第84話 お菓子宿崩壊!!
いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただき、本当にありがとうございます!前話では、ジント様の負傷をきっかけに萌が「真の完全覚醒」を果たしました。お母ちゃんのトラウマをぶち破り、規格外のチート魔力でお菓子宿を大爆破!激戦が終わり、嵐が去った後の第84話。覚醒した萌を前に、お兄ちゃんたちやジント様の反応は……!?そして、元社畜OLとしての「あの本能」が再び動き出します。どうぞお楽しみください!
ドゴォォォン……ッ!!!
背後から、鼓膜を激しく震わせる凄まじい衝撃音が響き渡る。
私たちが慌てて振り返ると、つい先ほどまで禍々しい気配を放っていた悪徳
お菓子宿の巨大な建物が、まるで砂の
城のように脆く崩れ去り、最後の煙を
上げて完全に瓦礫の山へと変わっていくところだった。
それと同時に、あたり一面に不気味に
立ち込めていた赤黒い霧が、まるで嘘のように綺麗に晴れ渡っていく。
頭上を見上げれば、そこには雲一つない、どこまでも澄み切った心地よい青空が広がっていた。
「ふぅ……。本当に、跡形もなく崩壊しちゃいましたね」
私は小さく息を吐きながら、自分の
小さな、白いエルフの手を見つめた。
今までは、頭の奥底をいつも暗く支配していた、前世の「お母ちゃん」の冷酷で理不尽な言葉。
暗くて狭い戸棚の中に閉じ込められたときの、息が詰まるような絶望的な恐怖。
それらの忌まわしいトラウマの呪縛は
もう今の私のどこを探しても見当たらなかった。あの狭い精神の檻は、今、自分の力で完璧にぶち破ったのだ。
「ふぅ、あのブラック企業さながらの
悪徳店員をやっつけられたわ。それに
しても……一体どうして、彼女は私の
ことを『エルフ萌』だって知っていたんだろう……」
私は小さく首を傾げた。あの悪徳女性
店員が、なぜ私の存在や、前世の名前まで正確に把握していたのか。
それは、 この勝利の後でも大きな謎の
ままであった。私たちの旅の情報が
どこかから漏れているのだろうか。
裏で誰かが糸を引いているような
そんな不気味な予感が胸をよぎる。
そんな真剣な思考に深く没頭していると、すぐ横から、おそるおそる、と
いった様子でどこか戸惑った声が掛けられた。
「も、萌ちゃんだよね……? その口調
なんだか僕がよく知っている、いつもの可愛い萌ちゃんな感じが全然しないんだけど……」
アレクにい様が、私の顔をじっと不思議そうに覗き込んでいる。その綺麗な瞳には、いつもの甘えん坊で愛らしい妹が、急に冷徹で知的な『大人』の口調に
なり、見たこともない神々しい
『虹色の瞳』をして規格外の強大な魔力を放ったことへの、深い困惑と戸惑いがはっきりと浮かんでいた。
アレクにい様は、私の正体を本気で疑っているようだ。
(しまっ、たわ……っ! 怒りのあまり
完全に大人モード全開で喋っちゃってた! 早くいつもの幼児ビジネスモードに戻さないと、中身が別人だと思われて、せっかくの家族の絆にヒビが入っちゃう……っ!)
背中に冷や汗が流れるのを感じながら
私は大慌てで小さな両手をブンブンと
振り、2歳児の可愛い妹を必死に演じ
ようとした。
けれど、突然のことに焦りすぎてしまい、大人の脳に対して幼児の舌が全く回らない!
「あ、あれ、あれくにゃっ……!?
ち、ちがうの、もえ、もえなのぉ! あれくにゃの、かわいーい、いもーとなのじょぉ……っ!」
完全にパニックになってしまった私の
口から飛び出したのは、バブみ全開の
自分でも引くほどつたない幼児言葉
だった。
そんな私の様子を見て、隣にいたジント様がふっと優しく微笑んだ。
「萌ちゃん、無理に隠さなくていいんだよ。君の瞳に今も宿っているその美しい虹色の光……それは魂の真実の姿を映し出す特別なものだ。君の中身が大人で
あろうと、どんな過去を持っていようと、私の命を救ってくれた愛しい婚約者であることに変わりはないよ」
ジント様がそっと歩み寄り、私の小さな手を大きな手のひらで優しく包み込んでくれた。
そのジント様の温かい言葉に、私は
ハッと大人のOLとしての意識を取り戻した。そして、ふと足元で小さく弱々
しく鳴いた、大切な相棒に目を向けた。
(そうだっ……! 私のために
みちゃーれがこんなにいっぱい怪我を
して、血まで流しちゃったんだ……っ!)
ボロボロになりながらも、巨大なツララの脅威から必死に私の盾になってくれた、大好きな愛猫みちゃーれ。
その痛々しい姿を見た瞬間、胸が押し潰されるように激しく締め付けられた。
「みちゃーれ、私を命懸けで守ってくれて本当にありがとう。大丈夫、今すぐ治してあげるからね」
私はみちゃーれを両手でそっと優しく抱き上げると、その小さな身体に向けて
心から祈るように治療魔法の光を流し込んだ。
今の私から溢れ出たのは、世界の理さえもあっさりと書き換えてしまう、規格外の神聖なチート魔力だ。
黄金の眩い光がみちゃーれの身体を優しく包み込むと、深かった傷口がみるみるうちに塞がり、折れていた骨までもが
一瞬にして綺麗に元通りに治っていった。
「にゃぁぁ……(ありがとう萌! 僕
萌のこと守れて本当に良かったよ。
これからも共に過ごす最高の相棒がいてくれて、本当に出会えて良かった)」
嬉しそうに大きく鳴いたみちゃーれの
心の声が、深く通じ合った魂の絆を通じて、私の頭の中に直接、鮮明に響いてきた。
もうどこも痛くないよ、と伝えるように、みちゃーれは元気いっぱいに私の
頬へ何度もそっと頭をすり寄せてくる。
その温かさに、私の目からじわりと涙が溢れそうになった。
「本当に、無事で良かった……。でも
ジント様、あなたのそのお怪我も……っ!」
ハッとして見上げると、ツララが直撃したジント様の肩からも、まだ痛々しく真っ赤な血が滲み出ていた。私は慌てて
ジント様に駆け寄り、その傷口に向けて今度は小さな両手をかざした。
(……癒えなさい! 今すぐ綺麗に消え去りなさい!)
心の中で強く強く念じた瞬間、私の手
から再び神々しい黄金の光が激しく溢れ出し、ジント様の痛々しい傷を優しく
しかし圧倒的な密度で包み込んでいった。
ほんの数秒のことだった。
光がゆっくりと収まったときには、服の破れ目からのぞくジント様の肌は、傷跡どころか赤みすら一つもない、完全に
綺麗な状態へと戻っていた。
「……素晴らしいな。信じられないよ、萌ちゃん。痛みが完全に消え去っただけでなく、体中の魔力が以前よりも満ち溢れていくのが分かる。君は本当に、私にとって最高の婚約者だ」
ジント様は驚いたように自身の肩を
触った後、とろけるような深い愛おしさを孕んだ瞳で私をじっと見つめ、そっと私の小さな身体を優しく腕の中に抱き上げてくれた。
「萌ちゃんが私のためにそれほど怒り
覚醒してくれたこと……一生の宝物にするよ。心から愛している、私の可愛い
お姫様」
「ひゃぅっ……!? じ、ジント様、お兄ちゃんたちがすぐそこで見てます……っ!」
耳元で低く囁かれた極甘な愛の言葉に
私の顔は一気に真っ赤に染まる。
完全に大人の口調と意識を取り戻せたのはいいものの、こういう直球でロマンチックなセリフへの耐性は全く持ち合わせていないのだ。
元社畜OLにこれは刺激が強すぎる!
そんな私たちの甘い雰囲気を察して
ようやく全体の緊張が解けたアレクにい様やライダにい様、そしてすっかり元気を取り戻したみちゃーれが、ドタドタと大きな足音を立ててこちらへ駆け寄ってきた。
「おいジント! ドサクサに紛れて俺たちの萌を抱きしめてんじゃねぇぞ!」
「そうだよ! 口調がちょっと大人っぽくたって、萌ちゃんは僕たちの世界一可愛い妹なんだからね! ほら、僕のところにおいで?」
「にゃ〜〜ん、ごろごろ……」
お兄ちゃんたちが一斉に不満の声を上げながら割り込んできて、現場はいつもの賑やかで、少しやかましい安心する空間へと戻っていった。
姿や瞳の色、喋り方がどれほど変わろうとも、この人たちが私を無条件で愛してくれる気持ちは、何一つ変わらないのだ。
そう実感した瞬間、私の胸の奥がじんわりと温かい幸福感で満たされていった。
――さて。家族の深い愛に包まれてすっかり心が和んだところで、私の元社畜OLとしての鋭い本能が、崩壊して静まり返った宿の跡地に向けてピクリと過敏に
反応した。
(よし、感動の再会はこれくらいにして、最後の『残務処理』を始めましょうか。ブラック企業まがいの悪徳宿にタダ働きさせられそうになったんだから
これくらいの損害賠償を受け取るのは当然の権利よね!)
思考は完全に、利益を逃さないがめつい大人のOLそのものだ。私はジント様の
腕からトチッと地面に降り立ち、フンスと鼻を鳴らして瓦礫の山へ毅然とした態度で歩み寄った。
「ジント様、お兄ちゃんたち。和むのはこれくらいにして、最後の『残務処理』を始めましょうか」
「「「ざ、残務処理……?」」」
3人が同時に首を傾げる中、私は山積みの瓦礫を指差してテキパキと説明を始める。
「あの悪徳店員の禍々しい魔力は、私の『浄化の光』によって根こそぎ消滅させました。ということは、つまり、あの宿を構成していた大量の高級なお菓子――床のゼリーや天井の飴細工などは、すべての呪いや罠が解けて、今は
『ただの安全で最高級の砂糖水やマジックアイテムの素材』へと還元されているはずなんです」
私は腰に手を当てて不敵に微笑む。
「ただの瓦礫の山に見えますが、この結晶化した特級の砂糖はポーションの味を調える甘味剤として最高値で取引されます。それに、あの崩落した奥にある
宿の動力源だったコアの特大魔石……
あれをギルドに持ち込めば、相当な高値で売れますね。さあ、使える価値のあるものは、全部私のアイテムボックスに一粒残らず回収しますよ!」
テキパキと実に頼もしく指示を出す大人の私の姿に、ジント様たちは一瞬だけ
呆然としたものの、すぐに楽しそうな笑い声をあげた。
「くくっ、さすがは萌ちゃんだね。中身が大人だろうと子供だろうと、どんな状況でも転んでもただでは起きないその
逞しさ、本当に感心するよ。よし、私も仕分けの手伝いをしよう」
「おう! 俺たちの可愛い萌の利益になるってんなら、俺は何だって喜んで運んでやるぜ!」
「じゃあ、僕は風魔法を使って、瓦礫だけを綺麗にどかして素材を集めやすくするよ」
こうして私たちは、崩壊した悪徳宿の
残した莫大な資産を徹底的に、そして
ちゃっかりと根こそぎアイテムボックスへと回収したのだった。
やがて、すっかり素材が回収されて綺麗になった宿の跡地を背景に、私たちは再び未来へ向かって歩き出す。
「なぜあの店員が私の名前を知っていたのか」という、これからの旅に影を落とす新たな謎は残るけれど、私の心の中にあったあの暗い嵐は、今度こそ完全に
去ったのだ。
ここから本当の意味での、誰にも縛られない、自由気ままな異世界への旅が新しく始まるのだ――!
(第84話 完)
第84話をお読みいただき、ありがとうございました!トラウマを乗り越え、みちゃーれやジント様を無事に治療できて本当に良かったです……!アレクにいに怪しまれて咄嗟に2歳児に戻っちゃう萌ちゃんですが、頭の中はちゃっかり「損害賠償(残務処理)」を企むがめついOLのままというギャップ、楽しんでいただけましたでしょうか?しかし、あの悪徳店員がなぜ萌の名前を知っていたのか……新たな謎が残りますね。
作者からのお願い 「萌ちゃんナイス残務処理!」「みちゃーれが無事で良かった!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【広告の下】から、・ブックマーク登録・評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」に!していただけると、執筆の凄まじい励みになります!次回からはいよいよ、新章(本当の自由気ままな旅)がスタートします。どうぞ応援よろしくお願いいたします!




