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こちらも理不尽な対応をさせていただきます  作者: わらびもち


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退位

「帝国皇家の血を引く令嬢に理不尽な婚約を王命で強いたなどと……とんでもないことをしてくれましたな」

「帝国に睨まれては我が国は立ちいかなくなります。これが公になれば友好国から国交を断絶されることも有り得るでしょう」

「陛下も議会の皆様方もフロンティア子爵令嬢の素性を調べなかったのですか? 事前に調べておけばこんなことにはならなかったものを……」

「いや、そもそも若い令嬢を平民に傾倒し貴族としての義務を蔑ろにするような男に嫁がせようとすること自体が間違っているのです。しかも王命まで使って……誰もおかしいと思わなかったのですか?」


 帝国に喧嘩を売ったも同然の所業を知らされた国内の主要な貴族家の当主はこぞって国王と議会の面々を非難した。緊急会合として集められた彼等は王宮の会議室で小さく縮こまる国王と議会の面々に厳しい目を向ける。


「……皆様方、落ち着いて下され。非難の言葉をかけたい気持ちは私も同じですがまずは早急に先方の許しを得なければ」


 この中で国王に次いで身分の高い筆頭公爵家の当主が各貴族家の当主を宥めた。

 一見すると穏やかな笑みを浮かべている彼だがその目はちっとも笑っていない。

 内心「なんてことをしてくれたんだ!」と怒鳴りたい気持ちを必死に抑えている。


「帝国に使者を出したところ『謝罪は不要。貴国の誠意ある対応を望む』とのお言葉を戴いたそうですね。シーグラス家からも同様の言葉を戴いたとか。謝罪すら受け取って頂けないのであれば、言葉通りこちらから出来る限りの誠意をお見せするしかないでしょう」

「しかし公爵閣下、誠意を見せるといっても具体的にどのようなことをすればいいのであろうか?」

「やはりここは金品でしょう。やんごとない身分の令嬢の名誉を著しく傷つけた慰謝料として金貨及び国宝数点をあちらに献上すべきかと」


 国宝、と聞いて国王は驚愕した顔を筆頭公爵へと向けた。

 しかし筆頭公爵は蔑むような目で国王を一瞥し、冷めた声で叱責する。


「何を驚いていらっしゃるので? それくらい当然でありましょう。一昔前であれば王族の方々の首を献上する、なんてこともあったのです。しかし今は非人道的だとしてそれは非難されるべき行為。国宝程度で済むのでしたらむしろ感謝すべきかと」

「し、しかし……国宝は建国当初から保管されてきた品々ばかりで……」

「ええ、歴史あるものだからこそ価値が出ます。我が国の国宝は管理状態も良く他国からも手放しで称賛される品々ばかり。きっと皇帝陛下並びにシーグラス家のご当主も喜ばれることでしょう」


 この国の国宝は他国からも羨望の眼差しを向けられるほど価値の高い美品ばかりだ。

 それも歴代の王が大切に守り、保管状況にもこだわっていたからである。

 代々の王の想いが込められた大切な品々を、自分の失態のせいで手放さなくてはならないことに国王はまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


(なんでこんなことに…………! あの時、あの令嬢を選ばなければこんなことには……)


 ただの子爵令嬢だから、取るに足りない下位貴族だからどう扱おうと構わない。

 そんな驕り高ぶった精神でいたせいでとんでもない結果を招いてしまった。


 結局、国宝の中でも最も価値の高い物から順に数点と国家予算並みの金貨を慰謝料として帝国及びシーグラス家に支払うこととなった。


「このような事態を引き起こしたのですから責任をとって議会は解散して頂きましょう」

「当然ですな。現議会の面々は今後一切(まつりごと)に関わることのないように」

「おや? 何ですかな、その目は。帝国皇家の血を引くやんごとない令嬢に理不尽な王命を下すことを承認したのはあなた方ですよね? その責任を取るのは当たり前では?」


 各家の貴族がこぞって議会の面々を非難すると、最初は睨むような目を向けていた彼等も次第に大人しくなった。取るに足らない身分の令嬢などどうだっていい、という考えでおかしな王命を承認したのは確かだ。これがもし高位貴族の令嬢が対象であったなら後が面倒だから絶対に了承しないような理不尽極まりないものだったのに。


 議会の面々は皆力なく項垂れた。身分が高い議員も低い議員も、こんなくだらないことで折角得た地位を失ってしまったとひどく後悔した。


「それと、陛下には責任を取って退位して頂きます。次の玉座に就く者は今後の話し合いで決めるとしましょう」

「公爵! それは…………」


 次の玉座を誰にするかを話し合いで決める、ということは現王太子が次の王とならない可能性が高い。自分のせいで息子の将来が潰されたことに焦った国王は筆頭公爵に反論する。


「愚かなのは余だけだ! 息子は……王太子は関係ない。王太子は次代の王となるべく研鑽を……」

「……陛下、王位継承権は王太子殿下のみが有しているわけではないのですよ。継承権のある者は皆不測の事態に備えるべく日々努力を欠かしておりません。それに……そのようなことを言っている場合ですか?」


 筆頭公爵の妻は降嫁した王妹、つまりは公爵との間に生まれた子にも王位継承権はある。各家の当主たちも同意を示すように頷いており、この流れだと王太子が廃され筆頭公爵の子が王位に就く可能性が非常に高い。


 息子の未来を潰してしまったことに顔面蒼白で俯く国王に軽蔑の視線を送った後、筆頭公爵は次の議題に移った。


「それと、バーティ侯爵領で違法植物が栽培されていた件ですが……どうしたものですかな、これは……」


 報告書に予め目を通していた筆頭公爵及び各家の当主の面々は改めて渋い顔をした。高位貴族の領地で数年に渡り違法植物が栽培され続けていたという信じられない事実を未だに受け止められないでいる。


「領民がいつのまにか異国の民に代わっていたらしいですね。どうしてそうなったのか、いつ頃そうなったかも不明だとか……理解出来ませんな」

「しかも侯爵自身はこの件について関与していないと言うではありませんか。そんなことが有り得ます?」

「黒幕は侯爵が長年囲っていた平民の愛人とも聞きましたぞ。しかもその愛人は未だに見つからないとか……」


 前代未聞の事件に皆眉を顰めた。

 こんなことが本当に起こりえるのか? と首を傾げたくなるような珍事件だ。

 少なくとも建国以来このような事件が起こったことは一度も無い。


「これについてはどう対処されるおつもりですか、国王陛下?」


 一人が王に向かって質問すると、一同の視線は一斉に王の方へと向かう。

 普段であれば臣下の視線を一身に浴びることなど何とも思わないのだが、この時はまるで針の筵に座らせているような恐怖を感じた。


「……バーティ侯爵に全責任をとってもらう。いくら知らぬ存ぜぬを繰り返そうとも、本当にこの件に関わっていなくとも、領主である以上責任からは逃れられぬ」

「賢明なご判断かと。甘い判断を下されては他の貴族に示しがつきませんからな」


 おそらくは王として最後になるであろう決断は各貴族家が納得するようなものであった。そのことに安堵し、王はそっと息を吐く。


「ちなみにどのように責任をとらせるおつもりで?」

「処刑台の上で首をはねるか、毒杯を呑ませるかのどちらかだが……後者の方がよいだろう」

「……同感です。この件、多くの者に知られぬうちに幕を下ろすべきです」


 罪の大きさに対して罰が生温いように思えるが、その事について誰も異論を唱えなかった。というのも、この件は大衆に知られる前に幕を下ろした方がいいと判断されたからだ。もし処刑台で首をはねるとなったら大衆に事件を知られてしまう。それは不味いので毒杯にて密やかに始末する方を選んだ。


 調べていくうちにこの件は深入りすべきではないと分かった。

 真相は結局分からずじまいだが、領地にいたという異国の民が何処の国の者かは判明した。それが中々に厄介な国だということも。


 相手の国は好戦的かつ優れた軍事力を保有しており、戦によって領土を広げてきた歴史がある。しかも相手は難癖をつけて開戦まで持ち込みたいような雰囲気まで醸し出していた。


 戦になれば間違いなくこの国は負ける。しかも今は帝国から許しを得ようとしている最中だ。こんな状態では同盟国も力を貸してくれるとは言い難い。最悪な状況が重なった結果、もうこの件について深入りしないことに決めた。


 領地の責任者であるバーティ侯爵に全ての責任をとってもらい、事件の幕を閉じること。それが一番最適で、国と民の安全を守る方法だと判断した。


「これを機に国内の貴族家を検めた方がよろしいかと。バーティ侯爵と同じように貴族の責務を果たさぬ当主がいるやもしれません。そういう愚者が所有する領地で似たようなことが起きている可能性もありますから」

「そうですな。それと定期的に王宮から監査官を派遣すべきかと。領主に一任しておくと再びこのような事態を招くとも限りませんので」


 これは暗に「放任主義のせいでこうなった」と王家のやり方を責めていた。

 以前はこういった監査目的の視察が王家より派遣されていたのだが、先代の頃より廃止されていた。公には各家の当主を信頼して、と耳障りのいいことを言っていたが真相は違う。単に人手と金がかかるからというしょうもない理由。


 先代である父親の自己中心的な所業の皺寄せを受けているという部分は哀れであるが、私欲のために立場の弱いアリッサを犠牲にしようとした罪は消えない。そしてそれが原因で国王は全てを失おうとしている。臣下からの信頼も、最高権力者の座も、後継者に自分の息子を据える未来も、何もかもを。

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