2
「わたくしはモノリス・モクティマスと申します。階位は十五位の悪魔です」
慇懃に表れた悪魔、モノリスさんはとても丁寧で紳士的な態度だった。
「貴公か」
「神獣殿」
「ブライドあたりが来るのではないかと思っていたが」
出てきた名前に私は内心「ブライドさんは嫌だ!」と叫んだ。アゼルさんたちにとっての黒幕のなり損ない悪魔と自分がうまく付き合う自信がない。
「はじめまして、こんにちは。宝砂です」
私は第一印象が大切だと、王女の作法としてドマ家の女性に教わったお辞儀をする。モノリスさんがすっと、背筋を伸ばした。
「ご機嫌麗しく存じます、女王陛下」
いや、即位していないです。
「まぁ、形式上の呼び名だ。気にするな」
と、ソドムさん。
「無価値の名を持つ悪魔に宝砂殿の世話を任せるのは不安だが……女悪魔はいないのか?」
「女王陛下にお仕えできる程、人間の扱いに長けた悪魔はそうおりません」
「そうか。淫蕩の女悪魔も消滅したっきりだったな」
しみじみとソドムさんが懐かしむ。
私は個人的には初対面の悪魔と二人っきりになどされたくない。けれどブライドさんよりはずっとマシっぽい、常識がありそうな悪魔モノリスさんなので、なんとなく安心感もある。
「まぁ良いだろう。さて、宝砂殿」
「はい」
「明日の夜明け、その先の、昼頃まで私は戻らぬだろう」
「ので、お昼ごろにはどら焼きを用意して待っていればいい、ということですね?」
「……なんと」
つまりそういうことだろうと私が了承して頷くと、なぜかソドムさんは驚いた。
「なるほど、確かに。うむ、そうなるな。貴女は私の帰りを待ち、私の好物を作ってくれている、と、そういうことになるのか」
そういう話ではないのか。
ここは神獣ソドムさんの神域なので、それ以外のルートがあるのだろうか。
やはり人外。思考がよくわからないが、まぁ、それはそれ。
ソドムさんは私の手を握り、そっとその手のひらに小さな銀の鍵を預けた。
「これを家の中のどこか適当な扉の鍵穴にさすといい。あの珍妙な店に行ける」
「わぁ、ありがとうございます」
これでどら焼きの材料が確保できるというものだ。
……どら焼きの材料か……………………………………。
小麦粉と砂糖と、確かみりんとかハチミツを入れればいいんだったか。まぁ、なんとかなるだろう。
餡子は初心者には難しいと思うので、知識としては……知ってるが……知っているから、作れるわけじゃない。餡子は既製品にしよう。
「あ、ソドムさん!」
さて、と出発しようとするソドムさんの服の端を私は掴んだ。
「うん?どうかしたか?」
ひょいっと、屈んで私に目線を合わせてくれるソドムさん。
「ちょっとよく顔を見せてください。明日のお昼まで、この素敵なお顔を見れないなんて……目に焼き付けますから」
「ははは、見てくれを気に入ってくれているのか」
「声も好きですが?」
「それは何より。貴女に好まれるものは一つでも多い方が良い」
「顔と声が好みだから好きなのではなく、ソドムさんの一部だから好ましいのですが?」
私は推しを顔や声で選ぶタイプではない。
どちらかといえば言動で選ぶタイプだ。だがそれを説明するのも失礼だろう。ソドムさんの人間に対してのズレた感性が好みです、なんて言えるわけがない。
私が堂々と宣言すると、ソドムさんが硬直した。
そしてコホン、とモノリスさんが咳ばらいをした。
「失礼。もしやわたくしは今後ずっと、契約の続く限り……この光景を見せつけられ続けるのでしょうか?」
そうだよ!!!!!!!!!
感想色々ありがとうございます!とても励みになります!
また、評価&ブクマ&いいね、もありがとうございます!めざせブックマーク500!と願っておりますが、この作品は版権ネタ、パロディ盛りだくさんなのでどう頑張っても書籍化ルートは乗れないのでこれからも全力で趣味に走ります。正気に戻らないうちに、7万文字くらいの完結を目指しています。