『第88話 赤ん坊になっちゃった!?』
いつも応援ありがとうございます!前回、前世で流行った「マカロン」の話をした途端、急に体がおかしくなって眠ってしまった萌。
今回、心地よい小鳥のさえずりの中で目を覚ました萌。お腹が空いたからパンケーキでも食べようと、みんなにおはようを言おうとしたのですが……。口から飛び出したのは、自分でもびっくりするほどの全力の「あの声」でした!?最愛の萌の異変に
ジント様たちお兄ちゃんたちの過保護が大暴走します!
「ちゅんちゅん、ちゅん……」
心地よい揺れの中、外からは元気のいい小鳥たちの健やかな鳴き声が聞こえていた。
私はその爽やかな朝の気配を感じながら、ゆっくりと深い眠りから意識を浮上させていく。
(んん……よく寝たなぁ……。なんだか
もの凄くお腹がすいちゃった。
そういえば、悪徳お菓子宿から残務処理としてゲットした最高級のお砂糖、まだいっぱい残ってたよね。あの極上の
お砂糖をたっぷり使った、ふわふわの
パンケーキが食べたいなぁ……)
頭の中はすっかり、起きたての幸せな
おやつモード。前世のOL時代の記憶を
総動員して、どんなトッピングにしようかと、至って冷静に美味しい作戦を練っていた。
とりあえず、まずはみんなに元気よく
朝の挨拶をしよう。そう思って、私は
目をパチリと開け、目の前にいるはずのジント様やお兄ちゃんたちに向かって
「みんな、おはよう!」と言葉を投げ
かけようとした。
ところが――。
「お、おぎゃぁあぁぁーーーーっっ!!」
馬車の中に、割れんばかりの元気な
そして凄まじいボリュームの悲鳴が響き渡った。
(……えっ!? ちょ、ちょっと待って!?)
私は自分の頭を抱えようとして、その
まま硬直した。
今のは、間違いなく私の口から出た声だ。自分でも心臓が飛び出るかと思う
くらい、とんでもなく響き渡ったその声は、どう考えても「おはよう」では
なかった。
紛れもない、生まれたての赤ん坊の全力の泣き声――「おぎゃぁ」である。
慌てて自分の手元を見てみると、そこにあったのは2歳児のそれよりもさらに
小さく、丸っこくて短い、生後数ヶ月の赤ん坊の『おてて』だった。
着ていたはずの子供服は完全にぶかぶかで、私は布の海にすっぽりと溺れてしまっている。
(うにゃあぁぁぁっ!? 縮んでる! 2歳児からさらに縮んで、本物の赤ん坊に
なっちゃってるじゃないのよーっ!!)
心の中では元OLの意識が
「なんてこった!」と大絶叫しているのだが、肉体が完全に赤ちゃんに退化してしまったせいで、お腹が空いたと訴え
ようとしても、出る言葉は
「おぎゃぁぁぁ!!」という大泣き
だけ。
どうやら、お菓子宿で放った神聖範囲魔法『浄化の光』の反動で、急激に魔力を消費した肉体が、防衛本能でここまで
縮んでしまったらしい。
そして、私のこの衝撃的な目覚めの声によって、馬車内の男たちのパニックが
一気に臨界点を突破した。
「め、目を覚ました……! 萌ちゃんが
目を覚ましたぞ! しかし、これは一体どういうことだ……! さっきまで2歳
だった萌ちゃんが、どう見てもゼロ歳児の赤ん坊になっている……っ!」
アレクにい様が、自分の髪をぐしゃぐ
しゃに掻きむしりながら狂ったように
叫んだ。
「おいおい嘘だろ!? おぎゃぁって言ったぞ! 本物の赤ん坊になっちまったじゃねぇか! ああクソッ、どうすればいい!? 赤ん坊ってお腹が空いたら何を
食うんだ!? 離乳食か!? それとも
ミルクか!? 誰かこの中に母乳が出る奴はいないのかよぉ!!」
ライダにい様が、完全に理性を失って
馬車の壁に頭を打ち付けそうな勢いで
大騒ぎしている。
いくら最強の戦士でも、本物の赤ん坊の育て方など知るはずがないのだ。
そんなお兄ちゃん2人が発狂する中
私をその逞しい腕でそっと抱きとめていたジント様はというと。
「……落ち着け。私たちが取り乱して
どうする」
ジント様は至って冷静に、いつもの低い美声で2人を窘めた。
さすがは一国の軍を率いる若き天才
将軍。この異常事態でも冷静に状況を
分析して、的確な指示を――。
「ジント様! さすが公爵、頼りになるぜ!」
「ああ、萌ちゃんの婚約者として、何か良い解決策を――」
お兄ちゃんたちが救いを求めるように
ジント様を見た。
しかし、ジント様は冷徹な表情のまま
懐から一通の書状を取り出し、恐ろしい速度で魔導ペンを走らせ始めた。
「今すぐ王宮に連絡を入れる。我が領地、および帝国のすべての国家予算を
投じて、世界中の高名な医師、魔導学者、聖女、ついでに伝説の育児書の著者を全員、力ずくでグランマルシェの街へ拉致……ゴホン、招集する。
萌ちゃんを元の年齢に戻すか、あるいは世界最高の環境で赤ん坊の彼女を育てるための『萌ちゃん専用特級託児神殿』を今からこの街道沿いに建設させる」
「「いや、そっちの方がパニックになってるわ!!!」」
アレクにい様とライダにい様が、声を
揃えてジント様に鋭いツッコミを入れた。
冷静な顔をして、考えていることの
スケールと暴走っぷりが一番ヤバい。
国家予算を私一人の育児(と拉致)に
使おうとしないでほしい。
「あぅ、あうーっ!(ジント様落ち着いて! 国家予算は正しく使って!)」
私が必死にバタバタと短い手足を動かして抗議すると、ジント様はハッと目を
見開き、私の小さな手をそっと包み込んだ。
その瞳には、尋常ではないほどの熱い
溺愛の光が灯っている。
「……ああ、なんと愛らしい。2歳の
萌ちゃんも天使のようだったが、赤ん坊の萌ちゃんは神が地上に遣わした奇跡
そのものだ。見てくれ、この小さく柔らかな手を。私を呼んで、服の裾を握ろうとしてくれている……。これなら
私が一から彼女を理想のレディに育てることも――」
「待てジント!! どさくさに紛れて
光源氏計画みたいな不穏なことを考えるな! 萌は俺たちの妹だ! 育児なら兄である俺たちがやる!」
「そうだぜ! おい萌、にい様だぞー!
ほーら、高い高〜い!」
ライダにい様が私の脇の下に手を入れ
ひょいと持ち上げた。
視界が一気に高くなり、私は思わず
「きゃはっ♪」と声を上げて笑ってしまった。
肉体が赤ん坊なせいで、高い高いをされると本能的に楽しくなってしまうのだ。
悔しい。
「あ、笑った! おい見ろよアレク、萌が俺の手の中で笑ったぞ! 天使だ……
ここに天使がいる……!」
「ずるいぞライダ! 次は僕の番だ!
萌ちゃん、僕のこともにい様って呼んでおくれ!」
「あぅー、ばぶ(無理にきまってるでしょ)」
お兄ちゃんたちとジント様が、私の小さな身体を奪い合うようにして、代わる
代わる抱っこしたり頬ずりしたりしてくる。
さっきまで「どうしよう!」と頭を抱えていたはずなのに、あまりの私の
(肉体的な)可愛さに、全員の過保護脳が完全にノックアウトされてしまったらしい。
「にゃ、にゃ〜〜ん……(なんだか大変なことになっちゃったね……)」
馬車の隅っこで、みちゃーれだけが
完全に呆れ果てたような目で男たちの
ドタバタ劇を見つめていた。
(もう、みんな大袈裟なんだから……。でも、確かにこの体のままじゃ、大量の砂糖をパンケーキやマカロンに変身させるどころじゃないわね……。まずは
どうにかしてお腹を満たさないと……)
私は自分の小さなおててを見つめながら、これから到着する商業都市
『グランマルシェ』での、さらなる大騒ぎを予感して、あうあうと小さくため息をつくのだった。
(第88話 完)
第88話をお読みいただき、ありがとうございました!
心の中では「パンケーキ食べたい」とOLの意識全開なのに、口から出たのは全力の「おぎゃぁぁぁ!!」だった萌ちゃん。
完全に赤ん坊(0歳児)サイズになってしまった萌ちゃんを前に、ジント様たちのパニックと過保護はついに国家予算を動かすレベルにまで大暴走してしまいました
(お兄ちゃんたちのツッコミが冴え渡っています笑)。果たして、赤ん坊になってしまった萌ちゃんは、無事に美味しいおやつを食べることができるのでしょうか? そして次の街『グランマルシェ』で元の姿に戻れるのか……!?
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おぎゃぁのギャップに笑った!」「ジント様たちの親
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