『第85話 私をなぜ知っていた』
いつも応援ありがとうございます!前回、ブラックお菓子宿を大爆破し、心の中の嵐が去った萌。今回は、爆破された宿の跡地から、宝石や高級なお砂糖などの財宝をみんなでちゃっかり回収するところから始まります。萌の放った『浄化の光』は、宿の被害者たちにも奇跡を起こしていたようで……?そして、ジント様が手配してくれた馬車の中での徹底会議!「どうしてあの店員は、私の名前を知っていたの?」という謎に迫ります。どうぞお楽しみください!
「よし、お宝の回収、完了です!」
私がフンスと鼻を鳴らして宣言すると
ジント様やお兄ちゃんたちが楽しそうに笑い声をあげた。
悪徳お菓子宿が崩壊した跡地からは
呪いが解けて安全になった最高級の砂糖だけでなく、宿の奥に隠されていた目が眩むような美しい宝石や、高価な魔石が大量に見つかった。
これらは元社畜OLの目利きによって
一粒残らず私のアイテムボックスへと
ちゃっかり回収された。
ブラック企業への損害賠償としては十分すぎるほどの戦利品である。
それと同時に、宿の周辺ではもう一つの嬉しい奇跡が起きていた。
あのお菓子宿の悪質な罠にかかり
無残にも床のゼリーや天井の飴細工といった『お菓子』の姿に変えられてしまっていた多くの旅人や動物たち。
彼らは、私がさきほど放った規格外の
チート魔法『浄化の光』の凄まじいエネルギーを浴びたことで、宿の崩壊と同時に、全員が傷一つない元の人間や動物の姿へと無事に戻ることができたのだ。
「本当に良かった……。みんな、ちゃんと元の姿に戻れたんですね」
私がホッと胸をなでおろしていると
ジント様が優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
「萌ちゃんの聖なる魔法のおかげだよ。……さあ、彼らのアフターケアは私の部下たちに任せよう」
ジント様の手際のよい指示によって
宿に囚われていた旅人たちは、ジント様が従えていた優秀な兵士たちの手で
安全に治療を受けられる近くの街の施設まで丁重に案内されていった。
そして、混乱を避けるためにジント様が急いで手配してくれた特製の高級馬車へと、私たちは滑り込むように乗り込んだのだった。
ゴトゴトと、心地よい一定の振動が馬車の中に響いている。
私たちは次の目的地へと向かう馬車の
シートに深く腰掛け、ようやく一息ついていた。
私は自分の小さな膝の上で丸くなっている、最愛の相棒に目を向ける。
「にゃ〜〜ん、ごろごろ……」
すっかり怪我も骨折も私の魔法で治って元気になったみちゃーれは、嬉しそうに目を細めて私の手に頭をすり寄せてくる。
この温かさと柔らかさは、本当に最高の癒やしだ。宿の中での激しい戦いや
前世のお母ちゃんのトラウマを思い出してすくみ上がっていた時間が、まるで嘘だったかのように感じられる。
心の中の嵐は完全に去った。
……けれど、私の頭の中(OL脳)は
まだ一つの重大な懸念事項を処理しきれずにいた。
「ねぇ、ジント様、お兄ちゃんたち。
ちょっと真面目なお話をしてもいいかしら?」
私が大人の口調でそう切り出すと、馬車の中で寛いでいた3人が、一瞬にして
表情を引き締めてこちらを向いた。
完全に覚醒した私の『虹色の瞳』を
見て、アレクにい様がまだ少し不思議そうな顔をしているけれど、それでも私を大切に思う眼差しは変わらない。
「どうしたんだい、萌ちゃん。何か気になることでもあるの?」
「おう、妹の悩みなら何でも聞くぜ!
まだあの宿の残党でもいそうか?」
アレクにい様とライダにい様が身を乗り出す中、ジント様が私の隣にそっと
座り、安心させるように私の小さな背中に手を添えてくれた。
「萌ちゃんがわざわざ大人の顔をして話すということは、今後の旅に関わる重要なことだね。何に気づいたんだい?」
「ええ。……あの悪徳お菓子宿の女性店員のことです」
私は一呼吸置き、ずっと引っかかっていた疑問を口にした。
「彼女は、私のことをはっきりと『エルフ萌』だと呼んだわ。私が幻のエルフであることだけでなく、私の名前まで正確に知っていた。……これ、冷静に考えておかしいと思いませんか?」
私の言葉に、ジント様たちの動きが
ピタリと止まった。
「そういえば、そうだったな……。俺たちが助けに入った時、あの女、確かに萌の名前を叫んでいたぜ」
「うん。僕たちが萌ちゃんと出会ってから、萌ちゃんの名前を公に大声で触れ回った覚えはないよ。お披露目会では
信頼できる人ばかりのはずだし……」
ライダにい様とアレクにい様が、記憶を遡るように腕を組んで眉をひそめる。
そうなのだ。私がこの世界で
「エルフ萌」として生きていることを知っている者は、極めて限られている。
それなのに、あの一介のブラック宿の店員がなぜその名前を知り得たのか。
「考えられる可能性は、大きく分けて3つあります」
私は元OLのプレゼン能力をフルに発揮し、小さな指を一本ずつ立てながら冷静に分析を始めた。
「まず1つ目。あの店員が、偶然どこかで私たちの手配書や噂を耳にしていた
可能性。……でも、これは薄いと思います。私たちは指名手配されるような悪いことはしていませんし、幻のエルフの
噂はあっても、名前まで市井に流れるはずがありません」
ジント様が深く頷き、私の分析を引き継ぐように口を開いた。
「同感だ。だとしたら2つ目……あの店員のバックに、私たちの情報を意図的に流した『黒幕』がいる可能性だね」
「はい、ジント様。私もそれが一番可能性が高いと睨んでいます。あの店員自身は、私のトラウマや前世のことまでは
何も知りませんでした。
純粋に「萌という名のエルフがここを通るから、捕まえて魔力を搾り取れ』と
誰かに情報を吹き込まれていたんじゃないかしら。つまり、あの店員も何者かに利用されていた駒に過ぎない、ということです」
「なるほどな……。つまり、俺たちの旅のルートを先回りして、萌を狙わせようとした奴が裏にいるってことか。
クソッ、どこのどいつだ!?」
ライダにい様が悔しそうに拳を握りしめる。
「そして、3つ目の可能性。……これが一番考えたくないのですが、私たちの身近に、情報を外に漏らしている
『内通者』がいる可能性です」
私がそう言った瞬間、馬車の中に緊張が走った。けれど、アレクにい様がすぐに優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
「萌ちゃん、それはないよ。だって、萌ちゃんの名前を知っていて、ここまで
一緒に過ごしてきたのは、ここにいる僕たちとジント様、お母様とお父様
それから何人かの本当に命を預け合える仲間だけだ。
みんな萌ちゃんを命に代えても守りたいと思っている奴らばかりだよ。絶対に裏切り者なんていない」
「……ええ、わかっています。私も
みんなを信じています。だからこそ
2つ目の『ルートを先回りして情報を流した黒幕』の存在が不気味なんです。
私たちがここを通ること、もちろん名前も、どうやって知ったのか……」
重苦しい沈黙が流れかけたその時
ジント様が私の小さな身体をそっと抱き寄せ、耳元で優しく、けれど非常に冷徹な声で囁いた。
「心配いらないよ、萌ちゃん。君が誰に狙われていようと、この私が、命に代えても君の身の安全を保障する。
もし裏で糸を引いている者がいるのなら、地の果てまで追い詰めて、二度と
君の前に現れられないように処理するだけだ。……君はただ、自由で気ままな旅を楽しんでいればいい」
ジント様の美しい瞳の奥に、絶対的な
守護の意志と、敵に対する容赦のない
冷酷な光がギラリと灯る。さすがは私の最強の婚約者、頼もしすぎるけれど
ちょっと怒らせたら一番怖いタイプで
ある。
「おいジント、また萌を怖がらせるような物騒な顔すんなよ!」
「そうだよ。裏に誰がいようと、僕たちお兄ちゃんが全員まとめて風の刃で細切れにしてあげるからね、萌ちゃん」
お兄ちゃんたちも別の意味で物騒な笑顔を浮かべ、過保護モード全開で私を元気づけようとしてくれる。
「ふふ、ありがとうございます。ジント様もお兄ちゃんたちもいれば、どんな黒幕が来ても百人力ですね!」
みんなの深い愛に触れて、私は心からの笑顔を浮かべた。謎は深まるばかりだけど、これだけ最強で過保護な家族が守ってくれるのだ。過度に恐れる必要はない。
「にゃ〜〜ん!」
膝の上のみちゃーれも「僕もいるぞ!」と言うように元気に鳴いてみせた。
「よし! 不気味な犯人捜しはジント様たちにお任せして、私は回収した最高級の砂糖でおいしいおやつでも作ることにします! これからの自由な旅のエネルギー補給、残務処理の仕上げですからね!」
私がいつもの元気な笑顔で宣言すると、馬車の中は一気に明るい笑い声に包まれたのだった。
(第85話 完)
第85話をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、萌ちゃんが爆破した宿から宝石や高級砂糖をがっぽり回収し、さらに元の姿に戻った旅人たちをジント様の兵士たちが鮮やかに救護する、最高にスッキリするお話でした。
馬車の中での萌ちゃんのOL仕込みの3大仮説分析も
光っていましたね!どうやら旅の裏で、萌を狙う不穏な『黒幕』の影が動いているようですが、ジント様も
お兄ちゃんたちも頼もしすぎるので安心です(笑)。
次回からは、回収した高級お宝(砂糖)を使って、萌ちゃんが異世界初(?)の絶品スイーツを作る楽しい
日常・料理回に突入します!お楽しみに!
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