第9話翌朝
いつもお読みいただきありがとうございます!前回(第8話)は、萌ちゃんが寝ぼけたまま食堂に突撃し、前世の社畜トラウマをブチまけて家族を大号泣&超過保護モードへと覚醒させてしまいました。第9話は、そんな嵐の夜が明けた翌朝のお話です。天国のようなベッドで目覚めた萌ちゃんでしたが、部屋の扉が開いた瞬間から、家族の過保護インフレがとんでもないことになっていて……!?それでは、第9話をお楽しみください!
「う、ん……っ……」
チュンチュン、と窓の外から心地よい
鳥のさえずりが聞こえてくる。
(……あれ? スマホのうるさい爆音
アラームは? カーテンの隙間から差し込む、絶望の朝日はどこ……?)
前世の社畜時代、朝といえば
「あと5分……いや3分だけ
寝かせて……!」
と枕に涙し、満員電車に飛び込むための戦いのゴングが鳴る時間だった。
けれど、いま私の身体を包み込んでいるのは、雲の上にいるかのようなふかふかの高級羽毛布団。
(あ、そうだ……私、社畜を卒業して異世界でエルフの幼女になったん
だった……!)
天国のような目覚めに、
私はベッドの上で
「ふへへ……」
とだらしない笑みを浮かべた。昨夜は
お父様とお母様の膝の上で美味しい
ご飯とゼリーを食べさせてもらい、
そのままお母様の温もりの中で
寝てしまったところまでは覚えている。
(あー、よく寝た! よし、今日も一日、可愛い幼女として生きるお仕事を
頑張るぞー!)
昨夜、自分が爆睡したまま食堂へ突撃し、「残業しなきゃ怒られちゃう……」
と悲痛な社畜トラウマをブチまけて家族全員を大号泣させたことなど、
これっぽっちも知らずに、私は元気いっぱいに起き上がった。
――その、瞬間だった。
バンッ!!!
「萌ちゃんっ!!! お目覚め
かしら!?」
「萌! 起きたか!?」凄まじい勢いで部屋の扉が開け放たれ、お母様を先頭に、ライダとお兄様、さらにはメイド長さんまでが雪崩れ込んできた。
その手には、フリルやリボンがこれでもかとあしらわれた、お姫様のような可愛いドレスが大量に抱えられている。
(ひゃいあぁっ!? な、なに、朝から
この物々しい突撃!?)
「ああ、萌ちゃん! よく眠れた? 怖い夢は見なかったかしら!?」
「萌ちゃん、おはよう。昨日はよく眠れたかい? 寒くはなかった?」
「萌ー! おはよう! ほら、今日の服、
どれ着たいか俺が選んでやったぞ!」
(お、おはようございます……って、
ちょっと待って。昨日よりもみんなの
距離感が近くない!? あと過保護の圧がすごすぎるんだけど!?)
お母様に至上の手つきで顔を拭かれ、
続いて服を着替えようとベッドから降りようとした、その時。
「萌ちゃん、危ないよ! ベッドから降りる時は僕が抱っこするからね!」
お兄様がものすごい神速で私を抱き
上げ、着替えのスペースへと運ぶ。
「おい、アニキずるいぞ! 萌、服は俺が着せてやるからな!」
「ライダ、君のような不器用な男に萌ちゃんの着替えを任せられるわけがないだろう。僕が着せるよ」
火花を散らす兄弟を前に、私は大慌てで両手をバタつかせた。
「待ってぇ、ふきゅ(服)、自分できえる! おとこのこに、みにゃれるの
(見られるの)やだ!」
(さすがに男子に、しかもお兄様たちに見られるのは、精神アラサーな私としては恥ずかしすぎる……!!)
私の必死の拒絶に、お母様がキッと兄弟を睨みつけてナイスアシストを入れてくれた。
「女の子の着替えるところは、
男性は見なくてよろしいですわ!
ササッと部屋を出て、食事の準備でも
しなさい!」
「「……はい」」
とぼとぼと肩を落としながら、お兄様たちは部屋を出て行った。ふぅ、
危なかった……。
「さて萌ちゃん! お着替えして、
今日一日何するか考えましょ」
お母様に優しくドレスを着せてもらいながら、私は社畜の習性でついこう返事をした。
「あい! おちごと(お仕事)ちゅるでーちゅ!」
今日からお手伝いでもして、このお屋敷に貢献しなきゃ。そう意気込んで、
お母様に手を引かれながら食堂へと連れて行ってもらったのだが……。
扉を開けた瞬間、私の身体はピキッと凍りついた。
「……っ!? な、に、でしゅか、この、しょくじたい(食事隊)は……」
そこには家族が勢揃いしていた。
それはいい。問題は、お父様もお兄様もライダも、全員が
『私にあーんをするためのスプーン』を片手に構えて、目を爛々と輝かせながら待ち構えていることだ。
朝から凄まじい圧である。
(いやいやいや! さすがにこれは甘えすぎだし、何より顔の距離が近くて
怖いよ!!)
これ以上ここにいたら、全員から一斉にスプーンを口に突っ込まれる未来しか
見えない。
危険を察知した私は、とっさにその場から逃げることを決意した。歩いて逃げる? いや、この幼児の足じゃすぐに
捕まる。それともハイハイで逃げる? ……それはまぁ、ハイハイでしょ!!
「ばいばーいっ!」
「あ、萌ちゃんっ!?」
私はまだ慣れない幼児の身体をフル稼働させ、カサカサカサッと凄まじい速度のハイハイを繰り出し、逃げるように食堂を脱出したのだった。
第9話も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!今回は過保護のインフレが止まらない翌朝のお話でした!昨夜の萌ちゃんの健気なトラウマ発言を知った家族たちは、もう萌ちゃんを指一本動かさせない勢いで甘やかす気満々です(笑)。お兄様たちの着替えの手伝いを「男の子に見られるの嫌!」と一蹴する萌ちゃんのアラサーとしてのプライドが可愛かったですね。そしてラスト、全員がスプーンを構えて待つ食堂から、野生の勘(?)でハイハイ大逃亡を図った萌ちゃん。果たして萌ちゃんは、この最強の過保護家族たちから逃げ切ることができるのでしょうか……!?次回、ハイハイ逃亡劇の行方は!?【作者からのお願い】「ハイハイで逃げる萌ちゃん想像したら可愛すぎる」「スプーン構えてる家族おもしろい」と思ってくださったら、ぜひ画面下部にある「ブックマークに追加」や、広告の下にある「⭐⭐⭐⭐⭐(星)」をぽちっと押して応援していただけると、更新の凄まじい励みになります!次回もお楽しみに!




