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デイリーデイリー7


 「惨っ敗、です……」

 

 レイヴァンは酒も強かったがチェスも強かった。

 ううーとラビは項垂れた。

 五戦五敗。

 マルディヘル相手だってここまで負かされたことはない。そこそこ強い自信があっただけに、ショックだ。ラビが知る中でも五指に入る強さだ。「お強い」だなんて可愛らしい物じゃない。

 酒で思考がにぶるなんてこともなかった。それなりに強そうな酒をストレートでそれなりに飲んでいるのに、顔色は一切変わりない。こちらも「お強い」なんてものじゃなくて、ただのザルだ。

 もう一戦挑みたいのに、ショックの整理がつかない。うーと落ち込むラビに、レイヴァンはどことなく得意げだった。……むかつく!


 「軍で役付きは軍師の役割も持つからな。チェスも兵法の一つとして仕込まれた」

 だから、ラビが負けるのは仕方ないと言いたいのか。なんともまあお偉いことだ。

 でも、レイヴァンがこんな風に喋るのは珍しい。

 レイヴァンの口数を増やすためにも、会話に乗っかるのもいいか、と思った。

 「将軍に、ですか?」

 「知っているのか?」

 「有名な話というだけです」


 国軍将軍、ヴァッハ=アール=カーディフ。

 国一番の腕を持ち、剣でも槍でも素手でも、今国内に彼に勝てる者はいないと言われている。もし勝てるとしたら、彼が育てた鬼子たちのみとも。


 「三部署の長官たちは、将軍が育て上げた鬼子たちと」

 「嘘ではないな。あの人に世話になった。私が騎士団長に立てるのも、あの人に扱かれたおかげだ」

 「なんだか喜べない話ですね……」

 痛そうだ。

 「詳しいな。どこで聞いた?」

 早口に尋ねられて、ラビは苦笑した。仕事モードか?

 隠しているつもりはなくても、王宮の細かい話が城下まで聞こえているのが気になるのか。騎士団長の話となれば、それなりに漏れ出ている物なのだが。

 そこで黙り込んで不和を作るのも何だから、とラビはあっさりと答え明かしをした。

 「所長から聞いたんですよ。うちで言えば、わたしも鬼子みたいなものですから」

 ちょうどこちらも三部署となっている。

 ただ、各課の課長たちはマルディヘル自ら集めた知り合いなので育てたという関係にはない。それ以前にマルディヘルに人間を育てるようなマネは出来ないだろうけれど、それでも鬼子と言えば各課の将来有望株が当たるだろう。ちょうど一課ではラビがそうと言われている。マルディヘルに可愛がられている(無茶ぶりを受ける数に比例する)からそう言われるのかもしれないが、ラビからすればまったく嬉しくないことだ。


 「マルディヘル=マジェンカか。あれこそ、鬼のような男だな」

 「そうですね……不用意に近づいたら、食われますから」


 過去食われた人間は幾人か。

 ―――誰か鬼退治してくれないかな。

 「いやいや、タヌキの方が邪魔なんですよねぇ」

 ぼんやりと駒で手遊びするラビに、レイヴァンが胡乱げな目を向ける。

 しかし、ラビは気にせず適当にぼやきつづけた。


 「騎士はロイドさんで、僧侶がロランで、テッドが城、フィオナとオリオが歩兵で―――」


 「ヘレンはどこ行った」

 「ヘレンは女王ですよ。レイヴァン様が王。騎士団長が王って不思議な感じがしますね」

 かつん、かつん、と役を振った白の駒で陣を作る。


 すると、レイヴァンの手が伸びてきて、勝手に陣を乱される。

 「ちょっ! 陣地作るなら、黒でやってくださいよ!」

 「―――間違っている。役割分担を違えるから、負けるんだ」

 そう言って、レイヴァンは駒の並びを変えながら、ラビの様に呟いた。


 「騎士はロイド、僧侶はロラン。城がヘレンで、テッドが歩兵だ」


 「フィオナとオリオがいなくなりましたよ」

 「あの二人は元々私の駒じゃない」

 そう言って、ラビが二人を割り振ったポーンが盤上から出された。代わりに、テッドの役を振った駒が置かれる。

 「では、女王がいませんよ?」

 「お前だ」

 「婚約者として、ですか? でも、よそから借りてきた仮の駒ですからね」

 過度な期待はいけませんよ―――人差し指を弾いて、ラビは女王を倒した。


 「さぁ、もう一局行きましょうか! 次こそ、そのたっかい鼻を明かしてあげますよ」

 「夜だと言うのに元気だな」

 「そりゃあ、勿論。どれだけ引きこもっていると思っているんですか」

 暇なんですよ。


 そうして、またも惨敗を重ねる。

 そんなオリエス邸、夜の日常。



 ※※※※



 「―――旦那様が帰っていらして助かりました。今日は随分と多い」


 ひぃ、ふぅ、みぃ、とロイドが数え上げていく。

 調理場裏に転がった蓑虫たち。ぐぃぐぃとテッドが締め上げていく。


 「こっちも終わりましたよ、大叔父さん」

 ロランが二人程引っ張ってやってくる。空いた方の手で馬用の調教鞭を弄んでいた。

 「ヘレンはどうしていますか?」

 「母さんなら、あの新人たちと一緒にいますよ。色々教えることがあるとかで、害虫駆除は任せられました」

 そうですか、とロイドは一言頷いた。

 「では、二人ともこのまま警戒に当たってください。今晩は特に注意して」

 ロイドの言葉を合図に、二人はどこかへと去って行った。また侵入してくる不審者たちの撃退に当たっているのだろう。

 足元で転がる蓑虫たちを見ながら、ロイドははぁとため息をついた。


 「旦那様がさっさと結婚してくだされば、こんな仕事も減るのですけどね」


 長年勤めている家令の、唯一主への不満であった。





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