第80話:婚約者を傷つけるのは誰だ
いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただきありがとうございます!前話のラスト、ゲス店員の魔の手が迫る中、ド派手にお菓子の窓が爆発!ついに迎えた記念すべき第80話、窮地に駆けつけたのは、萌の婚約者であるジント様でした!お菓子の破片が飛び散る中、ふわっと降り立ってため息を吐くジント様。しかし、萌を蝕む「お母ちゃんの呪縛」は想像以上に深く、ジント様の声すら届かなくて……!?それでは、記念すべき第80話をお楽しみください!
――ガシャァァァァンッ!!!
凄まじい破壊音とともに、大広間の壁際にある、色鮮やかなキャンディで飾られたお菓子の窓が、内側から激しく爆発
するように木っ端微塵に打ち砕かれた。
叩き割られたお菓子の破片が、キラキラと輝きながら美しく、そして鋭く宙に散らばっていく。
「きゃっ!? な、何ごとよ!?」
そのあまりにもものすごい音と衝撃に 女性店員は驚愕して萌たちへと放ちかけていた魔法の発動を強制的に停止した。
展開していた禍々しい紫色の魔法陣が
驚きによる集中の乱れでパリンと霧散
する。
店員は慌てて顔を覆い、鋭く降り注ぐ
お菓子の破片を必死に避けながら、一体何が起きたのかと上を見上げた。
「な、何? この空間は私しか操作できないはず……っ! 結界を破って侵入して
くるなんて、あり得ないわ!」
このお菓子宿の結界は、店員の魔力で
完全にコントロールされている絶対的な隔離空間のはずだった。
それを強引に外側からぶち破るなど
常識では考えられない。
店員が顔を歪めて上を見上げる中
お菓子の破片が舞い散る窓の向こうから、一人の人影が逆光を背負って姿を
現した。
その影は重力を無視するかのように
重い風圧も立てず、驚くほど静かにふわっとゼリーの床の上に降りてきたのだ。
「ふぅ……やっと見つけたよ
萌ちゃん」
そこに立っていたのは、目を見張るほどに整った容姿を持つ、一人の美しい男の子だった。
だが、その愛らしい見た目とは裏腹に
全身から漏れ出ている魔力の密度は
先ほどの店員の比ではないほどに膨大で底が知れない。
萌の婚約者である、ジント様。
彼はお菓子の破片を浴びて少し汚れて
しまった自分の服を両手でぱっぱと払いながら、困ったように眉毛を下げて
ふぅと深くため息を吐いた。
「調査に行くって言いながら、そんな危ないところに突っ込むんだから。
本当に、目が離せないよ」
ジント様のその言葉は、呆れたような
けれど萌を心から心配していた温かさに満ちていた。
大広間に満ちていた禍々しい紫色の気配は、彼がその場に佇んでいるだけで
まるで日の光を浴びた霧のように一瞬で綺麗に消し飛ばされていく。
「あんた、一体どこの誰よ……ッ!
そのガキの知り合い!?」
店員が床にヘタり込みながらガタガタと震える声で叫ぶ。ジント様は店員の言葉など耳に入っていないかのように、冷徹な一瞥をくれた。
その瞳には、はちみつと血にまみれて萌を守ろうとしている三毛猫のみちゃーれと、その後ろで頭を抱えて震えている
萌の姿が映っていた。
ジント様の美しい顔から、先ほどまでの穏やかな表情がスッと消え失せる。
大広間の空気が、物理的に凍りつくような冷たい殺気へと一変した。
「……私の、大切な婚約者を傷つけるのは誰だ」
声が低く、けれど絶対的な威厳を持ったジント様の声が、大広間の壁をビリビリと震わせる。
その声音には、伝説の種族である幻の
エルフすらも庇護下に置く者としての
底知れない怒りが宿っていた。
ジント様が放った凄まじい魔力の波動と、聞き覚えのある声。しかし、萌を蝕む『暴食の呪い』の精神汚染は、想像以上に深すぎた。
前世の幼少期のトラウマという最も脆い部分を突かれた萌の心は、分厚いコンクリートの壁で覆われたように完全に閉ざされており、ジント様の呼びかけすらも「お母ちゃんの恐ろしい怒声」と混同してしまい、さらに恐怖を募らせていく。
「ひっ……! ごめんなさい……! 私
いい子にしてるから、怒らないで
ぶたないでぇ……ッ!」
ジント様の後ろ姿を見つめながら、萌はさらに激しくガタガタと震え、涙を流して自分の殻に閉じこもる。ジント様の声ですら、今の萌の呪いを解くには至らなかったのだ。
「萌ちゃん……!? 一体、何をされて……」
最愛の婚約者が自分を認識できず
見たこともない恐怖に怯えている姿を
見て、ジント様の怒りは沸点へと達した。
ジント様の手のひらに、空間そのものを削り取るような、禍々しくも神々しい暗黒の魔法陣が展開されていく。
ただ展開されただけで、お菓子宿の天井がミリミリと音を立てて削れていくほどの超高密度魔法だ。
「……貴様、萌ちゃんに何をした。その不快な呪いごと、魂まで消し飛ばしてやろう」
「ひっ、ひぃぃぃ……ッ!」
完全に勝ち目が無いと悟った店員だったが、狂気に染まった目で不気味に笑った。
「ふ、ふん……! 殺せるものなら殺しなさいよ! でも、この呪いは私の命と
リンクしているの。
私が死ねば、そのガキの精神は一生あの暗闇から戻ってこないわよ!」
「なんだと……?」
ジント様の動きがピタリと止まる。
圧倒的な力を持ちながらも、萌の呪いが解けないという人質のような状況。
店員はジント様が躊躇した隙を見逃さず、背後に隠し持っていた予備の魔道具へと密かに魔力を注ぎ込み始めていた。
お母ちゃんの呪縛が消えないまま
前世の恐怖に泣き叫ぶ萌。
ジント様と悪徳店員の、一触即発の冷酷な心理戦が今ここに始まろうとしていた――。
(第80話 完 )
第80話をお読みいただきありがとうございました!お菓子の窓を叩き割り、破片が宙に散らばる中、ふわっと
ゼリーの上に降りてきたジント様! 服をぱっぱと払いながら「やっと見つけたよ、萌ちゃん」とため息を吐く姿は最高にかっこよかったですね。
しかし、今回の呪いは一筋縄ではいきません。
ジント様の必死の声も届かず、前世のトラウマに囚われて怯え続ける萌……。激怒するジント様ですが
店員も「私が死ねば呪いは解けない」と不敵に笑います。
呪いが解けないまま、最強の婚約者と悪徳店員の命懸けの心理戦&戦闘が始まります!果たして萌は元に戻れるのでしょうか!?
【作者からのお願い】「ジント様、萌を助けて……!」 「続きが気になりすぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ下にある【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆】を★★★★★にして、これからの大激闘への応援をよろしくお願いいたします!




