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『第86話 黒幕の視点』

いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』を

お読みいただき、本当にありがとうございます!


前回、馬車の中で「自分を狙う黒幕」の存在を冷静に

分析していた萌ちゃん。今回は、そんな萌ちゃんたちのあずかり知らぬ場所――裏で糸を引いていた『黒幕』側の視点へと一気に移ります!


幻のエルフである萌ちゃんをハメようとしたお菓子宿がどうなったのか、その報告を受けた黒幕の反応は……?

物語の裏で蠢く、優雅で恐ろしい影の動向をどうぞお楽しみください!

ゴトゴトと揺れる馬車の中で、私たちはなおも真剣な表情で話し合いを続けていた。


ジント様やお兄ちゃんたちが、私の名前がなぜあの悪徳店員に漏れていたのかを必死に考えてくれている。


みちゃーれを膝に抱き、みんなの過保護な優しさに包まれながら、私は

「これだけ強い味方がいれば、どんな

裏切りや陰謀が待ち受けていようと絶対に大丈夫だ」と、心の底から安心しきっていた。


――だが、そんな私たちが和やかに馬車を走らせている、まさにその同じ時刻。


遥か遠く離れた、とある壮麗にして不気味な高級屋敷の一室では、萌たちの

知らぬところで、もう一つの恐ろしい時間が静かに流れていた。


カチャ、と繊細な磁器の擦れ合う

小さく上品な音が部屋に響く。


部屋の窓はすべて厚手の純黒のカーテンで遮断されており、外の爽やかな太陽の光は一筋も届かない。


ただ、豪奢なシャンデリアの仄暗い光だけが、部屋の中央に置かれた大理石の

テーブルを照らし出していた。


そこでは、一人の人物が優雅に、実に

満足そうに温かい紅茶をすすっていた。


「はぁ……。今回も、失敗ですかー。

私の可愛い下僕たちは、一体全体何を

やっているのかしらね?」


気怠げに、けれど鈴の鳴るような美しく高い声で、その人物は小さく溜め息を

ついた。


その人物こそが、今回の『悪徳お菓子宿』の件を裏で操り、萌たちを陥れようとしていた一連の事件の真の黒幕で

あった。


美しいドレスに身を包んだその人物は、まるで今日の天気が少し悪いことでも

憂うかのように、信じられないほど軽い調子で「作戦の失敗」を口にしている。


だが、その優雅でおっとりとした口調とは裏腹に、部屋の中に漂う空気は、呼吸をするのすら躊躇われるほど氷のように冷たく張り詰めていた。


大理石のテーブルから少し離れた床には、一人の男がまるで罪人のように両膝を突き、深く深く頭を下げて平伏していた。


男の額からは大粒の冷や汗が絶え間なく滴り落ち、高級な絨毯に小さなシミを

作っていく。


全身が目に見えてガタガタと小刻みに

震えていた。


「も、申し訳ございません! あの

『お菓子宿』の女性店員を今回の適任者として指名し、作戦の全権を任せたのはこの私であり……! それがまさか、あのような大失敗に終わろうとは……!

計画が完全に崩壊した今、すべての責任は、この私にございます……っ!!」


下僕の男は、床に額を擦り付けんばかりの勢いで必死に謝罪の言葉を叫んだ。

声は恐怖で完全に裏返っている。


男はよく知っていたのだ。


目の前で優雅にお茶を楽しんでいるこの主人が、どれほど底知れない残酷さを

秘めたバケモノであるかを。


お菓子宿の女性店員が萌のチート魔力によって消滅させられ、再起不能になった今、自分がその責任を取らされれば

どんな恐ろしい目に遭うか分かったものではない。


命乞いをするように、男は必死に頭を

下げ続けた。そんな部下の哀れな姿を

黒幕の人物はティーカップをそっと

ソーサーに戻しながら、じっと見つめた。


その美しい瞳の奥には、部下に対する

哀れみや怒りすらなく、まるで道端に

転がっているただの石ころを見るかの

ような、完全なる虚無と冷酷さが宿っている。


しかし、次の瞬間、黒幕はまるで聖母のように優しく、ふわりと艶やかな笑みを浮かべてみせた。


「ふふっ、わかっているじゃあない〜。自分で自分の非を認められるなんて

あなたはとっても素直で、良い下僕ね」


「は、ははっ……! 寛大なお言葉、恐悦至極に存じます……っ!」


主人の優しい言葉と柔らかな笑顔に

下僕の男は一瞬だけ「助かった」と本気で安堵し、パッと顔を輝かせた。


だが、その安堵は、文字通り一瞬の

オアシスに過ぎなかった。


黒幕の人物は、フフッとさらに深く

楽しそうに笑みを深めると、その美しい声を歌うように響かせながら、残酷な

現実を突きつけたのだ。


「で、も、私はとーっても優しいから

今回のことは大目に見て許してあげる……とでも、思ったかしら?」


「え……?」


男の顔から、一瞬にして血の気が引いた。


「そんなわけ、ないじゃあない。ふふっ! あはははは!」


黒幕は急にトーンを変え、狂気を孕んだ高い笑い声を部屋中に響かせた。

その瞳からは先ほどの偽りの優しさが

完全に消え去り、ゾッとするほど冷たく鋭い光がギラギラと狂い輝いている。


「私の計画を台無しにしておいて

ごめんなさいの一言で許されると思っているの? 本当に滑稽ね、おめでたい頭をしていて羨ましいわ。私の下僕なら

私の役に立てない下僕なら――その肉体で、直接責任を取ってもらわなくっちゃあね?」


「ひっ……! あ、あなた様、それだけは、それだけはご容赦を――ぎゃああああああああああああぁぁぁぁっ!?」


男が悲鳴を上げるのと同時に、黒幕の

指先から禍々しい紫色の闇の魔法が放たれた。


床に平伏していた男の身体が、一瞬に

してその紫色の不気味な光に包まれる。男の肉体はみるみるうちに縮んでいき

衣服だけが床にバサリと崩れ落ちた。


衣服の隙間から這い出てきたのは、一匹の、醜く小さな黒いネズミだった。


「チュウ、チュウ……ッ!」


男は黒幕の気まぐれな魔法によって

人間の言葉すら奪われ、ただ怯えるだけの哀れな獣へと姿を変えられてしまったのだ。


「ふふ、よく似合っているわよ。私の

優しいお仕置き、気に入ってくれたかしら?」


黒幕はネズミになった元部下を一瞥すら落とさず、再び新しいお茶をカップに

注がせた。


あのお菓子宿を跡形もなく大爆破し

世界の理すら書き換えてしまった幻の

エルフ萌。


精神の檻すら自力で蹴破り、完全に覚醒してしまった二歳児の小娘。


(エルフ萌……。まさか、あのお菓子宿の暴走結界を、ただの安全な砂糖水に

変えてしまうほどのチート魔力を持っているなんてね。本当に面白い子。

ますます私のコレクションに加えたくなっちゃったわ……)


黒幕の人物は、真っ赤な唇を不敵に

歪に釣り上げた。


一度や二度の失敗など、この絶対的な

強者にとっては些細な余興に過ぎない。


むしろ、獲物が強ければ強いほど、その心をへし折って支配したときの快感が

大きくなるというものだ。


「次の目的地は、確か商業都市

『グランマルシェ』だったかしら……。ふふ、あそこなら私のとっておきの手駒たちが、いくらでも潜んでいるわ。

次こそは、あの生意気で可愛いエルフの小娘を、二度と這い上がれない絶望の

底に叩き落として、その魔力を根こそぎ私のものにしてあげる……」


暗闇の部屋に、黒幕の冷酷で底知れない笑い声がいつまでも、不気味に響き渡っていた。


萌たちの知らないところで、新たな巨大な陰謀の歯車が、より確実な殺意を持って回り始めようとしていた。


(第86話 完)

第86話をお読みいただき、ありがとうございました!


今回はガラリと視点を変えて、裏で糸を引く『黒幕』のお話でした。


「許してあげる……というとでも思った?」からの急な

トーンチェンジと、部下を笑顔のままネズミに変えてしまう冷酷なサイコパスっぷり、楽しんでいただけましたでしょうか?


萌ちゃんの規格外のチート魔力に目をつけ、次の商業都市『グランマルシェ』でさらなる罠を仕掛けようと企んでいるようです……!危機が迫る萌ちゃんですが、ジント様やお兄ちゃんたちがどう迎え撃つのか、これからの

新章も目が離せません!


作者からのお願い 「黒幕のキャラクター性が強烈でゾクゾクした!」「ネズミのお仕置きヤバすぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援(ポイント・ブクマ)をお願いいたします!


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