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こちらも理不尽な対応をさせていただきます  作者: わらびもち


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あの時のアリッサの言葉

(……なんと拙い恋文か。父上は詩の才能が無かったのだな……)


 父がサラに宛てたであろう恋文を読み進め、国王の頭にまず浮かんだ感想がそれだった。

 王侯貴族の男性が意中の姫君に恋文を送る際には如何に魅力的な詩を作れるかが必須になってくる。父親の書いたものはひどく拙く、自画自賛かもしれないが昔自分が妻に宛てた恋文とは比べ物にならない。


 今はそんな部分を気にしている場合ではないというのに、父より勝っている部分を見つけたという喜びが湧く。あの父にも苦手とする分野があったのだと。


 内容も愛の言葉も薄っぺらくちっとも胸を打つものではないが、父は相当サラを愛していたのだなということだけは分かる。少なくとも父は下女やメイドのように性欲処理のため彼女に手を出したわけではないようだ。それどころかおそらくは恋仲だったのだろうと推測される。お忍びで逢瀬を重ねた様子が書かれたものもあったから。


(まて、確かサラ嬢にはこの時婚約者がいたはずだ。婚約解消に悲観する彼女にフロンティア子爵が友人を紹介したと聞いたからな。つまり婚約者がいながら父上とそういう関係になっていたというわけか……)


 もしや、父に無理やり迫られてこういう関係になってしまったのかもしれない。

 年若い令嬢が一国の王から迫られたら断れないだろう。フロンティア子爵の娘のような度胸の持ち主でもなければ。


 しかし、相思相愛の仲だったとしたらサラは婚約者がいながら既婚の男、しかも一国の王と不倫するような倫理観の欠如した女ということになる。だとしたらとんでもないな……。


(それにしても酷い内容だ。母上の悪口を書いたうえでサラ嬢のことを褒めちぎる。不貞をする男の常套句だが、読んでいて気分のいいものじゃない)


 王妃とは完全な政略結婚、あんな可愛げのない女など愛していない、君と出会って本当の恋を知った。どれもこれも聞いたことのあるような台詞の言い回しだ。こんな陳腐で下劣で被害者意識の強い言葉をよくも書けたものだと呆れてしまう。


 いい年をして恋に浮かれる父親の気持ち悪い姿を想像し、吐き気がした。

 そして次に手に取った手紙で吐き気が怒りに変わるのだった。


「はあ? 『マーティン』を王太子にして、サラを王妃にする? なんだこれはっ……!!」


 思わず口に出し怒りを露わにする国王。恋文の中には王妃であった母と王太子であった自分を廃してサラとこのマーティンをその座につけると記載されている。


「父はこんな事を考えていたのかっ……!! ふざけた真似を……! マーティンとはまさかお前のことか? ……貴様、まさか王位を簒奪しにここまで来たのか!!」


 この『マーティン』が目の前の異母弟の名前なのだと察した国王は彼に向かって唸るような声で詰る。しかし青年は困ったように首を傾げるだけだった。


「陛下、彼の名はトムです。マーティンではありません」

「は? トム? なら、ここに書いてあるマーティンとは誰の事だ?」

「先王は彼のことをそう名付けたかったようですね。でも彼は養母によってトムと名付けられたそうです。実の母親であるサラ嬢は彼に名も贈らず養母に渡してしまったようですから」

「え……? それはどういう……」

「まあまあ、それは全ての手紙をお読みなってから順に説明した方がよろしいでしょう。まずは全て読んでください」


 まるで推理小説に出てくる探偵が謎解きをするような体で話す皇子に苛立ちが増す。

 彼にとっては他人事だからこんなエンターテインメント染みた回りくどいことをするのだろう。だが、こちらは人生をかき回されているようで腹が立つ。


 いや、実際そうだ。こいつらが来てからまだそこまで時間は経っていないが、その短時間で知りたくも無かった情報ばかり一方的に伝えてくる。フロンティア子爵令嬢の出自、過去の事件の真相、異母弟の存在、父の不貞。どれもこれも一生知りたくなかった。


 だがここまできたのならもう全てを知っておきたい。中途半端に知ってから止めにするなど出来そうにもない。それにどうせ途中で止めることなんて許してくれないだろう。だったら腹をくくろう、と最後の一枚を開いた。


*****


 〇年〇月〇日


 サラ、すまない。今すぐにマーティンを連れてそこから逃げてくれ。

 

 なるべく遠くへ、出来れば国外がいい。


 あの女に気づかれた。

 余がお前を王妃に、マーティンを王太子の座に就けると計画していることを知られてしまった。不甲斐ない男ですまない。


 あれは恐ろしい女だ。

 お前は自分とマーティンの身を守ることだけ考えてくれ。


 必ず迎えに行く。

 それまで待っていてほしい。


 愛するサラヘ。 お前の愛する○○より。


*****


最後の手紙を読み終えると、国王はこの事件の真相に気づき頭を抱えた。


「ああ、そうか……。そういうことであったか……」


 父がサラに送った最後の手紙……いや、警告文に書かれていた()()()

 それが誰であるのかすぐに分かった。母だ。父は陰で母のことを『あの女』呼ばわりしていた。


 今ここで口には出来ないが、サラを亡き者にしたのは母の指示だったのだろう。

 王妃の座と王太子の座をサラとその息子に奪われることを危惧した母が、己と自分の子を守るためにしたのだと何故か理解出来た。


 ああ、そういえば母は気位がとても高かった。

 あの母が父に側妃を娶らせることを許すはずがない。

 

 自分が王妃であること、そして自分の子が王太子の座に就くことを何としてでも死守したかったのだ。だがそれは、何処の国も妃も同じだろう。王家に嫁ぐ女は皆未来の王を産むことに人生をかけているのだから。


 あの父も母の気位の高さを知らなかったわけでもあるまいし、どうやってサラとサラの子を王家に迎え入れるつもりだったのか。それと父がサラの死因を隠蔽しようとしたのはどうしてだろうか。愛する女を殺されてもそれを隠そうとするとは……。


 もしかして母の生家から圧力でもかかったのか? 

 それか、ヘブンズ伯爵の恨みを買うことを恐れた?


 というか、こいつらは事の子細をどこまで知っていて、それをどこで調べたのだろう……。そこまで考えてハッとなった。


(しまった……王たる余が父上の隠し子の存在を()()()()()()()。よりもよって、帝国の皇族の前で……!)


 国王は今頃になって己の失態に気づく。

 やけに回りくどい話に付き合っていたせいで、他国の皇族の前でトムを自分の異母弟だと認めてしまった。


 確かに外見が自分にそっくりだから何処からどう見ても血縁者であろうことは間違いないのだが、それを認めるべきではなかったのだ。


 この場での王として最も正しい反応は『否定』だった。

 

 いくら顔が似ていようとも、証拠があろうとも、王である自分が認めなければトムは王家の血の者ではないとされる。それはあの……フロンティア子爵の娘も言っていたじゃないか。



『陛下がお認めにならなければ、如何に正当な血を継ごうともその家の者とは認められません』


 

 それは、この状況を暗示しているのかと思うくらいその通りだった。


 自分が黒を白に変えられるほど絶対的な権力を持つ者だと忘れ、只人として話をしてしまった。

 しかも他国の権力者の一族相手に。


 否定すべきだった。どんなに似ていようとも、先王の証を持っていたとしても。そうすればこの男はただ顔が似ているだけの農夫で終わる話だったのに。


 やられた。完全にしてやられた。

 トムのことを「王族の子」と認めてしまった。


 失言だ。完全なる失言だ。もう取り返しがつかない。

 今から誤魔化そうとしても、目の前の狡猾な奴らはそれを許してくれないだろう。


 不味い。状況はかなり不味い。よりにもよって帝国皇家の人間相手に新たな王位継承権保持者の存在を王が認める瞬間を見せてしまった。

 長くて回りくどくて着地点が何処にあるのか分からなかったが、奴らの目的はここにあった。いくら血を受け継いでいるとはいっても農夫が王位継承権を保持するなんて貴族達が認めるとは思えない。王家の支持率が下がるどころか王権を保持することすら難しくなってしまう。


 もう絶対にこの後「これを黙っていてほしければ……」とか言って交渉に入ってくるに決まっている。王命を撤回しろとか言ってくる。


 なんてことだ……。これが自国の人間であれば緘口令を敷けたのに、他国の皇族にそんなことができるはずもない。


 もう、どうして異母弟の名がマーティンではなくトムになったのか、どうして彼だけ生き残ったのかとかを気にしている場合ではなかった……。


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