)の中、後ろから低い声がかけられる。


「……チーシャ……ちょっといいか?」

「あら、お父さん?」


 声の主は、村の長でありチーシャの父。

 その顔は悲しみというよりも、どこか〝探(さぐ)るような〟険(けわ)しさを帯びていた。


「どうしたの……? お父さん」

「……ああ。ジラのことなんじゃがな……これは、子供達(こどもたち)には内緒(ないしょ)にしておいてくれ……」


 葬儀(そうぎ)のざわめきに紛(まぎ)れてしまうほどかすかな、風に溶(と)ける囁(ささや)き。


「……ジラはのう……井戸に〝落ちた〟んじゃよ」

「え……!?」


 その一言で、空気が変わった。

 さっきまで聞こえていた話し声も、衣擦(きぬず)れの音も、急に遠のいた。

 風すら止まり、チーシャの耳には自分の鼓動(こどう)だけが響(ひび)いた。


「頭を打っていた。転落による事故死(じこし)じゃ……葬儀(そうぎ)までに顔を整えるのに、コハンも苦労していた」


 父の言葉を聞きながら、チーシャは無意識(むいしき)にジラの方へ視線(しせん)を戻(もど)した。


 ……たしかに、よく見ればその顔には微(かす)かな歪(ゆが)みがある。

 無理に整えられたような違和感(いわかん)。

 穏やかに整えられた表情(ひょうじょう)の下に、事故(じこ)の痛(いた)ましい跡(あと)が見えた。


「そんな……井戸に落ちるなんて……ジラおじさんに限(かぎ)って……」

「ああ、ワシも信じられない。いくらボケているからと言って、何十年も井戸汲(いどく)みをしていたジラが井戸に落ちるなど……」


 2人の声は、微(かす)かに震(ふる)えていた。

 遠くでまた、鳥が鳴く。

 その声が、どこか不気味なほど静かな葬儀(そうぎ)の空気に、ひとすじの影(かげ)を落とした――






『――そう、あの〝転落事故(てんらくじこ)〟が全ての始まりでした』



 ――

 ――――

 ――――――



 ――昼過(ひるす)ぎ。


 葬儀(そうぎ)も終わり、静けさが村全体を包んでいた。

 チーシャは喪服(もふく)を脱(ぬ)ぎ、慣(な)れた手つきで淡(あわ)い橙(オレンジ)色の衣を身に纏(まと)う。

 黒い服に染(し)みついた線香の匂(にお)いが、まだ部屋の奥(おく)に残っていた。


「それじゃあ行ってきます!!」


 一足先に着替(きが)えていた少女が、弾(はじ)けるような声を上げて玄関(げんかん)を飛び出す。

 悲しみを振(ふ)り払(はら)うかのように、いつもより大きな足音を響(ひび)かせて。


「行ってらっしゃい、気を付けてね~!!」


 チーシャは微笑(ほほえ)んで手を振(ふ)る。


 だが扉(とびら)が閉(し)まり、外の声が遠ざかると、微笑(ほほえ)みはすぐに薄(うす)れた。


 部屋の中に残ったのは、静けさと、お香の名残だけ――




「――ふぅ……事故(じこ)……か……」


 小さく漏(も)れた独(ひと)り言。

 けれどその声色には、僅(わず)かに棘(とげ)のような不安が残っていた。


(いえ……本当にただの事故(じこ)なのかしら……? もしかしたら、なにか良くない事が……)


 頭の奥(おく)に、嫌(いや)な想像(そうぞう)がじわじわと膨(ふく)らむ。

 けれど、首を振(ふ)って打ち消した。


「いや、考えすぎか……」


 自分に言い聞かせるように呟(つぶや)く。

 気持ちを切(き)り替(か)えようと、チーシャはお茶を淹(い)れる準備(じゅんび)を始めた。



 その時。



 ――コンコン。



 玄関(げんかん)の扉(とびら)を叩(たた)く音がした。

 小さく、けれど異様(いよう)に重い響(ひび)きだった。


「はーい」


 返事をして扉(とびら)を開けると、そこには昼の光に照らされた駐在(ちゅうざい)の姿(すがた)があった。

 先程(さきほど)葬儀(そうぎ)で見たときよりも、どこか顔色が悪い。


「あら、駐在(ちゅうざい)さん」

「……今、大丈夫(だいじょうぶ)か?」

「ええ、どうしたの?」

「ああ……それが……」


 チーシャが問いかけると、駐在(ちゅうざい)はしばらく言葉を探(さが)すように沈黙(ちんもく)した。


 やがて、苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような顔で、低く告(つ)げる。



「また……〝死人〟が出た」

「え……ッ!?」


 空気が凍(こお)りついた。


 外から吹(ふ)き込(こ)む風が、チーシャの頬(ほお)を撫(な)でる。


 どこかで、ギイ……ギイ……と木が軋(きし)む音がした。


 まるで村全体が、悲鳴を上げているようだった――



 ――

 ――――

 ――――――



『――あの〝転落事故(てんらくじこ)〟から、村では次々と人が倒(たお)れていきました――』





「――えっ!!? 嘘(うそ)……あの日から人が……っ!? だってミャー、そんにゃこと……っ!!」


 手記を読み進めていた少女の声が、驚愕(きょうがく)で揺(ゆ)らいだ。

 けれど……あの日に覚えた〝違和感(いわかん)〟を思い出す――




『――てか〝コハン先生〟はどこだ? 院内にいなかったよな』




 怪我(けが)した友人を見舞(みま)いに行った、あの診療所(しんりょうじょ)。

 コハン先生も看護師(かんごし)も誰一人(だれひとり)いなくて、院内が嘘(うそ)みたいに静かだった。


 嫌(いや)な沈黙(ちんもく)。


 誰(だれ)もいない廊下(ろうか)。


 足音ひとつしない白い空間――




『――あ~、老人達の家に行ったきり帰ってこねえな……また誰(だれ)か死んだか?』

『おい! 不謹慎(ふきんしん)すぎるぞ!』



 友人の軽口。

 だがそれは、村でその時起こっていたことを言い当てていた――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――駐在(ちゅうざい)に案内され、チーシャは村の外れにある古い家へと向かった。


「嘘(うそ)……でしょ……」


 目の前に広がる光景に、足がすくむ。


 診療所(しんりょうじょ)の医師(いし)コハンと、看護師達(かんごしたち)が――



 大きな〝ナニカ〟を、ひとつ、またひとつと家の中から運び出していた。



 どさり、と鈍(にぶ)い音を立てて、それは荷車へと積み上げられていく。

 コハン達は疲(つか)れ果(は)て、その表情(ひょうじょう)は暗く張(は)りつめていた。


 その理由も……彼(かれ)らが運んでいるモノの正体も、チーシャにはなんとなく〝理解(わか)って〟しまった。


 だからこそ、認(みと)めたくなかった。


 〝ソレ〟を荷車に積み終えると、コハンは額(ひたい)の汗(あせ)も拭(ぬぐ)わず、チーシャのほうを振(ふ)り向(む)く。


「……チーシャか……」

「先生……これは一体……?」


 声はかすれ、肩(かた)は小刻(こきざ)みに震(ふる)えていた。

 問いかけながらも、チーシャは頭に浮(う)かんだ〝答え〟を、どうか否定(ひてい)してほしいと必死に祈(いの)っていた。


 だが、コハンは荷車に視線(しせん)を落としたまま、喉(のど)の奥(おく)から言葉を絞(しぼ)り出(だ)す。


「……亡(な)くなっていた……〝3人〟もだ……っ!!」

「な……っ!!? 〝3人〟ッ!!?」


 チーシャは思わず荷車へ駆(か)け寄(よ)る。



 そこに横たわっていたのは――



 彼女(かのじょ)もよく知る、村のお年寄(としよ)り3人。


「っ……!!? なんで……おじいちゃん……おばあちゃん……っ!!」


 皺(しわ)だらけの手にも、優しく笑っていた顔にも、もう生気は残っていなかった。

 その肌は乾(かわ)いた土のような色へ変わっていた。

 胸元(むなもと)には、見覚えのない赤黒い〝跡(あと)〟が、焼き印のように残っている。


「ああ……なんてこと……ッ!! こんな立て続けに……!!」


 チーシャは口元を押(お)さえた。

 熱く込(こ)み上(あ)げてくるものが堰(せき)を切り、頬(ほお)を伝って流れ落ちた。


 駐在(ちゅうざい)も、コハンも、何も言えなかった。

 ただ立(た)ち尽(つ)くし、彼女(かのじょ)の震(ふる)える肩(かた)を見ていることしかできなかった。


 静まり返った家の前で、すすり泣く声だけが痛(いた)いほど響(ひび)いた――



 ――

 ――――

 ――――――



「――そ、そんなことが……あの日、起こっていたのか……っ!!」


 手記を読みながら、少女は思わず声を漏(も)らした。

 ページをつかむ指先が、じわりと汗(あせ)ばむ。


 けれど――記憶(きおく)を辿(たど)れば、心当たりがまったくないわけではなかった――


(――そういえば……あの日の夕方……っ!!)


 友達のお見舞(みま)いから帰ってきた時、母に言われた言葉が脳裏(のうり)に蘇(よみがえ)る――




『――今日から当分、家の外に出ちゃダメ』




(あれは村で……異変(いへん)が起こってたから……っ!!)


 今になって、母の言葉に隠(かく)されていた真実に、ようやく気づき始めていた。


 だが手記は、更(さら)なる〝残酷(ざんこく)な事実〟を静かに突(つ)きつけてくる――




『――ジラおじさんが井戸に落ちてしまった本当の理由。

 そして、この村の人達の命を次々と奪(うば)ったモノ。



 それらは全て、同じ原因(げんいん)だったのです――』




「――な……ッ!! なんだって……ッ!!?」


 手記を握(にぎ)る少女の手が震(ふる)える。

 一体あの時、村に何が起こっていたのか……そして、現在(げんざい)の村の惨状(さんじょう)へつながる〝正体〟が……



 そこには記されていた――



 ――

 ――――

 ――――――



 ――荷車の前で泣(な)き崩(くず)れるチーシャへ、静かな声(こえ)が掛(か)けられた――



「――チーシャや……これはきっと、〝偶然(ぐうぜん)〟じゃない……」

「え……?」


 老人の家の中から聞こえたしゃがれた声は、いつもどおり優(やさ)しい。

 だが今だけは、どこか鋭(するど)さと重みを帯びていた。


 その声の主は――


「――お父さんっ!!!」


 チーシャの父であり、この村の村長。


「ど、どういうこと……? 偶然(ぐうぜん)じゃないって……」


 縋(すが)るように問いかけるチーシャに、村長は一瞬(いっしゅん)だけ視線(しせん)を伏(ふ)せると、隣(となり)に立つ医師(いし)へと顔を向ける。


「……コハン。医者のお前から、説明してやってくれ……」

「ああ、わかった……」


 コハンは静かに目を閉(と)じ、深く息を吸(す)い込(こ)む。


 そして、ゆっくりと言葉を紡(つむ)ぎ始(はじ)めた。

 自分自身にも、言い聞かせるように。


「チーシャ……この3人――いや、ジラを含(ふく)めた4人を死(し)に至(いた)らせた〝根本の原因(げんいん)〟は……同じモノだ」

「な……ッ!? すべて同じ!? なんで……それって……っ!!」


 指先からじわじわと血の気が引き、胸(むね)の奥(おく)がきゅっと縮(ちぢ)んだ。


 ジラの転落死を告(つ)げられたときから残っていた、小さな違和感(いわかん)。

 それが今、目の前の3人の死と一本の線でつながっていく。


(井戸に落ちたジラおじさん……赤黒い跡(あと)がある遺体(いたい)……まさか……っ!!?)


「これって……何か……事件(じけん)なの……っ!?」

「いいや……違(ちが)う」


 だが真実は彼女(かのじょ)の予想を遥(はる)かに超(こ)えていた。

 コハンの声は淡々(たんたん)としている。

 けれどその静けさこそ、凍(こご)えるような現実(げんじつ)を告(つ)げていた。


「これは人為的(じんいてき)に引き起こされたことではない……連続する死、それを招(まね)いたのは……」


 コハンは一度だけ口を閉(と)ざし、目を細める。


 沈黙(ちんもく)が、かえって言葉の続きの重さを予感させた。


 チーシャは固唾(かたず)を飲む。

 駐在(ちゅうざい)も村長も、ただコハンをじっと見つめていた――






 そして……彼(かれ)はついに、真実を告(つ)げた――






「――村の外から持ち込まれた、〝病原体(ウイルス)〟だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。