第七章 最後の星巡り
双介は俺を、現世の元の場所へ送り返すと言った。
俺たちは静かに並んで、再び星の海を踏みしめながら歩き始めた。
来たときに眼前に広がっていた絢爛豪華な熱気とは対照的に、周囲はどこかシンと静まり返っていた。
無限に続くかに思えた狂乱の夜が、ゆっくりと幕を下ろそうとしているのだと肌で感じられた。
十二星座大祭は、終わりを迎えつつあった。
果てしない星の海の彼方へと、あの巨大な黄金の羊たちが星屑の尾を引きながら姿を消していく。
白銀の銀河を渡っていた牡牛の山車も、遠くの星雲の影へと静かに沈んでいこうとしていた。
ふと遠くの宙空を見上げれば、あの双子座の二つの灯火だけが、名残惜しそうに淡く、優しく揺らめいていた。
波立つ光の粒を足元で踏み鳴らしながら、俺はふと思い立って横を歩く双介に問いかけた。
「……なぁ、この祭りって、来年もあるのか?」
『うん、あるよ』
双介は前を見つめたまま、静かに口を開いた。
『一年に一度、星の位置が巡り合うこの時期に、必ず開かれるんだ。忘れられた記憶たちが寂しくならないようにね』
「そっか……」
俺は少しだけ言葉を溜めたあと、隣を歩く兄の顔を覗き込んだ。
「じゃあさ——。来年も、俺をここに連れて来てくれよ」
双介の足が、ピタリと止まった。
彼は驚いたように目を丸くして俺を見つめた。
それから、少し困ったような、けれどどこか心の底から嬉しそうな表情を浮かべて、穏やかに笑った。
『……うん』
その温かい笑顔を見て、胸の奥を重く押し潰していた不安や切なさが、すーっと溶けていくような気がした。
少しだけ、安心できた。
俺たちは再び歩き出し、光の海を渡っていった。
やがて、静寂の広がる星の海の果てに、一筋の強い光の束が見えてきた。
それは現世へと続く門——見覚えのある、俺の自室のあの小さな窓だった。
窓の向こうには、見慣れた実家の部屋の輪郭と、うっすらと白み始めた夜明け前の空が透けて見えていた。
俺は窓の真手前に立ち、ゆっくりと振り返った。
「じゃあ……行くよ」
『うん』
双介は窓枠のすぐ手前で立ち止まり、微笑みを湛えたまま俺を見つめていた。
「またな、双介」
『……うん。またね、双真』
俺は意を決して、光の門——現世への窓枠をくぐり抜けた。
足元に確かな冷たいフローリングの感触が戻ってくる。
俺は咄嗟に振り返り、窓の外の闇を見つめた。
そこには、まだ双介がいた。
足場もない夜空の中に静かに佇み、俺に向かって優しく、小さく手を振っていた。
『……バイバイ』
俺も大きく手を振り返した。
次の瞬間、窓の外の星空が眩い純白の光に包まれ、世界を真っ白に染めあげていった。




