↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらも理不尽な対応をさせていただきます  作者: わらびもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/53

あれが唯一の正しい選択だった

 よくもこんな回りくどい真似をしてくれたものだ……。

 正攻法でくればよいものを、こんな回りくどい方法で詰めるとは性格が悪い。

 おまけにこの皇子はやけに人の心をひきつける話し方をする。

 そのせいで不覚にも警戒心が薄れてしまい、流されるまま答えてしまった。受け答えには十分気を付けるべき立場であることも忘れて……。


(この感じは前にもどこかで……そうだ、あのやたら度胸があって、思わずこちらが聞き入ってしまうような話し方をしていたあの娘……。フロンティア子爵の娘と同じ……)


 この、やたらと人を魅了する話し方はあの娘によく似ている。

 おまけにこの皇子もあの娘も妙に人を惹きつける雰囲気をしていた。

 見目が美しいのは勿論のこと、人一倍落ち着いている姿がそう思わせるのか。豪快で迫力のあるシーグラス翁とはまた違った魅力のようなものがある。


 ──ああ、あの娘に関わるのではなかった…………。


 アリッサが全ての元凶というわけでもないのに、何故か国王の頭には自然とそんな思いが浮かんだ。


 私欲を満たそうとして身分の低い令嬢を生贄にしようとしたことへの罪悪感はない。あるのは、生贄として選んだのがあの娘でなければ……という身勝手で他責志向な思いだけ。


 上位の者の欲を満たすために選んだ下位の者は自分達より遥かに高貴な血筋の持ち主だった。本人もその血筋に相応しく泰然としており、対面した時に只者ではないと気づくべきだった。


 なんかやたらと迫力のある令嬢だったな……と呑気に構えていた自分が情けない。


「おや、国王陛下、如何なさいましたか?」


 華やかな笑みを浮かべる皇子だが、国王の目にはそれがひどくどす黒いものに見えた。全部分かっているからこんな余裕の表情を浮かべていられるのだと。


「…………貴殿らは、余に何を望む」


 彼等の目的を分かったうえで国王はそう告げた。


 分かっている。あんな馬鹿げた王命を撤回しろと言いたいのは分かっている。

 だが、王命の撤回は退位を意味する。そしてそれだけではない。よりにもよって皇家の血筋の令嬢に理不尽な命令を下した。これはもう国家間の問題と言っていい。謝罪と退位だけではすまない。


 償いが必要だ。いや、この場合は賠償になるか……。


「随分な物言いではございませんか。陛下は儂の可愛い孫に何をなさったか自覚がないようだ……」


 それまで黙っていたシーグラス翁の低く威圧的な声音にその場の空気が冷えた。

 国王は改めてこの覇王然とした老貴族を怒らせたことに気づき、威厳など何処かに行ってしまったかのように身を縮こまらせた。


「お、お言葉だがっ! 子爵令嬢が侯爵夫人になるというのはそう悪くない申し出で……」


 そこで自分の非を認めて謝罪すればよかったのだが、自尊心の強い国王は咄嗟にそれが出来なかった。彼の発言を「悪手だ」と言いたげに眉をひそめる皇子と執事服を身に纏った青年。案の定シーグラス翁の表情は更に険しいものとなり、場の空気もさらに下がった。


「いくら侯爵夫人の地位が手に入ると言っても、()()()()()()()()になど嫁ぐことが悪くない? 本気で言っているのか? それではまるで結婚自体が罰のようなものではないか」

「……は? 罪を犯している? ……バーティ侯爵が、ですか?」


 罪、といきなり言われて国王は唖然とした。

 バーティ侯爵といえば平民の愛人に傾倒して仕事もろくにしない駄目な男だとは聞いたが、それ自体は罪に問うものではない。いったい『罪』とは何のことを言っているのだろうか……。


「なんだ、知らんのですか? あの家は領地で違法植物を栽培していますよ」

「は……? 違法植物!?」


 とんでもない発言に国王は驚きを隠せなかった。


「違法植物を栽培? 侯爵家が? 馬鹿な! 証拠はあるのですか!?」

「我が孫のアリッサが直接現地でそれを目にしたそうです。一昔前に流行った『堕落の近道』とかいうふざけた名前の薬物。それの原材料となる植物がバーティ家の領地で大量に栽培されていたらしいですよ」


 その名を聞いて国王の顔が真っ青になる。

 安価で手に入るそれは貴族のみならず平民の間でも瞬く間に流行り、数えきれないほどの中毒者を出した。廃人になる者も多く、中には王族もいたことから各国ですぐさまそれの販売・製造を禁じ、関わった者を厳罰に処した。


 国内でそれを流通させないように目を光らせていたはずだ。

 少なくともその薬物が国内で販売されていたといった報告はない。

 それがよりにもよって高位貴族の領地で原材料が栽培されていたなどとても信じられなかった。


「嘘だ……そんな、国内でその薬物が出回っているという報告はあがっていなかったぞ!?」

「そうですか……なら、おそらく原材料をこの国で栽培し、製造や販売は別の国で行われているのかもしれませんね。アリッサから領地にいる民は異国の民のようだったとの報告があがっておりますし」

「は!? ちょっと待ってくれ、領民が異国の民? どういうことだ!?」

「それは説明するより直接現地に兵士を派遣した方がよろしいでしょう。アリッサの報告によると領民と思しき人々の服や装飾品、話し方や生活様式を見てそう思ったそうですから。もしかすると間違っているかもしれません」

「いや、待ってくれ、どうしてフロンティア子爵令嬢はそんなことまで詳しいのだ!? 何故、栽培されていた物が違法植物だと見ただけで分かる? それに領民が異国の民だと何故分かる!?」

「アリッサには高等な教育を施しておりますので。あの子は頭が良い。大陸中の言語も話せますし、領地経営学も政治も学んでおります。いつだったか皇帝陛下より『いつでも皇家に輿入れできそうだな!』と冗談を言われたこともありますな」


 それを聞いた途端喉がヒュッと鳴った。

 シーグラス翁は冗談だと言っているが、フロンティア子爵令嬢は皇帝からそのような称賛を受けるほどの存在だということ。皇帝からそのような言葉を受ける令嬢なんて片手で数えるほどだろう。それだけの価値がある存在なのだ、フロンティア子爵令嬢は。改めてそんな価値ある女性にとんでもない扱いをしてしまった、と頭を抱える。


「フロンティア子爵令嬢を疑うつもりはこれっぽっちもないが、それでも信じられん……。領地にそんなものが栽培されていたら、領主がすぐに気づくはずだろう!?」

「いえ、領主はもうずっと領地の視察をしていないようですよ。視察の目が無いと分かればもうやりたい放題ですよね」

「は…………? 侯爵は領地の視察をしていないのか……?」

「もう十年近く一切視察をしていないようです。それでも財政が破綻せず存続しているのですから不思議なものですな」


 国王は侯爵のあまりにもお粗末な領主ぶりに絶句した。

 領主とは領地の監督を任された身であるのに、それを長年放棄していたなどとんでもない。


「ヘブンズ伯爵! 其方はバーティ侯爵の親戚だったな? まさか其方もこのことを知っていたのか!?」

「いえ、それは違います! 儂はバーティ家がそんなことになっていたなど少しも知りませんでした!」

「それは本当か!? 知っていてわざとフロンティア子爵令嬢との婚約を勧めたのではなかろうな?」

「断じてそれはありません! そんな犯罪者だと知っていれば関りもしませんでした!」


 それを聞いて国王は少しだけ安堵した。

 もし知ったうえで婚約を勧めていたとしたらとんでもない。皇家の血を引く姫を犯罪者のもとへ嫁がせるよう画策したことになり、その罪はこの皺首ひとつでは贖えそうもない。


「そういうわけですので、アリッサはこのまま儂らが保護します。……これからそちらは忙しくなるでしょうし、巻き込まれてはたまりませんからな。ああ、ついでに『ヴィクトリア』も回収するとしますか」


 ヴィクトリアの名が出ると、皇子や執事服の青年がたまらず吹き出した。

 すぐに澄ました表情に戻るが、必死に笑いをこらえているようで小刻みに身を震わせている。

 その反応に彼等はフロンティア子爵が女装してヴィクトリアと名乗らされていることまで知っているのだと分かった。身内がそんな目に遭っても笑うだけで済むのはどうかと思うが。


「婚約がなされておらず僥倖です。もし成立していたらアリッサの名に傷がつきますからな。犯罪者と婚約していたと」


 シーグラス翁の発言に心の中で同意した。

 そんなことになれば帝国との戦待ったなしだ。帝国皇家の血を引く姫に対するとんでもない侮辱。喧嘩を売っているとみなされて当然だろう。


 改めて思う。婚約が成立していない状態でよかったと。

 フロンティア子爵令嬢が妙な条件を突きつけなければとっくに婚約が成立していた。


 あの時彼女の提案を受け入れたこと()()が、結果として唯一の正しい選択だった。


「これにこりましたら過分な欲を出さぬことです。過ぎたる欲は身を滅ぼしますからね。二つの爵位は諦め、一つだけで我慢することです」


 自分の浅はかな企みまで知られているのか……と国王は情けなく肩を落とした。

 二つの爵位とはバーティ侯爵とヘブンズ伯爵の爵位のことだろう。一つだけで、とは……つまりバーティ侯爵の爵位だけで我慢しろということか。

 しかし、もう自分は王の地位にはいられない。それに伴い議会も一旦解散させることとなる。ならばもう、爵位をいくつ没収したところで何の意味も無い。


「ああ、そうそう。うっかりしておりましたが、こちらの『トム』殿が陛下にお頼み申し上げたき儀があるそうです。先にそちらを済ませておきましょうか」


 突然現れた異母弟の頼み事……嫌な予感がするがこの場でそれを聞かないという選択肢はない。


 しかも()()ということは、その後今後の賠償云々についての話し合いをするのだろう。

 ああ、考えるだけで胃が痛い……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。