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『第89話 赤ん坊の萌が兄と婚約者に情愛されます』

いつも応援ありがとうございます!前回、まさかの0歳児に縮んでしまい、「あうー、ばぶ」しか言えなくなってしまった萌。私がばぶになってしまったせいで、お兄様たちもジント様もすっかりおかしくなって、私の奪い合いを始めてしまいました……。お腹はペコペコなのに、これじゃいつまでたってもご飯にありつけない!限界を迎えた萌が再び「おぎゃあ」と泣き出した時、過保護な男たちの育児バトルに変化が――!?最高に甘くて騒がしい「情愛」の時間をどうぞお楽しみください!

高級馬車の中。


私はジント様の広くて

逞しい胸の中にすっぽりと収まりながら、パニックを起こしている男たちを

見上げて、小さくため息をついた。


私がばぶになってしまったせいでお兄様たちもジント様もすっかりおかしくなってしまっている。


普段の凛々しさはどこへやら

「私が抱っこする」「いや僕だ」「国家予算で神殿を建てる」などと、目の前で大真面目に不穏な育児バトルを繰り広げているのだ。


「ばぶあうぅ、ぶーぶー!(みんな落ち着いてよ! これじゃあいつまでたってもご飯にありつけないよ!)」


必死にジント様の服の胸元をポカポカと叩いて抗議するものの、肉体が完全に

赤ちゃんになってしまっている私の声は、ただの愛らしい喃語(なんご)に

なって馬車の中に消えていく。


ぐぅぅ、と私のお腹が切なく鳴り響く。


あまりにもお腹がすきすぎて、私は

ジント様に抱かれながら、無意識のうちに自分の小さな親指をちゅうちゅうと

吸い始めていた。


もちもちの我が指ながら、吸うとほんのりミルクのような甘い味がする気が

する。


元OLのプライドとしては赤ん坊のポーズをするのは猛烈に恥ずかしいのだが

背に腹は変えられない。


……でも、当然ながらそれだけで私の

お腹が満たされる訳でもなかった。


親指から得られる虚しい空気感に、ついに私の我慢の限界が訪れる。


「お、おぎゃぁあぁぁーーーっっ!!」


私はまたしても、馬車の中に響き渡る大音量でおぎゃあと泣いてしまった。


やっぱり本物の赤ん坊の身体だ。お腹が空くと、脳の命令よりも先に涙が溢れて、全力の産声が飛び出してしまう。


その瞬間、私の奪い合いをしていた男たちの動きが、文字通りビシッと凍りついた。


「うわっ! ご、ごめん萌ちゃん! そうだよね、萌ちゃんのことで争ってるところ場合じゃあないよね……っ!」


アレクにい様が真っ青な顔で私の元へ飛び込んできて、私の小さな頭を壊れ物を扱うように優しく優しく撫でてくれた。


その手は少し震えている。


アレクにい様は、私の悲痛な泣き声に心臓が止まるほどびっくりして、今は男同士のプライドで揉めている場合じゃあないよね、と猛烈に反省しているよう

だった。


「すまない、萌ちゃん。私の不徳の致すところだ。君にこんな悲しい泣き声を

上げさせてしまうなんて、婚約者失格だ……!」


ジント様も、この世の終わりを迎えたかのような悲壮な表情を浮かべ、私の涙を大きな指先でそっと拭ってくれる。


「おう萌、泣くな! 悪かった! 俺が悪かったからよぉ! ほら、飯だ、飯を持ってこい! ジント、さっき言ってたスープはまだできねぇのか!?」


ライダにい様も髪をかきむしりながら、大慌てで馬車に備え付けられたキッチンを指差した。


男たちの情愛が深いのは嬉しいけれど、とにかく今は私の胃袋を救うのが最優先だ。


アレクにい様に頭を撫でられ、ジント様に優しくトントンと背中を叩かれているうちに、私の「おぎゃあ」は次第に

「ひっく、あぅー……」という小さな

しゃくり上げに変わっていく。


「よし、萌ちゃん。お待たせ。ジント

特製の『最高級砂糖入り・特製ミルク粥スープ』だよ。熱くないように、しっかり魔法で人肌に冷ましてあるからね」


ジント様が、これ以上ないほど真剣な

まるで伝説の聖遺物を扱うような手つきで、小さな銀のスプーンにスープを

掬った。


ふわんと、悪徳宿からがっぽり回収したあの最高級砂糖の、上品で香ばしい甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「萌ちゃん、はい、あーん……」


ジント様が優しくスプーンを私の口元に運んでくれる。


お兄ちゃん2人も、まるで国家の重大な儀式を見守るかのような、凄まじい緊張感の漂う真剣な目で見つめてきた。


「あ、あう……もぐ」


小さな口で、スプーンのスープを一生懸命吸い込んでみる。


その瞬間、濃厚なミルクのコクと

最高級砂糖の上品で優しい甘みが、口

いっぱいにじゅわぁぁっと広がった。


エルフの繊細な魔力で完璧な温度に調整されたスープは、赤ん坊の私の胃袋へ

優しく染み渡っていく。


(……ふにゃあぁぁ、美味しい……! 悪徳宿の砂糖、やっぱり最高……!)


「あぅ、きゃはっ♪」


あまりの美味しさと幸福感に、私は涙を浮かべたまま、満面の笑みを浮かべて

バタバタと短い手足を動かした。


「「「――っっっ!!!(尊死)」」」


私の笑顔を見た瞬間、ジント様、アレクにい様、ライダにい様の3人が、胸を

押さえて同時にシートへ崩れ落ちた。


お兄ちゃんたちにいたっては、あまりの破壊力に鼻血が出そうなのを必死に堪えている。


「にゃ、にゃ〜〜ん(もう、本当に手遅れな人たちだねぇ……)」


馬車の隅っこで、みちゃーれだけが

完全に呆れ果てたような顔で尻尾をパタパタと振っていた。


お腹がいっぱいになると、今度は急激に心地よい睡魔が私を襲ってくる。


ジント様に次のスープを口に運んでもらいながら、私は大好きな家族の深すぎる情愛に包まれて、あうあうと幸せそうに目を細めるのだった。


(第89話 完)

第89話をお読みいただき、ありがとうございました!


心の中では「早くご飯ちょうだい!」と思っているのに、口から出るのは全力の「おぎゃあ!」な萌ちゃん。


親指をちゅうちゅう吸って耐える姿が健気で可愛すぎましたね!萌ちゃんの泣き声に大慌てで我に返り、必死にお世話をするアレクお兄様やジント様たちの、狂気的なまでの「情愛」にクスッとしていただけたら嬉しいです。


次回はいよいよ、大台の第90話!この赤ん坊になって

しまった萌ちゃんを連れて、ついに大都会・商業都市

『グランマルシェ』へと馬車が到着します! 門番や商会の人たちは一体どんな反応をするのか……!? 新章突入をお楽しみに!


読者の皆様へのお願い 「指ちゅうちゅう萌ちゃんが可愛すぎて悶絶した!」「お兄様たちの慌てっぷりが

最高!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いいたします!ページ下部にある【広告の下】

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エネルギーになります。

どうぞよろしくお願いいたします!


8月19日水曜日はお休み致します

8月20日木曜日からは再開致します

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