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デイリーデイリー2

 「おはようございます」

 食堂では、既にレイヴァンが朝食を取っていた。

 仕事の忙しい彼は、食事を他者と取るという習慣がないようだ。朝食も夕食も、少し気を配れば一緒に食べ始められるのにそうしようとしない。ラビが夕食の手を止めて帰宅したレイヴァンを出迎えれば、珍妙な目で見られたこともある。

 ―――悪いとは思わないけどね。でもね……。

 ちょっとくらい待っていてもいいんじゃないかと思う。


 「まぁまぁ、旦那様、ロイドがラビーナ様を呼んで来ると言ったではありませんか。数分程待つこともできない程、忙しいのですか? それと、食事中に新聞を読むのはおやめくださいと何度も言っていますでしょう」


 口早く叱りつけるのは、侍女長のヘレンだ。

侍女長と言っても、この狭い屋敷では何役もこなしているようでメイドの仕事をしているのも見かける。それでも、長く仕えて立場もしっかりしているから、主人にだって侃侃と意見できる人だ。

 毎朝のことだが、ヘレンはその豊満な肉体を揺らしてレイヴァンに口酸っぱく食事中に新聞は読むな、と言う。もう見慣れた光景だ。

 「ヘレンさん、おはようございます」

 「あぁ、ラビーナ様、わたしなどに丁寧な言葉は必要ですよ。むしろ、女主人としてしっかり指示していただきたいものです」

 いい人ではあるのだが、ラビには困った人だ。

 初めて紹介された時は、「あのぼっちゃまに、まさか、まさかぁぁ……奥方様を見ることなど諦めておりましたのに……もうヘレンは死んでも悔いはありません!」と滂沱してくれた。その後も、ラビーナを「奥様」と呼びたがるのを何とか名前呼びにしてもらっている。

 誰よりラビーナの存在を歓迎してくれているのだろう。言葉の端々からそれが読み取れる。


 「旦那様、折角ラビーナ様がいるのです。愛想のない新聞などと向き合うより、ラビーナ様のお顔を見るべきです」

 「え、いや……ヘレンさん?」

 さすがにそれは恥ずかしい。

 気にしないでほしい、と言おうとすれば、本当にレイヴァンが新聞を読むのを辞めてしまった。

 「それでよろしいんです」と言わんばかりにヘレンが胸を張った。

 「ラビーナ様、屋敷の中でヘレンに勝てるものはおりませんよ」

 と、ロイドは椅子を勧めながら言った。

 「まさか……レイヴァン様よりも?」

 「ヘレンもそこのところを誤ったりしません。ですが、彼女はレイヴァン様の乳母でしたので、レイヴァン様も弱いところがあるのです」

 レイヴァンを実の子のように可愛がっていると思えば、そういう理由があったのか。乳をやった子はやはり愛着がわく。また、子供の方も、母代りとなった女性を無下に扱えないものだ。

 「それじゃあ、ヘレンさんは前のお屋敷からレイヴァン様に仕えているのですか?」

 「フィオナとオリオ以外、皆、ご実家からついて来た使用人でございます」

 「ロランさんも?」

 庭師のロランは、まだ二十過ぎくらいの青年だ。

 アルキスでは、男子は二十前後で独り立ちするから、三十路のレイヴァンが独り立ちする頃ロランはまだ十を過ぎたばかりだったはずだ。さすがに早すぎないか? と首をかしげていると、ロイドが静かに笑った。

 「ロランはああ見えて、来月三十になります」

 「はい!?」

 「見えないでしょう。テッドに似て童顔なのです。本人も気にしているようなので、言わないであげてください」

 テッドとは、コックのテッド=ローロックのことを言っているのか。料理場から出てこないのでラビは顔を合わせたことはないが、ヘレンの夫だと聞いている。

ということは―――

 「ロランさんがヘレンさんの息子?」

 「はい。旦那様の乳弟に当たります」

 ―――見えない。

 つまり、オリエス邸はほとんどローロック一家に切り盛りされているということになる。一族で仕えるというのは上流階級ではままあることだが、意外に気づかないものだ。

 何とも言えない感銘を受けていると、突然レイヴァンが話に入ってきた。 


 「他人事のように言っているが、ロイドはヘレンの叔父だぞ」

 「叔父!?」

 十分自分も身内じゃないか。

 「俺からすれば、家族みたいなものだ」

 「「それは光栄なことですね」」

 ヘレンとロイドの声が合わさって、ラビは目を瞬いた。

 「あら」

 「まぁ」

 本人たちも驚いている。

 血のつながりを感じるそのさまに、堪らずラビはくすくすと笑ってしまった。


 「どうした?」

 レイヴァンが不思議そうにしている。

 「似ているなぁ、って思いまして」

 「そうだな。似たもの家族だ」

 そう言って、レイヴァンも小さく笑声を零した。

 一週間いっしょに暮して一度も見たことがなかったので、正直これには驚いた。


 その後、四人で散々笑っていたが、ラビの食事を取りに来ないことに焦れたテッドがぷりぷりしながら調理場から出てきた。その顔がロランによく似ていたことにも笑ってしまったが、にやりとした レイヴァンがテッドにも「家族みたいなものだ」と言えばまったく同じ反応が返って来て、また笑ってしまった。

 そんなオリエス邸、朝の日常。



 ※※※※


 「ふぅ、危なかったなぁ。もう少しでラビーナ様の朝食駄目にするところだったよ」


 料理を出し終わったテッドは、お世辞にも細いとは言えない体を揺らして調理場に戻ってきた。

 しかし、戸棚の戸は開き、中から調理器具が出て、隅に置かれた麻袋は破れ、豆があふれ出している。そして何故かゴミ箱の中にオッサンが詰め込まれていた。

 毎度毎度、調理場が惨劇の場となるのにめっきり薄くなった頭を掻いた。妻や息子と比べて、どうしても要領が悪い。おかげで、「唐変木」と呼ばれ続ける。


 「俺、この仕事向いていないのかなぁ」


 ―――ただのコックに戦闘力を求めないでほしい。




今日はここまでです。

明日、また更新する予定。

登場人物紹介は、今章が終わり次第とします。



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